=氷の瞳=

5.少女時代

 

「良く来たな。 今日は『肩章』もない。遠慮するな。澤村」

リビングに入るなり……紺色の羽織を着た着物姿の

『細川中将』が立ちはだかって隼人を迎えてくれた。

(似合うなぁーー。ホント、日本のお父さんって感じ……)

隼人は訓練着の将軍を思い出して、その『落差』に戸惑い。

『遠慮するな』といわれても……着物を着ているヒゲ将軍のその姿でも

(うーー。やっぱ、細川中将は細川中将って感じだよ)

と……いつもの緊張感は拭えない威圧感なのだ。

「おじさん……ここは俺の家で、俺が『隼人』を誘ったんだぜ?

俺より先に『遠慮するな』はないでしょう???」

この屋敷の『主』がやっと登場……。

自宅故か……ロイは白いセーターにスラックス姿。

かえって……軍服より『ラフ』な格好で……隼人はまた戸惑い……。

しかも、細川中将に畏れなしといった親しみ振り……。

「申し訳ありません……。気遣ってお誘い下さいまして……」

隼人はいつもは『雲の上』である上官達に丁寧に挨拶。

でも……

「固いなぁ! 今日は俺は『お兄さん』 細川中将は『おじさん』と呼ぶように♪

ここは、プライベートなんだ。 日頃のうっとうしさは忘れてくれ♪」

『さぁさぁ! 座れよ!』

確かに……軍服でもこの様に『フレンドリーな若将軍』のロイではあるが

そのラフな姿で隼人は大きなリビングの大きなソファーに促されて

やっと……人心地……腰を落ち着けた。

「パパ! お兄ちゃまからケーキもらったの! パパも食べる?」

愛里がロイの手をニコニコと引っ張る。

その途端に……麗しい金髪将軍の見た事ない優しい笑顔。

「そうかぁ? 悪いなぁ……隼人。愛里にまで気遣ってくれて……

じゃぁ……愛里。 ママを手伝ってお茶の準備してくれるかい?」

「うん!!」

並ぶと本当にそっくりな父娘……。

パパの日本語もヒアリング出来るようで愛里は元気良くリビングを出ていった。

「可愛らしいお嬢さんですね〜……中将にそっくりで驚きました」

「ほら! 中将って言ったな! 俺は今日は葉月の『兄様』だ!」

「いや〜……でも」

「まぁ。ロイ。無茶を言うな。 澤村も慣れなくて当然だ」

そこで、着物姿の細川がソファーに腰をかけた。

アメリカスケールの大きな美しいリビング。

隼人はその大きさにも馴染めなくて……冷や汗がにじみ出てくる。

葉月とジョイは何をしているかと思えば……

二人揃って大きなテレビの前でチャンネルを回して……

『クスクス』といつも以上にひっついて仲が良く、なにやら楽しそうである。

「こら。嬢にジョイもこっちへこい」

細川の静かな呼びかけに二人が振り向いた。

『はぁい。。』

ここでも二人は『子供扱い』されているようで

日頃のエリート幹部の面影など本当にないほど……。

大きなソファーに座る細川。

その向かいにロイが腰をかけた。隼人の隣にロイが……

そして、ジョイと葉月はどこを陣取るのかと眺めていると……

葉月は躊躇うことなく細川の横に……ジョイは隼人の横に来た。

(お? 葉月のヤツ……いつもは細川中将を怖がっているくせに)

『意外?』と隼人は……ロイが座るソファーには男が揃い……

向かいには細川の横に葉月が座る……。

なんだか、いつもの部隊での姿が皆どこにもなくてどうも違和感。

「あ。 おじ様だいぶ飲んだのね? お酒臭い!」

葉月がいきなり細川にそう言ったので隼人は驚き!

訓練中など、細川に睨まれて小さくなっている葉月からは考えられない発言!

「お前も飲まんか? ジョイ。葉月にお猪口もってきてくれんか?」

「うん! 解った! 隼人兄も飲むよね?」

「え? 俺……日本酒は……」

「フランスはワインか? じゃぁ。ロイ、ワインだ」

「ああ。いいよ。とっておき出してくるよ」

『とっておき』ときて隼人はまた大慌て……

「あああ! 中将! 僕のことなんかどうでも良いですから!!」

立ち上がったロイを隼人は止めようとしたが……

「いいじゃないか? こんな時じゃないとあける機会もないし

丁度いい♪ フランス帰りの男に飲ませる方がワインも喜ぶ!」

「僕がいつも飲んでいたものは大衆的な『テーブルワイン』ですよ??

そんな高級品なんか! 味解りませんよぉ……」

「まぁ。いいじゃないか? ロイもそう言っているし……

澤村。 せっかく帰国したのだから『日本酒』も飲まんか?

これから慣れておかないと、お前、日本人だろ?」

細川のいつにない『にっこり笑顔』の隼人は何故か硬直。

葉月も横で『にっこり』いつにない笑顔をこぼして

『頂いたら?』と一言添えてくれた。

皆に言われるまま……隼人はおもてなしを受けることにした。

一頃して……美穂が『ちょっと早いけどせっかく出来たから』と

大きなリビングのテーブルの上に『正月料理』をいっぱい運んできた。

お手伝いさんなのか?? 老婦も一人ちょこまかとテーブルに準備を。

『トキさん。 今日はもういいわよ……手伝ってくれて有り難う♪ 助かったわー!』

美穂がリビングの入り口でその『トキさん』を労っていた。

『では……ご主人、奥様……皆様……良いお年を……』

老婦はにっこり挨拶をしてどうやら家に帰るようだった。

(お手伝いさん付きかよぉ。。すごいなぁ)

まぁ……この広い洋館ではお手伝いの一人でもいないと

美穂一人では大変なのだろう。

「葉月。まだ夕飯は食っていなかろう? ほれ。たくさん食え」

葉月の横で、細川が小皿を一枚手にして……

あれやこれやと美穂が並べた正月料理を葉月のために箸で取っていたりして……

「お。 お前の好きな昆布巻きもあるぞ? ちゃんとマグロが巻いてあるぞ。

ほれ……百合根もすきだろ? 栗金団もいるか??」

「有り難う♪ おじ様!」

(嘘だろ?)

隼人は部隊では絶対に見ない二人の馴染み振りに引きつり笑い。

細川が葉月を横に従えて、こんなにかいがいしく可愛がっているなんて

(なるほどーー。小さいとき甘えていたって解ってきた!)

まるで、葉月を娘のようにして細川は横にいる葉月に

あれや、これやと手を焼いている。

葉月もまんざらでもなさそう……。

日頃、怖い鬼おじ様にはこの時ばかりに『甘えちゃえ』というような

可愛らしい笑顔をこぼしているではないか??

「そら。葉月、コレはお前の役だ。ちゃんとやりなさい」

細川が葉月の為に盛った小皿を彼女の前に置くと……

もう一枚……葉月に差し出した。

(あれー。細川中将にお返しで今度は葉月が盛るのかな?)

と……葉月が手にした小皿を眺めていると……。

「もう。おじ様ったら……」と葉月がなにやら照れているではないか?

そして……

「隼人さん……何が好き?」

「え? 俺??」

葉月がニッコリ微笑みかけてきて……

しかも! 皆の前で『隼人さん』などと呼ばれてしまった。

「遠慮するな。澤村。 いつもは嬢にやられているだろ?

こんな時は女にやらせて堂々としていればいい」

「なによ! おじ様ったら! やられているのは私の方よ!」

「ほぅ。よう言ったなぁ。 でも、ちゃんとやりなさい。

彼はお前のために今日、ちゃんと来たのだから。解るな?」

細川の静かなたしなめに、葉月はまた大人しくだまりこんだ。

そして……

とりあえず、主だった料理を『女の子らしく』隼人のためによそって渡してくれた。

そう……きっと。

ここだけは……きっと……

『10歳からいる葉月』が戻ってくるのじゃないか?

そう思ったから……誘われたとき『即答』したのかも知れない。

隼人はそう思った。

「戴きます」

隼人はロイに細川にまず日本酒を勧められて口にして……

お返しに二人の将軍のお猪口にも酒を注ぎ返した。

そんなやりとりの中。

美穂と愛里も合流。

楽しい笑い声がリビングに響く。

「いやー。お姉さんの正月料理。美味しいですよーー!

僕は、母は早くになくなったので祖母によく作ってもらっていましたが

懐かしい味です……。本当、来て良かった!」

日本酒にワインに……懐かしい故郷の料理。

酔いも手伝って……慣れている男同僚のジョイも横にいるせいか……

隼人の喋る口も、いつになく滑らかになってきた。

「まぁ。嬉しいわぁ♪ こんなに男の人に喜んでもらったのは久振りかも♪」

「なんだと? 美穂。俺だって毎年誉めているじゃないか??」

「あら? ロイは最近慣れちゃったのかそんなこと言ってくれないわよ?

なぁに? 隼人君の前で格好付けても無駄よーー??」

「ははは! ロイも美穂には頭あがらんなぁ!」

そんな会話にジョイと葉月もケラケラと笑い声を立てていた。

「あーー! 俺が好きなユニットが出てきた〜〜!!」

「えー? ジョイは最近そうゆうの聴いているわけ?」

紅白の番組を見ながらジョイと葉月は若いながらの会話を

大人達の会話もそっちのけでムートンが敷いてあるテレビの前へと

行ってしまい……愛里も『私もーー』と若い二人にひっついてしまった。

『俺この歌好きーー♪』

『そう? ただのアイドルじゃない』

『愛理も好きーー』

『じゃぁ♪ 愛里は俺と仲間♪ 葉月姉だけ仲間はずれ♪』

『なによ。それ。悔しくも何ともないわよぉ』

ムートンの上に座り込んだ3人を隼人は眺めながら料理をつついた。

どうやら……隼人は『大人組』に入っているようで

美穂とロイ、細川とやはり……フランス基地の話に軍事話に

花を咲かせていた。

その内に……美穂が席を立って『年越しそば』の準備に。

紅白も終わり、除夜の鐘などがこの島の何処から聞こえてきた。

「新年か。 いや……いいねぇ。日本の正月。心が和むな」

島の古い寺が除夜の鐘を突いているようで……

ロイがそっと耳を傾けていた。

テレビ前で騒いでいた若者組も年越しそばのためソファーに戻ってくる。

美穂がイソイソと人数分取りそろえたところで

皆で『いただきまーす』とそれを食べ始めた。

「今日は泊まって行け。葉月と一緒の部屋にしてやる」

ロイの『ニヤリ』に隼人はソバを『ぶ!』と吹き出しそうになった。

「ええ? いいわよ。タクシーでマンションまで帰るから……兄様」

葉月もそのロイの誘いに頬を染めて断ろうとしていたが

「いいじゃないか。葉月……一緒の部屋はともかく……

澤村、明日は雑煮を食べてから嬢と帰ればいい」

細川もそういって隼人ににっこり……お猪口に酒をついでくれる。

「そうしなよ? 明日一緒に初詣いかない??」

ジョイも『泊まって行けよぉー』と隼人のシャツの袖を引っぱり出す始末。

「あー……では、彼と一緒の部屋で……なら」

「あ! そうね♪」

隼人が『ジョイと寝る』と提案すると葉月もホッとしたように賛成。

勿論……ジョイも……

「いいねぇ!! 男同士で朝まで酒盛りーー!!」

「いや……俺はもう……飲めない」

「まぁ。ジョイの言うとおり皆で初詣、明日行きましょう?」

美穂のとりまとめに皆が楽しそうに頷いた。

(なんか。いいなぁ……こうゆう日本的アットホーム何年ぶりだろう??)

からかわれはするが……

皆、無理に『葉月の恋人扱い』はしようとはしなかった。

葉月は葉月で……

ジョイに細川に……ロイに美穂。

なじみの人間に囲まれて本当に楽しそうに微笑みを絶やさない。

無理に隼人にばかり『恋人』としてひっつかずに

それぞれの身近な人間と、部隊では出来ない触れ合う時間を

堪能しているようで……ワインを煽りながら頬を染めて……

細川にニコニコ見つめられてなんだか……

本当に『少女』に見えてしまった……。

『そういえば……ミシェールパパの家で泊まったときも……

葉月は少しだけ……小さな女の子みたいだったな』

隼人は……少し満足。

葉月が楽しそうに笑っている……。

少女時代の彼女がここだけ、この時だけ蘇るのだろうか?

そんな葉月を眺めているジョイに大人達も……

皆、どこか優しく笑顔を輝かせていた。

 

 

「さてと……」

年が明け……夜も更けてきた……。

年越しそばを食べ終えて細川が席を立つ。

それにしても結構飲んでいるのに酔いを見せない細川に隼人は

『強者ー』と……

自分も酒で酔うことはほとんどないのに……彼に注がれっぱなしで

隼人の方が……もう、だいぶ限界に来ていた。

細川が席を立つと……

『おっと。俺……トイレ』

『あ。美穂……俺、愛里寝かしてくる』

金髪の従兄弟同士は何故か……そそくさと席を立った。

「まったく……上手く逃げたわねぇ……」

美穂が隼人の横でそっと……笑いを噛みしめていた。

細川も立ち上がって……間が悪そうにして……葉月をジッと見下ろした。

葉月も何故か『ドキリ』としたように表情を止めたので……

隼人は『?』と首を傾げた。

「澤村。将棋は出来るか?」

「あ……はい。父に教わりましたし……

フランスではダンヒル校長からチェスも教わりましたが……」

「丁度いい。相手してもらおうか? アメリカンには逃げられた

葉月では相手にならんしな」

「……はい。 構いませんけど?」

隼人は将棋にチェスなどはどちらかというと好きな方。

葉月と美穂が顔を見合わせて『ほ……』としたように微笑みあっていた。

中心のテーブルから離れたところに

一人用のソファーが向き合ったガラステーブル……そこに誘われて

隼人はポケットから眼鏡を出して、細川と向き合い将棋盤に向かう。

『ただいま〜』

ジョイがそっと……ドアを開けて様子を伺いながら戻ってきた。

そして……

『うわぁ……やっぱ、隼人兄捕まっちゃたか……』

『よくいうわよ。押しつけるように逃げちゃって』

大きなソファーから葉月とジョイが並んでヒソヒソと小声で話している。

『えっと……愛里、良く寝付いたよ』

ロイも気まずそうに戻ってきて……思った通りの光景が

部屋の隅で展開されているのにため息付きながら美穂の横へ……。

『でも。彼……まんざらでもなさそうよ?』

そう……もう、こんな話し声も隼人には聞こえなくなっていた。

「むむ。お前、上官に遠慮はないのか?」

細川が一時して唸り始めた。

「こうゆう事は、例え上官でも手加減しません。

無礼だと……ダンヒル校長から教えられました。

特に中将からのお誘い、勝負事を楽しむ物ですから……

相手にならないような相手なら、相手をつまらなくさせるなら断るべきと」

隼人の『こしたんたん』とした駒さばきに細川は

羽織の袖に手を入れて腕組み動きを止めてしまった。

「さすが……ミシェールオジキの側にいただけあるな?」

「ご存知なので?」

「当たり前だ。葉月の父親……亮介の知り合いは私もほとんど知っているしな」

(なるほど……)

「それにしても……」

細川も冷静そのもので……『パチリ』と駒を進める。

「良く来たな。 怖じ気づいて来ないかと思ったぞ」

「…………」

葉月の家族付き合いは『高官ファミリー』との付き合いと言うことになる。

葉月と付き合い始めたとはいえ……こんなにすぐに

こうして顔を見せに来る『一部下』の選択に細川は意外だったようだ。

「……彼女の……『普通』があるのじゃないかと思って……」

「それで。 どう感じた?」

「来て良かったです。彼女があんなに笑っているのは見たことありません」

「……。自宅でもか?」

「はい……勿論……部隊よりかは女の子らしいですけどね」

「そうか。それを聞いたら……フロリダのオヤジも喜ぶだろうな」

「……。僕なんてまだまだです」

「まぁ……頼んだぞ」

「!!」

駒を淡々と進める上官からの言葉に隼人は一瞬……硬直。

駒の戦局を見つめる『将軍』の顔を眺めた。

表情は変わらない固い顔なのだが……

その瞳には……やはり、葉月を心配している馴染みのおじ様の瞳。

少しばかり、哀しみを携えているようだった。

「ここに来たお前は……もう、ここのファミリーと一緒。

葉月の仕事ではなくて……仕事以外でもアイツを見守る一人になったと言うことだ。

ロイも美穂も……コレで安心しただろう……。

特に美穂は葉月のことを良く気遣っている。

軍隊にいるから日常では葉月とはなかなか顔を合わせられない。

同じ女性として男達に何かされてはいないかとロイにも良く様子を聞くそうだ。

葉月もな……皐月という歳が離れた姉が元々いたせいか……

美穂には良く甘えている。そんな間柄だ。

お前が来てからも、美穂は心配していた。『どんな男が来たのか』とね。

だから……今日ここで逃げていたら、お前……美穂には嫌われたかも知れないぞ。

美穂がさっき言っていた。 良い青年だと……だから安心したようだな。

いつもより……美穂も明るい葉月を見て楽しそうではないか?

実はな……私達も葉月のあんな姿は滅多に見なくてな

礼を言うぞ……葉月の少女時代は封印されたが……

それが少しばかり……解き放たれた気がした」

「いえ……僕は……」

「まぁ。今言ったことは……酒飲みじじいの『戯れ言』として聞き流してくれんか?」

細川が『ふぅ』とため息をつきながら……『パチリ』と一手。

そう、普段言えないことを酒のせいにして……

一人の女の子を気遣うおじ様……。

だから……隼人もその細川のおじ様心を尊重して余計なことを言うのは止めた。

そして……二人の男は盤の戦局に集中力を戻した。

(うう! 話聞いているうちにやられた!!)

でも……『負けないぞ』とこんな闘志に火がついたモノだった。

『パチ!』

「むむむ! お前。なかなかやるな!!」

細川がまた腕組み唸りだして、隼人は心の中では『ニヤリ』

(俺もこんな強い相手。久振り!)

『やりがいがある』と思わず『集中』してしまった。

向こうのソファーではそんな冷静で熱い男臭い『戦い』には

興味もないようで……

ジョイと葉月はまたグラスのワインを注いで肩を並べあって

本当に姉弟のように仲むつまじく笑い声を立てていた。

そんな若い二人と一緒に……金髪夫と黒髪女将も……

仲良さそうに寄り添って四人で料理を囲んで和気あいあいとしている。

「葉月!」

細川が急に叫んで……葉月がビク!と戦局場に振り返った。

何故かそんな声で呼ばれると『中将に呼ばれた!』みたいな

怯えた顔だったので隼人は笑い出したくなった。

「な? なに?? おじ様……」

「お前……随分、生意気な側近を見つけてきたな!

なんだ! この遠慮ない側近はぁ!!」

「なに? おじさん やられているの!?」

ロイとジョイがそっくりな声を上げて驚いて立ち上がった。

「だから……いったでしょう? いつもやられているのは私の方って」

「むー。 お前みたいなじゃじゃ馬には丁度いいかもしれんなぁ」

『パチ』

「あ!」

「王手だ。 まだまだだな。 ま、なかなか面白かったぞ」

細川にいつのまにやら『とどめ』を刺されて隼人はガックリ……

「参りました……」と、うなだれた。

細川も満足そうに立ち上がって伸びをした。

「いやー。いつになく本気になったら疲れた。

そろそろ……休ませてもらうぞ」

細川はそう言って、あくびをしながら美穂に案内をされてリビングを出ていった。

「お休み〜おじさん」

「お休みなさい……おじ様」

「お疲れ様でした……中将」

それぞれの若者達の挨拶に細川は少しだけ微笑んで去っていった。

(いいおじさんじゃないか……安心した)

甲板では恐ろしい程の眼光を放つ『鬼将軍』

そんな彼の隠れた男らしい優しさは……

葉月もジョイも……ロイも解っていて……

それで日頃は影ながら支えてもらって『感謝』している様が

伺えたような気が隼人にはした。

そして隼人も……

『かなり……強い味方なんだ』

そう……雷将軍に対してだいぶ……『尊敬の念』が沸き上がった時間だったのだ。

 

その大晦日、年越しの晩を……隼人は……

葉月の『少女らしい一面』を思い返しながらジョイと一緒に眠りに付いた。

次の新年も……フランク一家と細川に連れられて

島にある一番大きな神社に初詣に出かけて、また正月料理を堪能して……

夕方、葉月と供に丘のマンションに戻ったのである。

『あー! 楽しかった♪』

そんな葉月の輝く笑顔……。

『俺も……こんな賑やかな正月久振り……楽しかったよ』

心から、誘ってくれた葉月に感謝の笑顔をこぼした。

新年早々……葉月の輝く笑顔。

『今年も……より一層彼女が輝きますように……俺も輝けるように』

心の中でそう手を合わせて神社で祈った事を葉月は知らない……。

++ジョイと隼人のおまけ小話付++ ここ→