33.熱き呼びかけ

「お嬢……眠れそうか?」

官僚室側の仮眠室……。

二段ベッドで、山中が下に……葉月は上に横になることにした。

コートとジャケットを脱いで、葉月は黒いタンクトップ……山中はランニングに……。

二人で毛布にくるまって落ち着いたとき……

山中が下からそう囁いたのだ。

「寝る……疲れたわ……」

「……」

何か考えても、康夫が死んだのか無事脱出できたのか?とか……

隼人と達也がどうしているのか……

そんな自分が何もできないことばかりだ。

とにかく葉月は疲れていた……昨夜は輸送機での移動でろくに寝ていない。

この後……何かあっても困るから休めるときに体力を温存することに決めた。

「俺は起きているよ……すぐに起こしてやる」

葉月の勝手行動をまだ気にしているのか?

それとも……葉月をよく眠らせるために側近らしく

いつでも動けるよ……と、いうためにそう気遣ったのか……。

どちらでも今の葉月には良かった。

とにかく眠ることにした。

『飛び出すなら……純一に言っておいてやる』

従兄の声が最後に頭をかすめたのだが……

(そんな事言って……どうやってこの監視の中飛びだせっていうのよ……

いくら……ジュン兄様でも、空母艦近くに迎えの船とかヘリとか近づけるわけないし……

空母艦を離れて、マルセイユの基地に戻る頃には……作戦は次に移っているし

隼人さんも無事なら……戻ってくる時間だもの……)

葉月はそう……ため息をついて毛布にくるまった。

その後……疲れも手伝って……すぐに眠りに落ちたようだった。

山中も……すんなり寝付いた葉月の寝息を耳にしてホッと胸をなで下ろす。

そして……約束通り……

今日の出来事を頭に浮かべながら、瞳だけを閉じた。

時は夜中の3時を回っていた……。

激しい銃撃戦の音が少しばかり和らいだような気がして隼人はクロフォードの横で

頭を上げて海兵隊員の様子を見つめる。

「人数が減ったぞ! 行け! ウンノ!!」

フォスターがそう叫ぶと……

「待っていたぜ! 先輩!!」

彼がライフルを床に落として……

隼人の目の前から上に飛ぶ姿が見えた……。

『ええ!? 何するんだよ!??』

音が静かになり始めたので隼人はそっと頭をデスクから出してみると……

丁度、彼が机に勇敢に上がったところ……跪いて背中から銃を出して構えていた!

『ドキュン! キュン!! キュンキュン!!』

『グワァ……!!』

『アア……』

達也が構え狙った者はすべてそんな声を上げて倒れたようだった。

『すっげぇ……腕前……』

隼人は唸った……。

デスクから入り口まででもちょっとした距離はあるのに……と。

その途端に……音が静かになった。

「まだ……出てくるなよ……」

黒人のサムが机の下にいる通信メンバーを手で制して……

機関銃を構えながら……そろり、そろりと入り口に移動を始めた。

他の隊員も……フォスターも達也も机の上から銃を構えて入り口を狙っている。

一歩ずつ入り口に近づいていく海の男達の忍び足の音……。

そして……

「やったぞ! 完璧に撃ちとりだ♪」

フォスターの歓喜の声がしたので……

クロフォードと供に、隼人も頭を出して入り口を確認……。

破られたバリケードの側に数人の男が倒れていた。

通路にも数人……。

『ワン、ツー……』

フォスターが倒れた人数を確かめる。

「十人……来ていたか……おそらくこの場所は知られたな……

クロフォード中佐……どうする? ここで管制は無理じゃないか?」

「……そうですね……残念ですがシステムはもう一度立ち上げないと……

このパソコンに投入した物が見られたらマズイ……打ち壊していただけませんか」

確かな判断だったが……隼人はそれを聞いて驚いた!

「隊長! 後少しじゃないですか!? あと数分で出来たはずなのに!!

ここで実行をかけて他の場所を見つけて……そこで管制をすることだって!!」

「実行している間に……今倒した奴らの仕返しでさらなる人数が来たらどうする?」

「…………」

確かにその通りだったが……

潜入が犯人リーダーに知られるのは時間の問題。

他の場所を見つけても小さな基地だ。

新しく仕切り直しの投入作業をする一時間の余裕が取れるだろうか??

その時だった……

「俺も少佐に賛成だ」

達也がライフルを拾いながら……そう呟く。

「どちらかと言うと……私もそう思う。時間的にそろそろ限界が来ている」

フォスターまでそう言いだした。

クロフォードがため息をついた……。

「確かに……ここで今の作業を無にするには惜しいと私も思いましたよ?

では……敵がまた来ても……私達の作業を守ってくれますか?」

クロフォードがクールな眼差しで同じ金髪のフォスターを静かに見据えた。

「管制作業も?」

フォスターの問いにクロフォードが首を振った……。

「サワムラ少佐の言うとおり……新システムを立ち上げれば

管制は通信が出来る場所があれば何とかなります。

その場所に移動しても……

二陣が犯人を捕らえるまではあなた達が護衛接戦する事に変わりありませんが?」

どうやらクロフォードとしては確実に静かに作業を出来る場所を探したかったようだ。

とりあえず、システム側としての『慎重的意見』を出しただけのようで

『作戦的』にはフォスターが言うように時間的に限界が来て……

そう言うならば『諦めがつく』と言うだけの提案だっただけらしい……。

「相手が場所を探し当てるまでは時間稼ぎにはなるだろうな……場所はどうする?」

フォスターとその様にして意見がまとまり始めた。

クロフォードが静かに提案した。

「一番いいのはサーバー室、だがここは警護が固いと見られます。

次は、発電施設……ここは外にあるから移動を上手く敵の目を誤魔化す手間が……

最後は……これはまず無いでしょうが、総管制室……犯人ボスがいるでしょうがね?」

「だったら……発電施設だな」

達也が真っ先に何でも応えるので……隼人は面食らったが……

フォスターもクロフォードもどうやら同じ意見なのか?

隊長同士頷きあってしまったのだ……。

(意外と迅速にキッパリ迷わず判断か……やっぱ、葉月に似ているかも!?)

彼が出す一言は妙に説得力がある……。

どうやら……本当に葉月と供に精進してきた男のようで……

『感覚』が彼女に良く似ていたので隼人は益々……『そっくり説』に確信が……。

意見がまとまったところで……作業再開だった。

幸い……使っていた機器に致命的な破損は見られなかったので

再度、隼人達はROMを差し込み直して作業を開始。

フォスター隊は倒した男達を中に運んで、新しい机でバリケードを組み直していた。

「さて……行くか?」

投入後の『実行』が終わった!

だが……残念だがここを出て行かなくてはならなくなった……。

隼人は途中までセッティングした管制通信機をしまうことにした。

発電施設に移動してから、クロフォードのログインで

通信回復という運びに変更になった。

男達は部屋の後始末をする。

プログラムを投入したパソコンの電源を落とす。

敵に新システムを悟られないよう跡を残さない注意を払って

隼人達は再び暗闇の通路にフォスター隊と飛びだしたのだ。

時は3時半……限界の4時まであと30分……。

この間に『管制通信復旧』の知らせを出さないと……第二陣の通信班……

第五中隊の先輩達が明るい空の中の潜入を試みることになってしまうのだ。

その方が危険な潜入とされて……それで隼人達が暗闇の潜入を……

第一陣を言い渡されたのだから……

ここで、やり遂げないと……

『やっぱり、若僧中隊……失敗したか』

そう……葉月の第四中隊が『失敗』を元に後々笑われることになってしまうのだ!

隼人は元より……小池にもそれが分かっている様子……。

妙な焦りに煽られるようにフォスター隊の素早い足音を隼人は追った。

「いましたよ!!」

その声で、栗毛の男がクルーザーの舵を旋回……。

船室にいた黒い男も躊躇わずに甲板に出てきた。

甲板の手すりに身を乗り出しているのは金髪の男……。

「エド! もっと左だ!! そっと静かに近づいてくれ!!」

「うるさいな! ジュール今やっている!!」

「…………どうだ? 息がありそうか??」

部下二人のいつもの口やりとりに構わず……

黒い男、純一は黒い服装に着替えたジュールと一緒に手すりに身を乗り出した。

そう……彼等が探していたのは……

海面に白いパラシュートを巻き付けて……

そのまま救命胴衣の浮力で浮かんでいる『藤波康夫』だった……。

通信傍受はお手の物の黒猫ファミリーは……

今までジッと軍側の戦局を船内で聞いていたところ……。

葉月の指揮振りに黒猫ボスは『クスリ……』と笑いをこぼしながら

余裕で聞いていたところだったが、戦局は一変!

ボスの余裕の笑顔が消えたのは管制長の声が聞こえてから……

ジッとボスが聞いていたところ……

この……葉月の親友同期生が撃ち落とされたと知ったのだ!

『ジュール……出来る限りの方角割りをしろ!

風向き、風力、潮の流れから割り出せ!!』

ボスの急な指令に飛び上がってジュールがノートパソコンを開き、

割り出された程良い場所で静かに捜索していたところだった。

そして……やっと見つけだした!

エドが巧みに近づけるクルーザーの横にプカプカと力無く男が海に浮かんでいた。

「爆風で飛ばされたようですね……まったく……

軍は全然違う方向で救出捜索しているなんて……」

ジュールは呆れながら率先してクルーザーの外はしごに足をかける……。

「エド! 操縦はもういいから……こっちで見てくれ!」

静かなボスがいつになくせかした声でエドを呼んだ。

エドも慌てて……外に飛び出す。

そして……外梯子を伝って海面にむかうジュールを見つめた。

そして、海面に浮かぶ男をエドは確認……。

その飛行服を着た男の力無い浮かび方……。

「ボス……おそらく全身打撲……何カ所かは骨折していますね。

それから……爆風による火傷損傷がひどいようですね……」

康夫の顔は赤く、黒くすすけているようだった。

「ボス、引き上げますよ?」

梯子からジュールがパラシュートのヒモを手にしてたぐり寄せようとした。

「ジュール……そっと引き寄せてくれ、乱暴にするなよ!」

「うるさいな! エド!! だったらお前やれよ!!」

「やれやれ……」

いつもの部下の言い合いに純一はため息をつく。

そのボスの『やれやれ』でいつも二人は大人しくなるのだ。

「ジュール、骨折をしているようだから丁寧に引き寄せろ。

エド、息はありそうか??」

「さぁ……近くで見ないと……」

ジュールがパラシュートを引き寄せて静かに船体に康夫をたぐり寄せて……

グッタリしているずぶ濡れの康夫を両肩の下に手を入れて、いとも簡単にそっと持ち上げた。

「ボス!! 息がありますよ!!」

ジュールが康夫の肩を持ち上げてそう叫んだ!

「そうか……」

その時……エドはボスの横で

彼がそっといつにない優しい微笑みをこぼしたのを見逃さなかった。

ずぶ濡れになっている康夫がクルーザーの甲板にあげられた。

エドがすぐにひざまずいて『診察』を始める……。

「ボス……息はありますが……意識は無いようです……

もしかするとこのまま……意識が戻らないかも知れません……」

「植物人間か?」

「……ボス……少しばかりの治療をお許しいただければ……」

エドの申し出に純一は躊躇ったのだが……

「跡を残すな……それなら……」

静かにそう囁くとエドはニッコリ微笑んで船室に向かった。

そして……アタッシュケースを手にして甲板に戻ってくる……。

「治療というか……どの程度の損傷か調べるだけです。お任せ下さい……」

エドはアタッシュケースを開けて、小型の機材を手にした。

「……俺は医者の心得はない……お前に任せる」

「跡は残しません……」

「ジュール……お前、操縦を変われ。

軍の救助隊がいる近くにもう一度こいつを捨てる……」

「ラジャー……ボス」

ジュールが静かに操縦席に入る……。

エドが康夫の身体にまたがった。

「すこし酸素を送ります……息はありますが呼吸が……弱いので」

そして康夫の口に酸素吸入器を当てる。

クルーザーがゆっくり静かに動き出す。

「それで? こいつはまた……空を飛べそうか?」

「……。彼の気力次第でしょう……骨折が完治するには数ヶ月かかるかと

運が良かったようで……打ち所悪いところはなく、切断とかそうゆうことは無いでしょう……」

「戻れるのだな?」

「…………。意識が戻るかどうか……それが一番問題です。

見たところ脳死ではないようで……」

そこは……エドは弱々しく呟いた。

すると……純一が康夫の顔の側に跪いた……。

そして……

「おい……! お前……もうすぐオヤジになるんだろ??

おい……! 嫁さんと赤ん坊残してこのまま終わるつもりか??」

康夫の頬をペシペシと叩き始めた。

「こら! しっかりしろ! 仲間も沢山いるのだろ!?」

「ボス……」

エドはいつもは無口で静かな男がここと言うときは熱くなる……。

そんな彼に惚れて付いてきているのだ。

「おい! 赤ん坊を抱きたくないのか!?」

そう言って康夫の頬を叩いたボスが……

それが出来なかった人生を歩んできたことをエドも良く知っていたので

思わず涙ぐみそうになったがこらえた……。

『うう……』

「ボス!!」

「……!!」

エドが吸入している酸素のマスクからそんな小さなうめき声が……

「もう……大丈夫でしょう……ボスの声が届いたんですね……」

エドはそう言って……ボスに見られまいと革手袋の手の甲で目を拭った。

「まったく……こいつが撃ち落とされたとなると……

葉月がどう暴れている事やら……俺達の仕事が増えるばかりだ……」

『やれやれ……』

そういって誤魔化そうとするボスをエドは笑いたくなったがこれもこらえた。

「それにしても……ヤツは絶対に許せませんね……

リビア機まで撃ち落として……無差別にも程があるし……派手すぎる」

エドは拳に力を込めた……。

「まったく……闇の男どころか……ただのテロリストに成り下がりやがったな……」

康夫の元から純一は立ち上がり……黒いコートの裾をなびかせて……

厳しい眼光を黒い瞳から放ちながら岬基地を睨み付けているのを

エドは……ゾッとしながら眺めたのだ。

「ボス……軍の救助船が見えましたよ」

操縦席からジュールの声が……

「私が海に入って……近くまで彼を置いてきます」

「解った……頼んだぞ……エド」

「ラジャー……」

その後……エドがスーツを着てアクアラングを背負い……

再び康夫にパラシュートを付けたまま海に浮かべて引っぱり出す。

エドは灯りを絞って捜索をしている軍の船がすぐ側に見える所まで

康夫をひっぱり……そして、再び暗闇の海に潜り込む……。

『おい! アレを見ろ!!』

エドの耳に……その船からそんな声が微かに海中で聞こえた……。

 

「ボス……まどろっこしいですよ。どうやらシステム破壊まではこぎ着けた様子。

空は安全になったし……奴らが気が付くと……

今潜入している海兵隊達が『ラム』に攻撃されますよ?

今から潜入して『ラム』を一発で仕留められないのですか??」

エドが戻ってくるのを甲板で待っている純一にジュールは呟いてみた。

「そりゃ……俺達がそうしようと思えば簡単なことだ。

だが……軍がすでに潜入している……軍の誰かがヤツを討ち取った様に見せかけないと

亮介オジキに負担がかかってくるからな……

今潜入している奴らはシステム立ち上げで手一杯だろう……

時期がくるまでこらえろ」

「……それもそうですね……『ラム』みたいに派手なのは私達には似合いませんからね。

そう……私達は足跡を残さない……『黒猫』だから……」

「そうゆうことだ」

ボスの返事に、ジュールも少しばかり微笑んだ。

白い波間から黒いウェットスーツを着込んだエドが静かに海面から姿を現した。

午前3時半……。

「御園中佐!! フジナミが見つかったよ!!」

その声一つで葉月は飛び起きた!!

山中も起きあがってベッドから降りようとしているところだ。

入ってきたのは『アルマン大佐』だった……。

「それで!? 容態はどうなのですか?? 大佐!!」

葉月は梯子も使わずに二段ベッドの上からタンクトップ姿で飛び降りたのだ。

その身の軽さと葉月の格好にアルマン大佐はビックリ一瞬動きをとめたのだが……。

山中が悟ったようにすぐに葉月の肩に飛行服の上着を羽織らせたのだが……

葉月はお構いなし! アルマン大佐の次の言葉しか頭にない様子で……

ジッと黒髪の大佐の緑色の瞳から視線をはずそうとしなかった。

「爆風のせいか……火傷が……それから……骨折と……

意識が無いようだったが……息はあるとの報告が……」

「意識がない!? それは……戻るかどうか解らないと??」

「……少しは反応したようだけど……そこは……良く解らなくて

とにかくすぐにマルセイユ本基地の医療センターに運ぶ事になって……

ペアで搭乗していたデーターのパイロットはそれより早く見つかって既に収容したけど

同じ場所で、なかなかフジナミだけが見つからなかったらしいよ……」

「彼の……奥様には??」

「ああ……すぐ報告するように伝えておいた」

「空の復帰は!?」

葉月の矢継ぎ早の質問攻めにアルマンもタジタジしていたが……

そこは首を振った……。

「……二度と飛べないって事ですか!?」

「……そうとは言っていない……暫くは無理か検査の結果次第」

この時点では、エドほどの診察結果は軍側では解らないのだ。

だから……

「生きていただけでも良かったじゃないか? 落ち着けよ! お嬢!!」

山中が葉月の肩を掴んで厳しく叫んだ……。

「……も、申し訳ありません……大佐……動転して……」

葉月はやっと我に返って額に浮かんでいた汗を拭った。

でも……アルマン大佐はまた優しく微笑んで葉月の肩を撫でてくれる。

「はは……貴女がムキになる顔また見られたよ♪

冷たいばかりじゃないのだね?

それより……良かったね? 同期生が戻ってきて……」

その笑顔に葉月は初めて照れてしまってうつむくと……

アルマン大佐はクスクスと笑い……山中も微笑んでいた。

「あと30分で……当直チームと交代だね……

上手く行けば……もう少しで潜入隊が戻ってくるだろうし……

フジナミの負傷という被害は出たが……ご苦労様……

君と仕事が出来て……良かったよ……忘れないよ……」

「大佐……わたくしも……勉強になりました……」

交代の時間が迫って……そんな別れの挨拶……。

葉月はまだ心では安心はしていないがジン……としてしまったのだ。

「……そろそろ……コリンズキャプテン達と退陣の準備を致します……」

「よく眠れたかい?」

「はい……」

たった一時間の仮眠だったが、葉月は『寝る』と心に決めていたので

遠慮なしに爆睡していたようで……イヤに頭がすっきりしていた。

大佐が去った後……葉月は山中と身支度を整えて仮眠室を出る。

「…………」

葉月が無言で山中の前を何か考えながら歩いていた。

「どうした? お嬢……」

「大佐……言っていたわね? 上手く行けばそろそろ潜入隊が戻ってくるって」

「ああ……そうだな」

山中は嫌なところを鋭く突く葉月に、気のない返事を返した。

「本来なら……システム破壊30分……システム立ち上げ1時間の計画でしょ?

彼等が……潜入を始めたのは24時……滞り無く潜入して25時……。

それから作業に1時間半……上手く行っているなら……

とっくに通信が復旧している時間だわ……

そう思って……そう信じて……寝ている間にすべてが終わっていると思ったのに……」

「…………」

そんな計算が速いじゃじゃ馬に、山中はどう言葉を返していいか解らない。

下手に言ってもこの鋭い嬢ちゃんには見抜かれて火に油を注ぐ事になりかねないから……。

(隼人はこんな時……なんと言ってとめるのか?)

そう考えるばかりの一日だったような気がする。

「……そう簡単にはいかないだろ?

敵に見つからないように……慎重に事を運んでいるのでは??」

そう誤魔化そうと思った。それにそう山中自身も信じたかったから……

勿論……葉月もその様で……

「…………」

無言でまた……通路をコートを翻しながら歩き始めた……。

「……また、嫌な予感がするわ」

「……」

このじゃじゃ馬嬢の『妙な勘』は良く当たることを山中は嫌と言うほど今まで見てきていた。

「挨拶がてら……父様の所に行く……」

「えっと……邪魔にされるかも?」

そこに行って作戦が手こずっていることを耳にすると葉月がどうなるか解らないから……

山中は……苦笑いをこぼしてそう言ってみたが……

「行くわよ! それとも何!? 総監への挨拶なしにここを去れとでも!?」

「いや……そうじゃないけど……ハイ……行きましょう……中佐」

葉月のいつもの強気のお達しに逆らえない『アメ兄さん』になってしまったのだ。

(何かあってとしても……オヤジさんが上手く誤魔化すだろう……)

山中は葉月の父……亮介ならきっとそうするだろう……と……

そんな安心があったので……葉月の言う事に従うことにしたのだ……。