◇・◇ お許しください、大佐殿 ◇・◇

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 EX2. ドーリーちゃん、よろしくね(13)

 

 もう大奮発。予算無視で決めた個室温泉宿、大人の隠れ家的お宿。
 ベッドがあるお部屋を予約した。もう、大正解!!
 和風のベッドルーム、隣接する半露天の檜のお風呂。畳の和室もある広めのお部屋。そこを出ると石畳の小さな日本らしいお庭もある。

「おー、すげえいいじゃん。俺もこんなところ一度泊まってみたかったんだー」
 騙された彼女と旅行が行けなくなってから、旅行など行こうと言い出せなくなったお猿さんも、今回が初めてとばかりに大喜び。
 沼津の実家でお昼をいただいた後、暫くみんなでいろいろ話して、それから実家を出発した。
 海はいつも見ているから、今回は中伊豆の静かでしっとりした温泉地を選んだ。

 

臣さん、ここいいかな。でも一泊が凄い高いの。
そんなことは気にしないで行こう。

 

―― だって、俺達。こうでもしないと、思いっきり休むことができないから。

 

 宿を決める時に、雅臣が心優を抱きしめながらマウスを動かして予約をしてくれたところ。
 寛大に決めてくれたようで、でも、心優は大佐殿の『思いっきり休めないから』とどこか哀愁を含めた言い方が気になったし、その意図がわかってしまったから。
 この前の任務で、心優はすごく頑張った。その骨休め、羽を伸ばすんだ。またいつ行けるかわからないだろう。だから『今』、思い切って好きなことをしよう。
 そこに『俺達はいつなにが起こるかわからない海軍人』だと突きつけられた気にもなった。

「うーーーん、すげえ開放感! 空に戦闘機なし、潮の香りなし! 非日常!!」
 あーあ、また空を指さし、コックピット気分でお猿さんになっちゃってる。でも『非日常』と満足げに伸びをしている彼を見ていたら、心優もホッとしてきた。
 スーツケースを置いて、ふかふかのシックなベッドに腰を下ろした。
 雅臣も窓を開けたまま、伊豆の山の風情を眺め、深呼吸をして空気を楽しんでいる。
「疲れたな。あちこちご挨拶でいろいろあったな」
 大佐殿が、白いシャツの襟元、黒いネクタイをシュッとほどいた。
「うん、でも。会いたい人達に会えて、結婚の報告ができてよかった。これで臣さんの奥さんになって、任務に行けるよ」
 ふと思った通りに呟いた。なのに、窓辺にいる雅臣がちょっと致し方なさそうに微笑んで首を傾げている。
 そのまま心優のそばに来て、ふかふかのベッドに雅臣も座った。そして大きな手長い腕で、心優の肩を強く抱き寄せてくれる。
「任務はなしな」
「う、うん。ごめんね。ここでは忘れようね」
「心優、やっとふたりきりだな」
 うん――と微笑むと、もう雅臣に上を向かされていた。大きな手が心優の頬をつつんで、じっとシャーマナイトの鈍色の目が優しく優しく心優をみつめている。
「心優も、ほどけよ」
 そう言いながら……。雅臣の熱い唇が心優に重なる。
「っん……」
 眼差しは優しくても、キスは優しくなかった。重ねられたくちびるはすぐにお猿の熱く湿った舌先にこじ開けられ、潜り込まれ、でも彼の愛撫でとけていく。
 そのまま雅臣の手が、器用に心優の黒いネクタイをほどいた。ほどいたら、次は襟元のボタン、ボタンを胸元まで開けたら、一気に押し倒す! というお猿のペースに!
「や、お、臣さん……。き、来たばっかり」
「来たから、裸になるんだろう。ほら、風呂はいろ」
 手際よくシャツのボタンを開けられてしまい、タイトスカートのホックも外された。あっという間にランジェリーもめくられて、ショーツに……。脱がされると思ったら、お猿の大きな手が潜り込んでそのまま。心優のそこをいいように触りまくる男の手。光沢のあるショーツの生地が彼の手の甲で盛り上がり、厭らしく蠢いている。
「も、もう。お、お風呂にはいるんじゃ……」
「そうだ、風呂にはいるから――。その前に――」
「う、汗、綺麗にしたいんだけど……」
「ずっと心優に触っていない俺が、そんな大人しく我慢できると思うか? まだそのままひとつになれないだろ? 風呂の中でおもいきってしたいけどさ。いまは無理……」
 和風のベッドルームのすぐ隣のガラス戸を開けると、そこは湯気がゆらめく檜風呂。半露天で、一方の窓を全開にすると露天になる。そこでおもいっきり愛しあいたいけれど、いまはまだ任務前だからそこだけはそこだけは気をつけなくちゃいけないからと、我慢できないものはここで発散していくとお猿が急いでいる。
「風呂で、できる、かな?」
 あれ持っていったら、持ち込んだら、できるかな? とお猿が本気で悩み始めた。なのに、彼の手は心優のショーツの中、奥まで指を挿れてかきまわしている。
 あ、もう……だめ。彼に悟られないよう、心優はそっとベッドのシーツを握りしめ声を抑えた。でも……。そんな声を抑えたって、彼の指先になにもかも暴かれてる。だって、そこが熱くて、心優はもう彼の指をいっぱいに濡らしている。
 微かに密かにはあはあと漏らす吐息を、雅臣に見つけられてしまう。
 ベッドに頬を埋めてシーツを握りしめ、涙目になっている心優の上、耳元にお猿の唇が近づく。
「心優も、そうだろ。ずっと、待っていただろ?」
 意地悪な微笑みを浮かべて、熱い息で耳元に問いかけてくる。
 黙っていても。彼が『ここ、こんなになっているけど』と、心優の中で太い指が蠢く……。
 女の羞恥心なんておかまいなしで、悔しいけれど……。宿についてすぐにこうなっちゃうの、恥ずかしいけど。でも、心優は目を潤ませたまま、黙ってこっくりと頷いてしまう。
 よし、一発やっておくか。
 あからさまにそんなことを言い放って、ついにお猿が心優にまたがったまま、心優の上で大佐の肩章がついた白いシャツをガバッと脱ぐ。スラックスのベルトも外してまたたくまに脱いで、あっというまに元パイロットの肉体美を晒した。
 心優もショーツ一枚だけ残されたので、それを脱ごうとしたのに。その手を雅臣に止められる。
 お猿の意味深な、艶っぽいシャーマナイトの目が、心優の最後の羞恥心、一枚だけのショーツをゆっくりと降ろしていく。
 自分の女が、これ一枚を最後にあられもない裸になっていくのを楽しんでいる野生の猿のような顔。もう何度も見せた裸なのに、もう何度も抱かれたのに、脱がされたのに。どうしてか心優はそこでとてつもなく厭らしいことをされている、晒されている気持ちになって、頬を熱くした。
「心優は、いつまでもかわいいくていい。きっとこれからもそうだな」
「そ、そんな……。見慣れた古女房になってくんだよ……」
「どう楽しむか、俺はまだまだ心優にやらせたいこと、見せて欲しいことがいっぱいあるから大丈夫」
 え! まだなにか考えているの!? ど、どんなこと望む気?? これまでも結構、思い切ったことしてきたつもりなのに??
 そんな驚く心優を見て、また雅臣が『ほら、そういうところ、かわいんだよ』と笑っている。
「めいっぱい愛しあって帰るぞ」
 男の準備を終えた全裸のお猿が、心優にめがけてやってくる。
 脱がされて丸見えになった女の奥に、お猿の硬くなった尖端をあてられた。
 いまからお猿さんがおもいっきり入ってきて、強く貫いて、心優をくらくらにしてしまう……。そう思ったのに。少しだけ入ってきて、そこでゆっくり焦らされた。
 でも、そのうちにおもいっきり奥まで入ってくるだろうからと……。ベッドに寝そべって、全裸のお猿を見上げている心優はそのままそのまま彼を見つめて……。
「あ、あん、……お、臣さん……、ああん、は、はや……」
「……早く?」
 わかった。焦らして、心優から『早くして、欲しいから』と言わせたいんだとわかった。また、勝ち誇ったお猿の野性的な笑み。その笑みに囚われながらも、心優はまた頬を染めていた。
「なんだよ、心優」
 余裕の笑みで焦らしながら、でもお猿も息を荒げている。向こうも向こうで仕掛けておいて、負けられずに意地を張っている。早く奥まで突っ込みたいけど、俺を欲しがる心優が見たい。そんな彼の企み。
 悔しい、でも、ああ凄く……いい。このまま焦らされているこの瞬間の、込みあげてくるあなたへの熱さが、あなたが欲しいと切なく喘いでいるこの瞬間の、熱さがたまらなくいい。でも、もっともっとそれ以上のものが欲しいの!
 ついに心優から手を伸ばしていた。いつまでも焦らしている彼の熱い塊を握りしめ、足を大きく開いて……、あられもない格好で、自分から奥に、腰を浮かして差し込んだ。
「み、心優――」
「臣さんだけなんだから……、変な時に思い出したら許さないから」
 お猿が望んだとおりに、仕掛けたとおりに、心優は女のはしたなさをかなぐり捨てて、彼を望んだ。
 そして、自分から腰を動かした。もっともっと、お猿はこれを望んでいるんでしょ? こうして自分の女を眺めたいんでしょ? あなただけだからね。
「……おまえの、勝ちだよ」
 心優の猛烈な責めが思っていた以上だったのか、お猿が顔を歪めた。
「くそ、だから油断ならない」
 お猿が陥落したようにして、心優の上にやっと覆い被さって抱きついてきた。
 ベッドの上に、熱い身体を重ねる女とお猿が激しく絡み合う。手と手をきつく握りしめ、指を絡めて、何度もキスを繰り返して、ひとつになったそこをお互いに離れないよう腰を揺らして……。
「うっ、あっ、ああん。お、臣さん……!」
「はあ、心優、心優――」
 いつも負けているのは俺だよ。愛しくてしかたないのは俺のほうだよ。心優はそのままでいいから、ずっとそのままで俺のそばにいてくれ。
 そう囁かれながら、強く長く、愛されて。綺麗になんかしなくても、わたしはお猿の汗の皮膚が好き。綺麗に洗って愛しあうなんて、そんなの本当の肌じゃないよね。わたしたちはそう……。ずっと前から、闘って滲んだ汗を分けあってきたんだから。
 静かな隠れ家に、海の匂いはない。夏草とお湯の香り。そのなかで、なにもかもを忘れて、汗の肌と皮膚をくっつけて重ねて、ずっと愛しあって。
 汗だくになって愛しあった後は、またお湯の中でお互いの肌をむさぼった。いくら綺麗に洗っても、すぐにお互いの愛撫の痕がついてしまう。
 でも、その繰り返しをする。明後日のチェックアウトまで、ずっと貪る。なにもかも忘れて――。
 わたしたちが、夫と妻になるための、時間。

 

 ―◆・◆・◆・◆・◆―

 

 浄蓮の滝、綺麗だったなあ。
 しっとりした水飛沫が舞うしとやかな滝。青い滝壺にわさび沢。
 緑の匂いに、お湯の湿り気。なにもかも、夢みたいだった。

 気怠い身体は、くたくたに愛しあったせいだと思う。
 戻ってきた世界は、灼熱の太陽に真っ青な空、青い珊瑚礁の海、潮の匂いに、燃料の匂い。そして絶えないさざ波。

 夏の休暇を終え、心優は大佐殿と一緒に、『日常』に戻ってきた。
「あー、楽しかったな。もうちょっといたかったなあ……。今度の長期休暇はあそこみたいなところに三泊ぐらいしたい」
 そうだね……と言いながら、お猿と三泊もしたらこっちの身が持たないかもと思ってしまったけれど、心優も思う存分、あんなに愛欲に溺れた日々は初めてで、なんだか抜け出せないまま。
「心優、疲れているみたいだな」
 雅臣が心配そうにして、灼熱の太陽で一気に熱くなった心優の黒髪を撫でてくれる。
「大丈夫だよ。でも……。准将に会いたい……」
 雅臣がびっくりした顔をする。心優も自分でびっくりしている。まるでお母さんに会いたい気持ちに似ていた。
「さすが秘書官だな。この環境に置かれたら、ボスが気になる体質になるのは仕方がない」
 立派な秘書官、プロだなと雅臣が褒めてくれる。
「ま、俺も浜松で聞いたことが気になるから、石黒准将の伝言も早めに渡したいし、顔を出しておくかな」
 それに。結婚の報告もしよう――と、定期便を降りてそのまま、二人は准将室へ向かうことにした。

 二人一緒に高官棟、三階にある空部大隊本部の通路を歩いていると、事務所の隊員達に見つかってしまい『おかえりなさい!』と声をかけられた。
 でもその目線が既に『婚前ハネムーン』に出掛けた帰りとからかう目になっていたので、雅臣と一緒に照れながら『ただいま、あとでお土産渡します』と返し通り過ぎた。
 准将室の重厚な木彫りのドアはいつだって厳かで静か。いつもは心優が准将デスクのそばにいて、誰かが来たら開けていたけれど。
 雅臣がノックをする。
「お疲れ様です。雷神室の城戸です」
「ただいま帰りました。園田です」
 二人で声を張り上げると、そのドアが静かに開く。開けたのはラングラー中佐だった。
「おかえり、ミユ。どうした。出勤は明日からだろう」
 緑の瞳を見開いて、いつになく中佐が驚いている。
 その驚いているのにはわけがあった。
「なんだ、ミユも城戸君も勘がいいのかな。なにか思うところあったみたいに……」
 その瞳が翳った。その瞬間。心優は悟った。『留守の間になにかがあったんだ』と。急いで、スーツケースを准将室に入れると、心優は彼女を探した。
 デスクにいない。でもその姿はあった。彼女は応接ソファーに座っていて、男二人と向きあっている。
「心優……、どうしたの。明日からでしょう」
「あの、……お顔を見ておきたくて……」
 そのまま素直に伝えたら、彼女が嬉しそうにちょっとだけ微笑んだ。でも一瞬。彼女がいつものように優しく微笑まないのはその状況にある。そして心優はどうしてそうなっているのかわからず、彼女のそばにいけずそこで立ち止まったまま。
 何故なら――。
「ふうん、アイスドールがなんだか嬉しそうに笑ったな、今」
 眼鏡の奥からの凍った眼差しを放つ、細川連隊長がいて。
「なるほど。あなたに園田中尉が必要なのはどうしてか、いま知った気がしますよ」
 何故か。この小笠原の准将室に、若白髪の海東司令がいたからだった。
 彼等の側近もそれぞれ、上官が座っているその後ろに控えて立っている状態。
 もうこれだけで『なにかがあった』と心優は一気に夢見心地から目が覚める。
 それは雅臣も一緒だった。彼も遠慮なく准将室に入ってくる。
「ただいま帰りました。あの、なにかあったのですか……」
 雅臣の問いに、司令、連隊長、ミセス准将が随分と難しい顔を揃え見合わせている。
 司令が頷くと、ミセス准将がテーブルの上にあるタブレットを手にして立ち上がる。そのまま雅臣へと近づいてきた。
 そのタブレットを雅臣に、ミセス准将が冷たい顔で差し出した。彼が驚き、息引いたほど、心優も一緒にそれを見て、驚愕する。
「高須賀准将が航行している空母からスクランブルで対象機まで接近、こちらからの警告をしている最中に、機関砲で撃たれたの」
 その画像は、尾翼に丸い穴が数個開いている戦闘機の姿が。尾翼だけのもの、機体の片側にその機銃の痕があるものも。
 パイロットだった雅臣が青ざめている。
「ど、どうして! パイロットは!」
「無事よ。どの機体も火災はなく、無事に着艦している」
「いつですか! 数日前に浜松基地で石黒准将にお会いした時に、大陸国が執拗にアタックしてくることは聞いていましたけれど」
「その報告があってすぐ。昨日の午前よ。撃たれたフライトは機体が損害を受けているため、もう艦載はできない。代わりのフライトチームを手配するために、海東司令が岩国に出向いていたの。その帰りにこちらに寄ってくださったところよ」
 雅臣が海東司令を見る。本来なら厳粛に敬礼をし挨拶をせねばならないところ。でもあまりにも驚愕していて、雅臣はそれができないよう……。
 だが海東司令は諫めもせず、しっかりと雅臣の視線を受け止めている。いつもの余裕の表情でひとまずやんわりと司令は微笑む。
「ソニックが驚くのも無理はない。これまでも多少の小競り合いはご挨拶程度にあったわけだが、今回はもろに撃たれたのだから」
「報道はなかったようですが」
 司令がふっと冷笑を浮かべる。
「いまは報道規制がされている段階だ。そのまま全国に報道すれば大騒ぎになる。国民の安心に波風立てるのはいまはまだ」
「そ、そうですね……。怯えるばかりでしょう。俺も家族には知らないでいて欲しいです……」
 大丈夫。絶対に還ってくるよ。そんなこと滅多にない。結婚式楽しみにしているから。
 家族を安心させて別れきたばかり――。心優もいまは知られたくないし、余計な心配をさせたくないと強く思った。
「ところで、ソニック。いや城戸大佐。君はどう思う? 今回のこの大陸国の射撃について」
 ソファーにゆったり座っている海東司令は、どこも臆していない。ミセス准将室に気軽に遊びに来たかのように悠然としている。
 そんな上官の問いに、雅臣が唇を噛みしめ悔しそうにうつむいた。
「ミサイルの発達で視覚範囲での戦闘など皆無になった現代戦闘機で、ミサイルを使い果たした時の保険としてただただ備えているだけの、『そんなことはこの現代にあるはずはないけれど、一応つけておこう、警告射撃でも必要だし』程度で備えている機関砲で撃ってきたということは――」
 元パイロット同士、海東司令もうんうんと頷きながら、でも雅臣がどう答えるかじっと待っている。
「わざわざ機関砲で仕掛けてきた。本当に国同士で徹底的にやり合うならミサイルが飛んでくるはずです。でも、いまはその意志はない」
「つまり?」
 副艦長の命を与えた男を試しているかのように、海東司令の目が険しく細められる。雅臣もわかっていて、でも怯まずに答える。
「石黒准将から聞きました。『白いのがいない艦隊なら興味がない』と言ってきたと。だけれど、今回の艦に雷神が艦載しているかどうかは答えられない。つまり――『雷神を出すまで、答えるまで、攻撃をする』というところですか」
 雅臣の落ち着いた返答、すぐに思いつく『敵の意図』。でも心優は大佐殿の見解を聞くまでまったく思い至らなかったので愕然とする。
 それって。つまり。『雷神を出せ。御園艦長を出せ』と言っているのと同じ!! 『王子』の狙いは、王子の父上である司令総監の狙いもそこにある?
 そこで細川連隊長が、溜め息をついた。
「助けたのがあだになったということだな」
 その言葉で心優は思い出す。浜松航空基地連隊長の石黒准将が言っていたこと。
『互いに接触をしたことがある者同士が、また敵国同士として空で接触する。ミセス准将がその時どうするのか。王子の気持ちがなんであるか。そこを案じているよ』
 石黒准将の不安がズバリ的中したことになる。
「指示もないのに侵犯をしあまつさえバーティゴという事故を起こした。帰国後に、敵国に助けられ手厚く帰還させてもらった情けないパイロット扱いされのだろうな。しかも司令総監の子息だ。不名誉このうえない」
 眼鏡の銀縁を細川連隊長がこめかみを押さえながら、再度溜め息を落とす。
 海東司令もおなじように思っているようで、細川連隊長の言葉に頷き、また雅臣を見た。
「雷神を艦載した艦隊であるかどうかは答えることができないため、高須賀准将には予定を変更し、早急に撤退するよう命じられている」
 また雅臣がショックをうけた顔になる。
「それでは、あちらの思うつぼ。折れたということですか。あちらが勝手に主張している領域に野放し、譲ったことになってしまいます」
「一時的措置だよ。あちらも熱くなっている以上、いつものような刺激も厭わない航路は得策ではない」
「ですが……!」
「雅臣、司令殿よ。改めなさい」
 ミセス准将の涼しげな制止に、やっと雅臣が引いた。でも海東司令は満足そうに微笑んでいる。
「いいことですよ。ソニックもファイターパイロットだったのだから、これぐらい熱くなって当然。そうでなければ、エースでも国防パイロットではない」
「失礼いたしました、司令殿」
 すっと落ち着きを取り戻した雅臣だったが、その額に汗が光っているのを心優は見てしまう。
「ミセス准将はアイスドールで徹底した落ち着きはあるが、ソニックぐらいの熱さも必要。パイロットを護ってもらわねばならないからね」
 若白髪の男も、にっこりとして余裕げだった。まったく動じていない。それでも小笠原まで来たのには、御園准将と意志を揃えておかねばならないなにかがあるのだと、秘密の食事会に連れて行ってもらった心優はかんじている。
「今回は撤退したが、では次回はどうするかなのだよ、ソニック」
 次回――。それは、心優と雅臣が着任する警備航海の時。高須賀准将の航行は撤退という決断になった。では、どうするのか。
「次回艦長に就任する、ミセス准将はどう思っているか。それを確かめにね」
 海東司令が側近の大神中佐を従えて岩国から直接小笠原を訪ねてきた目的はそれ。
 そしてミセス准将はどう感じたのか、気になる雅臣と心優は固唾を呑み、いつもの涼しげな顔をしている御園准将を見る。
 だが、アイスドールの彼女が微笑を見せる。心優はもう知っている。こんな笑みを見せる時の葉月さんは、冷たい琥珀の目をしながらも燃えているんだって。
「撤退なんてとんでもない。いつもどおりに行かせて頂きます」
 強気な発言でも、細川連隊長はふっと微笑み、海東司令もにんまりと楽しそうだった。
「ほんとうですか。准将……。俺もおなじ気持ちです」
 雅臣も嬉しそうだった。でも心優は複雑……。闘うのが嬉しそうに見える大佐殿のその闘志。それがなんだか胸が痛い。
 ああ、そうか。もしかして、これが夫を送り出す案ずる妻の気持ちなんだと、心優は初めて気がつく。でも自分も着任をする護衛官、そんな様子は微塵も見せてはいけないと、案ずる顔にならないよう必死に堪えた。
 そのミセス准将が、不敵な笑みのまま、先ほどのタブレットをじっと眺める。
「どう、雅臣。惚れ惚れする腕前だと思わない?」
 目を輝かせるミセス准将の敵国パイロットを讃える言葉に、雅臣がいつになく悔しそうに唇を噛んだ。
「そうですね。撃つだけなら、こんな遠慮した当たりはしないと俺も思います」
「そう、わざと控えめ――。ドッグファイトに突入すると、互いに高速飛行になるから機関砲など当たりもしない、撃ってきたという警告で驚くことはあっても。それをわかっていて、ドッグファイトになる前に、とにかくこちらの機体を確認したら迷わずに撃ってきたのよ。しかも……、当てても支障がないよう着艦ができるよう、わざと照準を機体からずらして、当たる分だけあたればいいという算段が窺える。当たったとしても、燃料箇所には当たらぬよう――」
 海東司令も元パイロット、腕を組んで唸っている。
「悪辣な選択をしているようでいて、結局はどこか紳士だ。まるで呼ばれているようですね」
 呼ばれている? 海東司令が御園准将におかしそうに笑う。
 だが御園准将もどこか楽しそう……。
「熱烈なラブコールですわね。確かに『王子』でしたわよ。爽やかな青年、腕前も確か、礼儀もあった。会話も上品で嫌味もなく、ひとときとはいえ相手国の青年と話せたことは楽しくもありましたわね。おいしそうに日本食を食べてくれ、素直に礼を述べてくれ嬉しそうにして。でも、不審者にも狙われる辛い立場であることは、彼の憂い。そんな表情も気になったものです。あのような青年ならば、確かに『王子』。国でも人気があることでしょうね」
「だが、その立場を護るためには、助けてくれた『女性艦長』に勝たなくてはならなくなった――と思いたいところですね」
 海東司令もそこは憂うところなのか、ふっと眼差しを伏せる顔。おなじ少将で司令同士でもある細川連隊長は『甘いな』と言い捨てているいつもの姿。
「なにがラブコールだ。相変わらずの甘ったれ姫だな。王子と姫でちょうどいいってことか。あっちも国に戻れば自分を護るために必死だ。葉月の立場など微塵も配慮してはならない。それはおまえもおなじだ。国を間に分かつ以上、自分の立場が絶対だ。わかっているんだろうな」
 海東司令はまだ若いため、ここにいるミセス准将や細川連隊長よりも後輩に当たる。そのせいかずっと口当たりも柔らかい。だが細川連隊長はそうもいかない。ミセス准将を従える直属上司、甘えは決して許してくれない手厳しさ。
 それでもミセス准将もまったく物怖じしない。
「兄様、私が遠慮でもして王子君に温情をかけるとでも? あちらが仕掛けてきているのですよ。『ミセス艦長出てこい。今度は俺が勝つ番だ。俺はあの程度のパイロットではない』と」
「違う。たとえ、おまえに葉月に恩義を感じていたとしても、だからこそ『闘いたくない相手、できれば避けたい。それならもう徹底的にして退いてもらう』という決意だ。わかってんのか、おまえ」
「まあまあ、細川先輩。そこまで葉月さんを責めなくても――」
「海東君も甘いな。このお嬢ちゃんは時々、奇妙な恩情を見せる。それがこれまではなんとか活きてきたのだろうが。次回のような切迫した接戦になるのなら甘さは一切捨てるべき。その隙が艦を危機に陥らせる。乗員を危機にさらす! 艦長個人の感情はいらない! そこを徹底するべきだ!」
「そんなことは自分も重々承知の上ですよ、細川先輩。俺もそこは徹底しますから」
 そこには肩書きを取り払った、普段の自分たちで話し合っている上官達の姿が現れていた。だから雅臣も心優も入れなくなる。
「正義兄様、海東君、」
 言い合う上司二人を前に、彼女がいつものアイスドールの顔になってしまう。海東司令のことも、以前は『海東君』と呼んでいたのか。しかも上官である男二人を、仕事以外で呼んできた呼び方で……。
「覚悟はできております。次回の航海で最後でもいいと思っています。なにかあれば……。遠慮なく私のことはお切りください」
 それが御園准将の覚悟。一瞬にして、准将室が凍り付いた。『彼女はこれを最後に艦から降ろされる覚悟もしているのだ』と。
「もし私の判断が迷惑をかけるものとなり、更迭というものになりましたら、その後をお願いいたします。私の後継には、橘大佐がおります。そして城戸大佐も。補佐には御園大佐の起用をお願いします」
 心優は愕然とする。怯えた様子などこれっぽちも見せなかった余裕げな葉月さんだったけれど……。真っ向勝負と覚悟した分、自分がこれで処分されるのも厭わない決断を既にしている。
 立派な覚悟だと心優がちょっと感傷的になったその時、どこかわなわなと肩を震わせているような、いつにない様子の細川連隊長がソファーから立ち上がる。
 雅臣の目の前でタブレットを眺めていた御園准将の前に立ちはだかった。冷たく見下ろしているのに、その目が囂々と燃えているようで心優はひやっとする。しかも心優の隣に控えていた雅臣までもが『ヤバイ』と後ずさるほど。
 心優と雅臣が恐れたじろいだその瞬間、 細川准将の手が振り上げられる。その手が空を切ってどこにいくかわかった心優は『やめて』と一歩踏み出したが遅かった。
 スパンと乾いた音が准将室に響き渡る。あのミセス准将がおもいっきり頬を横殴りにされた!
 そこにいる男達が、海東司令までもが驚き、彼も立ち上がってしまう。
「いや! ちょっと先輩、やりすぎですよ!」
「まったく、これだからおまえは『甘ったれ』ているんだ!!」
 この連隊長、普段は冷ややかだが、時々すごく熱くなる――と御園大佐から聞いたことがあるけれど、これか……と、初めて見た心優は震えていた。
 でも御園准将は恐れていない。恐ろしい兄様に、同じように冷たく燃える眼差しでやりかえしている。まるで兄妹喧嘩のよう!
「艦長の使命をまっとうする。それだけは譲れません」
 さらに細川連隊長の目が燃えさかった。負けん気の妹の口答えにさらに火がついたとばかりに。
「そんなの当然の仕事だ! だがおまえの使命はそれだけではないだろう! おまえ、アグレッサー部隊の設立を投げ出す気か! また周りを巻き込んであちこちの幹部は『アグレッサーができてしまったらどうなるんだ』とヒヤヒヤしてるんだぞ。それを放り投げるただの『お騒がせお嬢ちゃん』で終わる気か!」
 そこで熱くなっているだろう頬を手でさすっている御園准将が、ほんとうにお兄さんに叱りつけられた妹の顔に崩れ、うつむき長い栗毛の中に顔を隠してしまった。
「俺と、直己君に、切り捨てるなんて格好悪い仕事をさせるな!! わかったか!!」
 吼える連隊長の声で、准将室の空気がビビビと揺れた気がした。でも心優はそれどころではない。
「准将、大丈夫ですか」
「大丈夫、控えていなさい」
 心優がどんな気持ちでいるのか通じているからこそ、御園准将が怖い目で心優を退けようとした。でも心優は、思わず細川連隊長を見てしまう。
 どんなに男同様の将官であっても、お兄様だからこそ、女性として労って欲しいのに! 
「園田、やめろ」
 雅臣にも心優の気持ちが通じてしまう。だからこそ、連隊長に訴える目を向ける心優を引かせようと心配してくれている。でも……。
「わ、わかった。園田中尉のいいたいことはわかっている、……」
 あの連隊長が心優の目と合わせられないとばかりに、目線を逸らしてしまった。
「やめなさい、心優。少将殿よ、控えなさい。いいのよ、兄様にひっぱたかれたのは初めてではないんだから」
 なんですって!! なんど、この真っ白なほっぺたを赤くしてくれたのよ!! 今度は心優が燃えあがりそうになった。でも御園准将が心優の踏み出しそうな身体を止める。
「兄様だからできることなの。私には必要なことなの。いいのよ。兄様なんだから怒る時は妹を怒って当然でしょう」
 ハッとする。そして心優は改めて気がついたことに我に返って、細川連隊長をもう一度見つめる。だけれど、なんだか『暴かれちゃった』みたいにして今度は連隊長が恥ずかしそうにして背を向けてそれっきり。
 あ、お兄様だったんだ。連隊長たるアイスマシンさんではなくなって。お兄様として感情的になっちゃったんだと。
「大神、冷たいおしぼりを準備してもらえ」
「はっ……」
「いえ、わたくし共の秘書室です。こちらで準備いたします。お気遣いありがとうございます」
 海東司令の気遣いだったが、大神中佐ではなく、ラングラー中佐が秘書室へと向かった。
 背を向けたままの連隊長がそのままそっと呟いた。
「更迭も許さない。完璧にやりこなして帰ってこい」
「そのつもりです」
「つもりじゃない!」
「誓います。何事もなく戻って参ります」
 連隊長もなにも言わなくなった。
「うん、今日はいいものをみせさていただきました。C-130輸送機で岩国から運ばれてくるのは乗り心地最悪でしたが、小笠原に来て良かった。いいですねー。私も葉月さんに『お兄様』と呼ばれてみたかったなあ。『海東君』ですからねえ……」
「若いのだからそうなりますでしょう」
「俺は兄様なんて呼ばれるたびに、むかっ腹が立つ!」
 あーあ、この連隊長さんはまったく素直じゃないんだから――と心優は密かに呆れてしまう。最初は嫌だっただろうけれど、いまは嬉しいくせにと心優は思っている。
「にしても、園田中尉」
 やっと。いつものアイスマシンである連隊長の視線が注がれ、心優は焦る。
「女性ならでは――。俺達にはないもので、艦長を護ってくれ。頼んだぞ」
 驚いて、心優はすぐさま姿勢をただし敬礼をする。
「はい、細川少将。……大変、失礼いたしました」
「いや。女性としての葉月を護れるのは園田さんだけだろう。それは俺には手が届かないものだ」
 妙に脱力した様子で、細川連隊長が元のソファーに座り落ち着いた。
「ああ、疲れるな。葉月と一緒だと」
 落ち着いた先輩を見て、海東司令もホッとした様子で微笑みを見せる。
「羨ましいですよ」
「どこが。うちの親父が小娘には容赦するなといつも言うがその通りだ」
 ラングラー中佐が冷たいおしぼりを持ってきて、御園准将の頬を冷やす。でも葉月さんはちょっと拗ねているのか、お兄様の隣には戻ろうとしない。
「そういえば……、親父が、このまえ変なことを言っていたな」
「細川元中将がですか?」
 海東司令の問いに、向かい側でふてぶてしく足を組んで頬杖をしている眼鏡の連隊長が、妙に遠い眼差しを珊瑚礁の窓辺に向けた。
「ほんとうは男にも負けないタックネームを考えていたけれど、甘ったれた小娘だから、甘ったれた女みたいなタックネームを付けてしまったってね」
 その話に、さすがに御園准将も頬を冷やしたまま、反応した。
「細川中将……おじ様が?」
 やっと仲直りとばかりに、立っている御園准将と頬杖で座っている細川連隊長の視線が合う。
「聞きたいか? どんなタックネームを考えていたか。俺は……なるほどね、もったいなかったと思った」
「へえ、自分も知りたいですね。あのジャックナイフのお父上が、ティンクよりも前に持っていたイメージを」
 それは雅臣もだった。
「俺は葉月さんは、まさにティンクだと思っていました。軽やかに飛ぶ妖精――だって」
 雅臣のそんな言葉に、細川連隊長が呆れたように笑った。
「妖精? 親父はそんな目で御園というパイロットを見ていなかったよ。わざとかわいい名前をつけて、もっと精進しろと思わせたかったんだろ」
 だったら。もし、男達同様のタックネームを付けてくれていたのなら。本当はなんだったのか。そこにいる男達の聞きたいという空気が連隊長を包んだ。
「Salamander――」
 『サラマンダー』? 心優は首を傾げる。でも雅臣は『マジで、すげえ』とちょっと感動している。
「Salamanderって……、サンショウウオ?」
 御園准将も『?』という様子だった。だが海東司令もどこか驚いた様子で答える。
「火とかげ とも呼ばれているのですよ。火の中にすむことができる伝説上の動物のことでしょう」
「親父が言っていた。葉月は憎しみという火の粉をかぶって、ずうっとその業火の中にいる。そうして空を飛んでいる。焼かれて欲しくない、その火の中でもおまえは生きていける、飛んで帰ってくる。そう思って与えたいタックネームを準備していたが、あまりにも甘ったれているからやめた――ってね」
 その途端だった。御園准将も顔を反らして背を向けてしまった。彼女のそばに控えていた心優は見てしまう。おしぼりで押さえているのは頬でなく、目元で、頬には涙がつたっていた。
「その期待に応えてくれたっていいだろ。どんな火の粉がふってきても焼かれても、おまえは帰ってくる。火とかげの如く、何食わぬ顔で炎を纏ってな」
「細川元中将の願いが込められていたのですね。では、いまこそ、ミセス准将はSalamander……」
 そこで海東司令がなにかを思いついたように、ハッとして膝を打った。
「これ、いいな。いいと思いませんか、細川少将」
「いいとは……? いまさらSalamanderなんてタックネーム必要もないだろう」
「アグレッサーですよ。アグレッサーの部隊名。大神、なにか書くものを」
「イエッサー」
 大神中佐が白い用紙とペンを渡すと、海東司令がさらさらっとイラストを描き始めた。
「雷神の雷(いかずち)など落とされてもものともしない、なぜなら『火蜥蜴(ひとかげ)』だから。それこそ、雷神の上をいく仮想敵、アグレッサーですよ」
 炎の中にトカゲのイラスト。なかなか絵心がある司令で既に素敵なイラストだったので心優は目を瞠った。
 そのせいでイメージがすぐさまできたようで、細川連隊長の目も銀縁の眼鏡の奥で輝き出す。
「雷(いかずち)もものともしない『炎の中でも生きられるトカゲ』か」
「さらにどうでしょう。雷神が白い飛行服と機体なら、サラマンダー部隊は、真っ黒、いや海軍らしく濃紺、群青の飛行服、機体も紺の迷彩」
 ついに御園准将もちらっと振り返った。
「雷(いかずち)もものともしない、火蜥蜴……」
 そっと司令二人がその気になっている輪に戻ってきた。
「白い雷神に、暗黒の火蜥蜴。いいな。おもしろい」
「訓練校設立は目の前。もう人事も始まります。早々に提案をしてみましょう。ワッペンのデザインも依頼しましょう」
 勝手に話が進んでいる――と御園准将がちょっとむくれていたが。在りし日、ほんとうは名付けられただろう名前が、雷神を凌駕するための飛行部隊に名付けられる。
 それこそ。彼女がファイターパイロットとして歩んできた道の栄誉ある呼び名だと心優は思う。
 そして。雅臣もじっと上官達の話を聞きながら、なにかが込みあげて抑え込んでいるのが心優にはわかっていた。
 雅臣が密かに言った。
「いつか行く。Salamander――。俺も火蜥蜴になる」
 ファイターパイロットが陸でも燃えた瞬間。

 入籍前、でも、わたしたちはまた最前線へ行かねばならない。
 もっと厳しい情勢の風が吹く海域へ、空域へ。

 

 

 

 

Update/2016.11.10
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