-- 蒼い月の秘密 --

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8.奥さん好き好き男

 

 鈴木青年と対面させて直ぐ、奈々美を『チェンジ』の統括室へと隼人は連れてきた。
 彼女に、ミセス准将と鈴木青年が乗り合わせた時のシミュレーションデーターと映像を見せる。
 モニターを目の前に、彼女はじっと微動だにせず眺めているのを、隼人もそっと見守っていた。

「これがシミュレーションではなくて、本当にやっていたことなら、葉月さんもたいしたものね」

 ずっと黙って数値と映像を見ていた彼女が、やっと言った一言がそれだった。
 彼女の傍らにいる隼人も――

「いや、本当にやっていた。だが、俺は飛行を見たことがあるだけで、まさか彼女がこんな操作をしていたとは――。それはチェンジというシミュレーション機が出来てから初めて知ったんだ。他のパイロットも驚くけれど、コリンズ大佐は『知っていた』とか言っていたなあ。あと、ミラー大佐も驚かなかった。あの三人はタイプが違うのに妙に通じ合っているというか……」

 奈々美がふうんと、素っ気ない相づち。
 そこがまた、妻と似ていてちょっと隼人はムッとするのだ。
 なんでだろうか? 妻だと『うちの奥さんらしいなあ』と微笑ましく思ってしまうのに、この女は天敵故かちょっと胸にさざ波が立つ。まあ、『奥さんだからでしょ。可愛くて許せちゃうんでしょ』と切り返してくる奈々美が目に見えているし……。実は隼人も『きっとそうなのだろうなあ』と敗北せざる得ないどうしようもない気持ちなのだ。

 だがそんなちょっとむかつく相づちの彼女だが、そこはやはり佐々木女史。彼女は今、頭の中で高速回転の計算を既に始めているのだ。

「これを体感した現役パイロットの鈴木大尉が、ホワイトに乗るなり『真似をしたくなった』。分かる気がするわ。それに良くやってくれた」
「本当ならば、意地でも止めなくては行けなかったのだけれどね……」

 奈々美がふと隣に立っている隼人を見上げた。
 その顔はいつも隼人を苛立たせる生意気な工学女ではなく、なにかしら同調してくれている和みある顔つき。

「まあ。表立って本音を言えないところを、上手くやってくださったと感謝しております」

 あの奈々美に礼を言われ、隼人も少々たじろいだ。

「いや、あまり博打はやりたくないが。なんとなくな――、あの青年はそれを予感させて堪らない。葉月が一目で気に入って引き抜いてきた気持ちが俺にも分かったほどで」
「いいえ。私も気に入ったわ――。でも軍側だけでは、彼を泳がせないわね。そこのところ、私に任せてくれない?」

 秘密の交渉だった。
 奈々美がいつにない毒気のない表情で、隼人を真っ直ぐに見る。
 いつもの生意気もからかいも、対抗心もない、本当に純粋にこの工学の仕事をなんとかしようと取り組んでいる同志としての対等な目線。

「悪い。まだ、決心がつかない」

 隼人は奈々美から目を逸らした。
 そしてやはり奈々美の呆れたため息も聞こえてくる。

「慎重派の貴方らしわね。まあ、今日はいいわ」
「俺も管理職をしている以上は綺麗事だけを言うつもりはないし、水面下操作の行為で結果を導こうとする手立ての否定はしない。だが、今はあまり過剰なことは鈴木にして欲しくないんだ。あの青年はパイロットの才能としては本当に未知数で、大きな才能を秘めている片鱗を感じても操作もまだ荒削りだ。それを葉月が上手く気づかせた段階だ。それになんといっても、こんな反抗的で自分の気持ちだけで前に出てしまう情緒不安定な若さがある」
「私がそこへ『水面下でそそのかす』ことをすると、彼が暴走するとでも?」

 隼人はきっぱりと『そうだ』と言い切った。
 そこでやっと奈々美も、青年のコントロールにメンタルが関わっていることの重大さが理解できたのか『うーん』と唸ってしまった。

「惜しいわ。惜しい」
「だから、まだ、これからだ。俺が言いたいのは俺達にとっても『逸材』の可能性があるから、俺達の焦りで潰すようなことがないようじっくり行こうと……」
「いいえ、この青年が惜しいのではないの。葉月さんのことよ」

 『うちのが?』と、奈々美の意外な一言がどういう意味か聞き返す。

「だってそうでしょう。彼女なら――。やってくれたわ。きっと、私と通じてくれたと思うの」
「なに言っているんだ。あいつだってあの年齢の時は情緒不安定だったぞ」

 俺が一番良く知っている。眠れない夜と戦いながら、その鬱積を空にぶつけて、そこでやっと生きていく力を得るという――途方もないエネルギーを使い込んで生きていた妻のことを。
 だが、奈々美はそこでまた呆れたように隼人を横目でしらっと見ていた。

「奥さんのことなら、俺が何でも知っているという顔。気に入らない」
「――なんだって?」

 またこの女は俺に喧嘩を売っているのか! と、隼人の心にさざ波どころか荒波が立とうとしていた。

「いいえ。葉月さんも情緒不安定だった――それは私も理解できているつもりよ。でも。チェンジのこの演習を、本当にあの頃空でやっていたなら、彼女は鈴木青年より素晴らしいということよ。アンコントロールを回避させたのも葉月さんのアドバイスだったというじゃない。それだけ彼女の『空での感性』が一品だったということよ。だからでしょ。横須賀の元パイロット達が認めているって――。パイロットという男達はそこそこプライドが高いもんよ。その彼等を悔しがらせても認めさせたその感性ある者が、今は飛べないと言うのが『惜しい』のよ」
「それはそうだが――」

 妻をそこまで褒めてくれると隼人も嬉しいし誇らしい。だが……

「だが、妻はもう――」
「分かっているわ」

 奈々美も本当に残念そうに項垂れていた。

「たとえ、あの負傷がなくても、彼女は女性。体格から体力から、あのままパイロットを続けていてもとっくに引退年齢だったと思うわ。それに出産という女の仕事に挑んだのですもの。それはパイロットで有り続ける以上に尊いことだと、独り身の私でもちゃんと分かっている」
「――どちらにせよ。俺達の開発に、御園という女パイロットは関わることは出来なかったんだよ」

 諦めよう――と、その才能と共にすることが出来ない口惜しさで俯いている奈々美の肩を隼人は叩いた。

「でもね。この鈴木大尉は、葉月さんが傍にいたらやるわ。絶対にやる。既にこの子――葉月さんに影響されているもの」

 そこが困りものなのだが――と、隼人は思いながらも、ついに心にある本音を奈々美にこぼしてみた。

「あの青年がきっと、葉月の翼になる。だからだろう。だから、君も鈴木を飛ばしてみたくなってしまったんだ」

 どうしてか奈々美が嬉しそうに振り返ったので、意外すぎて、そしてその笑顔がこれまた良かったので不意に固まってしまう隼人。

「だから、それが嬉しいのよ! だから、私にも彼を飛ばさせるようにしてちょうだいよ!」

 どうやら彼女も相当に、空にかぶれてしまったのだなと隼人も諦めのようなものが――。
 妻はパイロットとして、パイロット野郎共と共に。奈々美は工学者として、新種の戦闘機と共に。いつのまにか二人の女は空を通じて、まったく畑が違うのに、向かうところが一緒になってしまっていたようだ。
 しかもそこは夫である隼人とて同じ思い。――もし、あの青年が、在りし日の妻が空を飛んでいるような感覚を呼び戻してくれるなら。妻があの青年を飛ばす日を感じてみたい。
 それは奈々美もきっと同じ思いなのだ。だが――。

「いや。やっぱり駄目だ」
「貴方には、いいえ、絶対に葉月さんにも迷惑はかけないわ。全ての責任は私が……」
「君だけが責任を取っても、俺にも葉月にも責任は必ず発生するんだ」
「だから、私の一存だったと。いざというときには――」

 まだわからないのか、この向こう見ずの強気女はと、隼人は顔をしかめ思い切り奈々美に叱責した。

「まだわからないのか? 俺と君と、葉月は、既に『共同体』になって一丸となっていると。君が倒れる時は、俺達も共に倒れる時だ」

 だから、俺はもっと慎重になりたい。君のためにも葉月のためにもと――。
 するといつもは絶対に退かない奈々美が、これまた少女のようなふてくされた顔になり黙り込んでしまった。どんなきつい男からの意見も、いつもクールな顔で受け止めて流している奈々美が、そんな素の顔をしたので、またもや隼人は面食らってしまっていた。

「慎重すぎて、わからずや。お兄さん面ってわけ」

 奈々美はそれだけいうと、さっと座っていた椅子から立ち上がってしまう。

「あとでデーターと映像を下さい。本社に持って帰ります」
「ああ、用意しておく――」

 ぶすっとした顔のまま、奈々美が統括室を出ていこうとした時だった。
 奈々美がドアを開ける前に、そこが開き、和人が姿を現した。

「あれ、データーでも見ていたのかよ。俺に言ってくれたらいいのに」

 きょとんとしている和人を見て、奈々美はさっとかわすように一人で出て行った。
 『なんかあったの』と和人は奈々美の去っていく背を眺めながら、兄である隼人に問いかけてきたのだが。

「別に。なにも。いつも彼女とはああなんだ」
「ふうん」

 意見が合わないわけでもないし、毛嫌いしているわけでもない。仕事の話になると話し甲斐はある。なのに可愛くないのだ。
 ――と隼人が弟にはそう言おうとした時だった。

「兄ちゃんってさ。結婚してから、ほーんとに義姉さんだけ過ぎるよな。奈々美さんがムッとするのわかるよ」

 飽き飽きといった顔で、和人は奈々美が使っていた椅子に座る。
 隼人はそんなことを言われるとは思わなかったので、これまた驚いた弟に向かった。

「それどういう意味だよ。彼女はなー、男に対してちっとも可愛げがないんだよ。こうーなんか、言い負かされるかって感じでね」
「でも。他の男にはあんな顔して怒らないじゃないか」

 だからなんだと、隼人は眉をひそめながら首を傾げた。
 しかし弟は、椅子に座った体勢から兄を見上げ言った。

「やっぱりなあ、結婚生活が長らく幸せすぎて、男として鈍感になっちゃったんだ」
「だからなにが」
「奈々美さん、きっと兄ちゃんのこと、気にしていると思うんだよなー」

 気にしている? と、問い返そうとしてやっと隼人は気がついた。しかしおこがましい気もしてそれを直ぐに口に出来ずに。だから弟が代わりにはっきりと言ってくれる。

「だから。彼女は、兄ちゃんを男として意識しているってことだよ」

 なんとなく。気がつきはしなかったが、もしそれが本当なら――。客観的に見ると思い当たってしまうこと、今まで『畜生』と思っていたことがどうしてそうだったのか次々とわかっていくのが怖いほどに、妙に実感が湧いたのだ。

「いや、まさか。だってほら……俺は……」
「結婚しているし、二児の父親だし、しかーも奥さん一筋と有名の御園大佐。どうにもならない。でも、まだ苦しくて堪らないーって感じじゃあないみたいだよな? そこに転げ落ちるところを踏ん張っている気力がもてるのが、大人ってこと? 弁えているよ」

 そして和人が言う。彼女が兄貴に馬鹿みたいにつっかかるのって、好きな男の子に素直になれない女の子みたいじゃん? と。
 隼人も先程、初めてそれがわかったのだ。彼女が隼人だけ変に嫌味なわけが――。

「さってと。俺は奈々美さんを誘って、小笠原ドライブ、あーんど、夜のお食事デートでもチャレンジしてみようかなー」
「え、お前、その気があるのかよ」
「別に。ただ、大人の素敵な女性だから、お側にお近づきになりたいだけだよ」

 和人はそう言うと、いつもの調子でにやっと生意気そうな笑みを兄に向ける。
 ふらっと統括室を出ていった和人の背を、隼人は『まさか』という驚きのまま、ただただ見送るだけだった。

 二階統括室の窓から、チェンジが三機並ぶ傍を奈々美が過ぎっていくところが見えた。その背を弟が捕まえ、二人がそれとなく並んで出て行くのを隼人は見守るだけに。

「俺なんかなー。おじさんだし……」

 いや、奈々美も同世代だが?

「二児の父親だぞ。しかも嫁の尻敷かれていると噂の、やわやわになったマイホーム男だぞ」

 噂されているままに、隼人は呟いてみた。
 そんな家庭に染まった男など、彼女のようなキャリア女性には甘ったるくてしようがないだろうと。
 それとも? 甘ったるく見えるところが我慢ならないのだろうか? だから『奥さんばっかり』と怒ったのだろうか?

「そんなに滲み出ているかなー。奥さんが好きで堪らないと」

 頬を撫でて振り返ってみる。
 いや、基地では妻と対等に張り合っている部分はあるかもしれないが、それもいつまでも対等に仕事をしていたいという気持ちから。
 それすらも『奥さん大好き過ぎ』と言われるのだろうか? と、隼人は首を捻ってしまった。 

 

・・・◇・◇・◇・・・

 

 今日もグローブをはめ、英太は甲板へと向かう。
 胸の鼓動が早い。俺はまたあの軽すぎる飛行機を乗りこなせなくなるのだろうかと――。恐怖? いや、恐怖はない。

 恐怖といえば、パイロットになってから『怖い』と思ったことはあまりないなと英太は空を見上げた。
 この前のアンコントロールだってそうだった。ひやりとしても、直ぐにさあっと何処かに消えてしまう、焦りに恐怖などは。だから今回も、乗りこなせるかどうかの心配はあるが、アンコントロールの危機に見舞われるだなんて恐怖はない。
 恐怖といえば……そうだな。あれが酷すぎたのだろうかと、時々振り返り、英太はやっと身震いを起こし、血の気が引く思いに駆られる。なるべく思い出したくないことを、時々こうして思い出してしまうと、大人になるにつれてやっと落ち着かせてきた気持ちが、理屈抜きに再燃焼しようとしているのだ。まるで風邪をひいた時に高熱が出ているのに、身体は寒い――。あの感覚がざざっと足下から襲ってくるのを感じるのだ。

「鈴木、準備はいいか。七号機だ。今度、命令違反をしたら横須賀に返してしまうからな」
「わかっています。もうしません」

 御園大佐に声をかけられ、英太はホッとすることが出来た。
 若干、グローブの中の手のひらが汗を滲ませていることに気がついた。
 だが、目の前の御園大佐も、少しばかり怪訝そうに英太を見ている。

「どうかしたのか。顔色が悪い」
「そ、そうっすか。気、気のせいですよ」

 だが御園大佐は見逃さないとばかりに、英太をじっと見ている。

「鈴木。駄目な時は駄目で良いんだぞ」
「は? あの、なんのことですか」
「もっと自分を大切にしろと言っている」
「仰っている意味が……」

 いや、英太はドキリとさせられていた。
 英太の足下から襲ってきた寒気。それを御園大佐には見抜かれていたような気もして――。

「空に出たら、絶対に帰ってくる。作文で書いただろう」
「いきなり、その話。さっきからなにを……」
「お前、大切な彼女が待っているんだろう。闘病中の叔母さんもだ」

 大切な彼女と言われ、英太は思わず頬を赤くしてしまう。
 実際にこの前のアンコントロールで、ミセス准将に『貴方の大事な恋人を抱くように操縦しなさい』と言われ、直ぐに思いついたのはやはり『華子』だったからだ。それをすっかり勘づかれてしまったようだ。

 あのアンコントロール時、ミセスのアドバイス通りに英太はイメージしてみた。この飛行機そのものが『華子』だったならば――。そう感じた途端に、あの柔肌を思い起こしたのだ。英太だって……。最初の頃は若さ故経験不足故、彼女の初々しい生肌にがっついて傷つけたりした。この場合、本当に肌に傷が付くこと。『せめて、爪ぐらい切っておいてよ!』――いつもそう注意され、華子を抱く前には『爪切り』が習慣になってしまったり。そんな『柔い物』に触れるにはどういう気持ちで挑むか――。それを思い起こし操縦桿を微弱に動かしたら、なんとまあ、あっというまに機体が安定してしまい驚愕したのは英太の方だった。
 その時、初めて思った。『ミセスはパイロットとしての感覚を忘れていやしない』と。以上に、離れているのになんて的確なアドバイスを……。それこそこの『ホワイト通信機』の成せるものなのか。やはり必要性があるのかと実感させられたのだ。
 そういう英太が、アンコントロールをミセスの『変なセクシャル的アドバイス』で脱したことを踏まえても、どう考えても周りの人々は『あ、女がいる』と思ったことだろう。

 否定できやしない。特にこの敵わないおじさん大佐には。
 でも肯定も出来ない。なにせ華子は一番近しい女性であって幼馴染みであっても、恋人になったことは一度もない。英太だけが恋人の気持ちだったとしても、華子もひっそりとそこを感じてくれていても、でも決してそこを彼女は認めてくれない。そして英太も、どこかで直ぐに諦めてしまうほどに『恋人と決めたところで俺達だからなんなんだ』とどうでも良くなってしまうのだから。
 しかしそれを御園大佐に真っ正面から言えるはずもない、ここ甲板では全く無関係のプライベート。だから英太はぐっと口をつぐむだけ。
 そんな英太が言いたいことがあるが言えないことも、そして見抜かれていることを認めないことも、御園大佐はお見通しの顔で微笑んでいる。それでもいつもの教官の顔で、英太に毅然と叩き付けてきた。

「だから、空で何があっても、絶対に戻ってこいと言っている。空でも駄目だと思ったことには、引き際良く帰ってくることも立派な勇気だと言っている。それが逃げじゃない、自分以外の者達を地上で守るためでもあるんだ」

 わかったな――。
 言い聞かせる大佐の顔は殊の外真剣だった。
 退く勇気も大事な勇気。初めて聞かされた言葉だった。そしてそれは確かに、空に行くとなにもかもを忘れてしまう英太には『華子と春美叔母』という大事な家族が地上で待っていることを刻印してくれるかのようなものだったから、英太もそこは神妙に『はい』と答え、しっかりと大佐の眼を見つめ返した。

「その目が見たかった。その顔に気持ち、信じているぞ。では、今日こそ、基礎的なテスト飛行に甘んじてもらおうか」
「イエッサー」

 もう遠回りは出来ない。それは昨日、御園大佐にもしっかり言いつけられていた。英太もそれは解っている。もう時間がない。雷神がミセスと一緒に任務航行に行くまでに英太も御園教官の研修を卒業せねばならなし、ホワイトの操縦もやりこなさなくてはならない。本当に今日から真面目に……。と、思った時だった。

「御園大佐、よろしいかしら」

 今から大佐の指示でホワイトに乗り込もうという時になって、あのミセス准将がいつもの冷めた顔つきでそこにやってきていた。しかも隣には昨日、英太にアンコントロール時の事情聴取にやってきた宇佐美重工の佐々木女史まで。
 どうしてか二人の女性がそこにいると、妙に迫力が? 気のせいだろうかと、英太は御園大佐の後ろからしげしげ眺めてしまった。しかしそれは英太だけではないようで、目の前にいる御園大佐がどこか嫌そうな顔をしていた。

「なんでしょうかね。お二人揃って」

 御園大佐もいつになく構えた顔のような? と、英太はちょっとその場に居づらく感じた程に、二人の女性と御園大佐の間に火花が散ったのを見たような気もしたのだが?
 暫し、ミセスと夫の大佐が睨み合うような間があった。そんな時英太はいつだったかのように思うのだ。この二人って夫婦だったよな、と。それなのにこんな甲板での夫妻はいつだってこうして張り合っているようだ。

 

 

 

Update/2008.11.10
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