ストーリーX

「相手は?!」

『現在、艦隊に向けて進行中。魚雷発射体制にはいってます!』

「こちらと艦隊との位置は?」

『はい、丁度中間点です』

マイクが報告をする。

「作戦開始は?」

「いまです!!」

スティーブの答えに夏海は唇をかんだ。
作戦の内容はどうやら相手にばれていた用だった。
それで、潜入部隊を運ぶ船を静めようと。
いや、それだけではないかもしれない。
艦隊を完全に壊滅することを目的にしているかもしれない。
しかし、ここで、夏海は小さな違和感を感じた。
その違和感がなんなのかは、今は探れない。
だが、たしかになにかがおかしいと感じた。

『敵艦魚雷発射!二本、空母に向かっています。進路010!』

「そうきたわね!最大戦速!進路190!」

「か、艦長それは魚雷の…!」

「わかっているわよ!!進路190最大戦速!」

「…」

「スティーブ!はやく!」

「わかりました」

そうはいったもの、スティーブの目は明らかに、夏海の命令を信じてはいないものだった。
このままだと、自殺好意もいいことに魚雷に進路にまっしぐら。
自滅する。
しかし、艦長の命令は絶対なのもの。
従わないわけにはいかない。

「進路190!40ノットに加速」

「進路190!40ノットに加速、了解」

その命令に従い、シーウルフは進路を変え、魚雷に突っ込む形で突き進むことになった。

「チューブ1、2、魚雷発射用意!目標!敵潜水艦!」

「了解、チュ−ブ1、2、魚雷発射用意!注水外壁をあけろ!目標敵潜水艦!」

『魚雷接近!インパクトまで後15秒!14、13、12、11、10、9、8、7、6…』

「衝突警報!」

「衝突警報!了解!」

衝突警報がなり、乗組員すべてが来る衝撃に備えた。

『3、2、1インパクト!!』

乗組員すべてが息を呑み、サラとマイクはヘッドギアを外し目を硬くつぶった。
そして・・・・。

バキャ!!ガガガンン!ゴロン!!!ゴン!!

「え?」

皆がまっていた衝撃はこなかった。
ただ、鈍い、鉄がひしゃげる音しかしない。
スティーブ自身もなにが起こったのか理解できなかった。
だが、夏海はそんな彼にそんな事を理解する余裕を与えなかった。

「チューブ1、2発射!!」

「は?!」

「チューブ1、2発射!!はやく!!」

「は、はい!!チューブ1、2発射します!」

スティーブはすかさず、魚雷発射のボタンを押した。
それが魚雷発射管制室に赤いランプを光らせ、そこにいるものはいまなにがおきたのか理解もできず、発射スィッチを押した。

バシュ−ン!
バシュ−ン!

と先ほどの用に魚雷が二本発射される。
サラはほうけているマイクの前にヘッドギアを付けた。

『魚雷、正常に敵艦に向かってます!』

その言葉どおり、シーウルフから放たれた二本の矢は正確に敵潜水艦に向かっていた。
まさかのことで、相手は回避もできるわけがなく…。

ドーン!
ドーン!

メキメキメキャ!

二つの爆発音とともに鉄がひしゃげる音がした。

『敵!撃沈!』

マイクの報告とともにブリッジでは歓声が上がった。
ソナー室にいるマイクとサラが抱きあい、ほかの乗組員も、男女かまわず抱き合って喜びの声をあげた。
そこで、マイクはサラにたずねる。

「いま、どうなったんです?」

「うん?」

「いや、だから、魚雷…」

「ああ、それ。わからない?」

「うーん」

「じゃ、魚雷の目的はなんだった?」

「え?艦隊ですけど?」

「じゃ、答えはわかるでしょう?」

「う〜〜ん」

腕を組んで考えるマイク。
ふと目がソナースクリーンに向けられた。
艦隊の位置、自分達の位置、そして敵潜水艦の位置。
それをみて、何かが彼の頭の中でひらめく。

「え?まさか・・・。魚雷と艦隊の距離があれだけあるから・・・。安全装置が外れるまえに、突っ込んだ?」

ぱちぱちぱち。
サラに目を戻すと、彼女は小さく拍手していた。

「ぱんぱかぱ〜ん♪ せいか〜い!」

はは、とマイクは照れくさそうに頭を掻く。
しかし、彼はちょっと冷や汗を流していた。
こんなことをするには魚雷の安全装置の設定をよく理解していなければならない。
マイクはここで、今の艦長が女性でありながら、なぜ艦長の座に収まったかよくわかったような気がした。

ふぅ、と夏海はすべての精神力を使いはたしたのかのように腰をおろした。
そんな彼女をみて、スティーブはためらいながらも彼女の肩に手を置いた。

「やりましたね」

「うん」

「しかし、まさか、あの手を使うとは思いませんでしたよ」

「まあ…」

「皆、どうおもうでしょうかね?艦長がいま使った手はいつぞや、あのショーンコネリーが出演した映画の…」

「スティーブ、それ以上いったら貴方の命の保証はないわよ」

「わかってますよ」

と、苦笑しながら、スティーブは立ち上がった。
そして、自己嫌悪につかってしまう。
信じているはずの、自分の上司を一瞬にしても疑ったことに。

(あ〜あ、しかし、俺は飛んだじゃじゃ馬の副官になったものだ)

と、決して口にしてはいけないことをスティーブは心の中でつぶやいた。
敵潜水艦を撃沈。
これで、後は作戦がうまくことを祈って、というにはまだ早かった。
ドドンと鈍い音がしたからだ。

「なに!?」

『艦長!!護衛艦が一隻が攻撃を受けました!』

「なんですって?」

喜びの音はそれで一瞬にして消え、皆自分の持ち場に戻った。

「サラ!どういうこと!?」

『も、もう一隻敵がいます!』

「その型は?!」

『いま、解析中・・・・え?そ、そんな?!』

「なに?!どうしたの?」

『ど、同型艦です!ロスアンジェルス級です〜!!』

信じられないという顔で夏海はいまの報告を聞いた。
しかし、事態はさらに悪化した。

『まずいです!!もう一隻の護衛艦より、ヘリが発進!!!』

まさか。

『ヘリ、小型兵器を投下!』

その報告と同時にピコ−ン、ピコ−ンという音がし始める。

『魚雷着水!われわれを捕らえました!』

「相手の動きは?!」

『は、はい!漁船と見られるものに向かっております!!』

「まずい。最大戦速!カウンターメジャー用意!」

「了解!」

夏海の号令とともに、艦内の空気が一気に引き締まった。
まだ、おわっていないのだ。
いまの戦いで、相手とはかなり距離が開いてしまっていた。

「おとり?」

「おそらくそうでしょう。同じ型だったので相手が早とちりを」

『魚雷!着弾まであと40秒!』

「敵と接触までの時間は?」

『やく一分です』

「20秒の差ですか」

きついですね、というスティーブの言葉を聞かずとも、夏海にはそれはわかっていた。

『着弾まで後30秒!!』

「カウンターメジャー発射!上昇!」

「カウンタ−メジャー発射、上昇!了解!!」

その命令にしたがい、シーウルフの後部から小さな筒二本が発射され、シーウルフは急な上昇をかけた。
数秒後に筒は回転しだし、泡を放つ。
それが魚雷のセンサーを狂わし、筒が放つ泡に向かわせる。
魚雷も音を立てるものに向かう。
後部にカウンターメジャーという「おとり」出すことによって、魚雷に目標を失なわせることが可能なのだ。

『魚雷着弾にあと10秒稼ぐことができました』

「10秒…」

『しかし、このスピードで行けば、敵艦に魚雷を撃つ時間がありません!』

サラの声が内線を通じて事態を夏海は聞きとどめる。
ふぅと、大きく伸びをし、あくびまでも出す。
その様子をスティーブはまたしても信じられないというような顔で見る。
そんな彼に夏海はこういった。

「ね、あの映画、最後でどうなるか覚えている?」

「こ・・・!」

こんなときに何を聞いているんですか貴方は?!と叫ぼうとした。
しかし、夏海はそれを許さない。

「サラ、後どれぐらい?」

『は、はい、魚雷着弾まであと20秒、敵艦との接触まであと25秒です!』

「こちらとあちら、どちらが先に漁船に近づける?」

『え?あの、こちらですけど?』

「そう、わかった。スティーブ?進路変更020、深度300メートル」

「は?」

「聞こえなかった?」

「い、いえ」

「それじゃお願い」

な、何を考えているんですか?!とスティーブは叫びたくなった。
その進路だと漁船と敵艦のまっだなかに突っ込むことになるのだ。
まさかと思う時間はなく、スティーブその命令をジムに復唱する。
そして…。

『魚雷!後10秒です!!』

「敵艦は?」

『え?あ、あの?』

「サラ?」

『は、はい!!進路020!発射体制に入ってます!』

「了解!カウンターメジャー、および緊急浮上用意!」

もうやけくそみたのようにスティーブはその命令を復唱した。
そして…。
漁船を狙って相手の潜水艦は最高ともいえる位置についた。
指令がおり、魚雷を発射スィッチをおそうとしたその瞬間、そのまん前にシーうウルフが現れた。
相手のソナー班は悲鳴を上げて報告をした。
もちろん、相手の艦長もそのことに対して、発射を中止を命じたが、すでに時はおそし。
相手の潜水艦から魚雷が発射された。
そしてそれは、漁船ではなく、シーウルフを捕らえる。
それをねらい、シーウルフからカウンターメジャーが発射され、シーウルフはそのまま急上昇する。
いったいなにが起きたなのか理解できる前に敵艦に衝撃が襲った。
そして、その数分後、暗い地中海から巨大な物体が飛び出すとこととなった。
派手に水飛沫を立て、丸で空へ飛ぼうかと見える。
残念なこととも言えるが、めったに見えないこのシーウルフの姿をだれ一人見たものはいない。