【隼人ダイアリー】 *** 月にウサギ ***

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月にウサギ 6月

 

6月5日
葉月と達也の仲違い?から暫く。平和な日常に戻った。
義兄さんも島暮らしに慣れてきたみたいだし。泉美さんの体調も落ち着いているようだし。
 
平和と言っても色々とあるわけで、そんな時こそ、どうしてか俺は苛々している。
特に葉月と達也! 終わった話で丸く収まったと俺も安堵しているけどな?
そんなに根に持つタイプでもないと思うしな?
だけど、あれだけこっちをヤキモキさせておいてな?
それはないだろうっ……と、脱力する瞬間もあるんだよ。
 
今日がそれ。  
この前は、俺が帰るなりキッチンで言い合いをしていた同期生。
今日は二人とも帰宅してすぐに顔を合わせたのか、キッチンのテーブルで香水を並べ『今年の夏はどれをメインにする』とか『達也はこれがいいわよ』とか『葉月はこれもたまにはいいんじゃないか』なんて、和気藹々と香水品評会をしていた。
それこそ『いつまでも少年少女のままの同期生』で微笑ましいはずなのに。
 
お前ら、許さんっ! 人をあれだけヤキモキさせておいて!
 
『お前の家は、あっち』と、今日は達也を追い出した。
二人とも、俺がどうしていきなり機嫌が悪いのか、ちゃーんと判っているようなので、これでもう許してやるさ。もう。

 

・・・*・*・*・・・ ・・・*・*・*・・・・

 

6月8日
どうしたことか。葉月が『マチェドニア』を作ってくれた。
フランスでは『マセドワーヌ・ド・フリュイ』と呼び、日本では『フルーツポンチ』ってところかな。
葉月が作るマチェドニアは、白ワインを使っているのが特徴。レイチェルお祖母様から登貴子お母さんへ、そして葉月へと伝わってきた『御園家妻の味』と言ったところだろうか。
それを子供達が寝静まり、二人で寝室に落ち着いた時。『いっしょに食べましょう』と持ってきた。
『暑くなってきたわね』
そうだな――と、俺。
まあ、だいたい。季節柄そういう言葉はかわすもの。この前も俺の日焼けした腕をみて葉月は『貴方のその腕の日焼けを見ると、あー、夏が来たのねーと、いつも思うのよ』と言ったように。
いろいろあるけど、『季節の繰り返し』を感じると、俺達またこの季節を迎えられたとか、夫妻でいられたと実感できる。
『マチェドニア』も、きっと俺達夫妻の間にある季節のひとつ。
この妻の過去、いろいろあっただろうけど。いまは一緒に夏を迎える『マチェドニア』を黙って食べる夕べを過ごしている。
それでいいんじゃないかな。

 

・・・*・*・*・・・ ・・・*・*・*・・・

 

6月11日
同期生の二人が、『今年の夏のメイン香水』なんかを決めていたので。俺もちょっと気になってクローゼットを確認する。
俺はそういうトレンドはあまり気にしないので、『気をつけないと』たまに自分でがっかりしてしまうことがある。
右京兄さんに相談しようかな。俺らしくて、俺が気に入って、御園の男らしいのを。
結婚前は無頓着で必要ないと思ったけれど、今は無頓着ながらも、こうして自分のものを見つけることは嫌いじゃない。
でも義兄さんには絶対に相談したくない。
(達也は皆無、趣味が違いすぎる)

 

・・・*・*・*・・・ ・・・*・*・*・・・

 

6月17日
鎌倉から右京兄さんとジャンヌ姉さんが遊びに来た。
すっかりフラワーアレンジメントが板に付いた従兄さんは、お土産にかならず花束を女性達に持ってくる。
葉月は勿論、泉美さんもとても喜ぶし、八重子母さんも感激している。
「私、市場に行きたい」というジャンヌ姉さん。葉月と泉美さんが『女同士で買い物よ』と、八重子お母さんも一緒に連れて出かけていった。
その後、早速。右京兄さんにクローゼット診断をしてもらう。
雑誌を見て二人でどれがよいか一緒に悩んでくれる右京兄さん。
「でも。兄さんのその香り、けっきょく変わらないですね」
葉月がいつも「従兄様の香りがした」というお馴染みの匂いが今日も。俺もすっかり嗅ぎ分けられるようになってしまって。
「隼人も、普段の俺はこれっていうのを見つけられたらいいな。性格と雰囲気に合わせるんじゃなくて、自分が好きな匂いを見つけるんだ」
「お兄さんのその匂いが、お兄さんのお気に入りなんですが」
『そうだよ』と右京兄さん。
なるほど、と唸る俺。
飾る意味じゃなくて、自分の為ってところなのかな。でもそれが『その人らしい』ってなっていると一番なんだよな。きっと右京兄さんのその匂いが、既にそれなんだ。
いくつか選んだ後、右京兄さんが『本島に帰ったら見繕って、送ってやる』と言ってくれた。
あと、今年は何を買い足せばよいか服も少し相談。
今日は女同士で買い物に出かけたけど、俺と右京兄さんは今度本島に出かける日に約束して、男同士で買い物をする約束をした。

その夜、ジャンヌ姉さんが腕をふるって夕飯を作ってくれてた。またキッチンは女のにぎわい。
夕になると、義兄さんもロイ兄さんも右京兄さんに会いに来てくれ、うちの庭は達也も含め『男論議』の話に花が咲く。でもそれだけじゃなく、他愛もない話も。
「この島のキャンプに住んでいた頃の、ジャンヌの家の冷蔵庫。冷凍ピザしかなかったんだぜ」
だいぶ昔の話を右京兄さんが話し出す。
「アメリカキャンプには、独身隊員の食事をサポートするために食堂があるからそれで済ませていたんだろ。産科医は休みがないんだぞ。しかもこの離島で島民も合わせて看てくれていたんだから」
と、ロイ兄さん。
「わかっていたけどさ。結婚前から料理していなかったからどうかと思ったんだけど」
そこで、ロイ兄さんと義兄さんが一緒にニンマリ、『のろけるな、のろけるな。この野郎』と騒ぎ始めた。
「なんだ。右京の嫁さん自慢が結論か」
純兄さんが呆れ顔。冷凍ピザのふりが結局最後は、奥さん自慢になっている――。
というのも。
『隼人くーん』
呼ばれて、俺もキッチンへ。エプロン姿のジャンヌ姉さんが待っていた。
どうしたんですか、義姉さんと返すと、あのクールなジャンヌ姉さんがとっても興奮した顔。
「すっごい懐かしいオリーブオイルがあってびっくり。これ、使ってもいい?」
「ああ、それ。マルセイユのママンのところから取り寄せたんです。俺、その味が馴染んでいるんで」
「もう、すっごくびっくり。私もマルセイユに住んでいたことがあるから。子供の頃を思い出しちゃったわ。私の母もこれを使っていたの!」
あの姉さんが頬をほんのり染めて興奮気味だったので、葉月もちょっと驚いていた。
「隼人君にも懐かしい魚料理、作っているのよ。待っていてね」
同じ南仏の味に馴染んでいる同士。
ジャンヌ姉さんの家庭料理は懐かしい味。右京従兄さんが自慢したくなるのも判る。姉さんも料理上手。南仏料理をこの島で振る舞うと、皆が喜ぶ。
昔は南仏にイタリア南部で暮らしをしていた兄さんも、ジャンヌ姉さんが料理を振る舞うと『懐かしい、美味い』からと、こうして食べに寄ってきてしまうほど。
姉さんは今、鎌倉の留美叔母さんの手ほどきで和食を勉強中。これもなかなかの上達ぶりらしい。
右京兄さんが、昔なじみの兄さん達につい自慢したくなるのも頷けてしまう。
俺もジャンヌ姉さんのご馳走は懐かしい味。でも……そうなると、マリーの料理が恋しくなるから困ってしまう。

 

・・・*・*・*・・・ ・・・*・*・*・・・

 

6月20日
久しぶりに甲板に出て、あれこれデーターを取ったりした。
俺が結成したビーストーム専属のメンテチームが丁度、ビーストーム機を整備しているところだった。
久しぶりに会ったせいかな? トリシアがめっちゃ色っぽい女の子、違う、女性になっていてビックリした。
「御園中佐、お久しぶりー」なんて日本語も流暢。
「最近、どう」と聞くと、「ホワイトの整備をしたいから研修に回してください」と言われた……。
いえ、オフのプライベートはどう?って聞きたかったんだけど。仕事の話を持ってこられてびっくり。でも、マリアが見つけた女の子らしいし、葉月が大好きなトリシアらしいし、やっぱマクガイヤ大佐のお嬢様だなってところか。
でもよく見ていると? エディと話しているのが目についた。
こっそり。キャプテンを任せたディビットに聞いてみたら。
「さあ。良くわかんないんですよ。俺から言わせたら、どっちも飛行機大空馬鹿で平行線ってところかな」
「山場もないんだ」と心配してみたら、見事に「波風なしの良き同僚ってところですね、今は」だって……。「でも良く一緒に本島に行っているみたいですよ」とのこと。
エディはともかく。トリシアを引き抜いてきた先輩として、ちょっと気になってしまった。
トリシアのパパ、マクガイヤ大佐にはとーってもお世話になっただけに。娘さんのこと、心配しているだろうなーとか。まあパパとママの住まうキャンプが側にあるので、そこにも良く帰ってはいるらしいから側にいるだけ親としてはまだ安心なのかも。
でもエディもトリシアもすっかり親日家。本島に出かけては、日本らしい観光名所に足を運んで堪能しているとのこと。
『進展あったらこっそり教えて』とディビットに頼んだから、『何年後ですかね、それって』と返されてしまった……。
引き抜いたけれど、祖国に帰った者もいる。それぞれの道へ、ステップのために。送り出した俺の元チームメイトはいまどうしてるだろうか。

 

・・・*・*・*・・・ ・・・*・*・*・・・

 

6月25日
6月最後の日曜日。すっかり夏日和の小笠原。
今日は、チビ達と達也一家と共に浜辺へピクニック。
泉美さんと八重子お母さん、そして葉月が作った弁当でランチ。
ダメ元でたまにはどうだろうかと、『細川のおじ様も一緒にどうですか』と誘ったら、釣り竿片手に来てくれた。
細川のおじ様は一人暮らし。たまにはこうして賑やかな輪に入ってもらおうと気にかけている。ロイ兄さん一家はもう愛里が大きくなってしまったので、こうしたファミリー的行楽が減ってしまったようなので。
八重子お母さんもいるので話し相手には、老年同士困らない様子。
それに俺も達也も。最近、島暮らしの男衆になってきたのか『海釣り』に興味を持ち始めていた。
おじ様が持ってきた釣り竿とか、仕掛けとか、どうやって釣るとか聞いていると、けっこう奥深い。
今度、仕事帰りに達也と一緒に釣具店に行こうなんて話になってきた。
「純一も始めるみたいだぞ。『なぎ』の将さんと気が合うみたいだ。同年代の独り身男、通じるものがあったんじゃないか」
それを聞いて、『俺達もやるぞー』みたいになってきた。
 
波打ち際では、チビ達がママ二人と砂遊び。暑いのでもう、裸っぽになって、一丁前にキッズ水着をママ達に着せられて水辺ではしゃいでいる。
「わーーわー、葉月ママがいなくなっちゃったっ」
三歳になった晃の大声に、俺と達也、細川のおじ様も揃ってドキリと表情を固め、波打ち際へ。
「ママー、ママー!」
「まま、ままっ」
チビ兄妹の海人と杏奈も波に向かって叫んでいる。
本当にそこには一緒にいたはずの葉月がいなかった。
「どうしたんだ」と達也。
すぐさま立ち上がったのは危機には素早い反応が身に付いてしまっている達也パパ。
だけど、葉月と一緒にいた泉美さんがクスクス笑って余裕顔。彼女が波の向こう、沖へと指さしている。
それでも波ばかり……。しかしそのうちに、俺も達也も悟った。波打ち際には、デニムパンツが脱ぎ捨てられていたから。
「あー、いた。いた! 葉月ママーー」「ママ、ママだー」と子供達が沖合を見て大騒ぎ。
波間から手を振っている葉月。でもまたその頭が水面から消えてしまった。
また子供達が「いなくなった」「どこ!」と落ち着きなくなる。
しかも潜っている時間、長くないか? 俺までハラハラしてきた。
「やっぱ訓練してきた身体ってことだな。もうちっと潜っていられると思うな。俺はもっと潜れる」
隣の達也がそわそわし始めた。共に張り合ってきた同期生、しかも向こうは年下のお嬢ちゃん。いつまでも潜っている海軍女のなす技に、自分も出来るといてもたってもいられなくなったよう。
ていうか。潜りすぎ。出てこい! と思った途端。子供達の目の前、かなりの浅瀬からザバッとティシャツ水着姿の葉月が突如出現。すげー、そんな浅瀬まで静かに泳いで近づいてこられるなんて、海兵隊か! ほんとお前、どんな特別訓練受けてきたのかよと旦那の俺も改めてビックリ!
旦那の俺が驚いたんだから、もうビックリした子供達が大騒ぎ。驚いた後は興奮状態で大喜び。
しかもその手に何かを持っている。「貴方達におみやげ」。葉月の手には、貝殻が三つ。少し大きめ。貝殻の裏がキラキラと虹色に輝いているもの。
それを晃と海人と小さな杏奈に一つずつ。それを三つ集める為に長く潜っていたということらしい。もう絶句。
でも子供達はもう日射しにおめめをキラキラさせてその貝を太陽にかざして大喜び。「ママ、すごーい」。
そう言われた途端、今度は達也パパが海の中に飛び込んでいってしまった。
もう本当に負けん気強いなあ……と俺は苦笑い。
ずぶ濡れになった葉月が息を切らしながら、俺のところに戻ってきた。
傷があるから晒さない上半身の肌。でも、葉月は子供が生まれてから子供達と遊ぶために、水着を着て浜辺に出るようになった。でも、その上にティシャツを一枚着るのは必須。
「やっぱり十年前みたいにできない」
ぜいぜいと息を切らしながら俺の横に座り込んで、俯いてしまった。
「張り切りすぎだ」
クーラーボックスにあった水を出してあげる。それをごくごくと飲むんだけど……。太陽の下、びしょ濡れのティシャツを肌にぴったり貼り付かせ、青いビキニの水着が透けているのは……水着だけよりなあ……ちょっとえっちだなあなんて。俺はけっこう、ドキドキしていた。
タオルで栗毛を拭く葉月が『貴方にもね』と。ティシャツの下、ビキニのブラジャーの胸元に手を突っ込んで、乳房に忍ばせている何かを俺に出しだした。
そこには小さな巻き貝。俺にも? 妻が日射しの中頷く。
「ちょっと頑張っちゃった」
嬉しいけど。嬉しいけど。お前、無茶すんなよ。パイロットとして肺を酷使すること慣れているかもしれないけど。完全じゃないからコックピット降りたのに。
でも、俺、すっげー嬉しかった。
たぶん俺、今夜、かなり我慢できなくて燃えちゃうんじゃないだろうか。と思って、本当にその通りになった。

 

・・・*・*・*・・・ ・・・*・*・*・・・

 

6月30日
今月もあっという間だったなあ。
もう夏本番。
仕事帰り。丘のマンションに住むようになった義兄さんを訪ねに行ったら、管理人夫妻息子であるリッキー兄さんも父親のロバートのところに遊びに来ていて、愛車のジープを洗車しているところだった。
「いいなー。俺もいつか自分の車欲しい」と羨ましがると、「今からキャンプのマーケットに買い物をしに行くから、運転してみるか」と言ってくれた。
そのジープを俺が運転して、助手席には制服姿のリッキー兄さん。
目線が低い葉月の愛車や、俺のファミリー向け愛車と違って、車高が高いので走っていてもすごい感覚が違う。でも快速最高。夕暮れの海岸沿いを走った。
夕暮れのキャンプマーケットで、俺もあれこれ買ってしまう。
リッキー兄さんは何をしているのかと見てみたら。いろいろな隊員と話しているところ。女性男性構わず、リッキー兄さんから声をかけたら皆が気の良い笑顔で立ち止まる。
意外だな。基地ではやり手のナンバーワン秘書官だけれど。こういうところで気さくな姿を見せているのかなと思った俺。
最後に綺麗な女の子と長話しているところがまた流石――というか。
リッキー兄さんの本命ってどんな女性になるんだろう? 想像もつかないな。

 

 

 

 ■久しぶりの隼人日記でした^^; また気が向いたら日記の7月から♪

 

Update/2011.4.27
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