40.何者!?

『お嬢様……早く!!』

素早いエドの前進は、恐ろしいほど慣れていた。

暗闇の一筋の光も入ってこない通気口……

埃にまみれて葉月は咳払いをしながら、進んでいたのだが……

『咳はダメですよ!』

いつもは、葉月にはとことん紳士で低姿勢な義兄の部下にそうたしなめられる。

それは『ご最も』と心得て、葉月は大人しく従う。

その内に……鉄格子が並ぶ、光が僅かに漏れている通路に出た!

『彼等がとどまっている3階ですよ──心の準備は宜しいですか?』

息だけで通信器に話しかけてくるエドが、後ろを振り返った。

葉月もさらに息を殺して……そっと頷いた。

素早く前進していたエドが……初めて慎重に静かに進み始めた。

膝を擦る音も立てない……。

葉月には、彼の息づかいも聞こえてこない……。

その様は……まさに──『黒猫』──!

葉月も急に緊張感が高まって……エドに叱られないよう慎重に彼の後を追う……。

エドが鉄格子を一つ眺めて……

『この部屋じゃない』

そう呟くと……人の気配を確かめて……サッとまた素早く前進をする。

その次ぎも……各部屋の天井に差し掛かるときは『黒猫』の様に息を潜めて入り込み

様子を伺ってから……素早く動き出す。

その彼の『リズム』に葉月は逆らわずに、エドに従った。

そして──

いくつかの部屋を通過して……『本当にこの3階にいるの?』と葉月が思ったとき……

真ん中辺りの部屋だった。

『!!』

人の声が聞こえてきたのだ!

勿論──エドも息を潜めて、通気口鉄格子を見下ろし……

今度こそ……彼が動きを止めた!!

葉月の心臓が高鳴る!

エドが人差し指で『クイ!』と、葉月を呼んだ──。

エドが見下ろしている……光が射し込む『鉄格子』に葉月は

腹をつくばいながら……そっと見下ろした。

『!!──皆、生きている!!』

スコープの画像はモノトーンであったが、うごめく影を沢山確認できた!

もう……涙が溢れそうになったが……まだ! すべてを確認していない!

壁に押さえ込まれている男の人数を葉月は目で数えていると……

『一人……足りない』

素早いエドが、そう囁いた……。

(まさか──??)

葉月はスコープを外して髪の色を確認する。

スコープを外さないと色彩は確認できないから──

外は明るさが増していたが……建物の中はまだ薄暗かった……。

目を凝らしてなんとか、髪の色だけでも確認しようと葉月は試みる。

黒髪の東洋人を確かめる。

暗い部屋の中……黒髪の男を3人確認した。

隼人、小池、富永、海野……日本人は4人いるはずなのに……

3人しかいないではないか!? 葉月の背中に汗が滲み始めた。

(誰が欠けているの!?)

もう少しで叫びたくなったが──……

エドが、また……指さした。

『あの大きな男の下に誰かが捕らえられていますね?』

葉月達が辿り着いた通気口は……

その仲間達に向かい合っている大きな外人男の背中側。

焼けた匂いを発して荒れている入り口のすぐ上だった。

『入り口が爆破されています。その衝撃で守備が崩れたところを捕らえられたようですね』

『……』

エドの『経過予想』はもう……葉月の耳には入ってこなかった。

(もしかして? 隼人さんが捕らえられているの!?)

少しばかり──腹が立ってきた!

もしそうであれば……

──『自分の側近が人質役で捕らえられているなんて、なんたる失態か!』と──

しかし……葉月は首を振って、冷静になろうと心を落ち着けた。

隼人には隼人なりの何かがあるのかも知れないと……。

葉月達が到着したとき……

敵の男達は、大声で『パスワードを言え!』と叫びまくっていたのだ。

そして──……葉月は耳を疑う……!

『大文字のE……』

大きな男の下から……聞き慣れた声がか細く聞こえたのだ!

(は……隼人さん!? どうしてあなたがパスワードを教えているのよ!?)

葉月の動揺もお構いなしにエドが呟いた……。

『なかなか……度胸が据わった側近をお持ちのようで……

どうやら……嘘をついて誰が本当の保持者か攪乱しているみたいですね?』

(ばか! 余計なことを!!)

頭数足りない黒髪の男が生存していたのは『ほ……』としたが……

よりによって自分の『側近』……その上、先ほどの腹立たしさがまた復活したのだ!

エドの察し良い『解説』を聞いて葉月はさらに……ムッと表情を曇らせた。

『お嬢様……そうやって怒っている場合じゃありせんよ?』

いつもは低姿勢の『義理兄部下』にまるで『純一』が言うが如くそう諫められて

葉月は急にエドにも腹が立ってきた!!

しかし──そんな葉月の反抗的な眼差しにエドは怯まず……冷たく視線を返してくる。

『そうこなくっちゃ……お嬢様はそれぐらいの闘志がある方……

私はここでお別れいたしますが……成功……お祈りしていますよ?

鉄格子の外ネジを今から外します……

機転を働かせている、あなたの度胸ある側近が『はったり』で粘っている間に……

突入します……準備を……』

エドが背中から……銃のような機材を取り出す。

そして、音を立てないよう……そっとその機材の先を鉄格子の隙間に差し込んだ。

黒いその機材の細い先は……通気口の鉄格子の外で折れ曲がって……

電磁波なのか?何なのか? 外のネジを触ってもいないのに……

天井にねじ込まれているはずのネジは勝手に回っているようで、

折れ曲がった鉄のくぼみの中に、ネジが……『コロン』と静かに乗ったのだ……。

エドは焦らず……静かに……

隼人と金髪の男のやりとりを耳にしながら……そっとネジを手元に引き寄せた。

その外ネジを慌てずに一つ一つエドが外していく作業を見つめている内に……

葉月は……反抗的になった事を反省した。そして──

『エド──有り難う……。本当に有り難う……。

私一人じゃ……ここまで来られなかったもの……』

葉月は無表情に作業をこなすエドにそっと微笑んでみる。

でも──エドはそんな葉月をチラリと冷たい視線で確かめただけで……

表情は灯さないし……淡々と作業を進めるだけだった。

でも──

『よかったですね……皆……無事で……』

色ない声で彼が囁いてくる……。

葉月は──そうゆう男達なのだろう──と、諦めてそれで良しとした。

その代わり──

葉月は胸のサックから……銃を取り出し、サイレンサーのセットを確認。

最後に……セーフティロックを、そっと……外す。

呼吸を整える──。

達也と隼人がなにやら茶化し合っているようだったが……

銃を構え……『精神統一』を始めた葉月には……もう、聞こえなかった。

その葉月の『集中』を見届けたエドは、何故かそんな時だけそっと口元を緩めていた。

それも、もう……葉月には気にならなかった。

エドの『ネジ外し』はまだ続いていた……。

下の『駆け引き』が緊迫してきていた!

 

「さぁ……あなたのもてあそびもここまで。

最後の一文字を教えて下さいよ……? ここで『嘘』と解れば……覚悟は出来ていますね?」

 

「エド……まだ? 早くして」

葉月の声に『落ち着きと威厳』が備わっていた。

エドは……今度こそ……

「あと……3つです……お待ち下さい」

いつも葉月に従うように、丁寧な受け答えをすんなりしていた。

葉月は銃の引き金を引いた……。

エドが巧みに進めているネジ外し……また『1個』……彼の手元に……

『お嬢様……頑張って下さいよ……』

エドも慎重を要した手作業故か、額に少しばかりの汗を浮かべて……

潜入をしてから初めて葉月に微笑んでくれた。

あと!……『2個』……でも……!!

葉月が今か・今かと構えている中……

『くそ! 本当に奪うぞ!! 葉月を!』

達也の声が急に葉月の耳に飛び込んだ!

葉月はハッとして鉄格子から様子を覗く……。

達也が……姿が見えない隼人の目の前でそう叫んでいると言うことは!?

『隼人さん──最後の一文字を言わされたら……

本当のパスワードじゃないと解って……犯人を怒らせて殺される!』

そう解ったが……

その気の焦りと供に……もっと違う衝撃が葉月の中を駆けめぐった!

『本当に奪うぞ!』

達也がムキになってそう叫んだという事は……

『海野中佐……頼んだよ……?』

隼人が『死を覚悟』して……達也に自分を任せようとしたのだと解った!

葉月の中に……隼人の深くて大きい思い入れが伝わって、

愛しい気持ちが……

一瞬……胸の中に『甘酸っぱい』ように湧き起こったのだが……

「許さない──無責任な側近ね」

葉月は眉間にシワを寄せて……瞳を光らせた!

(私を『頼む』ですって!? 簡単に置いていこうとしたわね!!

やっぱりここまで飛び出して正解だった……一発殴らないと気が済まない!!)

葉月が銃を『ガチャリ』と構えると……

そんな風にして、ムキになった葉月にエドが『クスリ』とこぼしたのだ。

「何笑っているのよ? 早くして!!」

エドに思わず……銃を向けてしまったのだが……

それこそ……『私が知っているお嬢様』とばかりにエドは『ニヤリ』と微笑んだのだ。

『さぁ──!!』

金髪の小柄な男がそういって、大きな男の下にいる隼人の頭を床にこすりつけたのが見えた!

『大文字の……』

「エド? まだ!?」

「落ち着いて下さい! 後一つです!

その前に……スコープを装着して……

部屋は暗くて敵が部屋の隅にもいるかも知れないから」

気がせく葉月だったが──

エドも今度こそ焦ってきたようだった……が、彼の手元はやはり慎重に落ち着いていた。

葉月は、言われた通りに銃を構えて額から目元にスコープを降ろした……。

『大文字の……X!』

その隼人の絞り出すような声が……葉月の耳にも届いた!

『カツン!』

金髪の眼鏡男が、トドメとばかりに隼人の最後の『告白』

『Xキー』を叩いて……『ENTERキー』で実行をかける──!

隼人の額に汗が流れた……。

そして──

その若い金髪の男は……『フ……』と呆れたため息を落としたのだ……。

その途端に……!!

隼人はまた……黒髪を掴みあげられた!

「やはり──『はったり』でしたか? 東洋人さん……小賢しい『日本人』らしいねぇ〜」

金髪の眼鏡の男は……怒りに瞳を燃えさせていた。

「やるぜ」

隼人の頭の上から……野太い男の声がそう降りてきて、銃口が頭にさらに押しつけられる!

「いいだろう……」

金髪の眼鏡の男は、冷たい表情でそう答えたのだ……。

その時!

「待ってくれ! 俺だ……俺が本当のパスワードを知っている! やめてくれ!!」

とうとう……トッド=クロフォードがたまりかねて叫んだのだ!

「ダメだ! 先輩!! ここで奪われたら……何もかもがおしまいだ!!」

隼人が日本語で叫ぶ……トッドは日本語は少ししか通じないのだが

隼人の気迫が何を訴えているのか充分伝わったようだった……。

「イヤ……もう……良いんだよ……サワムラ君……」

トッドが疲れたように微笑んだのだが……

「先輩が吐いたって、俺は殺されるし、みんなも殺される!

同じ事なら……言わないでくれ!! お願いだから!!」

『俺が殺されても……絶対に新システムは奪われたくない!』

たしかに隼人は『自ら』危険な『ダミー役』をかって出た。

その間、先輩達が痛めつけられることはなかった。

それが──『時間稼ぎ』で『救い』

隼人が殺された後は、今度こそトッドが吐くまで痛めつけられるか……

次の『見せしめ人質』をタテにされてトッドを脅かすかの

『想像絶する本格的な攻防、駆け引き』が始まるだろうが……

同じ痛めつけられるなら……少しでも先輩達に敵が手を出さない時間を作りたかっただけ……

その内に──『二陣が来る』

拷問のような『脅し』は、短時間で終わるかも知れない……

だから──トッドには隼人を救う為などに、口を割って欲しくなかった!!

ここで……口を割って欲しくない! 隼人には覚悟は既に出来ている!!

隼人がそう叫びまくると……

「うるさいから……やってくれ……どうやらあの男が『本物』だな……」

金髪のトミーは勝ち誇ったように、立ち上がって隼人を見下ろした。

「グッバイ……お前の駆け引き負けだ」

金髪の男がそう隼人に告げる。

トッドは……隼人の意志を汲み取ってくれて口を閉ざしたが……

隼人が『犠牲』になってしまった事に……

『まだ、言えば救える……でも……』の苦悩に悶えているのが解った。

隼人の後ろの男が、さらに踏みつけている足を前に倒す!

『くそ! くそ!!』

眉間に銃口を付けられている達也も……無駄に抵抗は出来ないのだが……

そういって隼人を涙目で見守ってる……。

(そうやって……見届けてくれるだけでも……良かったよ)

トッドが口を割らないうちに、撃ってくれ!とさえ感じてきた……。

隼人は観念をして……そっと目を閉じた……。

先ほどと同じ……栗毛のウサギを思い浮かべながら……

 

『ガシャーーーーン!!!』

 

隼人の後ろでそんな大きな『金属音』が響いた!

『プシュン──!! シュン──!!』

何かかすれたような高速音が、隼人の耳に聞こえた……!

『アゥ!』

「──!!」

後ろの男が、隼人の頭から急に踏みつけていた足を除けて──

『ガシャン!!』

隼人の背中で機関銃を落とした!?……そんな音がした!

頭が軽くなって振り向くと……

隼人を押さえていた大男が厳つい手から血を流して、片手で押さえて悶えている。

『銃で撃たれた!?』

そして……金髪の眼鏡男も驚いて、何かが飛んできた入り口の薄闇に振り向く!

達也の横にいた男も……一点に向けて銃を構えていた!

振り向いて初めて解ったが……通信機器の側にももう一人……機関銃を持った男がいるではないか?

金髪のリーダー格らしき若い男を含めて敵は『4人』

その中を……何か黒い固まりがが隼人めがけて向かってくるのが解ったが

部屋は薄暗いし、コンタクトがないので隼人は眉間にシワを寄せて目を懲らすだけ……。

でも──

『ええ!?』

隼人ばかりではない!

前に固められていた先輩達も唖然としていた!

「何者だ!!」

金髪のトミーがジャケットの中から銃をとりだして構える!

『ウァーーー!!』

そう叫び声を揚げながら……薄暗い部屋の中、何者かが

隼人の背後にいる男めがけて……乱れ撃たれる弾丸の中、向かってきた!

素早く……大男めがけてくる何者かがその男の陰に隠れたので……

達也の横にいる男は……至近距離で仲間を撃つまいと、

側にあったデスクの上に駆け上がる!

「テイッヤァーー!!」

隼人の後ろにめがけてきた『何者』かは……

手を打たれて立ちつくすその大男の顎めがけて、長い足を思う存分振り上げて突き上げたのだ!

開脚180度! 男の顎から鈍い音が響いた!

「ぐぅ……」

その男が少しばかりよろめいたのだが……倒れはしなかった……。

だが──突然現れた紺の服を着た『栗毛』の侵入者は

スターライトスコープだろうか?それをしていて顔が見えなかった。

同じ連合軍の紺潜入服を着ているから『仲間』であるのはすぐに解ったが!?

素早いその『助け船の彼?』は、そこで踏み耐えた大男に執着はせず……

顎に打撃を加えられてダメージを喰らっている間に……

今度は金髪の『トミー』に向かっていった!

『栗毛!?』

髪が短いその侵入者は……よく見ると身体の線がかなり細かった!

『まさか!?』

隼人は思わず……達也と顔を見合わせた!

達也も同じような疑問を抱いたのか?? 隼人とバッチリ視線があって同じ顔をしていた。

しかし……

『髪……短いじゃないか? それに一人でどうやって??』

──などと、思い巡っている内に──

「ヤァ! トゥ!!」

『ハゥ!』

元々……システム畑の男だろうと踏んでいた金髪の眼鏡男は……

その手際よい栗毛の侵入者に、あっけなく……

襟元を掴まれ、腰で跳ね上げられて『一本背負い投げ』──!

かなり遠くに飛ばされて、床の上を滑って行ってしまった!!

机の上に登った男と窓際奥にいる管制通信機、側の男は、

栗毛の侵入者が仲間と接近接触ばかりするので

下手に銃が撃てないようで、ただモタモタしていた。

だが──金髪の男が投げられて……その侵入者が『フリー』になった!

「撃たれるぞ!」

達也が一声、栗毛の侵入者に叫んだ!

次ぎに……その栗毛の侵入者が目を付けたのは……

先ほど、顎を蹴り上げた大男!

また、敵の仲間と接近接戦を試みて銃撃を塞ぐ策に出ようとしているのが

隼人と、達也には解ったのだが!

『ドドドド──!!!』

一番遠い位置にいる窓際の男が撃ち始めた機関銃の弾が……

その栗毛の侵入者の腹部に集中的に撃ち込まれてしまった!!

彼?の身体が弾が撃ち込まれる度に振動した・・。

『ああああ……!』

先輩達もさすがに声を上げて……

達也と隼人も『ヒヤリ』と硬直してしまった……。

そして──……

その侵入者が、撃たれた反動で……

『フォスター隊長』の目の前でよろけて……背中から倒れてしまった!

静かに……『バタリ』と……仰向けに……

栗毛の侵入者は倒れたはずみで……目元を隠していたスコープが

『カツン……』と額から外れて……頭のてっぺんの床に滑り落ちたのだ。

そこに現れた『顔』を確認してフォスターが思わず一声!

『あ!』

そして──側にいる達也と隼人も息を呑んだ!

 

倒れた『何者』かの顔……

短い栗毛で頬がすすけて黒くなってはいたが……

誰もが知っているあの涼しげでユニセックスな……顔。

──『葉月!』──

──『お嬢!』──

──『御園中佐!!』──

そこに捕らえられている者、皆がそう頭で叫んだようだった!

 

勿論──隼人と達也も驚いて……いや……『やっぱり!』とばかりに

一緒に顔を見合わせたのだが……

『バカ! 撃たれてしまったらお仕舞いじゃないか────!!!』

隼人は今度ばかりはかなり……衝撃的に動揺をした!!

心で……そう思いっきり叫んで、瞳に涙が構う事なく浮かんだのだ……。

自分の恋人が思い余って……

きっと──隼人達の交信が途絶えて気が気ではなくって……

どうやって飛び出してきたかは解りかねるが『ジッとしていられなかった』のは飲み込めた。

だが──今、この一瞬──

ほんのちょっとした隙に……葉月は無惨な姿で……

機関銃で撃たれて息絶えてしまったではないか!?

『お前が死んでどうするんだよ! さっきの俺の覚悟は何だったんだよ!?』

かなり……隼人は心の中で取り乱していた!

『お前──髪まで短く切って……俺の所に!? バカヤロウ!!!』

葉月の笑顔も、長い栗毛も……隼人の中に『出逢ってから一年分』の葉月が

頭の中に駆けめぐったが、もう──遅い!

そして……取り乱しているのは隼人だけではなかった……。

『バカヤロウ──……もぅ……我慢できねぇ!』

茫然としている隼人の目の前で……達也が悔しさで肩を揺らしている……

今にも、立ち上がって何が何でも『葉月の敵討ち』という

恐ろしい形相を浮かべていた……!