2.幼なじみ

 本部へ向かう途中……。

「隼人、葉月君は任務後、様子は大丈夫だったのか?」

父親がそっと部下達に悟られないよう小声で隼人に囁いた。

隼人はドキッとした。

本当にこの父親には適わないかもしれないと、おののいたのだ。

「その事なんだけど……任務中、何があって、どうなったとか……

あまり深く追求しないでくれないかな?

勲章をもらったからと言って、彼女にとってはそんな功績は誉められて嬉しい所じゃないんだ。

ああ。彼女……髪、短くなったんだ……。そこもあまり……」

隼人が、致し方なさそうに俯くと、和之もなにか予想は立ててきていたのか驚いた顔を……。

「そうか……。お前は? 大丈夫なのか? 上手くフォローできたのか?」

先程までは、顔つき合わせてお互い意地張り合いだったのだが……

そんな父親が、そっと隼人をいたわるように背中に手を添えてさすってくれたのだ。

「ああ……なんとか。俺は平気。彼女……俺のために、飛び出したんだから……」

隼人が微笑むと……父親もそっと、労うように微笑み返してくれた。

 

 四中隊の本部室が見えてくると……

『お父様!』

待ちきれなかったのか葉月が入り口を出た廊下で待ちかまえていた。

彼女の明るい笑顔を確認して、和之がホッとした顔を息子に向けた。

隼人も……一安心。 でも……。

(なんだよー。俺と全然、違うじゃないか?)

親父と何処がそんなに違うのか? と、思いたくなるような葉月の素直さ……。

隼人はヤレヤレ……と、頭を振ってため息をついた。

「お〜い。。隼人? もしかして、あの子が??」

幼なじみの晃司が隼人の背中をつついて、立ち止まった。

「え? ああ、うん。結構、普通だろ?」

「普通って……お前は毎日、見ているからだろう??」

晃司が横で、怖じ気づいていたのだ。

「は、隼人君! なんて挨拶したらいいのかな??」

「そっくりじゃないか? 横須賀校長に!?」

富山に河野も、急に目を丸くして立ち止まった。

『あの子が大佐??』

隼人は苦笑い……。

普通の女の子に見えながらも、そうじゃない……。

どう接して良いのか解らないと言ったところだろうが……

「変に大佐扱いすると、機嫌損ねるよ」

「え? 普通は大佐扱いして欲しいところじゃないのかな??」

富山が、益々混乱したように戸惑いの声。

「えーと、俺が中佐ってくらいだから……普通に接してくれると彼女も普通って言うか……」

どう言えばいいのか……隼人だって解らない。

自分も『昇進』したばかり……。当然、自分が戸惑っているように葉月も戸惑っているだろうから。

 

 「やぁ……葉月君! そんな怪我で……出てこなくても」

そんな部下達の戸惑いは『そっちのけ』

和之は、ニコニコと葉月に近寄っていった。

「お父様、今回は本部のためにお忙しい中の手配、有り難うございました」

葉月が肩に釣り包帯をしたままお辞儀をすると……

和之がそっと、その姿を哀しそうに見下ろしたが……

葉月が顔を上げるまでには、満面の笑みに戻したのを隼人も眺めた。

「よく頑張ったね……。おや? イメチェンかい?

短い髪もよく似合っているね! 頭が前より小さく見えるよ?……モデルのようだ!」

(おお。流石、親父!)

姿が変わったことを上手く父親が誉めたので、隼人はホッと胸をなで下ろす。

当然……葉月も、そんなお褒めに『ニッコリ』

「今日は、お父様がいらっしゃるから……いつもより、女らしくしたのですよ」

(なに? それで、スカートを穿いたのか??)

自分じゃなくて、父親が来る為に、『あっさり』スカートを穿いたのかと思うと……

隼人は、恋人として腑に落ちない。 また、父親に嫉妬!

「そうかい? そんな事しなくても、葉月君は可愛いよ」

和之のニッコリに……葉月はさらに『ニッコリ』、この上なく嬉しそうだった。

(アイツ……覚えていろよ!?)

今夜、丘のマンションに帰ったら、こんこんと追求してやりたい気持ちになったが

隼人は、とりあえず、顔に出ないよう冷静を努める。

「びっくりしたよ? 隼人が中佐なんて飛んでもないと言っていたら……

大佐だって?? おめでとう!」

和之が、葉月の両肩をいたわるようにそっと撫でたのだ。

「……でも」

葉月がそこで、笑顔を鎮めて俯いた。

なったばかりでまだ納得していない何かがあるようだった。

しかし、葉月はすぐに先程の笑顔に戻る。

「いらっしゃいませ……遠いところ、わざわざ……こちらの本部のために有り難うございます」

今度は、隼人と並んでいる営業マン3人に、ニッコリご挨拶。

和之との接しようが『型どおりのキャリアウーマン』に見えなかったのだろうか?

父と娘のような雰囲気に、営業マン達も、やっと堅さがほぐれたようだ。

『富山です』

『河野です』

おじ様達の、いつも通りの挨拶に、葉月も礼儀正しくご挨拶。

そして……

「結城です。澤村とは……近所で幼なじみです」

結城が頭を下げると、葉月はちょっと驚いて隼人を見つめたのだ。

「ああ、そうゆうことで。俺も久振りで驚いていたところ」

「コイツ、すっげーくそ真面目で、頭固くて、異様に理論が先走って……

困っているでしょ? 『葉月さん』」

晃司が、隼人の意図を汲み取ってくれたのか……『大佐』と言わず

彼女扱いで接したので隼人はビックリ、恥ずかしくなったのだが……

「いいえ……私が『子供』ですから……お兄様に助けてもらっているという感じですわ」

いつもは妙に人見知りなはずの葉月が、ニッコリ微笑んだのだ。

その品のある笑顔。

逆に……晃司が頬を染めたぐらいで彼は茫然となりかけたようだった。

「そう……少佐の、じゃなくて……中佐の同級生なの?」

「ああ……」

隼人がニッコリ微笑むと……

葉月もなんだか、そんな『恋人のお友達が来た』と思ったのか嬉しそうだった。

それを見ると……隼人もなし崩し……。

恋人としてそんな風に自分の幼なじみを歓迎してくれるので……

『どうにでもなれ』状態に……。

 

 和之も……昔なじみのおじさん達も、幼なじみも……

葉月に対する『畏怖』はもう無くなったよう……。

和之を筆頭に廊下であれやこれやと、お互いの自己紹介で賑わった。

 

 (うん。上出来)

 隼人も満足……。

無感情令嬢と言われていて、仕事と来れば冷たい顔ばかりの彼女が

こうして、素直に彼女らしく人と接してくれると、隼人も見ていて安心。

でも?

『まさか、親父効果とかじゃないよな!?』

優しい和之がくるから……いや?

優しいじゃなくて……葉月は隼人の父親からなにか『信頼感』を得てしまっているようで

それだから……こんなに素直なのだろうか?? と、また、腑に落ちなかったり……。

 

 「お父様! お土産があるんですよ……こちら、どうぞ」

「いやいや……葉月君からお土産もらうなんて……来て良かったなぁ」

和之が娘に手を引かれるように、ニコニコと本部に入るものだから

営業マン達も、ホッとしたようにして後をついていった。

 

 「お父さん! いらっしゃいませ! お待ちしておりましたよ♪」

『大佐室』に入ると、ジョイが張り切ってご挨拶。お茶の準備中だった。

「いらっしゃいませ。遠方から、有り難うございます」

山中は流石に落ち着いていて、丁寧に挨拶。

こちらも、お茶の支度を手伝っていたようだった。

和之も、はつらつな青年と、落ち着いた青年の挨拶に満足している様子。

応接ソファーに、精機会社の4人を誘導してとりあえず落ち着かせた。

 

 「どう? コーヒーちゃんと出来た?」

葉月がジョイの手際を確かめに、キッチンを覗く。

『今持っていく!』

ジョイと山中が揃って狭いキッチンで右往左往、準備をして

トレイにコーヒーを乗せて二人揃って応接ソファーへと出ていった。

その後……そこで一人になった葉月が隼人の方に視線を向けたのだ。

「澤村中佐……ちょっと」

そのキッチンの前で……早速『中佐』と呼ばれて驚いたが……

「何でしょう? 大佐」

隼人も照れくさいがそういって、側近らしく彼女の側へ移動した。

 

 「……あのね……」

「なに?」

「やっぱり、お父様。素敵ね」

(どこが!?)

「……覚悟していたの。お父様、驚かせたり、きっと哀しそうな顔すると思って……

だから……今日は、驚かせてはいけないと思って……

ちゃんと、以前通りの恰好になろうと思ったの」

葉月がそう言いながら……そっと踵が高いヒールに視線を落とした。

(その為に……!?)

「ごめんね? 隼人さん、ずっと、スカート穿けって怒っていたじゃない。

別にそうしたって良かったんだけど……我が儘通したのは、隼人さんだったからなのよね

どうしても、スカート穿きたくなかったの……。

でも、今日はそんな自分の気持ち、通していたらお父様哀しませると思って……」

隼人は……そんな彼女が、自分の父親の『優しさ』を解っていて……

哀しませたらいけないと言う、その気持ちに……驚いた。

それに……

一番大切な事、忘れていた気持ちになった。

勿論、葉月の心から来た『妙な行動=男姿』の軌道修正も大切な事なのだが

『我が儘通したのは……隼人さんだったから』

『どうしてもスカート穿きたくなかった』

穿きたくない理由については、まだ、詳しくは聞いていないが

『隼人さんなら……』

自分の思うままに、感じるままにやってみた……。

そう言われたら、隼人も『帰ったら追及』なんてしたくなくなった。

それだけ……隼人の前では『地』で生活していると言うことであるから……。

「でも……お父様……全然、普通に接してくれて、この前と変わらないんだもの」

「そう?」

「やっぱり……隼人さんのお父様ね……『そっくり』

隼人さんと一緒……。変わらないんだもの……」

「──いや、別に……そっくりかな?」

『そっくりよ』……葉月がニッコリ、素直に微笑んだので、隼人も照れてしまって黒髪をかいた。

「そうそう! せっかく旧友さんがいらしたんですもの!

私はお父様のお相手するから、カフェテリアで積もる話しでもしてきたら?

どうせ、入れ替えは明日だし……準備も終礼後だから!」

「え? 勤務中だし……」

「大佐命令♪」

葉月がそう言って、キッチンから隼人を晃司が座っているソファー側に

背中を可愛らしく押すものだから……

『ん、じゃぁ』と、お言葉に甘えることにした。

 

 「晃司……大佐が許可くれたから、一緒に外で話さないか?」

せっかくジョイが作ったコーヒーを目の前に晃司も戸惑いながら

そっと和之と葉月を交互に様子を確認。

「行ってきては如何でしょう? ね? お嬢♪」

隼人の幼なじみと直ぐにジョイは悟ったのか?

『僕が作ったコーヒーなど気にしないで下さい』と言わんばかりの笑顔を晃司に向けたのだ。

晃司も……日本語上手のジョイに一瞬押されたかのように躊躇していたのだが……

「行っておいで、『晃司君』 うるさいバカ息子を連れていってくれ

私は、可愛いお嬢さんを独り占めさせてもらうよ」

「誰がバカ息子だよ!」

隼人は相変わらずな父親にお返しをしつつも、幼なじみを貸してくれるので一応笑って言い返す。

「では、お言葉に甘えて……行ってきます」

晃司が立ち上がる。

その入れ替わりのように、葉月は和之の向かいに腰をかけて、早速話を始めたのだ。

 

 「本当に26歳かよ?」

大佐室を出た途端に晃司が首を傾げた。

「まぁ。ちょっと、大人びてはいるかな?」

「ふーん」

晃司は、なにやらいろいろと言いたそうな顔。

「カフェテリア……行ってみるか?」

「お。いいね♪ 国際基地の食堂か♪」

隼人と晃司は久振りの再会とあって、二人笑顔で四中隊の本部を後にした。

 

 

 「おお! スッゲーじゃん!」

晃司をカフェテリアに連れていくと、あの展望台のような窓際を

偶然、陸軍の輸送機が横切っていったところ。

その壮大なカフェテリアを目にして晃司はエレベーターを降りて一時、静止。

(俺も、山中兄さんに連れてきてもらったときは、こんなだったなぁ〜)

半年前の自分を思い出して、隼人は晃司と自分を重ねて笑った。

 

 丁度、皆が勤務中とあってカフェテリアは、

訓練後の休憩をしている隊員しかいなくて空いている。

だから、悠々……特等席の窓際を晃司とコーヒー片手に席を取ることが出来た。

 窓際に席を取って暫くは、晃司は窓辺から見える滑走路に海に感心しきり。

隼人も指さして、あちこち基地内を説明……。

 一頃すると……

「お前さ……なんで、帰国してから一度も顔見せないんだよ」

晃司が、何の前触れもなくコーヒーカップを傾けながら呟いた。

だが……幼なじみを連れ出して『先ず』聞かれるだろうと心得ていたので

隼人は動揺せず……こちらも何喰わぬ顔でカフェオレを飲むだけ。

返事をしない隼人を確認して、晃司はため息をつき……カップをテーブルに置いた。

「……まだ、気になっているのか? 美沙姉の事」

彼は、隼人の継母のことは昔から『姉さん』と呼んでいるのだ。

「別に? 気になっていたら恋人も作らないだろうし帰国しない」

「へぇ? きっぱり平気に口にしたな!」

幼なじみが驚くのも無理ない……。

隼人は、事この点に関しての感情に対しては

口で白黒ハッキリ言い切った事がなかったからだ。

それだけ──

隼人が心を暗く閉じこめていた中に、あのじゃじゃ馬台風が渦巻き起こす日々にて

アッという間に彼女一色の日常に染まっていると言うことだった。

「俺の中では、ある一部は随分前に終わってることぐらい……

晃司だって、前から知っているだろ?」

「言い聞かせているだけかとも、思っていたけどな

じゃ、残りの『部分』となるとなんだろうなぁ?」

幼なじみは知っていた。 隼人が継母に恋をしていたことを。

別に隼人から口にしたことはないが、幼なじみは見抜いていた。

「昔さ。学校でもお前って結構、女子にもてていたもんな。

なんでだろうな? 学級委員に選ばれたり、頭良くてさ……運動ができたけど

無口で、そう派手なタイプじゃないのに女子達がそういって寄ってきても

お前ってば、ぜーんぜん興味持たないの」

「知るかよ? そんな昔の子供の話じゃないか」

「他に、もてる男はいっぱいいたけどな? お前ってば『地味』なクセに

しかも大人しい女にばかりもてていたよなぁ?

それが……時が経ったら、なんとまぁ……『目立つお嬢様』にコロッといかれるとはね?」

「……なんだよ? うちのお嬢さんが気に入らないのか?」

すると、晃司は今度はため息をつきながら、足を組んで窓辺に視線を移した。

「もっと、地味で堅実な女を選ぶと思っていたからさ

エリートの恵まれたお嬢さん、しかも『やり手の女軍人』とくるとはね?

確かに『美人』だったな? お前には勿体ないぐらいの──

あんな令嬢だったら、他に良い男が現れたら、直ぐに捨てられたりしてな?

美沙姉が心配していたぞ?

『隼人ちゃんは惑わされているのじゃないのか?』ってね」

隼人はその一言を聞いて、頭に血が上りそうになったが……

数年ぶりに顔を合わせた幼なじみ。

大人げなく怒鳴る気にはならなかった。

それに話せば解る相手だ。

もっと、腹が立ったのは、継母の彼女が幼なじみの晃司に

『探って欲しい』とばかりに差し向けてきた事。

(まったく……昔から妙なところで心配ばかりするんだな)

隼人がふてくされながらカフェオレをすすると、晃司が目の前で『ニヤッ』と笑ったのだ。

「なんだよ? 晃司」

「いやいや……相変わらずだなぁ……と」

「言っておくけどな! 美沙さんの事なんて……」

「解っている……。お前が一番望んでいる形をな」

「形?」

そんな事、自分で考えた事がなかったので、隼人は幼なじみが何を思っているのか首を傾げた。

「母親でもない、恋対象でもない……そうでなければ、残っている物は?

『姉』か『家族』だろ? 美沙姉だってそんな気持ちみたいだぜ?

姉さん心で、弟に出来た恋人がイイコかどうか心配しているだけさ?

お前だって解っているんだろ? 本当は……」

「……まぁな」

「天の邪鬼……変わらないんだな」

「……まぁな」

「いつからか……急にお前は大人びてさ……。

美沙さんに優しくされたらそっぽ向いて、美沙さんが気にしてくれなかったら落ち込んで

同世代の奴らとは、ちょっと格が違う恋愛感情と向き合っていたからなぁ……。

その大人びているところが、同世代の大人しい女には魅力だったのかもなぁ」

「…………」

なんだか、思い出したくない『過去の汚点』を幼なじみに暴かれているようで

隼人は、だんだん居心地が悪くなってくる──。

 

 「それで? お前らしくないお相手の『お嬢さん』だけどな」

「俺もね……フランスで彼女と出会ったときは、さっき晃司がいっていた事

そっくり……感じていたからな。でも……よく見るとそうじゃなかったから……」

「……そっか。そうだよな? 俺もそうじゃないかと思っていたんだ?」

「──って、さっきと随分言い分違うな!」

「それぐらい言っておいて、美沙姉がどれだけ心配しているかって事で

ちょっとキツク言っただけだよ?

俺がさっき言った事、そっくり美沙姉は心配しているぜ?

だから、俺は……『隼人がそう簡単に軽い女は選ばないよ』とも言ってみたけど……」

「晃司は信じてくれたけど、美沙さんは俺を信じていないわけだ」

隼人がムスッと、カップをテーブルに置くと、また、晃司がため息をついた。

「俺が信じる以前に……あの和之おじさんが、彼女をぞっこん気に入ってしまったからな。

あのオヤジさんがだぜ? 結構、厳しい目を持っているだろ?

なのになぁ……美沙さんとしては、先月、和之おじさんが小笠原に出かけた時……

『お父さんなら、隼人ちゃんが間違っていたら正してくれる』って思っていたんだろ?

だけど、おじさんが帰ってきたら、『隼人の恋人はイイコだ!』なんて大絶賛だぜ?」

「だったら、美沙さんだって『納得』だろ? 親父の言う事、いつも二つ返事じゃないか?」

すると、晃司が『チッチッ!』と指を一本立てて振ったのだ。

「隼人……お前、考えた事ある? お前に怒られる覚悟で言うけどなぁ……

例えばだぜ?? 『美沙さんの潜在意識』ってやつだけどな?」

晃司が隼人の様子を見ながら、説こうとすると……

「……それ以上、言うな!」

隼人から……輝く真っ直ぐの視線が飛んできたので……晃司は言葉を止め……

そして……

「……お前、感じていたのかよ??」

晃司は、驚いた顔で静止したのだ。

「……万が一であってほしいけどなぁ。だから、今度、『葉月』は横浜に連れていく……」

事情は、昔と変わっていることを隼人はとっくに解っていた。

そして……離れていた幼なじみも……久振りに会ったのに察していた。

そこはやはり、昔から隼人を見つめてきてくれた『親友』だった……。

だから……

『ここは横浜に行く前に……そして、葉月を連れて行く為にも……』

この男には心にあることは先に話しておいた方が良いと隼人は心を決めた。

 

 勘の良い彼女にすべてを見透かされて……

隼人のために、触らずにそっとしておいてくれた葉月のためにも……

今度こそ、隼人は向き合わなくてはいけない覚悟を心に宿し始めていたのだ。