× ワイルドで行こう【ファミリア;シリーズ】 ×

TOP BACK NEXT

 5.リトルバード・アクセス《9》 

 

 滝田、顔を洗ってこい!
 日本史の勝浦先生にそう言われ、小鳥は席を立つ。
 居眠りをしていた。先生の声で目が覚め、自分自身でも自覚していた。
 それもこれも。昨夜、大人のお兄さんの車で片道何時間もある岬まで行ってしまったから。
 どんなに高速を飛ばしても、小鳥が翔と龍星轟に戻ってきたのは朝方だった。
 『はい』と素直に返答し、従う。
「なんだ。今日は。いつもの滝田らしくないな」
 注意したものの、勝浦先生も不思議そうな顔。
 もしかすると、誰が見てもそう思っているような気が小鳥もしていた。当然の寝不足なうえに、いつもきちんとしている『髪結い』をしなかった。腰まである長い長い黒髪をおろしたまま登校した。
 静かに教室の扉を開け、一人きりで出て行こうとしたのだが。
「高橋。お前も洗ってこい」
 背中にそんな声が聞こえて、出て行こうとした教室を振り返ると、竜太も席を立っていた。
 え、ヤダ。アイツも居眠り? なんで竜太と二人きりになるような状況に! 一気に身体が強ばった。
 急いで手洗い場に向かい、顔ではなく、冷たい水で手を洗って、さっさと教室に戻ろうと考える。
「あのさ。俺のこと、あからさまに避けんなや」
 さっと横で蛇口をひねる彼がいた。
「別に避けてなんかいないよ。花梨ちゃんと一緒にいなくなったから、そっちが余所に行っちゃったんじゃん」
「あー、そうとも言うかもな」
 そこで。互いの会話が切れる。
「なんで今日は、髪を結ってないんだよ」
「そんな日だってあるよ」
 竜太が黙り、女子にしては背丈がある小鳥よりさらに上にある目線から見下ろしている。なにか言いたいことがあるのに言えずにいる目に見え、小鳥は緊張した。
「そんな日、なかっただろ。だって、お前、すげえきちんとしているもんな」
「きちんと?」
 がさつでお騒がせな私のどこが? 小鳥が目を丸くしていると、竜太が少しだけ笑った。小鳥が好きだとか知られたとか、彼女と別れたせいで、親友である小鳥も巻き込みぎくしゃくしているとか。そういう諸事情を感じさせない屈託ない笑み。それを感じた小鳥は、直感的に安堵することができた。
「行動はがさつかもしれない。でも、自己管理はきめ細やか。髪はほどいたことがない、後れ毛を遊ばすとかしないで、きっちり束ねる。制服にシワはない。汚れもない。机もいつも綺麗にしているし、教室のどこかが汚れていると率先して掃除しているのはお前だし。そんなお前が傍を通り過ぎると、シャンプーなのか、洗剤なのかわからないけど、いつも清々しい匂いがする。ハンカチも小物も見かけに寄らず乙女チックだし、なにか忘れ物をして困っているところなどと見たこともない。むしろ困っている同性をしっかりサポートする姉御肌。そのうえ、字が綺麗。お前はしらないかもしれないけど。俺達、男子の間では、いちばん清潔感があって女らしいのは実は滝田っていうのは、ずいぶん前からわかってんの、感じてんの」
 はあ? 目が点になった。男子からはいつも『男ぽい』とからかわられてきたし、『なんだよ』『なによ』と直ぐに喧嘩腰になるのも小鳥が女子の中ではいちばんだった。
「男気みたいなところがあるから、余計にお前に、男達は言いやすいんだよ。お前なら、メソメソしないで、頭の回転早く的確に言い返してくるからさ」
「な、なに言ってるの。ていうか。なんでここに来たの」
 ワザと二人きりになるように来たとしか思えなかった。
 そうしたら、竜太が目を逸らした。今度は口ごもって、なにやら言いにくそう。一度安堵したはずの小鳥は、今度は緊張する。
 まさかまさか。き、聞きたくない。『お前のこと、好きだった』とか、いきなりここで言われても。そりゃ、返答はひとつしかないのに。今は嫌だ。もっと違うゆったりした……。ゆったりっていつ?? 一人密かに困惑している小鳥のことなど知る由もない竜太がやっと口を開く。
「土居が……。今日、お前がそんな女らしく髪を下ろしてきたから。告白するとか言いだして……」
 ええ!? 思わぬことが、竜太から知らされ、小鳥はますますたじろぎ後ずさった。
 まままま、待って? 竜太だけじゃなくって、なにそれ。ヤダ、もう、頭パンクする! うちのクラスの男子、おかしい! なんで男勝りな私なの!?
 でも誰が申し込んでくれても、小鳥の返答は決まっている。
 それを言おうとしたら、竜太から言いだした。
「きっとお前の気持ちって。花梨に聞いた時から変わっていないと思うから。それとなく土居にも告げていいかな」
 彼の横顔が凍ったのを小鳥は見た。自分のことのように口惜しそうに歯を食いしばっているような、そんな力んだ表情。
 そしてそれは友人の土居君同様、竜太も同じ気持ちでいるのだと――。
 だからって。小鳥は申し訳なくは思わない。そして彼等に、きちんと今こそ告げるべきだと毅然とする。
「そうして。私、ずっと同じ人を好きだし……。これからもきっとその人が好き」
「そっか。それでも納得しなかったら、あいつ、当たって砕けに行くと思うから、頼むな」
「わかった。ハンパなことしない。はっきり言うよ。私の今の気持ちを……心苦しくても。そして気にかけてくれて有り難うって言う」
「うん、安心した。じゃあ、それだけ」
 すっと、潔く――。竜太が背を向ける。ネクタイを緩めている夏シャツの後ろ姿。彼の茶色の毛先が耳元をくすぐる、そんな夏風が吹いてくる。
 そのまま、行ってしまうと思ったのに。竜太は途中でまた立ち止まった。
「そいつ。お前のことどう思ってんの」
 竜太にもきちんと言うべきなのだろう……と、小鳥は口を開く。
「まだ子供だと思ってる」
「望み、あるのかよ」
 背中を向けたままの、問い。だけど小鳥は竜太の顔を思い浮かべ、背中に向けてまっすぐに告げる。
「……いまは、ないかな。でも、前よりずっと好きになってしまったから。私も当分、その人をずっと追っていくと思う」
「大人、なんだろ。何歳」
「……二十八」
「父ちゃんの会社の人間?」
「うん」
「元ヤン?」
 その問いにはちょっと、小鳥は眉をひそめたが。
「ううん。地元の国立大を出た人だけど。親父さんに憧れて、うちに来ちゃったんだって」
「へえ」
 背を向けたまま、竜太はそこでずっと立ち止まって歩き出そうとしなかった。
 まだ何かを聞き足りないのか。小鳥は次の問を待ってみた。
「そいつも。車が好きなんだ」
 昨夜、得たばかりの答を、小鳥ははっきり伝える。これは胸を張って。
「うん。父ちゃんと同じ、生粋の車バカ」
 やっと、竜太が肩越しに振り返った。
「国大出たのに、車屋に就職して、なおかつ車バカか。敵わねえな」
 致し方ない笑みを見せられる。
「土居が急に決心するほど。今日のお前、すげえ女っぽい顔しているもんな。なんかあった?」
 す、鋭いなあと思いつつも。自分のことを気にかけてくれる男子は、そんな小鳥の変化も直ぐに判ってくれるんだという感動があった。
 だけどなにがあったかとありのままを伝えることは、やはり心苦しい。けど……。
「あった。私と彼が、じゃなくて。彼に。私、昨夜の彼を見て、ますます好きになって困ってる」
 気恥ずかしくて、たれる黒髪の中、頬が隠れるくらいにうつむいてしまった。
「もしかすると。お前の方が、よっぽど『恋愛』をして、女らしくなっているのかもな」
 どんな顔だと思われたのだろう。でも、竜太がその時……やはり唇を噛みしめていた。
「だけど。まっすぐで迷いがなくて、ほんと、俺らの滝田らしくって。それはそれでいいなって思う。きっと土居も」
 そして彼が最後に小さく呟いた。また背を向けたまま。
「がんばれよ。じゃあな」
「あ、ありがとう」
 彼氏ができるだけが、恋愛じゃない。ずっとその人だけの片思い。それを貫いている間も『恋愛』。
 そうだね。ありがとう。私は私のまま続けていくよ。
 でも。心の中で一度だけ小鳥は呟く。『ごめんね』と。

 

 ―◆・◆・◆・◆・◆―

 

 竜太と二人きりで外に出ていたことを、敏感に察知していたのは、やはり花梨ちゃんだった。小鳥と目が合うと、露骨に避けられ、彼女は他の女の子の輪に入ってしまう。
 こんなこと、初めてだったけれど。女心、しようがないかと小鳥も割り切った。
 
 この日も釈然としない思いを抱いたまま、小鳥は帰路につく。
 バス停まで行こうとすると、校門を出るところで、眼鏡の女の子と目があった。
「あ」
「あ、滝田先輩」
 小鳥が怪我をさせた二年生の彼女だった。今日も眼鏡をかけて、艶々した黒髪はすとんと肩でまっすぐで、綺麗にまとめたポンパドール。清潔感溢れるというなら、彼女のような子だと小鳥は思う。
 そんな彼女は自転車通学、まだその手に包帯を巻いていたので、小鳥の胸がまた痛む。
 だけど彼女の方から笑って、小鳥の元まで自転車を押して駆けてきた。
「こんにちは」
「こ、こんにちは。具合、どう?」
 恐る恐る聞いたが、小鳥の傍まで来た彼女はにっこり。
「ほんとにかすり傷程度だったのに。いろいろ聞きました。そちらのお父さんがいらした時、職員室でもいろいろあったと」
「あー、あれね。ごめんね。うちの親父さん。昔からああなの。で、私も、親父さんにそっくりで、迷惑をかけちゃうこと多くて」
 げんなりと呟いたが、眼鏡の彼女がくすくすと笑った。
「でも。かっこいいお父さんですね。それに学校までかけつけてくれるお父さんてなかなかいないと思います」
「ううん。だって。あれって私を心配したんじゃなくて、私がしたことに腹が立って乗り込んできたんだよ」
「それが瞬時にできるお父さんはなかなかいない――。私の父がそう言っていました」
 え、そちらの。お嬢様な貴女の、お父様が? 
 小鳥も自宅まで謝罪に出向いたが、彼女の家は如何にもエリート社員の持ち家といった風で、ガレージにはBMWとワーゲンのポロが駐車してあった。つまりお金持ち。そしてお母様は上品な奥様で、小鳥はまだお父様には会っていないが英児父が言うには『あれは、お育ちの良いエリートだぜ』といった感じらしい。彼女を見てもお育ちがよいお嬢様。彼女が『パパ』と言えば、とっても似合っていて、そしてお父様もきっとその通りにパパと呼ぶに相応しい穏和な人なのだろう。
「その父が、滝田さんのお父さんが乗ってきた日産の車を見て、とても興奮していました。やっぱり男同士なんですね。車のことも庭先で長く話し合っているから、最後には母が呆れて笑っていましたし」
 そうだったんだ? と、父から聞かされていない男親同士の一コマがあったようだが、小鳥には『良くあること』として直ぐに目に浮かんでしまった。
「今度、父も龍星轟に持っていくとかいって。名刺の交換までしていたんですよ」
「わーっ。もう、父ちゃんったら……。謝罪の為にそちらに行ったはずなのに、そこで商売ッ気だしたみたいで、なんかもう……」
 ごめんなさいと呟こうと思ったら、眼鏡の彼女が優しく小鳥の顔を覗き込む。
「そんな下心なんて微塵も感じませんでしたよ。母も言っていました。そこにいるだけで、心を開きたくなるような、裏表や駆け引きなんかまったく無い真っ直ぐなお父さんなんだろうねって」
 まだ少ししか会ったことがないだろう彼女が、英児父のことを親子でそう感じたと言ってくれている……。
 確かに。英児父はそういう人間だと小鳥も感じている。子供の時から父の一声で沢山の人が龍星轟を中心にして集まってくる。お客さんだけじゃない。英児父の学生時代の友人や店を通して顧客として出会ったはずなのに、親しい友人になってたり。誰もが英児父を慕う笑顔を小鳥はずっと見てきた。
 琴子母もそう『元ヤンで最初は怖かったけど、話してみたらとっても素敵な人だと直ぐにわかった。今までであった誰よりも、お父さんは心がおっきい人』と――。
 誰かの幸せをどうしたら幸せになれるか、当たり前のように考えてしまう人よ。それがお父さんの本能、だからお父さんに触れた人も本能でわかっちゃうの。お父さんといる安心感を――。
「それなら。うん……父もお騒がせな時があるんだけど、安心した。そちらのお父様とお母様にはとっても嫌な思いさせたんじゃないかと気にしていたんだ」
「いいえ、むしろ……」
 優しい笑顔を見せてくれて彼女が小鳥から目を逸らした。小鳥も首を傾げどうしたのかと気になったのだが。
「むしろ。私……ずっと……ドキドキしていたんです。だって私みたいな目立たない女子には、あんなびっくりするような出来事なんて滅多になくて」
 え。怪我をするようなアクシデントに出会ったのに? あれからドキドキ? 小鳥は眉をひそめた。だが彼女がまた笑ってくれ、眼鏡の奥から煌めく眼差しを真っ直ぐ向けてきた。
「滝田先輩のように誰もが知っている先輩と、こうしてお話ができるチャンスが巡ってきて」
「えっ! 私なんて、ただ考えが浅いばかりで、騒動ばっかりで……。落ち着きなくって」
「だって。滝田先輩と、いつも一緒にいる綺麗な村上先輩、そしてカッコイイ高橋先輩って、下級生の私たちから見たら、すごく目立つ注目されている先輩なんですよ。その先輩とお話しできたり、保健室まで運んでもらったり。その夜、眠れなかったんです……」
 小鳥は言葉を失う。小鳥にとっては『毎度毎度の不祥事』で、ある意味汚点の連続だと思っていた。なのに、平穏無事に過ごしている彼女からすれば、それはとてもドキドキする非日常なのだと言われて――。
「私は。野田さんのように、きちんと毎日を丁寧に過ごしている人の方がすごいと思うよ」
 今度は彼女が黙り込んでうつむいた。
「そうですか? 毎日同じ事の繰り返しだったし。本当はピアノだって上を見ればきりがなくて飽き飽きしていたんです。なのに、先輩と滝田さんのお父さんが『大事な手にごめんなさい』と、とっても気にしてくれて……。大事にしてくれて……。少し考え直しました」
 ピアノなんてもう……嫌。そう思っていたところだったと知って、小鳥は驚いたのだが。彼女は包帯がある手をさすってもう笑っている。
「弾けなくなるかもしれなかったと思ったら……。やっぱり嫌でした。これからも大事にします」
 逆に頭を下げられてしまい、小鳥は『とんでもない』と恐縮してしまった。
 すると眼鏡の彼女が頭を下げたまま、小鳥の鞄をじっと見ている。
「これ……。もしかして、手作りですか」
 鞄につけている自作の『七色うさぎ』。それを彼女が手にとってしげしげと見つめている。
「う、うん。そう」
「え、先輩が……ですか?」
 再度小鳥は、小さく『そう』と頷いた。そうしたら彼女が頭を上げて、小鳥に飛びついてきた。
「先輩っ。お願いです!」
 え。急になになに? 戸惑う小鳥にさらに彼女が意気込んで言い放つ。
「私、手芸部なんです。部員がいなくて困っているんですけど。先輩、形だけでもいいから入ってくれませんか!」
 うわ。急に積極的な彼女になって後ずさったが、眼鏡の奥の瞳が真剣そのものだった。
「え、だって。卒業しちゃうし、」
「先輩の自動車愛好会も、ちょっと覗いてみたかったんです。でも、私あんまり車に詳しくないし、三年生が多いし……」
「えー、そんなことないよ。うちらも卒業しちゃう三年生ばかりだから、存続を気にしていたんだよね。二年生大歓迎だよ。詳しくないならなおさら大歓迎!」
 そこで二人で顔を見合わせた。
「……今度、じゃあ、手芸部。のぞいてみようかな」
「ほんとですか。滝田先輩が来てくれたら、他の女の子も喜びます」
 実は。最初に入ってみたいと思っていたのが手芸部だった――というのは内緒の話。柄じゃないと言われそうで避けていたことと、家に帰れば相手をしてくれる祖母がいるので手芸はオフタイムと決めつけていた。
「えー、滝田先輩。これだけ作れたら他にも作っていそう」
「ええっと、実は……。いま、うちのお祖母ちゃんと夏向けのお花のレエス編みをしていて」
 また彼女が目を丸くして『えー』と驚いた。
「手芸は、小さい頃からお祖母ちゃんが全部教えてくれて、家に帰ったらよく二人でやっているんだ」
 いまは、小さな丸いテーブルクロスを編んでいるよと教えると、彼女の目が輝きだした。
 そこで小鳥はふいに呟く。
「よかったら。うちに来てみる? 今日もお祖母ちゃんと一緒に編む約束しているんだけど」
 今度の彼女は『え!』と固まった。
「あ、ごめん。唐突に、家も反対方向だもんね」
「いえ。是非! 車屋さんも見てみたいです」
 小鳥が何も言わなくても、彼女は自転車を置いてくると走っていった。
 その後、一緒にバスに乗って空港通り向こうの龍星轟まで。バスの中でも、眼鏡の彼女といろいろと話をした。結構、気が合うことがわかった。
 彼女の名前は、野口菫。バスを降りる時には、小鳥はもうスミレちゃんと呼んでいた。

 

 ―◆・◆・◆・◆・◆―

 

 バスを降りていつもの道を歩いていると、もうスミレの目が輝いた。
「あれですか、あの、龍の絵がある壁の」
「そう。あれが親父さんの店。龍星轟だよ」
 興奮をひっそり抑えている彼女がまた可愛くて、小鳥も笑いながら店先まで連れて行く。
「おう、小鳥。お帰り」
「ただいま。矢野じい」
 店先の排水溝を丁寧に掃除している白髪の矢野じいと最初に会う。
「友達かよ。久しぶりに連れてきたな」
「うん。スミレちゃん。この前、私が割ったガラスで怪我させちゃった子」
 そういうと、矢野じいがすごく驚いた顔で女子高生二人に近づいてきた。
「まじか、おめえ」
 小鳥を見て、次に眼鏡の彼女を矢野じいがじろじろ見ている。だから嬉しそうだった彼女がちょっと怖じ気付いてうつむいてしまう。
 ただでさえ矢野じいは、じいちゃんにしては龍星轟のジャケットをぴしっと強面で着こなしてキビキビとしているので、若い子には怖い人に見えてしまうのではないかと小鳥は思っている。
「ちょっと矢野じい。女の子のことそんなにじろじろ見ないでよ」
 かと思ったら、あの強面があっという間に泣き崩れるような顔に変化したので、小鳥もギョッとした。
「おめえ……よかったなあ。そんな怪我させた、怪我させられたはずの間柄なのに。こんな家にまで連れてくるまで親しくなっているなんてようっ」
 うわ……。本当に涙ぐんでる! 小鳥はますますたじろいだ。やっぱり矢野じいは『もう年寄りだ』と思った。前は親父さんをビシバシ叱りとばして、英児父が小さく見えたほどにこの龍星轟でいちばん威厳がある人だったのに。
「ええっと。誰ちゃんかな。ありがとう、ありがとうな。うちの小鳥をよろしくおねがいします、おねがいします」
 うわーうわー。矢野じい、恥ずかしいからもうやめて! と、小鳥は矢野じいを元の仕事に戻した。
 だけど、スミレはやっぱり優しく笑っている。
「お祖父さんなんですか」
「ううん。親父さんの元上司。今は引退して相談役。でも生まれた時からここにいるから、やっぱりお祖父ちゃん同然なんだよね」
「えー。いいですね。お店の方が家族同然だなんて」
 その後も、ガレージから出入りしている従業員一同が『小鳥、おかえり』、『小鳥ちゃんおかえり』といつも通りに声をかけてくれ、なおかつ、スミレを見つけて『いらっしゃい!』と気のよい声をかけてくれた。
 ……だけど今日、そこに、翔兄はいなかった。
「すごい。活気がありますね」
 あの閑静な住宅地で育ってきたのならば、ここはきっと騒音の固まりに違いない。それでもスミレは楽しそうな笑顔をずっと見せてくれている。
 小鳥も気を取り直し『そうだね』と微笑み返す。
 いつもは事務所裏の勝手口から自宅へ向かうが、今日は事務所の扉を開けてみる。
 そこには、事務に勤しむ二人の男。ネクタイでビジネスマン風の眼鏡をかけている専務と、泥と油に汚れた作業着姿で社長デスクで帳簿を眺めている父がいる。
 その父が事務所の扉が開いて誰が来たかと確かめるために頭を上げたのだが、スミレを見るなりとても驚いた顔で立ち上がった。
「い、いらっしゃい?」
 また何かあったのかと訝る父の目線が小鳥に届く。
「お祖母ちゃんのレエス編みを見せようとおもって、連れてきたんだ。彼女、手芸部なんだって。車にも興味があるて言うから」
「うわ! それは嬉しいな。いらっしゃい。菫さん! どうぞゆっくりしていってください」
 父も名前を覚えていたようで、それだけでスミレが嬉しそうな顔になったのを小鳥は見た。
「先日はご丁寧に、自宅まで来てくださって有り難うございました。もう手は大丈夫です。両親も何も言いません、なので二度とお気になさらないようにしてください」
 彼女が深々と英児父に頭を下げると、どうしたことか英児父が年甲斐もなく頬を染めてあたふたしているように見えてしまい、小鳥は眉をひそめた。
 だけど、この様子をまたもや眼鏡の専務がだまーって眺めていたけれど、そこでついににっこり余裕の笑顔を見せると言いだした。
「ほんとだ。琴子さんに似ているね」
「武智、そういうこと今言うなよっ」
 父が妙にスミレに照れているのは何故かわかって、小鳥は密かに鼻白む。ああ、琴子母と同じ匂いとか言っていたから、スミレからまた『女』を感じているのかと。
「うわー、香世ちゃんにも似てる気がする」
 カヨって誰!? と、小鳥が思った時には、父が手元に積んでいた自動車雑誌で武智専務の頭を『黙れ』とはたき、武ちゃんは面白そうに笑っているだけ。当然、スミレはいい歳したおじさん二人の子供じみたやり取りに唖然としている。
「あー、ええっと、菫さん。ゆっくりしていってくれな」
「ごゆっくり〜」
 事務所の親父さん達への挨拶も終え、小鳥はそのまま一階の小さな一角に住まう祖母宅の玄関へ。
 杖をついた白髪の鈴子祖母が笑顔で出迎えてくれる。
「小鳥ちゃんのお友達? えっとカリンちゃんだったかしら?」
「ううん。彼女は二年生でスミレちゃん」
 お祖母ちゃんがじっと耳を傾け。
「え、カリンちゃんじゃなくて、スミレちゃんだったの? お祖母ちゃんずっと勘違いしていたのかしら!?」
「今日は花梨ちゃんじゃなくて、スミレちゃん。新しいお友達」
「まあ、そうなの! それはそれは。どうぞどうぞ」
 数年前から耳が遠くなってきて、こうして時々会話が噛み合わないけれど、お祖母ちゃんは元気。会えなかった大内の祖父が亡くなった後、鈴子祖母も倒れたと聞いたことがある。一命は取り留めたが、足と手に後遺症が残った。英児父が琴子母と出会った時、琴子母は鈴子祖母を甲斐甲斐しく介助する生活をしていたと聞いている。
 そんなお祖母ちゃんは『あの時に助かったせいか、逆に元気で長生きしちゃって』とよく言っている。
 そんな苦労をしてきたお祖母ちゃんだからこそ、孫が何をしたとかは両親もわざわざ伝えず、穏やかな毎日を送ってもらえるよう配慮していることが小鳥にもわかっていた。
 だから敢えて、スミレとの出会いについては今回も言わない。
「おばあちゃん。彼女もお花の丸いテーブルクロスを作りたいんだって。出来たら手芸部でも作ってみようかなって話になっているんだけど」
「素敵ね。小鳥ちゃんも手芸部に入るの?」
 鈴子祖母が時々『学校で手芸のお友達いないの。部活とかないの』と気にしていたことがある。だから今日は笑顔で応える。
「うん。入ることにしたんだ」
 横にいたスミレが嬉しそうに微笑んだのが見えた。
「あらー、安心したわ。よかったわね」
 そして鈴子祖母も嬉しそうにして、部屋に通してくれる。
 すっかりこの車屋一家と暮らすことに馴染んだ祖母の一階住居は、英国のお祖母ちゃんの家みたいな雰囲気でまとめられている。
 そんな鈴子祖母のセンスで溢れる住まいを見たスミレがとても感激していた。
 もてなしてくれる優しいばあちゃんの手ほどきで、二時間ほど笑い声を交えながらレエス編みを楽しんだ。
「とっても楽しかったです。それにお祖母さんの作品、どれも素敵で感激。私もあんなふうに沢山作りたい」
 本当に女の子らしいんだなあと思わせてくれるスミレは、なんだか妹みたいに思えてくるほど、親しみやすかった。
「お邪魔いたしました」
 帰り際、事務所の英児父にも丁寧に挨拶をしてスミレが帰ろうとしていた。
 英児父が、自転車を置いている学校まで『俺の車で送ってあげるよ』と言ってくれ、またスミレが『嬉しい、お父さんの車に乗ってみたい』と嬉しそうにはしゃいでくれる。
 車を出しに行ってくると父が外に出て行き、小鳥とスミレは事務所内で待っていることに。
「先輩。本当に楽しかったです。私、祖母は遠いところに住んでいるし、毎日が父と母だけの家だから」
 スミレは兄弟がいないひとりっ子とのことで、そんなところも母と育ちが似ているのかもしれないと改めて思った。
「お洒落なおばあちゃまに、かっこいいお父さんに、家族みたいな従業員さんたち。ほんとに賑やかですね、ここは」
「いつでもおいでよ。うちは人の出入り多いから、突然来たってぜんぜん平気、構わないよ。気負いせずに来て」
「ありがとうございます。じゃあ、その、連絡先……教えてください」
「いいよ」
 そんなスミレと、ついに携帯電話のアドレスと電番のデーター送信交換まで済ませた。
 そこでスミレが携帯電話を鞄にしまおうとしていたのだが、少し顔色が変わった。
「どうしたの」
「あの、ペンケースがなくて……」
 レエス編みの図案をメモした時に彼女が鞄からペンケースを出していたのを小鳥は思い出す。
「祖母ちゃんのところだね。取りに行ってくる」
「私も一緒に行きます」
 白いGTRが事務所の店先にやってきたが、武ちゃんに『取りに行ってくる』と言付け、スミレと一緒に再度鈴子祖母宅へ行こうと事務所奥の自宅へ向かうドアを開けようとしたのだが、どうしたことか勝手に開いた。
 ドアを開けようとした小鳥の目の前に、自分より少し背丈がある茶髪の弟が制服姿でそこに立っていた。
「間に合った。これ、忘れもん。祖母ちゃんが二階まで届けに来た」
 聖児が帰宅した時、二階に持ってきた鈴子祖母がうろうろしていたとのこと。足が不自由な祖母に何度も階段を上がり降りさせたくなかっただろう弟が引き受け、届けに来てくれたようだった。
「ありがとう、聖児」
「姉ちゃんのダチ? みたことねーな」
 近頃生意気な上から目線が、自分たちより小柄なスミレに注がれる。聖児が上からじいっと微笑みもせずに見下ろすのでスミレが怖がっているのがわかった。
 聖児のこういう態度がたまに誤解を招くのだが、実は聖児は人見知り。ぶっきらぼうに言い返してしまうのは、人見知りの裏返し、上手く気持ちが伝えられない不器用なところがある。
 いまがまさにそれ。小鳥はまたこれかと溜め息を小さくつきながら、弟に告げる。
「このまえ、怪我をさせちゃった二年の女の子だよ」
 すると聖児も驚いた顔をした。
「マジで? 今日はどういうなりゆき」
「彼女、手芸部なんだって。それで意気投合しちゃって、祖母ちゃんのレエス編みを一緒に教わることになったんだ」
「へえ、それで祖母ちゃんのところに忘れ物」
 聖児がそこで手に持っていた小さな薔薇模様のペンケースをスミレに差し出した。
「うちの姉が迷惑かけました」
 これまた微笑みもなくぶっきらぼうな物言いだったが、聖児は丁寧に頭を下げた。弟にまでそうされると、小鳥もまた情けない思いがぶり返してくる。
 そしてスミレは、恐る恐る、茶髪の無愛想な聖児から差し出されているペンケースを受け取った。
「いいえ。こちらの皆さんにはよくして頂いたから、もう本当にこれ以上は……かえって申し訳ないです。ですけど、弟さんまで……。本当にこちらの皆さんって、気持ちがひとつなんですね」
 下級生の弟にまで、彼女は丁寧な受け答えで丁寧にお辞儀を返してくれる。そんな彼女を、聖児がじっと見ている。
「おい、小鳥。GTR、持ってきたぞ」
 父に呼ばれ、小鳥はスミレを連れて外に出る。
 スミレが助手席に、小鳥は後部座席に乗り込み、エンジンを唸らせる父の運転で彼女を学校まで送った。
 
 英児父と帰宅して、二階自宅に戻るなり聖児に聞かれた。
 
 姉ちゃん、あの先輩、どこのクラス。
 
 聞きづらそうにしているけど、ストレートに尋ねてくる。遠回りは好きじゃない聖児らしいと小鳥は思いながら、『その予感』などなかった顔をすることにした。
 スミレの名前とクラス、そしてどんな家庭か小鳥は教えてあげた。
 
 その数日後だった。聖児が急に髪の色を元の黒髪に戻したのは――。

 

 ―◆・◆・◆・◆・◆―

 

 聖児が黒髪に染めた頃。スミレと親しくなっても、竜太との間に互いの気持ちに折り合いがついても――。
 花梨ちゃんは戻ってこない。
 そして。龍星轟に翔の姿もなかった。
「専務、おはようございます」
 今日も学校へ出かける時、開いているドアから見える事務所へと挨拶をしたのだが、そこに武ちゃんはいても翔兄はいなかった。
「寂しいね、翔がいないと。正直、俺も出来るアシスタントがいなくて困っているんだよね。整備関係でも翔担当の仕事の振り分けも大変だったし、事務所の補佐にしても、業務上の損害デカイよ」
 そんなことをつい子供である小鳥に漏らしてしまったのか、眼鏡の武ちゃんがハッと我に返りいつものおじさんの笑顔になる。
「いってらっしゃい。気をつけてな」
「いってきます……」
 いま、この龍星轟に翔はいなかった。
 
 岬から帰ってきた朝方。龍星轟で寝ずに待っていた英児父と琴子母が事務所で待ちかまえていた。帰ってきた翔が『申し訳ありませんでした。覚悟は出来ています』と頭を下げ、上司である父に謝罪した。だが父の怒りの形相は相当なもので、ただならぬ気迫を放っていた。
 母もハラハラした様子で英児父の背中で見守っていたが、それは小鳥も一緒で。『父ちゃん、クビにしないで!』そう言おうとしたら、その前に英児父が翔の胸ぐらを掴んで拳一発、鉄拳で翔を吹っ飛ばした。
 本当に事務所の床に翔が飛んでいったので、さすがの小鳥も悲鳴を上げてぶっ飛ばされた彼のところに駆けていったほど。しかし、そんな小鳥も首根っこを掴まれ、平手打ち一発、頬を張り飛ばされた。
『翔は五日間の謹慎、小鳥は小遣い一ヶ月なし。わかったか!』
 殴られて項垂れる翔と小鳥だったが、そこでは二人揃って素直に頷いていた。
『今夜のことはこれでもう終いだ。これで済ませるから、今後、うじうじごちゃごちゃを龍星轟に持ち込むんじゃねえぞ。次は許さねえから覚えておけ!』
 今まで実直に勤めてきてくれた翔だからこそ、英児父も謹慎で済ませたことが二人揃って通じた。
 翔がMR2で帰ってしまった後、それでも小鳥は部屋で泣きさざめいた。彼が叱られたとか、父親に頬を叩かれたとかそんなことのショックじゃない。一晩で起きた様々なことがその時になって一気に襲ってきて受けきれず、この時なって溢れ出てしまったのだ。
 案じた琴子母がもう明るく日が射し始めた部屋にやってきた。
 『大丈夫』と昔のまま優しく抱きしめてくれた琴子母が小鳥の頭を撫でながら静かに教えてくれる。
『お父さんも泣いていたわよ。俺だって殴りたくねえよって。お父さんも落ち込んでいるのよ』
 時に『悪者にだってなれる、恨まれ役も出来る』。それが上司で親だってことを、小鳥は知った気がした。
『わかってる。父ちゃんのこと、悪く思ってない。翔兄もきっと……』
 でも小鳥は少しだけ案じている。
『お兄ちゃん。龍星轟に帰ってくるよね?』
 少し間をおかれたのが気になったが、琴子母は『大丈夫。ここが好きだから彼は帰ってくるわよ』と言ってくれた。ただそれだけで小鳥は泣きやむことが出来た。
 
 ――謹慎五日。それが終わった。今日、彼は出てくるはずなのにいない。
 
 小鳥の中で渦巻く不安。真面目な翔兄がまた一人で『俺は情けない男だ』と自分を責めていないか案じていた。
 だけど。英児父も上司としてじっと待っている姿を小鳥も見ている。殴ったことが吉と出るか凶と出るか。じっと堪えて無言で待っている父が、取り外された古いMR2のタイヤを触っていた姿があったから。
 だから、小鳥もじっと待っている。また龍星轟が俺の生き甲斐と言って、再生していく彼の姿を思い描いて――。
 
「小鳥」
 
 夏の朝の道。呼ばれて振り返ると、いつもの龍星轟ジャケット姿の翔が立っていた。
 
「お兄ちゃん……」
 彼が笑って手を振ってくれた。それだけで、小鳥は泣きそうになったが堪えた。
「ただいま。迷惑かけたな」
 小鳥は静かに首を振る。どこか気まずそうな彼を見て、小鳥から歩み寄る。
 いつにない感情を爆発させ、上司の言い付けを破って、しかも上司の未成年である娘を助手席に乗せたまま連れ去ってしまった彼。
 そんな彼の顔を見上げると、口元に痣……。そこへ小鳥はそっと指先を伸ばした。
「五日経っても消えなかったんだ」
 彼の唇の端に、小鳥の指先が触れる。また彼が少し固まった。だから……小鳥は静かに指をそこから離そうと。
 だけどそこで離れそうになった小鳥の手を、翔からぎゅっと握ってきた。
「当然だろ。俺、クビにすると言われたのに上司の言い付けを破ったんだから。しかも上司の娘を連れ去って。この戒めは簡単に消しちゃいけない、消えちゃいけない。これでいいんだ」
「私も覚えてるよ。私の頬にも同じ痣があるよ」
 平手打ちだった小鳥に痣なんて無い。でも心の中に感触としてその痣はある。一緒に叱られて、一緒に痛い思いをした。そんな二人一緒の過ちと痛み。
 だから。小鳥はもう一度、熱く握ってくれるその手のまま、彼の唇の端にある痣に触れた。翔もそっと眼差しを伏せてその指先を受け入れてくれた。
「おかえり。翔兄」
 目を閉じたまま、彼がそっと微笑んでくれる。小鳥の指の下で、彼の口角があがるのがわかる。
「ただいま、小鳥。これからもよろしくな」
 帰ってきてくれた。そして彼はもう迷わず躊躇せず、あの岬の夜のままここで生きていくことを決意してきてくれたのだと――。
 彼の揺るぎない黒く煌めく眼差しが小鳥へと舞い降りてくる。
「来年。一緒に走ろうな。待っている」
 唇の端に触れていた指先だったはずなのに、いつの間にか、小鳥の指には翔の唇。そこで彼がそう囁いた。
 指先に熱い息が降りかかる誘いだった。甘い疼きを初めて小鳥は感じ取っていた。男に触れる、愛される、受け入れてもらえる、それってこういうこと? 
 でもそこまで。茫然としている小鳥の代わりに、翔からその手を静かに優しく降ろしてくれた。
「学校だろ。気をつけていって来いよ」
「うん」
 空港向こうの海風の匂いがやってくる夏の朝。小鳥は彼に見送られて走り出す。
 でも。立ち止まって小鳥は振り返る。まだそこに立ったまま小鳥を見送ってくれる翔が手を振る笑顔。直ぐに背を向けて去っていかず、まだそこにいてくれて小鳥は微笑んだ。
 翔兄、大好き!
 ――と、大声で言いそうになり。でも小鳥はぐっと堪えた。
 やめよう。自分の気持ちだけをぶつけるだなんてやめよう。いまはまだ、彼の気持ちは彼のもの。壊れたばかりの心をそっと再生していく彼を、また今日からそっと見守っていこう。
 私、彼の傍にいる。ずっと、いる。
 彼が好き。でも好きなだけじゃない。彼の痛い気持ちも一緒に痛いと思っていきたい。
 なんだかなにもかもが、愛おしいの。初めてそう思った。
 恋はお終い、小さくても愛なの。
 
 また変わらぬ日々が戻ってくるだろう。
 家族のように毎日一緒にいる龍星轟一同との日々。そして変わらぬ友人達との最後の高校生活。
 でも少しだけ前とちょっと違うことを感じながら。
 
 また季節がひとめぐり。同じ季節にここに立つと、また同じ潮の匂いがする風が小鳥を包み込んでいた。
 小鳥の小さな愛は、その時……。

 

 

 

 

Update/2012.8.12
TOP BACK NEXT
Copyright (c) 2012 marie morii All rights reserved.