* ラブリーラッシュ♪ * 

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25.君には勝てない

 

 その日、ボスのブラウン中将は非常に落ち着きがなかった。

「マイク。もう業務も全て片づいた。帰っても良いのではないかなあー」
「駄目ですよ。将軍。あと三十分我慢してください」
「マイクなら、三十分くらいなんとかなるだろう? 誤魔化しの天才ではないか」

 なんと。一番側近の部下に、しかも『義理息子』になった男に、なんとも不名誉とでも言いたくなるような言い草に、マイクは眉をひそめる。

「それではペテン師のジョイにお任せしては如何ですか」
「はあー。融通の利かない婿殿だね。もうマリアが帰ってきている頃だと思うのだがね。久しぶりの外出で、母親のマドレーヌとショッピング三昧でもしているのではないかと気が気じゃない。なんだい。あの娘は。妊婦になって少しは大人しくなるかと思ったら……」

 前にも増して元気で困るとか、安定期に入ったらマタニティスイミングに通うとか言い出した等々、父親の愚痴が延々と続いた。
 口数少ないはずのリチャードが、こうも心配そうに口を忙しく動かせるのも珍しいが、ここ最近はずっとこの有様だった。とはいえ、マイクも妻のそんな様子は心配しているのだが。

「お義父さん。いつも言っておりますよね。彼女には振り回されないよう、毅然と強気で向かわねばいけないと。弱みは見せてはいけないのだと。お義父さんが私に結婚式前夜に教えてくれたのですよ」

 婿が諭す言葉に、それを教えた本人であるリチャードが『そうだった』と頭を抱える。

「だからだよ。マイク。フェニックスの家で私が怖い顔で待っていないと、あの子には効き目がないんだよ」
「それもそうですね……」

 元気な新妻様は、結婚した後などは旦那様の怖い顔など前よりへっちゃらになったご様子。
 マイクは少し、後悔している。『マリー。君の勝利だよ』なんて降参した事を。
 だからなのだ。そのぶん、跳ねっ返りの娘を怖い顔でコントロールしているのは今のところ、このパパだけだった。マイクもすっかり頼ってしまい、パパには上司以外にも頭が上がらないと言う……マイク=ジャッジ中佐、不覚の日々を送っていた。

「それでは。帰りましょうか。ジョイとロビンがいますからなんとかなりますでしょう」

 結局、マイクも心配で堪らないのだ。

 小笠原から帰国した後、年が明けて直ぐにマリアと結婚式を挙げた。
 二度目である彼女の気持ちも考慮して、家族だけでささやかに催した。
 カンザスから親兄弟も出てきてくれ、フェニックスの家でパーティーをして家族の親交を深めた。特にカンザスの父と母は大喜びだった。
 そんなささやかな結婚式の報告を、小笠原にもメディアで送ったところ、あちらの御園ファミリーから、亮介や登貴子を含めた『お祝いメディアレター』が届いた。
 そこで久しぶりに目にする事ができた御園のパパとママは、二人揃って泣きながらのメッセージ。マイクも熱いものが込み上げた。その後に続く純一や御園若夫妻からのメッセージには驚く報告があった。なんと『うちにも新しい子供ができました』という知らせ! マリアと共に驚きまたお祝いのお返しをしたり、小笠原や横須賀のファミリーとも頻繁にコンタクトをとっている。

『すっごーい! 葉月の二人目の子と、私の子! 同い年になるんだわ!』

 葉月とはすっかり姉妹だと豪語するマリアは、自分の子供も兄弟姉妹のようにするのだと、今から大張り切り。
 近所にはジョイの家庭がある。ジョイ一家にも第一子が無事に誕生。マリアはジョイの自宅にも良く通い、先輩ママのグレースとママ交流を深める毎日。
 そんな具合で、とにかく元気で、とにかく賑やかで。とにかく前以上にパワフルで……。それがまた見ていると危なっかしいばかり。ハラハラしているのはマイクだけじゃない。このパパがマイク以上にハラハラしている毎日。母親のマドレーヌを、フェニックスの家に監視のお目付役に送り込んでいるぐらいだ。

 だから、とても静かで物腰柔らかい落ち着いた将軍様であったのに、近頃はマイクよりもパパの方がこんな具合だった。

「マイク。以前、君にシビアに流さない男だった事に遺憾だと、私が言った事は忘れてくれ」

 なんとか理由を付けて将軍退出を取り付けてきたマイクに、リチャードはそう言った。
 パパはいそいそと上着を羽織って、マイクをお供に帰る準備。マイクもちょっと苦笑い。

 だがそんなパパと気持ちは一緒の為に、マイクもジョイやロビンに『すまない』の挨拶をして秘書室を出た。
 しかし秘書室の誰もが、新婚のマイクを温かく見守ってくれている。特に、妊婦になっても秘書室長を振り回しているマリア嬢、しかもボスのお嬢様のお馴染みの元気には、もう秘書室の誰もが認めているところ。誰もマイクやリチャードを責める事などはなかった。むしろ彼等はいつも可笑しそうに笑っている。マイクはパパと一緒に笑われてしまう日々だった。

 

・・・◇・◇・◇・・・

 

「さて。帰っていなければ、お説教だ。怖い顔で待っていなくてはいけないねえ」

 フェニックスの家に到着すると、リチャードはいつもの優しい顔をしつつもそんな気構えを整えていた。
 しかし、二人共に庭からリビングの窓へと向かうと、そこからは元気なマリアの声が聞こえてきた。どうやらちゃんと帰宅していたようで、リチャードと共にほっとした顔を見合わせたのだが……。

「もーもー! 信じられないっ。マイクが帰ってきたら、ただじゃおかないんだからーーー!」

 安堵したのも束の間。そんな文句が聞こえてきて、マイクはぎくりとそこで固まってしまった。──回れ右をして帰った方が、秘書室に戻った方が平和かもしれないとマイクは退散したくなった。
 しかし近頃良くこの家にやってくる義母のマドレーヌが、そんなマイクを見つけてしまう。

「あら。パパ、マイク。お帰りなさい。ご一緒だったのですね」

 優しい笑顔のマドレーヌには、マイクも弱い。
 この穏やかなパパに、しとやかなママ。どうやったら、こんなに元気いっぱいな突撃娘が生まれるのだろう?? と、思うぐらいにマリアの両親は共にやんわりしている。しかし確かに、マリアの髪の色はリチャードのものだし、美貌はマドレーヌから引き継いだものだと一目で分かる。
 その元気なお姫様が、丸く突き出たお腹をさすりながらソファーにでんと座っていた。そんな彼女と目が合う。

「マイク!」
「ななななんだい。マリア」

 今日の剣幕はなんの突撃の前兆かと、マイクはおののいた。
 しかしマリアは少し突き出てきたお腹を撫でながらソファーを立つと、そのままマイクがいる窓辺まで『おかえりなさい』と優美な笑顔を見せながら、やってきてくれた。

「貴方。お疲れさま」

 奥様からのお帰りのキスに、マイクはそれだけで笑顔に崩れてしまう。

「ただいま。マリー。今日の検診はどうだったかな」

 リチャードパパが今日は直ぐに帰りたいと言っていたのも、その検診がある日だからだった。
 出かけついでに、どこかに行ってしまうことが続いた為、かなり警戒していたリチャードとマイクだったが、今日は大人しく帰宅してくれていたようだった。
 マイクも柔らかいお帰りのキスをしてくれた奥様に、同じように愛を込めたキスを返したのだが──。また毎度の如く、こちらが甘くなった途端に、彼女に突き飛ばされた!

「マ、マリー?」

 そのマリアが仁王立ちでマイクを睨んでいる。
 え? 本当に本日はどのようなことでお怒りなのでしょう?? マイクの唖然としている顔を見下ろすマリアがついに吠えた。

「マイク! 貴方の家族構成をきっちり教えてちょうだいよ!!」

 家族構成? 結婚をして、カンザスの家族とも対面したのに今更何故?
 しかしマリアは容赦なくマイクの襟首を掴んで、向かってくる。

「貴方の親兄弟は分かっているわよ! その他よ、その他!!」

 その他? 訳が分からないまま、マイクは言われたとおりに、親兄弟をはみ出たところから呟いてみる。

「父の兄弟は兄が二人。実はこの二人は双子で……」

 と言った途端、マリアが『そこだわ……』と卒倒しそうな仕草で額を抱えた。
 そんな妻を見て、マイクはハッとしてマリアのぽっこりと膨らんでいるお腹を思わず触ってしまった。

「ま、まさか!」
「そのまさかよ! ここに二人いるって今日、判ったの!! ベビーリングがもう一つ必要なの!」

 マイクは隣にいるリチャードパパと顔を見合わせ口を揃えた。

 

「ツ、ツインズ!?」

 

 茫然としている間に、マイクより先にリチャードパパがよろめいていた。

「よ、よりによって……ツインズ……。孫が二人???」

 力無く上がり口に座り込んだリチャードパパを見て、妻のマドレーヌが可笑しそうに笑い出す。

「あら。いっぺんにお産が済んでいいわ。賑やかになるでしょうし」

 しかし、マイクの衝撃はまだ達し終わっていない。

 ツインズ。ツインズ。マリアの中に、二人のベビー!?

 それがどういうことか脳に達した時、きっと力無く座り込んでしまったリチャードと同じ心境になったとマイクは思う。
 マイクはそこでやっと、妻のお腹を震える指先でさしてみる。『なんとかいいなさいよ』と仁王立ちで構えている妻に夫は呟いた。

「き、きみ……きみのような子が、いっぺんに二人!?」

 嘘偽りのない本心。 
 だがやはり、マリアが沸騰した。

「ど、どういうことよ!! 貴方のような子かもしれないじゃない!! それに私に似た子が二人だとどうして困るのよ!!」

 もう言葉も出てこないマイクは、ただ首を振るだけ。
 やっぱり駄目だ。マリアには勝てないんだ。彼女はほんっとうに毎度やってくれる爆弾だ!

 そしてマイクの目の前に、鮮やかな光景が見えていた。

 

『パパ!』
『パパ!』
『貴方!』

 

 金色の奥様と金色のキッズが二人。
 三人が揃って、マイクをドタバタと騒々しく取り囲む光景を!

 もう一生、彼女達には勝つ事はないと言う完膚無きまでに平伏すような降参をこの日噛みしめた。

 しかしもっと勝てない敗北の要因がある。
 幸せそうな金色の笑顔で、今度はその力一杯に抱きついてきてくれる奥様。これがなんとも……。

「うふ。でも、私、嬉しい! 二人とも頑張って育てるわ!」

 いつも元気でキラキラと輝いているマリア様。そんな彼女がマイクを驚かせては楽しませてくれる。

 結局。この金色に全てやられているのだ。
 マイクも笑顔で金色の彼女を抱きしめる。

「マリー。俺も楽しみだよ」

 クリスマスにマリア様の仕業で、マリアのお腹の中に宿った子は、やはりダイナミック。
 流石のジャッジ中佐も、勝てる訳がないのだ。
 彼女にはマリア様のご加護があるようなのだから──。

 

 しかしこの時マイクは、心の奥でそっと『男でありますように』と何故か願ってしまった。
 それは一生、内緒の話。

 

・・・◇・◇・◇・・・

 

 双子は男の子? 女の子? どっち?

 某日。小笠原──。
 いつも青い海が見える小笠原のカフェテリア。
 近頃、若い者が増えたせいなのか? とても騒々しい名物が誕生していた。

「あんたは私の天敵よ!!」
「それはこっちのセリフだあっ!!」

 金茶の美しい髪を振り乱してまでカフェテリアの真ん中で吠える美女。
 そしてそれを真っ向から受け返す黒髪の青年。
 二人が額を付き合わせる。

 今、カフェはランチタイムが終わったところで人もまばらだが、二人の声はホール中に響き渡った為、誰もが二人に振り返る。

「だいたいね。あんたの父親はうちのママを裏切って小笠原に逃げた男なのよ!」
「お前、よーく考えろよ? それがなかったら俺は海野晃でもなかったし、お前はジャッジ大佐の娘でもブラウン元大将の孫娘でもなかったんだぞ」

 つまり、『お前の母親と俺の親父の離婚がなければ、俺達は生まれていなかった!』。
 黒髪の青年『海野晃』の堂々とした結論に、向かう美女『モニカ=ジャッジ』は一瞬怯んだ。
 しかしそこで負ける『マリア=ブラウン工学少佐の娘』ではない!

「それはそれ。これはこれ! あんたにはぜえええったいに負けない! 葉月おば様の秘書室に選ばれる新人秘書官は私よ!」
「んだとっ。俺の方がお前より先輩なんだぞ。下積みもしていない秘書官候補生がなにほざく! 俺なら准将のこと、手に取るように分かるぞ。なんたっておふくろさん同然だもんな!」

 周りにいるお姉さま隊員からの白い目、そしておじ様隊員からの呆れた溜息。
 だが二人には一斉見えていないし聞こえない。毎度の事なので、この基地では既に呆れられている秘書官候補生の二人。
 しかしお構いなしの二人の言い合いは続く。

「ふん。私はね。あのジャッジ大佐の娘よ。フロリダ本部基地、最高の秘書官の!」
「ふん。俺の親父だってフロリダで秘書官だったよーだ」
「少将の秘書官を数年でしょ〜。それだけじゃない〜」
「なんだと。お前の祖父さんの秘書官だったんだぞ! 祖父さんの部下をバカにできるのか?」
「なにいっているの。私のパパは御園のお祖父様も、ブラウンのお祖父様も、両方補佐してきたのよ」

 などという、若い自分達とは関係のない範囲での張り合いに先に気が付いたのは、やはり先輩格の晃。──『親父のキャリアなんか、関係ねえ!』と彼が吠える。それは対するモニカも我に返ったのか、一番言ってはいけないことで張り合っていた事に気が付いたようだ。

「い、今の。パパとママには内緒にして」
「どーしよーかなー。そういえば、マイクおじさんもマリアおばさんも、親のキャリアを盾にする事、すんげー厳しいもんなー」

 天敵にお願いとすがる天敵女。
 勝ち誇った顔になる天敵男。そして一瞬しおらしくなっても、一歩も譲ってくれない天敵男に業を煮やした天敵女が再び『きーっ!』といきり立つ。
 さあ、また業火応酬の言い合いが始まると、周りが構えた時だった。

「貴方達、なにやっているの」

 晃のジャケットの襟首も、そしてモニカの襟首も、同時に引っ張り上げられる。
 その声が誰だか判った二人は『ひい』と震え上がった。
 振り返るとそこには金髪青眼のきりっとした女性が立っている。

「愛里お姉さま」
「愛里姉ちゃん!」

「違うでしょ。ここに貴方達のお父様もお母様も、お姉様もおりませんよ。フランク少佐と呼びなさい」

 麗しい金髪の髪をきっちりと結い上げている青い目のお姉さまは、元小笠原連隊長ロイ=フランク中将の長女。
 モニカや晃よりずっと年上の。しかも現小笠原連隊長室の秘書官を務めている。当然、秘書官候補生の二人にとっては大先輩。しかも幼い頃からの憧れのお姉様だ。このままいけば、彼女はそのうちに連隊長秘書室の初の女性秘書室長になるのでないかと噂され、そこは父親譲りの才覚ともてはやされている。

 このカフェで騒ぐと、毎度、このお姉さまに捕まり、二人は懇々と説教をされる。酷い時には、業務にも復帰させてもらえない謹慎一歩手前の『お仕置き部屋』へと、雑務だけで閉じこめられてしまう事もある。
 だから二人の口はぴたっと止まった。

「家族親類を持ち出して張り合うだなんてみっともなくてよ。フロリダ秘書官長のお父様や、おば様の准将の格を落としたいの?」

 父親そっくりの冷めた青い目で射抜かれた坊ちゃん嬢ちゃんは、ぶるぶると首を振った。

「喧嘩なら、屋上でしなさい。今度ここで騒いでいるという『通報』がきたら、迷わず謹慎だと連隊長も言っておりますからね」

 二人は揃って『もうしません!』と叫んだ。
 しかしここで、愛里フランク嬢は、騒がしい天敵同士の嬢ちゃん坊ちゃんを釈放しつつも、その周りにいる青年とレディを一人ずつ見つけて溜息をこぼした。
 晃の背後の席には、栗毛の若いパイロットが一人。分厚い書籍を読みふけっている。モニカの背後にも、同じように本を読みふける眼鏡をかけた金茶毛のレディが一人。その二人に愛里は声をかける。

「海人にエリカも、どうして止めないの」

 やっと二人が顔をあげる。愛里に呼ばれて初めて気が付いたと言わんばかりの二人の顔。

「あれ。愛里姉ちゃん。どうかしたの」
「愛里お姉さま。お疲れさま」

 愛里はのんびり悠然としている二人にも溜息をこぼした。
 海人にとっては晃は兄同然だし、エリカにとっては、モニカは双子の妹だ。生まれた頃から常に一緒にいたというのに、どちらも本当に対照的なことと愛里はいつも思う。

「海人とエリカが止めなくてどうするの?」

 だが二人も口を揃えた。

「止めたよな。エリカ」
「ええ。止めたわ」

 さらに二人は揃える。

「それで終わらなかったから諦めた」
「いつものことだもの。ねえ、カイ」
「だよな。エリー。この騒音、俺達にとっては日常だもんな」

 こちらの二人も二人だわと、愛里は呆れてしまった。
 御園・海野家の青年二人に、フロリダからやってきた秘書官候補生と工学科生の対照的なツインズレディ。そして時々、愛里フランクお姉さま。
 二世、三世、四世隊員達は、親の背を追ってまた小笠原で活躍中。

「そうだわ。貴方達聞いた? 杏奈がもうすぐフランスから帰ってくるみたいよ」

 先ほど、父親の御園大佐がウキウキと廊下を歩いているところに遭遇した愛里が挨拶をしたところ、そんな情報をゲットしたのだ。
 それを杏奈にとっても兄弟姉妹というべき四人に報告。勿論、四人はわあっと明るい笑顔を揃えた。

「わあ! 杏奈の生演奏が聴けるだなんて最高!」

 モニカが毎度の賑やかな声で騒ぎ立てる。
 しかし対照的なエリカも、ここでは双子の妹に負けない輝く笑顔を見せた。

「本当! この前リリースしたチェロで聴くカバー集は最高だったわ!」

 だがここで、海人がちょっと困った顔。

「落ち着け、双子! ということは、親父のあの下手くそなピアノが……」

 最後はやっぱり賑やかな兄貴分の晃が大声で騒ぐ。

「ピアノ、ピアノ……! ピアノを封印しないと、また隼人大佐のとんでもないピアノを聞く羽目になるぞ!!」

 そしてここではずうっと年上のお姉さんである愛里も溜息をこぼしてしまうのだ。

「うちの隠居パパも、妹分の葉月おば様のヴァイオリンには敵うはずないのに、年寄りの負けん気なんか出して、下手くそなヴァイオリンを披露したがるしねえ……」

 変な音楽会が始まらないよう阻止しよう!
 次世代を疾走し始めた子供達が、そこで一致団結してしまう。

 フランク、御園、そしてブラウン。御三家ファミリーは今でも軍隊を賑やかに彩っていた。

 

・・・◇・◇・◇・・・

 

 白浜の砂をやさしく撫でる渚の潮騒。
 その音は昔から変わらないと、庭からフェニックスを見上げる夫人は微笑んでいた。

 リビングには優しいチェロの音。
 娘達と姉妹のように育った姪と言っても良い女の子が弾いているもの。しかしステレオから流れている音だった。

「いいわね。杏奈のチェロ。ねえ、マイク」

 金茶毛の夫人は、新聞を広げソファーでくつろいでいる夫に問いかけた。

「そうだな、マリア。レイに似た透明感がある音、そして柔らかい。心地がよいね」
「でも。私は杏奈の情熱的な激しい弾き方も好きよ」

 マリアは夫の足下、カーペットの上に座り、そのまま彼の膝へと頬を寄せた。
 夫の手が新聞を読みながらも、マリアの栗毛をそっと撫でる。変わらない仕草。

 静かに新聞を読む夫。そして妻は窓の向こうに見える白浜と白波を遠く見つめる。

「あの子達。小笠原で頑張っているかしら。葉月を困らせていないと良いのだけれど……」

 日本へと送りだして数年経つ。
 姉のエリカは母親の血を受け継いで工学の道へ。でも性格は父親に似て慎重で落ち着いている。
 妹のモニカは父親の背を追って、秘書官の道へ。しかしこちらは母親譲りで毎度突撃度胸で周りを驚かせる事が多いとか。
 性格はまったく正反対で、互いに選んだ道も異なっていた。
 だけれど、二人が一致団結してしまうと母親以上の破壊力を持っていると噂されている。そこは気質そっくりの双子のようだった。
 そんな双子の対処は気質が似ている母親のマリアはまあこなしてきたのだが、正反対の気質である父親のマイクは、事あるごとに双子の娘に振り回されてきた。父親ですら時には『俺は死ぬ』とお手上げになるほどの双子。だからこそ、母親のマリアはいつもそこだけ心配している。妹分のミセス准将の迷惑にだけは……。

 だが夫はまったく意に介さない様子。

「大丈夫だろ。双子も目じゃない『台風の親玉』なんだから、レイは」

 小娘双子のダブルアタックでさえ、あのミセス准将は上手く吹き飛ばしてしまうはずだと、マイクは笑う。

「それにあの双子は、どんなに止めても、どこまでも突き破っていくよ」

 常夏の日射しの中で、いつまでも可笑しそうに彼が笑っている。
 突撃女の突撃娘二人。マリアも『そうね』と笑う。

 君の娘だから。
 君と双子に勝つには相当なものなのだと──。
 そして最後に彼はいつもこう言う。

「君達には、絶対に勝てないよ」

 

◆ ラブリーラッシュ♪ 完 ◆ 

■おまけ■
イザベル(科学班室長、女博士)×サミー(年下の部下) 
拍手SSシリーズより全4話のショートな番外編です→ 【遅咲き】
マイクを諦めようとしている博士のその後。結婚後のマイクも登場します。

 

 

 

 

 また四ヶ月に渡る連載のお付き合い、有難うございました^^
 この一年間、蒼い月は皆様からのリクエストをお届けして参りましたが如何でしたでしょうか。
まだまだ書きたい蒼月サイドストーリーが残っているので、着手する予定です。
次回の『星の彩り』は、リクエスト三位だった『側近は辛いよ座談会』を企画しております。達也がレポーターになって、三大側近(隼人、リッキー、マイク)をインタビューします。質問はまた皆様からも募集しようかと思っていますので、後日開始の企画、募集にご参加いただけますと幸いです。

 なお、次回の新連載は、四月から。蒼月姉妹作になる『Jump▲』を予定しております。
 本編のエピローグで出てきた鈴木英太がナビゲーターとなり、その後の蒼月ファミリーの様子から新しい子世代の話に展開しています。
第一部は、英太と御園若夫妻の日々。第二部は英太と杏奈、子供達が大人になる青年期を、英太を中心に進めていきます。
 またよろしければ、こちらでのお付き合い、そして応援をしていただければ嬉しいです!
目次はこちら。
        ↑(プロローグタイトルと、1話2話のタイトルを、予告公開中)

 

Update/2008.3.11
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