◇・◇ お許しください、大佐殿 ◇・◇

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 14. 夫は元エースパイロット

 

 東シナ海まであと少し。
 緊迫する指令室、管制室、艦長室、警備隊。いつでも出撃OKに整えている甲板、機関。
「はーい、ちょっとしたおやつの時間ですよー」
 なのに今日もいつも通りの人がいる。しかももう自分の部屋の如く頻繁に出入りをして……。
「なにしているの、隼人さん」
 艦長室に入ってきた旦那様が、今日は黒いエプロン姿でお料理を運ぶワゴンを押して入室してきた。心優も『今度はなにを始めたの』と思わぬ行動ばかり繰り出してくる眼鏡の大佐の姿に目を丸くする。
「そろそろ食べたいだろ。ダンヒル家直伝のレモン風味フレンチトースト、隼人作です」
 静かに本を読んでいたミセス艦長がびっくりした顔で椅子から立ち上がった。
「ええ! もしかして、隼人さんが作ったの?」
 旦那様が黒いエプロン姿で『えへん』と得意げに胸を張った。
「是枝さんの許可をもらって作りました。自宅の調理器具と火加減がちがうんでそこちょっと苦労したかな」
「じゃなくてっ。厨房で調理をするにはね……、まず調理師の許可と、衛生的検査とか……」
「あ、大丈夫。俺、出航するまでに是枝さんにあれこれ手配してもらって、調理できる検査もしちゃってるから。もちろん合格してるから安心して欲しい、厨房長の是枝さんの許可はいうまでもなく」
 『はあ? いつのまに!』と、さすがの葉月さんも目を丸くしていた。
「い、いつのまに、そんなこと」
「艦長さん、なにいってんのかな。俺もね、これでもね、大佐なんだよな。あちこち問い合わせてお願いすると通っちゃうんだよ。ああ、お嬢様のお父上の力のおかげでもあるんだけれどねえ」
 心優もびっくり。そこまで考えて準備をして手配をしてやりたいことができるようにしてしまう。でも心優は気がつく。きっと航海中もご自宅同様に、ご自分が作って食べさせているものを艦長に奥様に食べて欲しいから。そこまで考えて手配していたんだとわかる。
「園田も食べるよな」
「はい! 一度食べてみたかったんです。御園大佐お手製のレモンフレンチトースト! 是枝さんが教わったレシピで作ってくださったことはあるのですが、大佐のお手製は本家本元ですよね!」
「俺の、フランスのおふくろの味だからな。まずこれから作れるようになったんだよ」
 どこか懐かしそうに眼鏡の奥で眼差しを伏せた御園大佐が、ソファーにフレンチトーストのお皿を置いて、お茶の準備まで始める。
「吉岡はどこにいったんだ」
「ハワード少佐と共に管理事務室で雑務をしています」
「では、女性のティータイムだな」
 エプロン姿の大佐殿が整えてくれたテーブルへと、准将と心優は吸い寄せられていく。
「たくさん作ったのね。こんなに食べられないかも……。夕食前だし……」
「たくさん作ってしまったんだよ。残ればそれもまた指令室で分けますから、お好きな分だけお食べください」
 まるで執事のように、優雅にティーポット片手にお茶を注ぎ、眼鏡のにっこり笑顔の御園大佐。
「どうぞ、ごゆっくり。私は一度退室させて頂きまして、指令室におりますね」
 エプロン姿のままさっと出て行ってしまった。
 見慣れているだろうひと皿を眺めて、准将が溜め息。
「なにしているんだか。もう、いいのに……」
 あの手この手で自宅同様にしようと頑張っている旦那様がすることが、申し訳ないといったお顔……。
「動かずにいられないのではないですか。もしかすると御園大佐も、お料理をしたり、どなたかに飲み物を作ってあげたりしているほうが、落ち着かれるのかも?」
 そこでやっと奥様もはっと我に返った顔になる。
「そうかもね。……いつもそれが当たり前になっていたから。妻の私が動き回らないで、あの人が動き回ってくれているから『してくれている、ごめんなさい』という気持ちも強くって……。私の気持ちがまだ『外に向いている』ことを良くわかってくれていたのね。だから、子供が産まれても『家庭に入れ』なんてひとことも言わなかった。むしろ、俺が待っているから行ってこい、おまえしかいないだろって……。でも、彼側の気持ち、勝手に決めつけていたかもね」
 心優もはっとする。琥珀の瞳に涙が浮かんでいた。アイスドールの涙はここでしか見られない。許された人間だけしか見られない。
「いけない。どうしちゃったのかな、私。あの人がまさか同じ任務で艦に乗るなんて初めてで、なんか変な感じなの」
「しかたがないですよ。いままで牽制し合ってなんとかバランスを保ってきた対空措置ももう限界で、バランスが崩れてしまって。しかもそれを担う任務を任されたのがこの艦なのですから。艦長には万全でいていいただきたい海東司令の配慮だと思っております。御園大佐もここ数日の急行航行で緊張感が高まっているからこそ、『いつも通り』にしようと空気を和ませているのではないでしょうか」
「そうね。いけない、冷めちゃうから食べましょう。冷めてから食べると怒られるのよ。いちばん美味い時に何故食べないのかって」
「もう料理人そのものですね」
 女ふたりでクスクスと笑って、優雅なティータイムを堪能する。
 厚切りホテルパン、甘みのある生地に濃厚な卵、でもすり下ろしたレモンの皮の香りが爽やかさを引き出して。そしてシュガーと、カリッと香ばしく焼けているパン耳。
「おいしいですーーっ」
 これは家庭の味だと心優も感動! 是枝シェフのはプロの味、御園大佐の料理は極上の家庭の味!
 レモンの風味も手伝って、心優は思わずもくもくと食べてしまう。途中で『は、いけない!』と我に返ったけれど、隣に座っている奥様ももくもくと食している……。
 ふたりで『ふう、満足』とばかりに、あたたかい紅茶を味わっているところで、御園大佐が指令室から戻ってきた。
「もうそろそろ、ご馳走様かなと思って来てみました」
 御園大佐がソファーのテーブルを覗き込む。心優はにっこり。
「おいしかったです! フランスのお母様の味だと伝わってきました。ほんとうです!」
 感動をそのまま伝えた。でも眼鏡の大佐の目線はしらっとしていて、奥様をじっと見つめている。そっと、心優もミセス艦長を見るとなんだか恥ずかしそうにハンカチで口元を綺麗にしながらそっぽを向いている。
「艦長室のレディ達が食欲旺盛で安心しましたよ」
 心優もはっとする。目の前のお皿二人分。綺麗になにもなくなっていた。
 こんなに食べられないわよ――と奥様は言っていたのに、結局、ぺろりと食べきってしまっている。
「それぐらいは食うと思っての量で作ったからな。これぐらいおやつで食べても、夕食だってしっかり食うんだから」
 そういって御園大佐はやっと楽しそうに笑いながら、テーブルにある食器を置いていたワゴンへと片づけ始める。
「もう〜。貴方に乗せられて、おもいっきり食べちゃったわよ」
 やっと奥様の顔で、旦那様の配慮に降参したようだった。
 また御園大佐もにっこりと嬉しそうに微笑んで黒いエプロン姿で食器を重ねている。
「とにかく。艦長はよく食べて眠ること。葉月に食べる力があれば、どんな力も湧いてくるだろう。俺と結婚してからも、葉月は風邪をひいたことなんて滅多にない。その食欲こそが、元気の源なんだろうな」
 そうなんだ……と、長年、夫妻としていると食事ひとつでわかってくるんだなあと心優も感心。でも心優も食べる方なので、『食は力』はすごくわかるなあと同感でもあった。
「はあ、でも。海人がパパの朝ご飯を恋しく思っているのではないかしら」
「だと嬉しいけれどな。それでも、海人ももう俺のようにこのフレンチトーストは作れるから自分で食べているだろう」
「自分で作ったのと、パパが作ったものは違うわよ。私だってそうだもの。自分で作ったパンケーキと、ママが作ったパンケーキは違うもの」
 ご夫妻らしい気兼ねのない会話に挟まれる心優だったが、こういうときは口出しせず会話に入らず空気になると努めている。飲みかけのティーカップを持って席を立ち、自分のデスクへと移動する。
 そこでワゴンで食器を重ねていた御園大佐が楽しそうにしていた顔から、やはり息子を案じているのか眼鏡の奥で哀を滲ませる眼差しを伏せていた。
「俺も、そう思いながら親から離れたもんだよ。十五歳だった。いまの海人と一緒だ。俺と葉月にとってはまだ子供でも、海人はそう思っていない。『お父さんが十五歳で独り立ちをしたのなら、俺も留守番ぐらいできるよ』と言ってくれたんだ」
「……貴方からそう聞いて……。ああ、隼人さんが横浜のお父様から離れていった歳はこんな男の子だったのねと初めて感じたものよ」
「おまえだって。そばに実家があったとはいえ、十三歳で寄宿舎生活だろ」
「そうよ、そこで沢山食べること覚えちゃったの。残すことにも厳しい時代だったしね」
「そして。男子と喧嘩もいっぱいしたと」
「だから……。そういこと、心優の前で言わないでよっ」
 空気なんだけれど、空気じゃなくなることもある。旦那様にからかわられて、また奥様がお嬢様の顔で真っ赤になっていた。
「今更だよな、なあ。園田」
「そうですね。准将がとっくみあいの喧嘩をしたお話はあちこちで聞きますからね」
「ほら。俺が話さなくても、おまえのじゃじゃ馬な経歴はあちこちで有名なんだから仕方がないな」
「なにが有名なのよ!」
 と御園大佐と一緒に心優も笑い出したその時――。

『こっちにこい。もうやめろ! いつまでも喧嘩するなら罰則どおりに謹慎処分にするぞ!!』

 喧嘩の話をしていたら、外から雅臣の険しい声が響いてきた。
 くつろいでいたミセス艦長も、エプロン姿のままの御園大佐も顔を見合わせ、視線はドアへ。
「失礼いたします。城戸です!」
 ノックは聞こえたが、心優が行く前に開いてしまった。
「この、大人しくしろ!」
 いつもおおらかで、男達の気の良い兄貴でもある雅臣が珍しく憤っていた。しかも片手に掴んでいるのは、パイロットスーツの襟首、真っ白な飛行服の衿を掴まれ持ち上げられているのは、鈴木少佐だった。
「雅臣、英太……、どうしたの」
 いつもおおらかでドンと構えている雅臣が怒っているし、そして猫の首をひっつかむように連れてきたのは同じぐらいの体型のエースパイロット。
「くっそ! なんで艦長室まで連れてくるんすかっ。俺とフレディだけの問題でしょ!」
 先輩に首根っこ掴まれひっぱってこられた大の男が、子供のようにジタバタしている。しかし掴んでいるのは彼も憧れているおなじように立派な体型の元エースパイロット。
 その雅臣が反抗的な部下であってパイロットの後輩でもある鈴木少佐の首根っこをひっぱりあげさらに締め上げる。
「個人間での問題なら、大人としての対処ができるはずだ。なのに、公共の通路でとっくみあいの喧嘩とは何事だ!」
「うー、ぐぐっ、せ、先輩、くるじい」
「先輩じゃない!」
「うー、お、お許しくださいっ、た、大佐殿っ」
「大佐でもない!」
「副艦長……どの……」
 それでも抵抗虚しく、鈴木少佐はミセス艦長の目の前へと突き出されてしまった。
「ひさしぶりね、英太が騒ぎを起こすなんて」
 驚いたのも一瞬、お姉様であってある意味保護者でもある御園准将が溜め息をついた。そばにいる眼鏡の御園大佐も同じく。
「なにがあったんだ。フレディまで」
 雅臣と鈴木少佐の騒々しい入室に目が釘付けになっていたが、コナー少佐がフレディ=クライトン少佐に付き添っていた。彼も苦悶の表情を刻み、憤怒しているように見える。
 それだけで心優も『仲がよいお二人が喧嘩したんだ』とわかってしまう。
「事情を聞きましょうか」
 優雅なティータイムをしていた奥様のお顔から、艦長デスクについたとたんアイスドールのお顔になったのを見て、心優も席を立った。
 飲みかけていたティーカップを、艦長デスクへと心優は持っていく。
 御園艦長が皮椅子に座るその正面には、まだ雅臣に連行されたままの姿の鈴木少佐と、静かなたたずまいのままのクライトン少佐が並ぶ。
「雅臣、なにがあったの」
「飛行隊パイロットのベッドルームセクションの通路で、二人が大喧嘩をしているとの通報がありました。手のつけようがないと雷神キャプテンのウィラードから私へ直接連絡が」
 雷神の飛行隊長でもある1号機スコーピオン スナイダー=ウィラード中佐がわざわざ雅臣へ助けを求めたということらしい。
 その報告を受け、ミセス准将が眉をひそめる。
「……通路で大喧嘩?」
 そういって信じ難いとばかりにミセス准将が見たのは、鈴木少佐ではなくクールなクライトン少佐のほうだった。
「フレディ、どうしたの。英太がどんなわがままを言いだしても、うまく宥めてくれる上手なお兄様である貴方が」
「申し訳ありません……」
 クライトン少佐がミセス艦長の目線を避けるようにして苦々しい表情のままうつむいてそれっきり……。訳をすぐには言いそうにはない様子だった。
「原因はなんなの」
 この艦では絶対的上官であるはずの御園艦長からの問いでも、鈴木少佐もクライトン少佐もなにも応えなかった。
「雅臣、なにか聞いているの」
「申し訳ありません。スナイダーにも事情を問いましたが、リーダーである彼もいきなりだったのでまったくわからないとのことでした。私も問いましたがまったく応えてくれず、問いつめるとまた二人が取っ組み合うため、艦長室へ連れていくことにいたしました」
 いつもは大親友とばかりに仲がよい二人が突然始めた喧嘩、しかもいい大人の男が、しかもこれから向かう大事な空の接戦で最前線へと選ばれたエースともいうべき二人のパイロットが、こんな時に仲違い。たしかにそれはただ事ではない。心優もそう思う。
「言えないわけでもあるの。英太、どうなの」
 少佐ではなく『英太』と親しみある呼び方で葉月さんが向かったが、鈴木少佐は大人しくなったものの信頼を寄せている姉貴とこちらも目線を合わせない。
 どちらに問うてもなにも答えず……。御園大佐も艦長デスクの側で静かに控えているが、二人の青年の様子を眺めているだけでなにも問うことはなかった。
「あなた達、これからどのような責務があるかわかっているわよね」
 ミセス艦長の諭しには、白い飛行服姿の二人がうつむいた。
「もっとも前に出て欲しいと頼んだあなた達がこの状態で空に向かわせるのは非常に危険だわね」
 大喧嘩の理由もわからないのなら、ミセス艦長だって手の尽くしようがないと言いたいのだと心優も悟る。
「雅臣。規則通りに減点をした状態でブリッジ甲板レベル階下の部屋に二人一緒に謹慎させて」
 そこにいる誰もが顔を上げた。ただひとり、御園大佐はミセス艦長同様に『当然か』とばかりにクールな面差しまま。
 心優も動揺している。確かに規則。でも『これからこの大事な戦力になるもっとも頼りになるパイロット二人を業務から外すのか』、『本気か』とばかりに。
「雅臣? すぐに連れていって。理由を話すまで、どんな日数がかかっても謹慎よ」
「目標海域に到着してもですか」
「当たり前でしょ」
「ホットスクランブルの指令が中央官制から出てもですか」
「仕方がないわね。喧嘩をしているエレメントで出撃をだすわけにはいかないわね。城戸大佐、貴方はどうなの。大事な戦力であれば、いまの二人を行かせる判断ができるというの?」
 雅臣もすぐに、でも哀しそうに『いいえ』と頭を振った。
「そうだな。規則通りに謹慎だ。公共の場で上官の指示にも従わず、規律を乱した者は理由により三日から一週間。減点は5点から15点、乗船した時点で持ち点20点であるから、雷神の主力パイロットといえども戦力外になることもあり得るな。しかし、この状態では仕方があるまい。私も艦長の判断に賛成です」
 指令室長を任命された御園大佐まで厳しい判断を下した。そこでやっと二人のパイロットが青ざめた。
 その様子を見て、御園大佐から再度問う。
「理由によっては、判断も変わるだろう。ですよね……艦長」
「もちろんよ。理由によってはね」
 謹慎判断を下そうとする二人がまだチャンスはあるとばかりに、口の堅い青年二人へと促す。
 先に降参したのは意外にも鈴木少佐だった。
「自分が……。クライトンのプライベートのメールを勝手に盗み見たからです」
 それは……。どんなに仲が良くてもやったらいけないことだと心優も思った。でもそれがこんな大喧嘩になる? どんなに鈴木少佐が悪ガキと言われていても、それはパイロットとして血気盛んすぎてコントロールが利かないだけのことで、彼も立派な大人で少佐……。
「違います! 鈴木が私のメールを見ることは日常です。私もそれを日頃から許可しています」
 だがそこでミセス艦長が首を傾げた。
「そうなの? 英太、貴方……フレディの家族からのメールをそんなに見せてもらっているの?」
「ですから! 俺が行きすぎたんです。彼の許可をもらってから見るべきでした」
「ですから艦長。鈴木に落ち度はありません。今回に限って……限って見て欲しくないことが……」
 二人がお互いをかばっているようにしか心優には見えなかった。大人げない取っ組み合いにまで発展したが、その原因について明かされることはお互いにかばい合っている?
 どういうことか……。心優だけでなく雅臣も訝しそうにしている。
「そうね。どんなに親しくても、家族からのメールを勝手に見るのはいけないこと。英太がそれを親しいが故にやりすぎたことでこうなっているのね」
「そうです。ですから……フレディ……いえ、クライトンに落ち度ありません」
「艦長! 鈴木は私と私の妻とも親しくしていることはご存じですよね。その妻が、私にメールを送ってくれる時には必ず鈴木にもひとこと添えてくれるんです。だから、鈴木はそれをいつも一緒に見ていたから、いつもどおりに見ただけなんです!」
「だから……これからは、リンダからのひとことはおまえが読み終わってから見るよ! 俺が甘えていただけなんだよ!!!」
「リンダがおまえのことも同じように心配しているから、一緒にみるなんて、もうここ数年ずっとしてきたことだろ!!」
 また二人がそれぞれの上官に羽交い締めにされるまま、額だけひっつけるよにして噛みつき合う。
 ミセス艦長が栗毛をかき上げながら、はあと溜め息をついた。
「そうね。あなた達二人は出会った時はほんとうにライバル意識が強くてまったく噛み合わなかったけれど、いまは兄弟のようだものね。英太がフレディとリンダのところで寝泊まりして家族のように過ごすことは誰もが知っていることだわ。『うちの英太』に気遣ってくれるリンダには私も感謝はしているわ。だから……プライベートの」
 その途端だった。鈴木少佐がなりふりかまわず、上官である雅臣の腕を振り払い艦長デスクを目の前に、床に正座をして土下座をする。
「お願いです! 御園艦長! 電波を一分でもいいから復活させてメールを送らせてください!!」
 はあ? 御園艦長と御園大佐がそろって面食らった顔をした。心優も『どういうこと?』と思わず、夫である雅臣と顔を見合わせてしまう。
 だが、今度はクライトン少佐が真っ赤な顔になってコナー少佐を振り払い、土下座をしている鈴木少佐に襲いかかったから、またそこにいる上官達に心優はギョッとする。
「余計なこというな!!! 俺だけ特別にそんなことできるわけないだろ!!! それでも海軍のパイロットかおまえは!!」
 逆、いつもと逆! 真っ赤になって憤慨して最初に飛びかかったのはいつもクールなクライトン少佐のほう。
「ま、まて。フレディ!」
 秘書官として武術は長けているコナー少佐がすぐさまクライトン少佐を羽交い締めにして止めた。
 だが今度は鈴木少佐が土下座から立ち上がり、羽交い締めで押さえつけられているクライトン少佐の襟首をひっつかみに来た。
「かっこつけてんじゃねーよ!! 大事なことだから俺が葉月さんに頼んでやるっていってんのによ!」
「任務で家族と連絡つかないことぐらい、妻も覚悟の上だ! そんな特別扱いなどいらない!!」
 また二人が取っ組み合う勢い。鈴木少佐を雅臣が捕まえ、コナー少佐が必死で羽交い締めをとかずに踏ん張っている。
 しかしアイスドールの冷たい声が低く響く。
「わかったわ」
 その声だけで、熱くなっていた二人がすっと勢いを止めた。
 だがそこには二人の青年を睨むミセス艦長の琥珀の目。
 恐ろしくはない顔でも、その視線は若い男ふたりを黙らせるのには充分だった。
「つまり。今回に限って、みられたくないリンダのひと言があった。フレディはそれを英太には知られたくなかった。でもいつもどおりにメールを見合うふたりだから、英太は見てしまった。それが諍いの原因ね」
 なりふりかまわず叫んだ言葉をすべて集約されたパイロットのふたりがまた青ざめる。もう葉月さんには誤魔化せないとばかりに、今度はふたり揃って降参しうなだれた姿。
「フレディ、聞いてもいいかしら。リンダはなにをあなた達に?」
「……プライベートのことです言えません」
 すぐに切り替え、ミセス准将は弟分の鈴木少佐を見た。だが彼から問われる前に艦長に言い放つ。
「彼のプライベートです。俺からは言えません」
 真の友情だった。なのに喧嘩。お互いを気遣うからこそ生じた諍いだと心優にも良くわかる。
「理由が言えない。それならば電波も復活させられないわね。そんなに緊急の用事があるなら私にいいなさい。司令を通じて伝えることもできるわよ」
 クライトン少佐が首を振る。
「それほどのことではありません」
「では英太。なぜ『友人のため』に、この艦が極秘で航行しているとわかっているだろうクルーの貴方が、一個人のプライベートのために作戦を台無しにするかもしれないとわかっていて、電波を復活させて欲しいなんて言えるの?」
「行き過ぎた発言でした。艦長に甘えての申し出……もう忘れてください」
 急に鈴木少佐が従順になった。プライベートのひとことで喧嘩の原因をふたりそろってひた隠しにしようとしている。
 困り果てているミセス艦長の傍らで黙っていた御園大佐が前に出た。
「決まりだな。謹慎だ。これ以上の査問は必要なし。城戸大佐、階下に連れていってくれ。よろしいですね、艦長」
「そうね……」
 ミセス艦長の方が残念そうにうつむいた。眼鏡の大佐は毅然とし、冷酷に実行へ移そうとしている。
 心優もそうだが、ここでは元パイロットである雅臣が戸惑っていた。それもそう。雅臣は彼等を主軸とした戦略を練ってきたのだ。その彼等が外れるとなると、予想外の展開になるのだから。
「……したのです……」
 そこでやっとクライントン少佐が小さな声でなにかを呟いた。
「フレディ? なんと言ったの?」
 ミセス准将が御園大佐が徹底的に実行へと意固地になる前に再度問うた。
 口惜しそうにして、クライトン少佐が顔を上げミセス准将にはっきり告げる。
「妻が……。妊娠したのです」
 そのひとことに、さすがのミセス艦長も目を見開き固まった。
「ほ、ほんとうなの。それ」
「はい……。電波が切れる前に届いたメールに……、出航後に判明したと……」
「まあ、おめでとう」
 御園艦長が嬉しそうに微笑んだ。心優の頬が緩む。もちろん! 喜びの祝福の微笑みだった。それは雅臣も!
「ほんとかフレディ! いいな、父親になるんだな。凄いじゃないか。おめでとう!」
「少佐、おめでとうございます!」
 心優も一緒に祝福した。しかしミセス艦長はもう微笑んではいなかった。葉月さんと隼人さんが見ているのは、うなだれたままの鈴木少佐のほう。
「だからなの、英太。だから……メールを送らせて欲しいと?」
「電波、いきなり切らる寸前に届いたものだから。フレディから返信ができなかったんだ。リンダがひとりで心細くしているのではないかと思って……」
「それで。自分は艦長の家族同然だから俺からお願いしてやろうということで喧嘩になったのか」
 御園大佐もようやっと事情が見えてきたと、弟分の少佐に問う。しかし鈴木少佐は頭を振った。
「それもあるけれど……。俺とフレディは今回、もっとも前へ出されるエレメント。艦長、お願いです。前に出すなら俺を、絶対に俺を前に出してください。彼は俺の援護で、絶対に!」
 鈴木少佐の素直な告白に、御園夫妻がまた驚き固まった。
「つまり。これから危険なフライトとスクランブル指令があるかもしれない。父親になるだろう相棒が最前線にでるにしても最も前に出すのは俺にしてほしい、だから、艦長の私に親しくしている英太からお願いしようとした……ということなの?」
「はい……! 俺はまだ、独身だから。それに俺はエースです。出すなら俺を、最も前に敵機にいちばん接近するのは俺にしてください!」
 やっとなにがあったのか全貌が見えた。鈴木少佐が自分を家族のように大事にしてくれる相棒とその妻を気遣ってのことだった。
 でも……心優はとてつもない違和感がそこにあった。雅臣はどうなのだろう? そう思って夫の顔を確かめ、心優はギョッとする。今度は臣さんが真っ赤な顔でもの凄い怒っている!
「この、馬鹿野郎!!」
 鈴木少佐の襟首ひっつかまえ、持ち上げる勢いでお猿さんは吼えた。
 いつもおおらかで愛嬌ある兄貴の吼えに、鈴木少佐がびっくりして固まっている。
「おまえ、おまえ……そこまでガキだったとは……おなじスワローのパイロットだった俺もがっかりだ!」
「ちょっと、雅臣……まちなさ……」
 葉月さんが止めようとしたけれど、今度は雅臣が聞かない。
「この艦に乗っている誰もが、家族を置いて、メールで連絡が取れなくても耐えて任務についているんだよ! じゃあ、なにか。子供がいる男は前に出すなってことなのか! 雷神の他のパイロットは英太とフレディ以外の男は子供がいる。子供がいないおまえ達だからこそ、選ばれたというのか。子供がいる男は前に出る資格はないと言っているのとおなじなんだぞ!!」
「そ、そんな意味じゃないっすよ! ただ、今回は、ほんとに俺もフレディもなにが起きてもおかしくない覚悟で」
「おまえ、これからも空の接戦に駆り出されるだろうエースでいるつもりだろ。じゃあ、おまえがその空に出撃する時に、愛しい彼女におまえの子供が出来たと知った俺が『おまえこれから父親になるから、生まれてくる子とどうしても会わせたいから出産が終わるまではエースの位置を退いてくれ』と言って納得できるのか!?」
 そこでようやっと鈴木少佐が、自分の気持ちだけでなく、パイロットとしての親友の気持ちに気がついたようだった。
「危険な任務に行く夫だから、子供が出来るのが怖いとリンダが言っていた。そのリンダがどんな気持ちで待っているか、それを案じていただけで……」
「そのおまえの優しさはわかるが、今回は逆にフレディのパイロットとして任務に就く男の気持ちを踏み躙っていたんだぞ」
 鈴木少佐の優しさ。思慮深さが足りなくても、それは誰にも負けない熱い想いだと心優は思う。
「わるかった……フレディ」
 スワロー先輩の雅臣の言うことだからなのか、鈴木少佐がやっと俺が馬鹿だったと親友に謝った。
「いいよ、おまえらしくて……」
 そんなクライントン少佐の目には涙が光っている。ほんとうは相棒の気持ちが嬉しかったに違いない。
 大事な親友とその奥様。危険な任務を言い渡されるほどの実力を誇る『雷神』の主力パイロットを夫に持つ妻の気持ち。
 一瞬、心優にも熱いものが胸から込みあげてきた。その妻の不安な気持ちを、心優も近い将来味わうことになるだろう。
 でも夫の覚悟も、そして心優も妻の覚悟も生々しく目の当たりにする。
 コックピットを降りても夫はエースパイロットだった。妻が不安に陸で待っていようが、夫は出撃する。特別な理由で扱われることはない。特別な理由で扱われるのなら、それは『誰よりも実力があるから最前線へ行ってもらう』。軍人としてパイロットとしての名誉のみ。
 涙が出そうだった。家族を置いて堪えて向かう夫にも、誰もと同じ結婚をしたはずなのに選ばれたパイロットである男を夫に持つ妻の孤独にも。
 それでも艦は容赦がない。
「やはり、謹慎とします」
 御園艦長の静かな決定に、男達の視線が集まる。
「ただし二日ね。ふたり一緒の部屋で過ごして頭を冷やしなさい。減点は五点よ」
 最終決定だった。
 誰もが納得した顔をしている。当事者のパイロットのふたりも『わかりました』と反省したようだった。
「ここでいま一度、艦隊責任者である艦長の私から告げておきます。私にとってあなた達は、『バレット』と『スプリンター』。そのパイロットにどのような事情があるなど気にしません。やるべきことは軍から指令がでている防衛攻防のみ。適任と思ったパイロットに前に出る指示を出します」
 琥珀のアイスドールの瞳が冷たく彼等を見据えた。
「いま一度尋ねます。鈴木少佐、クライトン少佐。どちらが前に出てもいままでどおりの指令をこなしてくれるわね」
 そんな時になって、ふたりの息が揃い『イエス、マム!』と敬礼をした。
「雅臣。連れていって」
「かしこまりました」
 大人しくなったパイロットを連れ、雅臣とコナー少佐が出て行った。
 エプロンをしたままの御園大佐もひと息ついた。
「ま、妥当な判断だな。二日で東シナ海に到着するだろうし、同室で一緒に二日も過ごせば、あのふたりのこと上手く話し合ってまとめて、出てくる頃にはそれぞれ覚悟も固めてくれるだろう」
「スナイダーも気遣わなくていいしね。悪ガキの英太を気遣っての相部屋だなんて。一陣の出撃を予定している彼には負担だわ」
「そうだな。もしかすると目標海域到着目の前にして、中央からこちらにスクランブル指令が出るかもしれない」
「そう。まずはスナイダー……、スコーピオンを雅臣は出撃させる予定にしていたからね」
「まったく。英太は相変わらずだな。熱い想いを持つと一直線だ。あれでもあいつなりの最大の愛情表現だからなあ……」
 眼鏡の大佐の言葉に、アイスドールの艦長がくすりと笑う。
「でも。あの英太が……。あんなに最初は折り合いが合わなかったフレディのために、一分でもいいから電波を復活させてメールを送らせて欲しいって私に土下座したのよ」
「あはは。そうだな。しかもリンダのためにもな。電波が復活したら、メールがすぐに送れるようにしてやれよ。出撃前に一通でもひとことでも安心できるだろう」
「そうね、妊娠がわかったばかりならば精神的に不安定なのはリンダにとっても禁物だわ」
「フレディが父親か」
 御園大佐も感慨深そうだった。
「結婚して二年は経っているわね。パイロットを夫に持つ妻の気持ちにも覚悟ができてのことね、きっと」
「そうだな。また産まれるまで英太が他人事ではないようにして騒ぐんだろうな」
「やっかいね」
 でもご夫妻は英太らしいと笑っている。
 そして心優も、そんな熱い鈴木少佐が目に浮かんでしまいふと笑ってしまった。
 でも。『パイロットを夫に持つ妻の覚悟ができた』という言葉がまた胸に響く。
 『何千人ものクルーを乗せた、ひとつの基地で街のような空母艦の艦長を夫に持つ妻の覚悟』、心優の場合はそれになる。
 陸で待つ妻はどのような気持ちで待つのだろう。胸が詰まりそうだった。

 

 ―◆・◆・◆・◆・◆―

 

 その夜。久しぶりに御園艦長が眠らずに、デスクで深夜を過ごしている。
 そろそろ艦長としての神経が警戒する態勢に入ってきているように思えた。
 本日は心優が深夜をすごす艦長に付きそう。25時頃、是枝シェフがコンソメスープを持ってきてくれた。
 ミセス艦長としばしの女子トークの休憩をとり、仮眠を取っているだろうシェフを気遣い、心優自らスープカップをブリッジ厨房へと持っていく。
 階段を下りて甲板に出る1階に厨房がある。厨房を訪ね、当直でそこにいる調理師隊員にトレイとカップを手渡した。
 その帰り。ブリッジの外へ出るドアが開けられていたので、心優はそこで立ち止まる。いつもの潮の匂い、そして心地よい風。やはり外の空気はおいしい。
 本州はもう晩秋。紅葉が美しい季節だろうに、南へ向かっているこの艦の風はまだ夏の風で爽やかだった。
 なのに。そこからコーヒーの匂いも一緒に漂っている。
 誰かがブリッジの開いているドアにもたれてコーヒーを飲んでいるのがちらっと見えた。背が高い男性。
「お疲れ様です、休憩ですか」
 彼を見つけて、心優もやっぱりと微笑む。
「心優」
 彼のほうが驚いている。雅臣だった。
「大佐も今夜は深夜の当直ですか」
「もうさ。二人きりの時はそういう言い方やめろって」
「じゃあ、……臣さんも?」
「ここのところ隼人さん起きていたからな。今夜は眠ってもらった」
 そう言った途端、雅臣が心優の腕を掴んだ。大きな手、強い力、お猿さんの手に腕を見ると本当に心優の手首は華奢に見えてしまうほどの。まだ外へと出ていない心優を、強引に雅臣が甲板へと引っ張り出してしまう。
 しかも、そのまま……。彼の大きな胸に抱きしめられている。
「お、臣さん」
 心優の黒髪のてっぺんに彼のくちづけ。そして心優の匂いを胸いっぱいに吸い込んでいるのがわかった。
「今日……、辛かった」
 珍しく、切なそうなお猿さんの声。
 でも。心優にはなんのことはすぐにわかる。
「わたしもだよ、臣さん」
 彼の紺色の指揮官服の胸元のポケットをぎゅっと握りしめ、心優も頬を押しつけた。
「いつか、俺達もあんなふうになるんだろうな」
 帰還したら、子供を望む予定。これまで気をつけていたこと、避妊することをやめてすぐにできるのかどうかなんてわからない。
 でも心優は予感している。帰還して彼を愛しあったらすぐにできるって。お猿の子がすぐに自分の中に宿ってくれるって。
 そう思って期待していたからこそ、それを希望にプレッシャーのある任務を乗り越えようとしていたからこそ、そこには希望だけはない辛い現実があることを知ってしまった。
「フレディの気持ちがわかる。艦に乗っている時に、妻がひとりきりで妊娠がわかり過ごしているなんて……。俺なら、死ぬほど案じて、すぐに帰還したくなる」
 そして心優も女性として。
「わたしもだよ。クライトン少佐の奥様の寂しさと不安がわかるよ」
「今回は同じ艦に乗れたから、なんとなくにしか思えなかったことが、こんなに痛くて辛いだなんて……」
 パイロットを護ろうと誓った大佐殿だからこそ、部下で後輩でもある彼等の苦悩もこんなに敏感に感じてくれている。
 心優はそんなエースパイロットだった夫の妻。
 温かくて、男の匂いが染み付いている指揮官服の胸元から心優は顔を上げる。
「でもね、臣さん。わたし、ひとりでも頑張って子供達と一緒にお父さんの帰りを待っていられるよ。パパが安心して帰還できる家を守れるよ」
 そんな心優の顔を見下ろしている雅臣が、驚いた目になっている。
「それがわたしも、パイロット達を護ることになるよね。彼等を守る力を得た艦長候補の夫の妻になるんだから。パイロットを護るべき男が艦で集中できるよう、わたし妻としてあなたが陸に置いていくもの護ります」
 だから。パイロットを艦を護って。空を護って――。
 彼の大きな手を握った。
「クライトン少佐の奥様だって、きっとそうだよ。コナー少佐の奥様も小さな赤ちゃんだっこして泣いて見送っていたけれど、ちゃんと妻として守って待っているんだろうね。だから、わたしも妻として母親として待っているよ」
「心優……」
 泣きそうな彼にまたぎゅっと懐深く抱きしめられる。
 そのあと、ふとお互いの目を確かめるように見つめ合った。
 そしてそれも自然……。真夜中だったからかもしれないけれど。心優もそっと目を閉じた。すぐに彼の熱い唇が重なった。
 いまはこうして愛しあえる。肌を重ねることはできないし、できなくて切ない愛を秘めて過ごしているクルーと陸の家族がいるから、それ以上はわたしたちも望まない。
 それでもちょっとだけ許して。潮の匂いに包まれて。南の満天の星。艦が波間をゆく潮騒。
「俺は怖くない。帰ったらすぐ、心優を愛して望む」
 雅臣の熱い言葉に、心優も笑顔でその背中にきつく抱きつく。
「わたしもだよ。子猿ちゃん、いっぱい欲しい!」
「子猿ってなんだよ」
「お猿さんとわたしの子だもん。絶対すばしっこいお猿ちゃんになるよ」
「そんな子猿がいっぱいになって、心優ひとりで留守番できるのか?」
「寂しくないようにいっぱい欲しい」
「そっか。そうだな」
 俺もいっぱい欲しいと、やっと雅臣が、大佐殿が笑顔になった。
 そんな彼がやっと落ち着いたいつもの大らかな微笑みで、心優の肩をきつく抱き寄せる。
「南の空だな。星座が西南のものになってきた」
 一度北上をしたため、また小笠原で見ていたような星の並びになってきた。でも西よりの。
「もうすぐだね」
「ああ」
 真っ暗な海と真っ暗な空。灯りはここだけ。真っ黒い星空のドーム。夜が明けるとまたひとつ、険しい空に近づいている。

 

 

 

 

Update/2017.5.12
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