1.変わらない

 何だか訳が解らないまま、茫然とした男達が葉月の後を付いてくる。

「なに? 皆して……小池お兄さんは班室でしょ?」

「いや……そうだけど? あのさ……お嬢……その……」

小池も自分が勲章をもらった事よりも、葉月の昇進に衝撃を走らせているようだ。

「とにかく、今後について。時間が空いたら、中佐室、いや、もう、大佐室かな? 集まろうぜ」

山中が一番落ち着いているのか、そう言うと……

「そうだね……俺も、ちょっと皆と話したい気分」

ジョイまで……疲れたような顔で呟いた。

「…………」

隼人に至っては、一人、もう何か考えていて黙り込んでいる。

(なにをまた……考えているのかしらね)

葉月は黙っている隼人が一番『怖いな』と思いつつ……。

葉月は、連隊長室を出ても自分の後を、妙な顔で付いてくる男達にため息をついた。

 

 「葉月ちゃん!」

そんな女性の声がして……葉月が振り返ると……。

「水沢姉様……」

美しい黒髪を揺らして、水沢真理が葉月を追いかけてきたのだ。

その後ろには、夫の水沢少佐も一緒だった。

「おめでとう……驚いちゃった……本当に、良かったわね!」

「おめでとう……お嬢さん。真理と『勲章をもらうだろう』と、話していたけど……

まさか……『大佐』とはね……。連隊長のやる事は本当、驚かされるよ」

黒髪で眼鏡の品の良い秘書室男性。

俳優のように麗しく物腰が良いこの男性だからこそ、葉月は真理にはお似合いだと思って

ロイに……『職務姿勢は割り切っている事は数年見てきたはず! 許してあげてよ!』

そう進言して、この二人を公認の仲にさせようとした事もあった。

真理には大変可愛がってもらっていて、真理が隠れるように水沢と付き合っていることを

いつだったか打ち明けられて……。

『仕事、やめようと思うの……彼の重荷にはなりたくない』

カフェテリアでそっと涙を彼女がこぼしたから……。

『何故? そんな事で女性が仕事を辞めなくちゃいけないの?

佐伯姉様は、唯一、ロイ兄様の側で長続きしていて……兄様だって……

『真理が一番だ』っていつも誉めているわよ??

要は、姿勢なんじゃないかしら?? 兄様もそれなら許してくれると思う』

そんな『いきさつ』があって……水沢少佐も葉月に対しては大変気遣ってくれていた。

そんな二人の心からの『昇進祝い』の言葉……。

「有り難うございます……」

 

でも……と、葉月は俯いた。

 

「……私的なことなんですが……『兄様』に伝えて下さい。

時間がとれたら、話したいことがあると……」

 

葉月が、相変わらずの無表情を向けたので

笑顔だった水沢夫妻の笑顔もスッと消えてしまった。

 

「そう? それなら……ね? 少佐……」

真理が夫の腕をつつく。

「あ……そうだね? 伝えておきますよ?」

水沢少佐がニッコリ……笑顔で答えてくれた。

 

『では……』

葉月が表情を崩さずに、会釈をしたので、従っていた男達も揃って夫妻に頭を下げる。

 

 『少佐……いえ、澤村中佐……昇進おめでとう』

『有り難うございます』

真理と隼人のそんなさり気ないやり取りが葉月の背中に届いたがなんら気にならなかった。

 

 でも──隼人がすぐに葉月の横を追いかけて並んだ。

「お前さ……本当のところはどう思っているんだよ?」

彼の冷たい横顔を葉月は見上げた。

「本当は……納得いっていないだろ? 俺もだけどね」

「……今度、ゆっくり話す。とりあえず、受けて立つ」

「受けて立つねぇ? 『何に対して』?」

隼人の淡泊な眼差し……。

(解ってくれるのは……本当にこの人だけかも……)

葉月は……そう急に思えたのだ。

『何に対して立ち向かう』

隼人はそこの辺りは、まだハッキリ見極めていないようだが

葉月が受けて立ちながらも、納得していないことは既にお見通しの様子……。

葉月はそんな彼が……やっぱり必要だと……ニッコリ微笑んでしまった。

 

 「中佐、おめでとう……」

葉月がやっと微笑んで、そんなお祝いの言葉。

隼人が急に照れたように黒髪をかいて俯いた。

「お前もね……。おめでとうって言って良いのかどうかは疑問だね」

「うん……そうね」

「でも、お前が前にゆくって言うから、俺も受けて立ったんだからな……」

「うん……そうね」

 

 葉月と隼人が先頭でそんな穏やかなやり取りをしていたせいか……

距離を置いていた補佐三人がやっと後ろに近づいてきた。

「隼人兄! 今からお父さんのお迎えだろ!? 肩章付け替えようよ!」

ジョイがそう言って隼人の袖を引っぱり出した。

「お! そうだな! それがいい!!」

山中も大賛成。

「え、いいよ。そんなの口で言えば済む事じゃないか。家に帰ってから……」

真顔で拒否する隼人に……

「いけ! 山中……澤村君を押さえろ!」

小池が松葉杖姿でサッと後輩の山中を指一本で指図。

「オーライ!」

「ええ!? や、やめろよ!!」

体格良い山中に細身の隼人は背中からがっしり、押さえつけられる。

「ジョイ、脱がせろ!」

「おっけぃ〜♪」

「なんだよ! こら!!!」

そんな男達のもみ合いを葉月は、ただ、唖然と眺めているだけ……。

「お嬢、なにボケッとしているんだよ! お嬢が綺麗に付け替えろ!」

「え? 私が!?」

そんな所は、一番年功者らしく小池がテキパキ年下を動かす。

ジタバタしている隼人は山中とジョイにいいようにされて……

「ほい。お嬢♪」

ジョイの手から、葉月の胸元に隼人の上着がバサッと投げられた。

 

 葉月はそれを手にして……

そっと彼の上着の肩章を見つめた。

「お嬢の役目だろ? 誰がここまで引っ張った?」

小池がニッコリ……葉月の肩を叩いた。

昨年……フランスでは大尉だった隼人。

つい最近、少佐になったばかり……。

この総合基地では、こんな異例の出世は良く耳にするが……

こんな短期間で中佐になった男もそうはいないだろう……。

『私が連れだしたから……』

自分だけじゃない……。

隼人も、山中も……ジョイも……。

皆、異例の中佐になった男達。

小池も……山中と一緒に中佐にした男。

皆、異例の昇進にて戸惑いながら前に進むのだ。

 

 「やっと、俺から一歩前に出てくれたな。お嬢……これからは本物の隊長だ」

山中が嬉そうにニッコリ微笑んでくれた。

「今までと一緒さ……。俺達は……。誰がどんな肩章付けたって」

小池もそういって葉月に微笑む。

「そうそう! お嬢、これからだって俺達頼ってよね!」

「って──、お前が言うか?」

山中が調子の良い後輩のジョイの頭をペシリと叩いた。

「なんだよ〜兄さんったら! 言っておくけど、俺もこれから同じ中佐だからね!!」

「あ。そう言えば……ジョイも最年少中佐じゃないか??」

山中の腕からやっと解放された隼人は黒髪を整えながら急に我に返った。

「……私が中佐になったのも……ジョイぐらいの歳だったわ……」

葉月は廊下に座り込みながら……膝の上で

肩章のネジを上着の裏から外し、自分も急にハッとした。

「ジョイ……おめでとう。フロリダのパパもきっと喜んでいるわよ。流石、フランクの息子!」

葉月が心から、笑顔で祝うと、急にジョイが白い肌を赤く染めて俯いた。

「もう! お嬢、不器用だな! 俺にも片肩、貸しなよ!!」

「だって! 私、片腕なのよ〜!!」

もたついている葉月に業を煮やしたのか……照れ隠しなのか?

ジョイも葉月と一緒になって、隼人の肩章を付け替える。

 

 星が二つになった隼人の上着。

 

 「はい。羽織って……お父様、きっと、お歓びになるわ」

「どうだか……」

隼人は、皆に仕組まれたせいか渋々ながら……

葉月が差し出した上着を羽織ってくれた。

「片腕でも……これもお嬢が付けてあげなよ!」

ジョイが最後に、色とりどりの階級バッチを差し出した。

葉月はそれを手にとって……

「澤村中佐……おめでとう。これからも、宜しくね……」

片手で、不器用に……そのバッチを隼人の胸ポケットの上に付ける。

もどかしい手つきなのに……

今度は誰も手を出さないし、隼人も……ニッコリ。

「有り難う……大佐。ま、じゃじゃ馬台風のオマケって所かな?」

「相変わらずね!」

後ろについている安全ピンをそのまま突き刺してやろうかと思ったぐらい。

「さて……親父かぁ……なんだかなぁ、驚きようが目に浮かぶし、やっかいだなぁ……」

「そろそろ時間ね……」

「行ってくる」

そういって隼人は、葉月達を置いて一人違う廊下を進み出した。

 

 「さて──今から入れ替えか。お嬢、俺の所の通信員とあとで本部に行く」

小池も急に仕事の顔に……。

「ご苦労様。応援、宜しくね……」

『おう』

小池も落ち着いたのか、いつもと変わらぬ接し方、松葉杖で班室に戻っていく。

「あ! お嬢! お嬢も肩章付け替えなくちゃ! 澤村のパパ、喜ぶよ!

俺が付け替えて上げるから……早く! 早く!!」

「え? ジョイッたら……痛いわよ!」

「早く! 早く!!」

「本当に……姉弟みたいだなぁ。羨ましいよ」

右手を嬉そうに引っ張ってくれる幼なじみ……。

その後を、山中も微笑みながらついてくる。

葉月もそっと微笑む。

皆、変わらない……

──『私が大佐になっても』──

 

  

 16時ジャスト……。

晴天の空から、飛行機の轟音……。

滑走路がにわかに騒がしくなる。

滑走路に誘導ランプが灯る。

隼人は、オレンジのベストジャケットを着込んでいる航空員達の動きを観察。

(やっぱ、頻繁に作業しているせいか機敏だなぁ……)

自分がこれから結成するチームにもこんな現場違いの隊員がいても良いかも?

と、そんな事を思いあぐねている内に、小型機が小笠原滑走路に着陸した。

 

 小型の飛行機から、幾人かの隊員を含めてタラップを降りてくる……その最後。

「おお! 隼人〜!」

警備口で待っていた隼人はタラップの上から手を振る父親から目をそらしたくなる。

(なんだよ? 上機嫌に、人の気も知らないで!)

苦笑いをこぼして……ちょっとだけ手を振り返した。

父親が連れてきた社員は3人。

社員は少数だから皆、顔見知りのようなもの。

だけれど……一人、驚かされた男が混じっていた。

 

 「ゆ、結城じゃないか!?」

「よ! 久振り!!」

いかにも『日本人サラリーマンらしい』地味な紺のスーツを着た青年が明るく手を振った。

隼人も思わず、微笑んで走って滑走路に飛び出したぐらい!

「なんだ、なんだ! 隼人、立派になったと聞いたけど、ぜーんぜん雰囲気変わっていないな」

短髪で黒髪……なかなかの好青年だが、恰好は控えめなところが『工学男』

「まだ、うちの会社にいたのかよ? もっと良いところに転職しろと言ったのに……」

「いやいや〜……あはは! 社長の前でそんな事いうなよ〜」

そう……『結城 晃司』

隼人の『幼なじみ』だった。

 

 家も近所、学校も一緒、クラブも一緒。

同じ『機械クラブ』に中学校の時は入っていて、小学校の時は『サッカー少年団』に入った仲。

二人一緒に『パイロット』を夢見ていて、

幼い頃は和之が二人を県内の『航空ショー』に良く連れていってくれた。

二人の別れ……は、隼人が中学を卒業後、フランス留学をした時。

帰国をすれば必ず彼には会うようにしていた。

彼も有名所の『大学・工学部』を卒業後、何を思ったのか?

和之の会社に入社してしまったのだ。

「結城君は今は腕利きの営業マンでなぁ……」

「営業? コイツが? 工場にいたじゃないか??」

「ま、今は修行中って所さ」

作業着姿の彼を見てきた隼人。

隼人と一緒で、営業よりかは作業の感覚を持っていると思っていたのに……。

だが、隼人も人のことは言えない。

作業などを教え込む教官から、いまや『管理職』の一歩手前にいたりするのだから……。

 

 「隼人もいるし、大きな所の営業をさせようかどうかの下見って所で連れてきた」

父親がそう言って隼人は驚いた。

つまり……今回、感触が良ければこの若い青年が

『小笠原総合基地担当営業マン』になると言う事。

(親父……小笠原進出……本気だな!?)

その勢いに驚いたが……でも……

『幼なじみ』が本島から、ちょくちょく顔を見せに来てくれるようになればそれは楽しみ……。

複雑になった。

まぁ……父親の『ビジネス戦略』

自分の事に『首突っ込むな』と、今まで張り通してきた息子だから

父親が『本気でビジネス』と考えているなら『口は出せない』

今回は、本当に『息子のため、気に入った女の子のため』でなく……

(上手く使うな? キッカケか……。俺と葉月は)

葉月に誘われてきた『初の小笠原訪問』

先月のその訪問をビジネスとして塗り替えてしまった父親に隼人は絶句……。

 

 「隼人君、立派になったねぇ……あんなにあどけない男の子だったのに」

「富山さんも元気?」

「本当に日本に帰ってきたって聞いて驚いたよ?」

「河野さんも……元気そうだね?」

後の二人は昔から父に付いてきた『50代』になろうかという中年の男達。

それぞれの挨拶を済ませる。

「聞いたぜ〜。お前、冬に幹部少佐になって、なんだって? 隊長の女の子の補佐だって?」

幼なじみの晃司が隼人をからかうように、肘でつつきまくる。

(まったく! 親父、皆に言いふらしてるな!?)

隼人がムッと父親を睨み付けても、和之は何喰わぬ顔。

「お若いお嬢さんなんだってね……? 想像できないよ……」

「僕たちも、ここの総合基地は初めてだけど、横須賀校長の姪御さんだって?

あの校長の姪御さんとなると……さぞかし、優雅な子なんだろうね? 緊張するよ?」

営業おじさん達もなにやら、既に父親に吹き込まれたのか妙にかしこまっている。

「普通のお嬢さんだよ。お転婆で手を焼くぐらいで、ビジネス文章だってろくに作れないぐらいさ」

隼人がシラっとそういうと、父親が『偉そうに……』という眼差しだけを送ってくる。

「若い幹部が沢山いるって聞いたけど、その一人か! 少佐かぁ……」

と、晃司が隼人の肩章に目を馳せる。

「……えっと? 社長? 少佐って星二つでした?」

晃司が和之に向かって怪訝そうに振り向く。

「……いや? 星は一つ……」

隼人は、そこでまた……顔を背けたくなったのだが、既に遅し……。

父親がものすごく驚いた顔で隼人の目の前に来て肩を掴んだのだ。

「隼人! いつなった!? なんだ、これは!!」

「えっと。。その、つい先程。連隊長が帰国して……辞令が」

隼人がボソッと漏らすと、和之がもっと驚いた顔をして……

なんと!? 隼人の詰め襟を細腕で掴みあげて突っかかってくる。

「なんだと!? お前が葉月君と同じ中佐だと!? とんでもない!!」

「えっと……彼女は……その一つ上に……」

『ええ!?』

今度は和之ばかりでない……そこにいた営業マン3人も大声を上げた。

父親に吹き込まれてきたなら、それも当然だろう?

27歳になろうかという若娘が『大佐』になってしまったのだから……。

この総合基地内でも、月曜日に騒然となるはず。

だが……直に浸透はしてしまうだろう。そういういきさつも受け入れていける場所でもある。

だが……これは民間の、特に日本国内。

こんな異例な話など、滅多に聞かないだろうし……

おそらく受け付ける範囲でもないだろう……。

 

 「そうか!」

なのにやっぱり、父親がすぐに落ち着いた顔に戻った。

「よし! いくぞ!」

和之が、慣れた風にして、警備口にて入場許可手続きを……。

隼人が手を貸さなくても、一度来ただけでスムーズな父親の行動。

それで、晃司を含めた営業を引き連れて、隼人も只ついてゆくだけ。

(迎えなんて、いらないのじゃないか?)

そう、思ってしまうほど……。

和之は棟舎内に入っても、行く方向もしっかり心得ていて

四中隊へ向かうエレベーターのボタンも率先して押してしまった。

 

 「なんだよ。親父、良く解っているジャン。迎え、いらないな。これからはぁ」

隼人が呆れて横に並ぶと、お返しに父親からも呆れ顔。

「ふん。お前より、葉月君のお迎えの方が嬉しかったのだがね

怪我をしているなら、仕方がないし、私が来なくていいと言ってもあの子は来るよ」

「あっそ」

父子で『ふん』と、やり合っていると営業部下達は苦笑い。

エレベーターが来たので、今度は隼人が3階のボタンを押した。

 

 だけれど、その横で和之は息子の隼人にはあまり見せない緊張した顔をしていた。

「そうか。とうとう……なったか」

独り言のように、父親が呟いた。

「……驚いているのかよ? それとも……なんだか、すんなりしてるな?」

驚いたには驚いたようなのだが、父親は何か悟りきったように慌てたりはしない。

「……なにかやる子だと……そうは思っていたのだが……

まさか──こんなに早くとは……ね。それだけだ……

心してかからないとな、これからは『大佐』だ、隼人、お前もしっかりしろよ」

父親に──なんだか責任重大の『職務』を言い渡された気分だった。

その言葉の力の中に……

『これからは、お嬢さんのサポートじゃない。本物の仕事のサポートだ』

……と、言い聞かされたような気になった。

その為に必要な地位、『中佐』なのだろうか??

葉月が今まで背負ってきた『中佐の立場』は今度は隼人にそっくりかかってきて

彼女はさらに……重い立場を背負い始めるのだ。

そう思うと……異様に背筋が伸びる緊張感。

(あ。親父もこの緊張感なのか?)

教えられた気がした……。

 

 そこで、エレベーターが3階にすぐさま辿り着いて……

和之と隼人が先におり……

『親子話』に遠慮してか、晃司達、営業マン達は降りると距離を置いてそっとついてくる。

 

 「やはり、今回、入れ替えを決意して良かった。

これからは、今の状態ではダメだ……。」

父親も、今回の早急な入れ替えが、良いタイミングであったと、さらに気合いが入ったようだ。

「……そうだな。礼を言うよ」

「ふん」

息子の素直な御礼にも、和之はいつも通り。

隼人も、すぐにそっぽを向けたのだ。

 

 「しかし……それでも『彼女らしく残して欲しい所』は……見失わないようにしてやらないとな」

「ああ……」

父親が何でもお見通しなので、隼人は本当に歯が立たないと……

でも、もしかすると? 自分の気持ちを一番早く、同時に、同感してくれる人間なのかもと

急に、改めて思うことが出来たのだ。

それが……『父親』

「彼女が変わると言う事も、無いとは思うが……まだ、若いから心配だ……。

せめて……身近な人間が、そこは心得てコントロールしてやらないとな」

「……ああ、宜しく」

隼人が昇進で戸惑っているその間にも父親はサッと先を見通して

どうすればよいか直ぐに答えを見据えている。

それに……やっぱり、強い味方なのかも知れないと改めて噛みしめた。

「私だって……お前の父親である限り、葉月君とは近しい付き合いがあると心得ているぞ」

「助かるよ。彼女……親父が来るの楽しみにしていたみたいだから」

隼人が笑顔で、そう言うと、和之がやっとそれらしく笑顔をこぼした。

「買ってきたぞ♪ ゼリーに、タルトに、紅茶もな!」

和之が得意気に、手にしていた紙袋を掲げたのだ。

隼人も、まるで娘に会うかのような父親の顔につい、にっこり……。

あのじゃじゃ馬娘を恋人として……以上、娘のように思ってくれると隼人も嬉しいほか何もない。

「紅茶、好きなんだよね。喜ぶよ」

「そうか! 勘が当たったかな!」

(……当てるなよ)

隼人は『煙草吸って、コーヒーって感じだけどね』と

フランスで、彼女をそうからかったことがある。

女性の雰囲気、好みの見通しは……

(負けた──)

隼人はガックリ……。

(まてよ? なんで、親父とこんなに張り合わなくてはいけないんだよ!?)

と、ハッとしたり……。

「だが……彼女は彼女、大佐になっても、可愛いお嬢さんであることは……

大切にしてあげないとな……」

父親が、隼人を応援するようにそっと微笑んでくれた。

「勿論──。と、言っても、相変わらずのじゃじゃ馬振りだろうけどね」

「そこが……彼女の『可愛い所』じゃないか」

「どこがぁ!?」

「お前、まだまだだな」

父親に男として『未熟』という視線を流されて、隼人は『グッ』と引いてしまった。

 

 それでも、父親の落ち着きにはいつも驚かされるが……

『良かった……親父が、アイツが大佐になってもいつも通りで……』

 

 そう──変わらない。

変わるとしたら……これから、『彼女と一緒に皆変わる』

そうしていきたい……。

隼人も必死に……彼女の後を行くのだ。

 

 もう──既に走り出していた。