◇・◇ 愛シテアゲル ◇・◇

TOP BACK NEXT

 1-7 痛いの痛いの、とんでいけ。  

 

 翌朝、エンゼルは龍星轟のピットにいれられた。
「ひっでぇなあ! なんじゃこりゃ!」  
 ピットの天井まで、矢野じいの怒声が響いた。
 清家おじさんと兵藤おじさんの、整備部長二人も表情を堅くしたまま黙り込んでいる。
 そして、翔兄も。特に龍星轟の男達が集まって検証しているのは、前方のバンパー。白のランサーエボリューションと接触した箇所だった。
「普通はよう、自分も傷を負うような真似はしねえもんだろ。見ろ、青いエンゼルにしっかりランエボの白い塗装がこすれて筋を描いているじゃねえか。キチガイだぞ、マジで」
 矢野じいの検証に、誰もがうなずいていた。
 そして、英児父は男達が群がるそこから一歩下がって腕組み、昨夜の怒りのままエンゼルを睨んでいる。
 そんな龍星轟主人の静かなる怒りに気がついた男達が振り返り、社長である英児父がなにを思ってるのか窺っている。
 英児父がやっと口を開く。
「共倒れになっても、こっちを痛めつけたいという怨恨を感じるな」
 龍星轟の男達がそれぞれ顔を見合わせ、皆が俯いた。つまり、大人の男達は、ここにいる車屋の男達は、英児父と同じことを感じている。
 矢野じいも続ける。
「そうだな。これまでやられてきた客の車は、せいぜい幅寄せでこすったか、煽られてハンドル操作を誤って自滅衝突だったもんな」
 そして清家おじさんも、兵藤おじさんも。
「なのに、エンゼルにだけ当たりに来た。確かに不自然だ」
「ハンドルを切った小鳥にわざと合わせるようにして、ぶつかってきたらしいしな」
 白のランエボも、今頃修理をしているはず。二人の整備部長が『知り合いの整備士、整備店に問い合わせてみよう』と話し合う。
 そんな大人達の話を聞けば聞くほど、小鳥は昨夜の恐怖も相まって震え上がる。
 そんな恨みを買うような走り方をしていた覚えもないし、白のランサーエボリューションXなんて記憶にもない。
 そんなことはもう父もわかっているのか、 見覚えあるかどうか確認もしてこない。
「ともあれ。エンゼルを直すことからだ。翔、ライトの修復を頼むわ」
「はい。社長」
 へこんだバンパーに激しく破損しているライトカバー。翔兄も昨夜の小鳥のように、エンゼルに跪き壊れたライトにそっと手を当て俯いていた。
 元々はお兄ちゃんの愛車。手放したとはいえ、うんと悔しいだろうと小鳥も思う。引き継いだ小鳥よりずっと長く乗っていたのだから。
「にいちゃん達も、板金と塗装よろしく頼むわ。身内の車で悪いけどよ」
 英児父は社長と呼ばれるようになっても、自分が引き抜いてきた『整備の先輩』である清家おじさんと兵藤おじさんのことは、いまでも『にいちゃん達』と呼ぶ。
「エンゼルは龍星轟を代表する車だろ」
「そうだよ。英ちゃん、気にすんな。任せてくれ」
 小鳥からもお願いをする。
「おじちゃん達、お願いします。私がうまくやり過ごせなくて、こんなことになってしまって、ほんとごめんなさい」
 お店の仕事を増やすことになってしまい、小鳥は深く頭を下げる。それでもおじちゃん二人は笑ってくれる。
「こんなぶつけられ方されたのに、怪我なしでよかったじゃないか。うまくかわせたし、追い返せたんだろ」
「そうだ。小鳥が無事でよかった。しかもインカーブでランエボを抜いてやったなんて、さすがだなあ」
 本当は小鳥もムキになっていたんだろうと、おじさん二人が小鳥をからかう。
「ムキになんてなっていないよ! ちゃんとおじちゃん達に教わったとおりに、やりすごそうとしたんだもん!」
 ここでムキになって否定したので、整備達人のおじさん二人は『どうだか』と笑いだした。
 でもそれで、ピットの中の空気が和らいだ気がした。
「じゃあ、やるか。翔、ライトよろしくな」
 整備部長二人が動き始めたが、翔兄はまだ壊れたライトをしかめ面でなでているだけ。それでも、並々ならぬ空気をかんじた小鳥は、いつものように元気に近寄ることができずにいた。
 そして、英児父は後部バンパーに跪いて唸っている。
「くっそ。本多君のお守りもこんなにしやがって」
 後部バンパーに貼っていた龍と天使のステッカーもぐしゃぐしゃになっていた。
 龍星轟のメインステッカー、そして小鳥だけしか貼っていないデザイナー特注の『龍星轟の娘』と意味するエンゼルステッカー。この二枚を貼っていることを『これさえあれば、無茶を仕掛ける男はいないはず。龍の親父に喧嘩を売るようなもの』といわれ『龍と天使の守護神ステッカー』とも言われていた。
 なによりも。この天使ステッカーがこの青いMR2が『エンゼル』と呼ばれるようになったキッカケ。
「俺たちが車を傷つけられて怒りを感じるなら、本多君だって丹精込めて描いた作品をこんなにされたら怒るだろうさ」
 英児父が側にいる小鳥を見上げた。
「ステッカー、もらってこい」
「うん。そうする……」
 デザインをした作品をこんなにされて、こんなに……こんなに……。そこで小鳥はハッとした。
 まずい。このステッカーをぐしゃぐしゃにした本人って、私じゃん!?  後部をぶつけたのは小鳥自身。
 危機を回避するための運転だったとはいえ――。
『へたくそ!』
 子供にも容赦ない偏屈な独身デザイナー、でも人気の凄腕デザイナーである、三好堂印刷のデザイナー部長『雅彦おじちゃん』の冷めた目を思い浮かべた小鳥は震え上がった。

 それから暫く、龍星轟の男達は夜遅い残業をするようになった。
 その中の一時間は、英児父を中心に事務所でなにやらミーティングをしている。
「ランエボXをとっつかまえるぞ!」
 ついに父ちゃんが動き出す。
 あれからランエボにやられた車は龍星轟には入ってこなくなった。整備部長のおじさん二人の外部調査でも、白のランエボに襲われて持ち込まれた様子の車は、他の整備店でもないとのことだった。
 エンゼルにぶつけてからなりを潜めてるランエボX。逆に不気味だった。
 大人の男達の話し合いに、小鳥は入れてもらえなかった。
 つまり。まだまだ子供、あるいは女だから。そう言われているような気がして、小鳥の気持ちは徐々にもやもやとして、すっきりしないものが胸の中に渦巻くようになっている。
 そして翔兄とも。夜遅い帰宅になるので、小鳥は暫くあのマンションに行っていない。

 

 ―◆・◆・◆・◆・◆―

 

「もう。白のランエボをとっつかまえることだけしか教えてくれない」
 午前の講義が終わり、いつもの学食で定食を食べて、花梨やスミレが来るのを待っている。
 本当に誕生日以来、花梨に会っていない。メールを送っても『いま、忙しいんだ。またメールするね』とだけ返信があってそれっきり。小鳥は小鳥で誕生日を境に、カレシができるは、初めて事故るはで落ち着かない日々を駆け足で過ごしていた。
 学部が違っても、毎日毎日、お昼になったら学食で会えたのに――。こんなことも初めてだった。
 まさか。勝部先輩と、勝部先輩と、勝部先輩と……!?? あらぬ想像で一人のたうち回る。
「はー、久しぶりの講義、疲れたー」
 目の前に、いつもどおりの彼女が、急に現れる。
「午後の講義、しんどいなあ。もう帰りたい〜」
 本当に毎日毎日見ている彼女だったので、逆に小鳥は箸にご飯を挟んだまま、しばし停止してしまう。
「ねえ。小鳥ちゃん。今日は琴子お母さんのゼットだったじゃん。どうしたの。気分?」
 カフェ販売部のカウンターで買ってきただろうサンドウィッチを食べもせず、暫く放って鏡でお化粧や髪型をチェックするのもいつもの彼女だった。
 でも。何かが違う。
 小鳥は箸を置き、ひと呼吸間を入れてから、花梨に真顔で向き合った。
「どうしたの。花梨ちゃん。なにかあったの」
 数日間、姿も見せずにどうしていたのか。
「……山口、行ってきたんだ」
 驚き、小鳥は目を見開く。花梨はまだ鏡を見ていて、小鳥の目は見てくれない。
「静かで緑も綺麗、町並みも綺麗、所々古い家とか建築物があって趣があって。国宝の五重の塔があったりして、歴史的重要文化財の宝庫。室町時代に栄えただけあって遺跡もいっぱい。本当に古都ってかんじだった。小さいながらも、街の中心に市民で賑わうアーケード街があってね。そこにあったわよー。先輩の実家。和菓子屋さん。白い暖簾があって、ほーんと老舗って感じで」
 そして花梨は、持っていた大きなトートバッグから小さな木箱を小鳥に差し出した。
「お土産です」
 桐のような木箱に白い熨斗のような紙が巻いてあり、そこに筆文字で『花鼓』と記されている。菓子名の側には季節の花なのか、椿が描かれていた。いかにも和風。
「まさか。これが……」
「そう。皇室御用達のお菓子。食べてみて、びっくりするから」
 まだ食事中だけれど、とても気になって小鳥は丁寧に上品な包み紙を取り去り、そっと木箱の薄い蓋をとった。
 きらきら光る白い粉をまとった黄金色の薄いお餅が隙間なく並べられている。高級感はあるが、とても質素。でも品格が漂っている。
「本当だ。いかにも皇室御用達和菓子ってかんじ」
「でしょ。食べてみて」
 言われて備え付けてある木串を手に取ったのだが。
「手で食べてみて」
 言われたとおりに、そっと手に取ると。
「す、すっごい柔らかいっ」
 とろっと柔らかいけれど、垂れ落ちて伸びたりしない、しっかりと形成されている。
 静かに頬張る。そして小鳥はびっくりして口元を覆った。
「とろける! 素朴な甘みなのに、この優しい甘み、なんか癒されるね」
「でしょ。如何にも職人技なしではできないお菓子ってかんじでしょ」
「歴史を感じる〜」
「……でしょう」
 花梨がそこでがっくり項垂れた。
「その一番小さな箱で、三千円です」
 そう聞いて、小鳥もびっくり仰天、もらった箱を思わず手にとってしげしげの眺めてしまう。
「ここらの伊予柑的お土産でも、この大きさなら千円もしないよ!?」
「だから。歴史ある手間暇かけて作られている、なおかつ、引き継がれている伝統のお菓子ってこと。これを先輩は背負ってるんだなあって……。うん、行ってきてよかった」
「一人で行ってきたの」
「うん。まあね」
 親友のいうことを信じたいところだが、長く付き合ってきた小鳥から見ると『適当に流された』と感じずにいられない反応だった。
 だけど。ここで深く入るのはいまはやめておこうと小鳥は黙る。
「接客してくれたのが、お母さんだった」
「そうなの!?」
 大胆に恋する彼の母親に花梨が接触していて、これまたびっくり仰天!
「着物を着こなしている女将さん。本当に老舗和菓子屋の跡取り娘、女将さんだったよ。私にはにこにこお上品に優しく接客してくれたけど、アシストについている若い店員には、時々厳しい顔を見せるのね。言葉はやんわりしているけど、目で動かしていた。迫力あった。はあ、やっぱダメだもう」
 イメージ通りのお母様らしく、小鳥もなにもいえなくなる。
 だけど言えることがひとつ。
 やっぱり恋い焦がれている。そうでなければ、見知らぬ街に講義も放って突発的に見に行ってみようなんて思わないはず。
「宮本先輩、花梨ちゃんの連絡をまっているみたいだったよ」
 先日会ったときに、ちょっと寂しそうにスマートフォンを握って花梨のことを尋ねた彼の顔を思い出す。きっと宮本先輩のメールにもあまり返信していなかったんだと小鳥は察した。
「そうなんだ。ふうん」
 やっと花梨がちょっとだけ微笑んだ。やっぱり気にしてもらえると嬉しいに決まっている。
「連絡してあげてよ。花見の計画立てているから、花梨ちゃんも手伝って。ちょっとさあ、うちも龍星轟で大変なことあって……」
「大変なこと? エンゼルに乗っていないし、なにかあったの?」
 実は――と小鳥は、ダム湖であったことを花梨に報告する。彼女も留守の間に起きた小鳥の事故に顔色を変えた。
「そんなことが起きていたの? ご、ごめん。小鳥ちゃんが大変な時に、私は自分のことでいっぱいで」
「ううん。それはいいんだよ。花梨ちゃんのその気持ち、よくわかるもん。なんていうか、通じているようで通じていないっていうのかな」
 片思いの気持ちなら、小鳥もわかっているつもり。
「そうなんだよね〜。気がないならないって言ってほしいな。ないようであるように見せられると期待しちゃうじゃん」
「わかる。ただの優しさで、ただのお兄ちゃんの気持ちで、ただの妹的存在で終わるのかな〜とかね」
「そうそう。優しいのも困るよね」
 つい二人でうんうんうなずいてしまう。
「小鳥ちゃん。やっぱり誕生日に告白できなかったの? そんな片思いを語っちゃうなんて」
 小鳥は黙る。そして言葉がでなくなる。
「はあ。その様子だと、小鳥ちゃんたら、今度は卒業するときに告白するんだーて、先になっちゃいそうだなあ」
「あの、花梨さん」
「花梨さんて、なに。急に改まって」
 そう、小鳥は姿勢を改めて、背を伸ばし彼女に向かう。そして報告した。
「岬に行った日。お兄ちゃんが追いかけてきてくれて――」
 『二十歳になるまで待っていた』と、父親に義理を通して、成人するまで待っていてくれたこと、実は小鳥が知らないうちに両想いになっていたことを知らせた。
「えーー!? なにそれ! じゃあじゃあじゃあ、翔兄はずっと前から小鳥ちゃんのことを好きだったってことなの」
「そ、そうだったみたい。えっと、でも、まだ実感がないんだよ。嬉しいよ、すっごく嬉しい。でも……本当に女性として見てくれているのかって実感が……」
「ねえ。エッチしたの? 私がいない間に、ううん、誕生日に、あの後、もしかしてそのままいっちゃった?」
 躊躇いなく大胆に花梨から尋ねてきたので、さすがに小鳥もたじろいだが、ここ数日小鳥にとっては待ちに待っていた瞬間。
「花梨ちゃん。教えて。すっごく痛かったんでしょう。そのとき、どうしたの」
 その問いに、花梨も気がついてくれた。『まだ終わっていない』のだと。そして小鳥も正直に話した。いざそのときになったら、痛くてできなかった――と。(ベッドから落ちたのはさすがに省略)
 花梨がため息をついた。
「そっかー。痛かったんだ」
「うん。覚悟はしていたつもりだったんだけど。花梨ちゃんはどうだったの、痛かったんでしょう」
「うん、痛かったけれど。その時だけっていうか。もう忘れちゃった。それぐらい一時のことだよ」
 そうか。やっぱり我慢が足りなかったのかな。小鳥は情けなくなってきてうつむいてしまう。
「あんまり脅かしたくはないんだけど――。本当に身体と身体の相性がよくないカップルも希にいるみたいだよ。どうしてもうまく合体できないんだって。合体できたとしてもどちらかが痛みを感じて苦痛を伴うと、どんなに気持ちがあっても、愛情も壊れちゃうケースに発展することがほとんどみたい。そのうちにセックスも空気になるなんていう人いるけど、やっぱり男と女が結ばれるなら、セックスは重要だよ」
 それを聞いて、小鳥は不安になってくる。まさか、身体の相性がよくない方?
「そんなことは滅多にないから。ほんと、思い切っていった方がいいよ。でも無理して女の子だけ痛い思いして、セックスが怖くなることもあるらしいから、イケイケともいえないかな。翔兄が待ってくれるだけ待ってもらってもいいと思うよ。二十歳まで我慢できたんだし、翔兄は十代のオサル男みたいにコントロールできないってわけでもないでしょ。ずっと大人なんだから、大丈夫だよ」
 やはり花梨に相談して正解だと思った。すぐにからかったりしないで、ざっくばらんにでも真剣に話してくれる。だから小鳥も思い切って相談できる。
「うん、そうする。無理しないで、今度、心からそうしたいと私が思ったときに愛してもらう」
「それがいいよ。愛してほしいって気持ちが、身体の感じる反応につながっていくんだから」
 そう教えてくれる花梨をみて思った。
 花梨ちゃん。本当は宮本先輩と良いセックスをしているんだと。でも、だからこそ、将来を思って憂うのかもしれないけれど。
「こんにちはー」
 やっとスミレがやってきた。
 彼女は教育学部幼児科で保育士になる勉強をしている。ピアノを活かしてというが、おっとり優しい気配り上手の彼女にぴったりの進路だと思っている。
「遠くからお二人をみていたら、すっごい怖い真剣な顔でお話していましたけど」
 清楚なブラウスとキュロットスカート姿、ふわっと愛らしいボブカットになったスミレは、高校生の時よりあか抜けていた。
 今日の彼女はお弁当。彼女こそ、この大学の校風にぴったりの堅実なお嬢様といったところ。
 お弁当の包みを小鳥の隣の席において、スミレも座った。
「痛いのどうするって話をしていたのよ」
「痛い? なにが痛いんですか」
 眼鏡の顔できょとんと返すうぶそうなスミレを見て、花梨がちょっとからかい加減に笑っている。
「アレのハジメテの時って、痛いよねーって話」
「え、アレのハジメテって、アレのことですか?」
 まだ男慣れしていないだろうスミレが、頬を染めた。花梨はこうしてからかって楽しむことがたまにある。花梨の悪いいたずらに、小鳥は密かに苦笑いを浮かべてしまう。
「でも。ほんとそのときだけですよね。それに、本当に好きだから痛いことも忘れちゃうと思いませんか」
 え!? なに、その……いかにも経験済みのような落ち着いた返答!? まさか!!?
 小鳥と花梨は思わず顔を見合わせてしまう。
 そして、きっと『なににびっくりしたか』その驚きも同じことを思っている!?
 驚愕で硬直したきりの先輩二人を見て、スミレがちょっと申し訳なさそうにつぶやいた。
「えっと。やっぱり『彼のお姉さん』を目の前にして、いつ報告すればいいか、ずっとずっと悩んでいたんです。次にそういう話題がでたら、思い切ってと決めていて」
 花梨がテーブルに手を突いて立ち上がる、そして叫んだ。
「よくやった! 聖児!」
 もう小鳥は顔を覆って項垂れる。
 嘘、嘘だ〜! 初体験、弟と奥手そうな後輩に先を越されていた!?
「なによ、すぐに報告してくれたって良かったのに! いつなのよ、いつそうなったのよ!?」
「えっと。その、クリスマスに……。聖児君、春になったら大阪の自動車大学校にいっちゃうから……」
「えー! やっぱ聖児はやるときやるね!」
 盛り上がる二人が、ふと小鳥を見た。
「痛いんだって。翔兄のが」
 花梨の短い説明だけで、スミレがすべてを察してくれ、こちらも驚いている。
「いつの間に! でもお二人は絶対に想いあっていると感じていました。私!」
 よかった。小鳥先輩、おめでとう! 弟のカノジョ、こちらもいつの間にだけれど、とにかく弟のカノジョとようやっと確定した後輩から祝福されても、なんだか複雑!
「小鳥ちゃん。痛いの、ちょっとだけだから」
「そうですよ。ちょっとだけ、なんですよ」
  うー、もう、ヤダ! とうとう最後のヴァージンさんになっちゃった!  

 

 

 

 

 

Update/2013.9.13
TOP BACK NEXT
Copyright (c) 2013 marie morii All rights reserved.