◇・◇ お許しください、大佐殿 ◇・◇

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 7.ネクタイほどいて、シャツ脱いで  

 

 官舎の団地群が見えた時、心優の心臓がドキリと大きく動いた。
 心優だって、もう三十の大人。彼の住まいに連れて行かれることがどういうことか、予測がつく。けど、さすがにこれは困惑。

 え、さっき。キスしたばっかりなのに。
 え? キスができたら、もうエッチとか!?
 なんの心の準備も、もちろん、身体の準備だってできていない!

 ものすごく早急すぎ! ああ、でも……、体育会系ってこういうところあるよー。と、心優は『ほんとはクールじゃない中佐殿』に泣きたくなってきた。
 それでも、中佐の熱い手は、公園で心優の手を握ってから一度も離さない。ぎゅっと握って、ぐいぐい引っ張って来た。

 一番奥にある六号棟。防風林の向こうにはもう海が見える。横には横須賀基地、そして夜の滑走路も見える。
 そんな潮の匂いがかすかに届く夜の団地は、もう夕食も終えただろう時間で、家庭の灯りは煌々としていても、外は静まりかえっていた。
 こんなところ。他部署の隊員や、隊員の家族に見られて平気なの? 心優のそんな心配もお構いなしに、三階まで階段を上って引っ張られてきた。

「ここ、俺が借りてるとこ」
 城戸中佐が鍵を取りだし、玄関を開けてしまう。
 ここでも中佐は心優に有無も言わせずに、引っ張り込んだ。ものすごく、強引!
 真っ暗な玄関。どうしよう。ほんとうにそれでいいのか。このまま勢いで行ってしまっても?
 どうして中佐がわたしにキスをしてくれたのかも、どうしてそんなことができたのかも。予兆もなにもなかったから、理解できない。それに『勢い』って言っていた。男の気まぐれ? 他の女性より、部下である心優は利用することもないから安全安心?
 そんなことを暗がりの中、考えているうちに、靴も脱がないまま城戸中佐が玄関の壁際に美優を追い込んで押し迫ってくる。
 どこから入ってくるかわからないけれど、外灯りがほんのりと玄関を明るくしている。城戸中佐の顔も夜明かりにぼんやりと見え、男の胸に押し迫られている心優もそっと彼の目を見つけ、見上げた。
 あれ。もう、いつもの基地でのクールな中佐殿の顔になっている? でも、ちょっと違うことに心優は直ぐに気がつく。目が潤んでいる。熱く、心優を見ているのがわかる。
「いま、かあって頭に血が上っている」
「そ、そうなんですか?」
「猿みたいだと思っているだろ」
「い、いいえ?」
 いえ、本当は体育会系の男子がそうなるとイケイケなのを心優はよく知っている。『この子』と決めたら突進していって、いけると思ったらたたみかける勢いで女を落とす。猪のように猪突猛進、相手のペースお構いなしでムード皆無のアタック法なので、盛大にふられる確率も高い。でなければ、シャイすぎてまったく進展せずにそのまま終わる恋をするタイプも。モテる男子もいたけれど、そんな芸能人や有名プロスポーツマンのようなスマートな男は希。
 エネルギッシュなので性欲も旺盛、でも女性との駆け引きをあまりしらないので、直撃しすぎて一発撃沈される男も多い。時には競技ではクールな男なのに、女の子には良いように手玉に取られて影で泣いている男も割といる。
 城戸中佐は、その中でも本人が自覚しているとおり、心優も『猿タイプですか』と感じている。
「ほら。『私、こんな猿知っている』って顔しているぞ」
「だって。キスしていきなり、ですよ。しかも部下を」
 好きだったのに、憧れだったのに。大人の素敵なビジネスマンで、クールな上司だと思っていたのに。
 まさか。心優の周りにいた猪とか猿とか熊とか、そういう肉弾戦で行くぜ――みたいな男だったなんて夢にも思わなかった! と、言いたい。

 言いたいけれど――。城戸中佐の眼差しが、初めて見る男の目で、あの綺麗な色の目で、薄暗い夜明かりの中でもやっぱり綺麗に澄んでいて拒めない。

「いきなりだと思っているのか」
「わたしなんて、ボサ子な部下で、いつも中佐に声をかけてくる女の子とは違・・」
 壁に強く身体ごと押さえられて、また唇を塞がれた。今度は心優の口を割り開こうと、舌先で唇を愛撫される。
「っん、あっ、ちゅ、中佐」
 大きな手が肩を掴んでいるけど、痛い。痛いけど……、そんなに欲しがってくれて、本当は嬉しい。
 ぬるりとしているけれど、柔らかくて温かい舌先がゆっくり心優の舌先に絡んだ。男のしょっぱさと、性的な甘さが入り交じっている。どんどん押し込まれて『っんく』とその味に夢中になる。男と一緒にならないと得られない匂いと味がする。
 そんな官能的なとろみに、心優の強ばっていた身体は徐々に柔らかくほぐれていく。
「あ、んあ」
「可愛い声してるじゃないか」
「だ、だって」
 だって、中佐のキス……、すごくとろけそう。経験ある男のキスで、やっぱり大人のキス。猿さんじゃない。
「いきなりなんかじゃない。いいと思ったから、おまえが可愛いと思ったら連れてきたんじゃないか」
 『可愛いと思った』の言葉は、すごく反則。もう、それだけでなにもかも許してしまいそうになる。
 本当は、すごく、すごく。本当は心優も『欲しい』。中佐は、封印してきた『女のカラダ』を引き寄せようとしている。
 深いキスをされて、ぼうっとなった心優を見た中佐が勝ち誇ったように笑っている。
「欲しいって顔している」
 たぶん、心優もわかりやすいのだと思う。いちいち驚いて、いちいち困って、いちいち中佐がしたことに戸惑って、でも、ぼうっとしてしまう。彼に見とれてしまう。もしかして、ずっと前から心優の気持ちを気がつかれていた?
「……勢いできたけど、これだけは」
 そう言いながらも、城戸中佐は壁に押しつけている心優の襟元、ネクタイの結び目に触れた。長い指が、結び目をそっと静かにほどこうとしている。
「男、いないよな。横取りはしたくない」
 しゅるっと心優の黒ネクタイをほどきながら、中佐は尋ねる。
「いたら、ネクタイを結び直して帰してくれるんですか」
「いるなら、帰す。その男に結び直してもらえ」
 ボサ子に男なんていないと確信して、ほどいているくせに。心優が男がいるような口ぶりをした途端に、基地にいる上官の口調になるのもズルイ。
「いません……、もう、ずっと」
「じゃあ、初めてではないな」
 にっと笑った彼の手が、心優のジャケットの金ボタンを手早く外す。
 テーラードジャケットの衿が開くと、城戸中佐は心優の白シャツのボタンも上から外しはじめる。それでももどかしいのか胸元まで開けると、あとはシャツの裾をスラックスから引き抜くと、たくし上げられた。
 胸元に、自分の胸の谷間が見える。もう、こんなにされちゃっている。
 どうしよう。もとより勝負下着なんて持っていないけれど、こんなことになるなら普段から大人っぽいランジェリーを身につければよかった。でも、そんな心優の後悔先立たず。中佐の手がもう、心優が愛用しているスポーツブラをめくりあげていた。
「……やっ」
 シャツとブラを一緒に巻き上げられ、乳房が揺れながら露わになる。手で隠そうとしたら『だめだ』と、城戸中佐に両手首を掴まれ壁に押さえつけられてしまう。
 薄暗い玄関、ほのかな夜明かりの中で露わになった乳房を、中佐がじっとみつめている。
 さっきまで、強引でどんどん先に行ったくせに。こんなところで、急に静かになった。
「あの、女っぽくなくて、ごめんなさい」
 幻滅しているのかな。急に思い止まったのかな。そう思った。やっぱり、色気ナシのボサ子を家に連れ込むなんて、ちょっとした気の迷い。いまなら心優も、逆らえない上官がちょっと先走っただけだと出て行ける。
 でも中佐は黙って、心優の乳房を見ている。
「思った以上だな。園田、スタイルがいいと気がついていないだろう」
「え、でも、腕も足も、腹筋も柔らかくないですよ」
「いい『おっぱい』だ。形が良いし、乳首も綺麗な色だな。遊んでいないだろ」
「長続きしなかったので――」
「なんでだよ。ボサ子だから? 本当にその男ども、おまえのカラダちゃんと見てくれたのか。こんなおいしそうなおっぱいを手放したのか。バカだな」
 ついに中佐が、ふるふるとしている乳房を掴んだ。彼の方へ、ベビーピンクの胸先がツンと向いた。
「いただきます」
 い、いただきますって――。面食らっているうちに、きゅんとした甘い痛みが胸先に広がった。
「あっん」
 思わず熱い吐息をつきあげてしまう。
「やっ、中佐……、あっあん、だ、だめ、です」
 男の熱い口の中に深く、強く、吸い上げられる。時々、熱い舌先で転がされたり、また吸われたり。何度も灼けるような痛みが、狂おしく心優を襲った。
「……俺の、欲しくなった?」
 意地悪な質問をされる。でも、心優は黙った。自分から欲しいなんて言えない、言えない。
「園田、欲しくない?」
「はあ、あん……。あの、」
 柔らかな乳房の先を、突き出した熱い舌先で何度も舐められる。すごく、中佐、厭らしい。そんな中佐になるだなんて――。でも、中佐のいまの顔、すごくセクシーで、やっぱり大人の男。
 もうだめ、わたしも『欲しい』。カラダの芯が熱くとろけた感覚、奥からとろりと沁みだしてくる感触。女のカラダに染まっていく。
 久しぶりだった。男は三年ぶり。しかも、憧れの上司。ちょっとイメージが変わってしまったけれど、でもその体格はものすごくタイプ。
 きっと細マッチョでも、ガチムチでもなくて、本当に日々の鍛練で鍛えられてきた『プロ肉体』。日常に鍛練された身体を要求される、それが生業の男達が身につける体格。つまり心優がよく見てきた男達の身体。
 彼の執拗な胸先の愛撫にとろけてしまっても、返事をしない心優を中佐殿は許してくれない。
「返事、言ってくれないと、抱けない」
「ずるい。ここまで、勝手に連れてきて、こんなにしてるのに」
「欲しいだろ、俺の」
 ついに心優は潤んだ目で彼を見上げ、こっくり頷いてしまった。
「よっしゃあ!」
 またそういう体育会系のノリ! と思った瞬間には、もう心優のカラダは宙に浮いていた。
 ふわっと彼に抱き上げられている。
「中佐――、ちょっと、まって。靴」
 靴を履いたまま抱き上げられた。でも城戸中佐はそんなことは構わず、自分だけ靴を脱いで、両腕に心優を抱き上げたまま玄関を上がった。
 彼の自宅の中へ、突き当たりにあるいちばん奥の部屋まで進んだ。暗がりの中、ドアが開く。そこから、男独特の匂いがふわっと心優を包んだ。
 その部屋いっぱいに、大きなベッドがあった。男らしいモノトーンのファブリックでまとめられているベッド。そこに中佐が心優を静かに降ろした。そこでやっと靴を脱がしてくれる。なのにそれを豪快に、部屋の隅っこに中佐は放ってしまう。もう、とにかく直ぐ抱きたい。そんな急く気持ちで心優をこの部屋に連れてきてくれたと思いたくなる。
 すごい男の匂い。でも慣れている匂い。軍隊はこの匂いに満ちている場所が多いし、選手時代も男子部室はこんな匂い、父に兄も。珍しくもなく驚かないけれど、でもやっぱり、この人は男として生活している。そんな彼の日常の奥深い場所に、いま心優はいる。
 来たばかりの部屋は薄暗かったけれど、心優はベッドに寝かされて見えたものに驚いている。壁一面に、戦闘機のポスター。そして写真。
 戦闘機がいっぱい。そう言いたかったのに、もう城戸中佐もベッドに上がってきて、心優のカラダを跨いで、どんと乗っかった。
「本当に『猿』だから、驚くなよ」
 心優のカラダに乗ったまま、城戸中佐はネクタイをほどくとシュッと衿から引き抜いて、ベッドの外へ放った。
 基地ではスマートな秘書官だけれど、……根っこは豪毅な元パイロット?
 心優のカラダの上でスラックスのベルトを外している姿を見つめながら、彼の肩越し、向こうの壁にあるコックピット内で撮影されたパイロットを心優は見つめている。
 空を飛んでいるのか、コックピットの向こうは白い雲と青空、上空。そこに、この人がいた。
 いま白いシャツを脱ごうとしているビジネスマンスタイルのこの人も、あの壁にいる豪毅に輝くあの人も。同じ人。
 彼がシャツを脱いで、素肌を露わにした。思った通り! 心優は思わず『きゃー』と密かなる声を抑え込むようにして、両手で顔を覆ってしまう。
「なんだよ。やっぱり猿って思ったのかよ」
「さ、猿でも大丈夫ですっ」
「でもってなんだ、でもって」
 猿、猿って気にしすぎ! 過去になにかあったのかと思ってしまう。それでも、余程に気にしているのか、城戸中佐は心優の顔を覆っている手をそっとのけようとした。
 のけられた手から、勇ましい胸板と鍛えられた太い腕、そしてしっかりと鍛練された腹筋の『プロ肉体』が見え心優は震えた。
 あの城戸中佐がちょっと緊張した顔をしている。自分でここまで一気に心優を連れ込んできたくせに、おもいっきり心優の上に乗っかって、すっかり自分のペースに巻き込んだくせに。
「園田」
 額の黒髪をそっと撫でられる。優しい男の手で。
 心優の目の前に、あのシャーマナイトの目がある。艶めいてる黒い石。心優もその目をじっと見つめる。
「猿なんて、言わないで」
 心優からも、彼に触れる。彼の額に落ちる黒髪に触れて撫でた。
「心優、ミユ。可愛い名前、つけてくれたんだな」
 そうして、城戸中佐はもう一度静かに『ミユ』と囁くと、心優の唇に優しく口づけてくれる。
「中佐……」
 素肌になった彼の肌から男の匂い。もう、心優から腕を伸ばして背中にしがみついていた。
 深く交わる舌先のキスを、熱い吐息を混ぜあいながら何度も繰り返す。
「はあ、あんっ、ちゅ……中佐」
 キスを繰り返している間に、心優のスラックスのベルトが外されている。はだけていたシャツもブラも彼に脱がされてしまう。
 スラックスも引きずり降ろされ、最後に残った色気のないスポーツショーツも、中佐は手際よく心優の足から滑らせて脱がした。
 あっという間に足を持ち上げられ、ついにそこを見られてしまう。そうしたら、また、中佐がそこを凝視して止まってしまった。もう、ヤダ。今度はなに?
「ここはボサ子じゃない」
 意味がわかって、今度こそ心優はかあっと頬を熱くした。寮生活の共同入浴が長かったので、化粧よりも、黒い毛の手入れの方が大事だったから。そこはいつも薄く短めに整えている。それはもう習慣。なのに、ボサボサじゃないと彼が驚いている――。
「そんな言い方しないで」
「あ、悪い。でも綺麗に手入れしていて……」
 『うん、可愛い』――。そういって、城戸中佐は心優の両足を大きく開いた。開かれたそこはもう丸見え。でも心優が恥じて隠したくなる前に、中佐は顔を埋めてしまう。いきなり、ちゅうっと強く吸われた。
「い、いやあ」
 だめ、もうシャワーも浴びていないのに。そんないきなり! でも、彼は大きな口いっぱいにそこを頬張って吸ったり舐めたりして楽しんでいる。
 カラダがびくびくする。下から熱く狂おしいものが、駆け上がってくる。何度も薄毛の下を愛撫される度に、露わになっている乳房の胸先もびくびくしてツンと突き出す感覚。
「あんっ、ああん、だめ、中佐、そこはだめ、もうやめて、おねがい」
「どうして。ここも、すごくいい感じになってきている。欲しいだろ、ミユ」
 今度は熱くとろけてるところにするっと指を射し込まれた。あの、中佐の立派な指……。その指が、心優から溢れている蜜の中を行ったり来たりさせて、何度もさすられる。時々、どうしようもなく泣きたくなるところをさすられて、もうそれだけで……。
 男の匂いに満ちたシーツの上で、裸にされた心優は背を反って喘ぐ。シーツを握りしめて、カラダをよじって息を荒げる。
 あん、ああん、ああ……。もう声なんて抑えられない。なにもかもがいきなりすぎて、よくある手順とか完全無視で、そしてやっぱりムード皆無。
 でも、でも、なんでこんなに熱くほてってしまって、灼けるように切ないの? すごく気持ちいい。
 目も熱くなって、少し潤んでいる。うっすらをまぶたを開けると、自分のカラダに吸いついている男と壁からこちらを見ている空の男が、交互に自分を襲っているような奇妙な錯覚に陥る。
「気持ちよさそうだな、よかったよ」
「はあ、あ……ん、中佐……、こんなの初めて……」
「なんだって。こんなかんじやすいのに?」
「きっと、中佐だから……」
 彼が嬉しそうに笑っている。
「イッたことあるか」
 心優は息を弾ませながら、シーツの上でそっと首を振る。
「ミユなら、すぐにイケる。待ってろ」
 心優のカラダの上に、勇ましい猿さんが重なる。やっと、二人の肌が寄り添った。
 夢みたい。憧れの上司だった城戸中佐、そして、あの素敵なパイロット。この部屋には一人なのに二人の男がいて、どちらも心優を抱いてくれている。
 裸になった城戸中佐がベッドテーブルの上にある戦闘機の模型を持ち上げた。なにをしているんだろうと、心優も彼の胸の下で横たわったままそっとその手の先をみつめる。
「俺も久しぶりなんだよな〜」
 模型の下から四角い包みを取り出した。そんなところに隠している。それがなにかわかって、初めてではないのに心優はまたドキリと緊張する。
 ほんとにほんとに、この人とセックスしてる。そう思わせるものが出てきた。しかも、中佐は心優を従えたまま躊躇う様子もなく装着してしまう。
「今日はムリでも、そのうちな」
 熱くて硬いものが心優に押し付けられる。それまで余裕で心優のカラダを楽しんでいた城戸中佐が真顔になる。
 男の重い肉体が、熱く心優の上にのしかかる。
「あ、中佐――」
 男の尖端が、心優のそこを割り開いてぎゅっと入ってくる。
「あっああん、やん、中佐の……、熱い、し……」
 すごい。わたしの中、きつい? それとも中佐のが大きいの? それぐらい隙間なくいっぱいになっている気がする。
 それは心優の上に覆い被さり、静かに腰で押しこもうとしている中佐も気がついたようだった。
「ミユ、もっと力抜いて。緊張しすぎだ。そんなにされたら、俺がもたないだろ」
「抜いてます、あっやっ、中佐の、中佐の、中佐のだって」
「くっそ。……思ったより狭いな」
 力んではいるけれど、優しくしてくれている。でも、それだけでは、だめみたいだと心優は悟った。
「も、いいですよ。中佐の好きにして」
「でも、な。そんなんしたら」
 あっという間に終わりそう――。彼が困ったように小さく呟く。
「いいの。それより、お猿さんの本当の愛し方を知りたいです」
「心優」
 シャーマナイトの眼差しが、初めて切なく揺らめいた気がした。
「わかった」
 既に繋がっているけれど、中佐は割り込んでいる女の足をさらに膝を倒して大きく開いた。
 心優の股をいっぱいに開いたそこに、ゆっくりと男の塊を出し入れしている。それを、その切なげな目で、その厭らしい光景を見つめ確かめている。
 お猿さんの本気って。肉弾戦で、バンバン力づくで押し込まれると覚悟していた心優には意外だった。
「あん……、ああ、ああ」
 じわじわと責められている気分。そして身体の中いっぱいに填め込まれて動かないのでは――と思っていたのに、彼がそうしてじっくりゆっくり動かすたびに、少しずつ滑らかに入ってくる気がする。しかも、徐々に熱帯びて、その体温でお互いに馴染んでくるような狂おしさがこみ上げてくる。
 そのうちに静かなパイロットの部屋に、女の蜜がかき回される音が聞こえ始める。しかも城戸中佐は、大きく開いたそこで出入りする自分と、熱く零しつづける心優のそこをジッと見下ろしたまま。
 淫靡な二人だけの行為、その一点だけを彼が見つめている。そんな羞恥を晒され、でも心優はその羞恥に甘い疼きを感じずにいられなかった。彼もゆっくりと腰を動かしているけれど、肌が汗ばんできている。彼も密かに高ぶってくれている。
 ――中佐もかんじてるの? わたしも、すごいかんじてる。
 シーツの上で、心優は儚げな吐息をつきながらよがっていた。シーツを握りしめて、でも、彼の目をみつめて。
「そろそろ限界だ」
 え、もう? こんな静かな責めで満足なの? お猿さんってただのはったり?
 でも彼が言う『限界』は心優が思っている限界とは違った。
 また男の肉体が、心優に覆い被さる。今度は腰を持ち上げられ、そのうえ、両足は彼の肩に乗せられ彼の胸の下で、心優のカラダは小さく丸く畳まれる。
 女としてとても恥ずかしい恰好をさせられた。でも恥じたのはほんの一瞬。上に向けられたそこに力強く押し込まれる。それも幾度も。
 あ! ああ、あっ、あっ。あんんっ。
 ほんとうに、猿に襲われてるかのような激しさ。強引さ。男の一方的な行為。
 湿った皮膚と身体がくっつきあい、ぴったりと彼が覆い被さってくる。でも心優はもう、その激しさに飲まれて中佐の顔がわからない。目をつむってしまうほどの勢いで滾る塊を押し込まれ、繋がっているそこが燃えそうなほど熱い。突かれる奥は泣きそうなほどに灼けて、でもそこを突かれる度に何度もひくついた。
 心優のカラダを胸の下に小さく丸めて従えている中佐殿の息も切れ切れで、でも、喘いでいる心優の顔をしっかり覗き込んで、でも、愛おしそうに大きな手の中に包んで湿った黒髪を撫でてくれている。
「今日はもうダメだ。よすぎる、だろ、おまえ」
 見かけによらず、この野郎――と、耳元で囁かれ、耳たぶを噛まれた。
 また強く、さらに強く。でも、心優はもう涙を浮かべて呻いていた。
 ――『すごくいい、です』と。
「俺もだ」
 彼がそう呟いた後、最後にさらに強く激しく貫かれた。
 くっ。心優に覆い被さる彼が、狂おしそうに呻く。心優のカラダの奥で蠢くものをかんじた。
 心優の上に、元パイロットの重い肉体がぐったりと落ちてきた。
 心優も頬を染め、汗をかいて、はあはあと息を切らしている。
 なんか、『猿』ってわかった気がする? でも、お猿さんすごかったー。
 いままでのセックスの中で、いちばん気持ちよかったし、すごい満足感があった。どうして?
「はあ、すごかったなあ」
 心優の上でしばらく脱力していた中佐がやっと起きあがる。
 よかった。彼も、満足してくれたんだ――と心優はホッとする。
 これまでの心優の男性経験は、苦いものしかなかった。いつも男の方から『ちょっとおまえとはムリ』と言われて終わってしまう。
 女の子らしい、柔らかくて、優しいカラダ。そういうのを抱きたかったと言いたげだった。
「園田」
 もう部下として呼ばれている。
「はい」
「シャワー浴びてくる。おまえも後で浴びてこいよ」
 中佐はそのままベッドから降りると、逞しい肉体の背中を見せて部屋を出て行ってしまった。
 二人で余韻を楽しむ気持ちはなかったよう、中佐は男だからなのかあっさりしていた。
 時間は二十一時。ベッドテーブルの灯りをつけて、どこかに落ちている白シャツを探す。ベッドの下に落ちていたのを拾って、素肌の上に羽織った。
 ほのかな照明に浮かび上がる彼の軌跡を物語る『パイロットの部屋』。
 壁にあるローチェスト。その上に、写真立てもいっぱいある。滑走路でパイロットの装備をつけた姿で同僚達と賑やかそうに映っているものも、キャノピーが開いているコックピットに乗り込んでいる写真も。
 だが、心優は信じられないものを見つけてしまい、慌ててベッドを降りて、その写真へと向かう。
 その写真立てを手にとって、心優は穴が開くほどしげしげと眺める。
 空母甲板に、紺のラインがある白い戦闘機。そして白い戦闘機とお揃いの、紺のラインがある白い飛行服を着た姿で城戸中佐がそこにいる。いまよりもずっと清々しい笑顔で。驚いたのは、彼の隣に写っているのが紺の指揮官服を着込んだ栗毛の女性『ミセス准将』!
 それだけではない。心優がさらに驚いたのは、彼が白いパイロット服を着ていること! 彼の腕にある『白昼の雷』をデザインしたワッペンがある。
「雷神のパイロットだったの!」
 国際連合軍の中でも一握りのパイロットしか配属されない『エース中のエース』が選ばれるフライトチーム。『雷神』。
 本家はシアトルの湾岸部隊にある。そしてもうひとつは、あのミセス准将のフライトチーム。彼女の眼鏡にかかったパイロットしか選ばれない。
 そこのパイロットだった? ミセス准将の部下だった? 
 エースの中でもトップクラスの、雷神パイロットだったという新事実がいま目の前に。

 

 

 

 

Update/2014.11.28
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