ストーリーFin

「戦闘態勢解除」

「戦闘態勢解除、了解」

その命令と共に、艦内の光が赤から白へと変わる。
そして、沈黙が船内を支配する。
いまや、シーウルフは海上の上で停止したままだった。

「被害状況をお願い」

「了解、全部署、被害状況を報告せよ」

数分後帰ってきた報告によるとなにもないとのことだった。

「と、こんなところにいつまでもいるわけにはいかなら、潜行準備に入って」

「了解です、潜行準備!」

「潜行準備了解!」

命令が復唱され、船内は再びあわただしくなった。
とそのとき、夏海がブリッジを離れようとする。

「艦長、どちらへ?」

「うん、ちょっと反省室に・・・」

ジムにちょっと後をまかせ、夏海は「反省室」へと向かった。
しかし、彼女の足取りは本当の反省室がしたのほうではなく、上に向かっていった。
スティーブも彼女がどこに行くのかわかって、ついていく。
そして、二人が到着した、反省室。
潜水艦にある塔の上だった。

「ふぅ」

硬い鉄の端に身を寄せ、真っ黒の海を見渡す。
空には月がなく、星がきらきらと光っていた。

「作戦はまだ終わってませんよ?」

という言葉と同時に背中に厚めのジャケットがかぶされた。
ありがと、と簡単に礼をいう夏海の目はまだ何も見えない海のほうに向けられていた。
はるかの彼方に空母の光が小さく見える。

「またやっちゃった」

「いつもののことじゃないですか」

準備のよろしいことに、今度はコーヒーが差し出される。

「でも、今度は訓練じゃなかった、ほんものの戦闘よ。後先を考えず乗組員の命を危険にさらしたわ」

「しかし、今回はそのほうがよかったと思いますよ。あんな状態で後先を考えてはこちらがやられていたか、作戦は失敗してました」

「貴方も相変わらず、人を慰めるのがうまいのね」

「いつも、艦長を慰めてますから」

はいはい、と夏海はコーヒーに口をつけた。
その姿にスティーブは苦笑し、自分もコーヒーを喉に流した。
二人に沈黙が訪れる。
音といえば、彼方に鳴っているヘリの音とシーウルフの船体をなめる波の音。
その沈黙がいやになったのか、夏海は残っていたコーヒーを捨てた。

「さあ、行きましょうか」

「はい」

スティーブの答えに夏海は塔を降りる梯子に手をつける。
しかし、その手は止められ、いきなり、彼女の唇にちょっと硬い感触が押し当てられた。

「う”ん!!」

抵抗しようにも、しっかりと抑えられ、動けない。
やがて、抵抗を飽きられめたのか、夏海はスティーブに身を委ねた。
でも、それはほんの数秒のこと。
するりとスティーブの手から抜け、夏海は梯子を降りていく。

「今度そんなことしたら…」

「はいはい、命はないですね」

と「反省室」から降りる最中のいつものの小さな会話。
しかし、お互いの顔には小さな笑み。
艦長と副艦長の顔ではなく、それは…。
夏海の後を追い、スティーブも降りて二人はブリッジへ戻る。

「Captain on the Bridge!」

の号令が響いたときには二人の顔は自分の役割を果たすものと変わっていた。

「潜行準備、完了してます」

「潜行!」

「潜行、了解」

命令が復唱され、シーウルフは小さな唸り声をあげはじめた。
そして、ゆっくりとその身を黒い海へと沈めさせる。
海が荒荒しくその船体にぶつかるが、塔が消えた瞬間、海面は元の静けさを取り戻した。
その姿はむかし、日本という国で忍と呼ばれる隠密が木の葉隠れした後に生まれる静寂と同じものだった。

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