5.感情襲撃

 

 ──「純一はお前を確かに愛している……と、俺は感じている」──

 ──『純兄様が……私を愛している!?』──

 

 いつも彼が言うことは外れたことがない。

だからロイを頼りにしていた。

彼の言うことに反抗しても、いつも彼の言った通りになる!

 

 『純兄様が……私を愛している!?』

葉月が、声には出さずに顔にその驚きを刻んでいたのだろう?

ロイがすぐさま、葉月にこう言い聞かせようとした。

 

 「葉月……何度も言っているが……

お前と純一が……例え愛し合ったとしても、王道じゃない

アイツは『結婚』ができない、しない男だ」

(王道ってなに!?)

葉月は何故かその言葉に苛立ちを覚えた。

ロイはいつも、いや……右京も口を揃えて言う。

 

『皐月の願いは、お前に最高の女の幸せ。美しさだ』

 

 それを言い聞かされるたびに……

女の幸せを追求したところで、一体何が良いのかさっぱり解らなかった。

でも……

『レイの髪は綺麗ね……お姫様みたい』

姉の甘い声がする。

ドレッサーに向かって、良く髪をとかしてくれてセンス良くリボンや髪留めを付けてくれた姉。

『お姉ちゃまも綺麗よ。お姉ちゃまみたいな、美人さんになりたい!』

鏡の中に映る髪が短い姉に笑いかけると……

姉は兄達といつも張り合っているような男張りの得意気な顔は絶対しない。

にっこり……優しく微笑んでくれて……その美しい優しさが葉月の憧れだった。

素敵な女性だから……

ロイも真も……

そして、姉とはいつも意地張り合いで冷たかった純一でさえ……。

姉に惹かれたのだいつも思う。

子供の時は、姉を中心に姉と張り合いながらも素敵な男性であった兄達にも憧れていて

姉と兄達の繰り広げる世界そのものが……

葉月の大人になる前の甘やかな『憧れ』だったのだ。

 

 それを見ることはなくなった。

その世界を眺めて皆が笑っている日々はもうない……。

 

 そんな姉が残してくれた『自分』を拒否しながらも……

そんな姉が残してくれた『自分』を大切にもしていた。

 

 以前は『女』という部分が大嫌いだった。

何故なら、男が寄ってくるからだ。

それが美しい姉に悲劇をもたらした。

姉が欲しくて堪らない『けだもの』のような『イキモノ』は、他にもいっぱいいるに違いない!

ほら! そこにいる男・男・男!!

すべてが汚らわしい所か、存在そのものが許せない!

『あんた達は仮面を被っているのよ! 怪物! けだもの! 卑怯者!』

だけど、その男の中で男じゃない男が葉月の中に存在していた。

それが唯一、幼い頃から知っていた『父、叔父、兄達そして弟分』

それらは『男』という意識を葉月は持たなかった。

昔から変わらない、葉月にとって『家族』なのだ。

安心できる『イキモノ』なのだ。

 

 だから……

『姉貴に任されている。少しばかり、この兄貴を男として許してみないか?』

13歳の冬……そうして両親の留守中に忍び込んできた純一に

恐怖は感じたが、姉の悪夢を焼き付けていた葉月は既に兄が自分に何をするのか解っていた。

『許してどうなるの』

冷淡に答えた葉月に滅多に優しく笑ってくれない純一がそっと微笑んでくれたから……

『ヤケ半ば』だった事もあったと思うし……

たぶん。これが最初で最後だと思ったのだ。

それなら『男じゃない男』にそうしてもらう他ないじゃないか?

そんな風に感じたのだ。

 

 それが葉月のロストバージン。

冬の潮風がそっと窓の隙間から入り込んでくる静かな夜だった。

葉月の部屋は二階。

一階には祖父だけがいたようだが、年寄りは寝るのが早い。

だが、後で気が付いたが祖父はおそらく解っていたのだろう……。

でも、そうとは知らない少女だったから義兄が言うまま声は堪えた。

そんな記憶がある。

随分、昔の事だ。

 

 その時、純一が耳元でずっと言っていた言葉。

「葉月……昔のお前が見たい……もう一度、見たい」

「あんなに皐月が綺麗に可愛がっていたじゃないか? 忘れたのか? 思い出してくれ」

ずっと、繰り返していた。

耳元で、短くなった髪を義理兄は大きな手でかき回すように撫でていた。

「少しずつでいい。自分で許せる部分だけでいい。偽らないでくれ」

葉月はその間、見ていた景色は真っ白な天井と窓辺で揺れるカーテンのひだだけ。

なんだか知らない純一が、泣きそうな声でそう言う物だから……

あの無口で意地悪で、冷たい彼が皐月・葉月と声を震わせるから……。

 

 「すこしだけ思い出してみる」

 

 あの晩……義理兄が去った後……。

葉月は事件後初めて……ドレッサーに座ってみた。

引き出しを開けると……赤いリボン、青いリボン 白いリボン。

星やハートの形をした髪留め。

バンダナ。 ブローチ、ネックレス。

色々な小物を手にとって……

 

 『お姉ちゃま……お姉ちゃま……』

 皐月が亡くなってから久振りに彼女に向き合って、彼女の事を呼んでいた。

リボンを手に巻き付けて……寝る日が続いた。

姉の笑い声と囁きと眼差しと……そして微かな甘い大人の香り。

それを思い出した。

 

 だから……姉が残してくれた願っている『最高の女性への道』は捨てなかった。

そして……兄が残していった『男の温もり』を初めて知った。

何故? 最初に知った物があんなに悲惨な光景で

真実はこんなにも甘まやかで……。

メディアで目にする『男女性愛』は、見せかけだと思っていた。

その裏には『悲惨をもたらすけだものがいる』といつも見え隠れする。

そんな奪うような男の行為などに、猫みたいな声を出す女が情けないイキモノに見えたから。

でも……

自分もそうなった。

そうなるものなのだと……知ってしまった。

見方が半分だけ変わった瞬間。

 

 でも、学校にはまだ未熟なガキみたいな男同級生がいっぱいいて

そんな奴らに姉に教わった『女』を見せる気なんてこれっぽちも湧かない。

だから……髪は伸ばさなかった。

いつだって、制服で出かけた。

あの16歳の誕生日までは……。

 

 だから……女を強調する事ばかりが葉月は幸せだと思わない。

姉が言い残したという『王道』の願いについては理解できるが

葉月が今回、『癇癪』を珍しく起こしているのは……

 

 その王道を敷こうとしている兄達の心の底には

『亡くなった皐月を哀しませない為』

生きている葉月よりも兄達は……死んでも皐月なのだ……。

『皐月に嫉妬』

ロイの言葉は的を得ている? でも、葉月は認めたくない!

死んだ相手に嫉妬しても……勝てやしない。

それどころか、姉に対してそんな感情持ちたくない!

彼女が生きていても死んでいても。

それに──

兄達は、皐月の意志を継ぐと言葉は格好良いが、

そうじゃなくて……そんな同志のようだった姉を不甲斐なく不幸として見届けてしまった兄達が

姉に詫びたくて葉月に反映させようとしているだけの強要だと……。

急に──大人になって、葉月は……今になって感じるようになった。

尊敬している兄達の葉月を思う気持ちをそんな風に感じるなんて

自分は間違っていると何度も言い聞かせたけど

気持ちは……どうしてもそうなっているようだから

言葉に出来ない分、『癇癪』が起きたのだ。

 

「王道、王道ってうるさいわよ! それが私にいかほどのことなのよ!

その為に、兄様達は私を姉様の代わりに大佐にして、

姉様の言いつけを守ってバージンを勝手に奪って……

私が望んでいる恋を遠ざけて……だから! 純兄様は振り向いてくれない!」

 

 葉月が立ち上がって叫ぶと……

ロイが青い瞳を、今まで以上に哀しそうに揺らした。

『葉月──』

そんな大好きな兄様をそんな顔をさせた自分に葉月は腹が立つけど

でも! 止まらなかった!

「今更……兄様が私を愛しているですって! どういう事なのよ!!

いつも私に大人ぶって偉そうに! お前の為、お前の為!

違うじゃない! 皐月の為、皐月の為!

どうしてなの!? どうして……素直に好きになった人に飛び込んじゃダメなの?

ずっと我慢していたのに……ずっと姉様には勝てないって思っていたのに……」

「葉月……お前はまだ解っていない」

「何がよ!!」

「…………」

ロイがそこで躊躇っていた。

そして……

「いや……解らないならいい」

そう言った。

そこでまた、ロイに頭から『オチビ扱いされた』と葉月は感じて、拳を握って立ち上がる。

ロイは、そうは言ったものの……一端止めた言葉を、

これ以上──葉月の子供っぽい自己収集がつかなくなるような

『癇癪』を止める為か口を開いたのだ。

 

 「葉月──確かに、少なくとも俺は……皐月の影がいつも付きまとっているかもしれない。

そんな俺のやることで、お前を追いつめていたなら『謝る』」

この冷徹な連隊長が小娘にすがるような眼差しで『謝る』と切実に言ったのだ。

それを見て葉月も、訳の解らない子供のような癇癪は先ずは押さえ込んだ。

「でも……お前がそう感じるのも無理無いかも知れないが……

気が付かないのか? 1人だけ……1人だけ……お前をずっと見てくれている男の事

俺はそいつが時々哀れでならない。アイツのためにも『阻止』しているつもりで……」

「誰のこと、言っているの?」

葉月は立ち上がったまま……らしくないロイのうつむき、躊躇いを見下ろしていた。

「お前を好きなまま、お前らしく前に後押ししてくれるのは誰だ?

今回の任務も……お前が望むまま、守り通してくれたのは……」

『純一じゃないか?』

ロイはそこは口にしなかったが……

葉月にはそう聞こえたし、それが紛れもない続くたった一つの言葉だ。

そう言いにくそうに呟くロイを葉月はただ見下ろしていた。

そう──反応が出来なくなったのだ。

ロイの言う事が『解ってしまったから』

 

 そう──

『どうして……お兄ちゃまはこんな私を押さえつけないで、外に出してくれるの?』

『さぁな……そうだなぁ……強いて言えば『おちこぼれの愛弟子』が見ていられなくて』

あれのお返しは義理兄らしいはぐらかし?

はぐらかしでなければ、彼は何て言ってくれたのだろう?

『そうだな……お前らしいじゃないか? それを見届けたいだけ……』

 

 傲り高ぶって考えたとしても……

もしそうだったのなら??

 

 葉月はそこでまた……涙が出てきた。

ロイによって気が付いてしまった。

 

 『今まで本当に私を葉月として見ていてくれたの?』

だから……ロイが言いにくそうに言った言葉。

『アイツが哀れで……』

義理兄だけが『皐月と葉月』を別々に個々の女として愛してくれている?

義理兄が葉月に対して真っ向から向き合いたくても向き合えないその気持ち……。

ロイが阻止するのは……王道を敷くためだけじゃない……。

『純一が正直になった時、お前は連れ去られる。だから、阻止する。

純一も堪えている、お前の為に……それが哀れ

でも、アイツがコントロールできなくなっても困るから俺が阻止する』

そう言っているのだと、解って頭がまた真っ白になった。

 

 その次ぎに湧き起こった感情は……

『……あんな事さえ無ければ? 純兄様は表世界にいたはず!』

否……

『そうであったのなら……皐月姉様は生きていて……

今頃はシンちゃんを挟んで、父母として暮らしているはず』

だから……やっぱり……。

『私と兄様は……二度と一緒の世界にいられないのに

表と裏でしか会うことができないのに……』

 

──『私は彼を慕い続けて恋い焦がれていた!』──

 

 結ばれることのない関係だから……

もし? 義理兄が葉月に本気を見せて『裏に来い!』としたとしても

そうすると……兄達が言うところの『姉の願い、女の王道』ではなくなるのだ。

 

 どうしても、どうしても……。

葉月の思い通りにならない!

葉月が持った感情はすべて『無駄』

 

 『憎しみ』を、外に出しては普通に生きていけない。

だから、その感情は殺す。

 『熱愛』も正直に出したところで、叶うことはない。

だから、その感情は認めない。

 『思慕』を抱いたところで姉は戻らない。

だから、その思いは思い出さない。

 『懐かしみ』を思い出してもあの時には戻れない。

だから、その思いを感じないよう努る。

 『遺言』を守りたいのに守れない。

義理兄に飛び込むと、姉を裏切ったような気持ちになる。

だから、葉月は曖昧に男性を影のように映してきた。

 

 

 「もう! いや!!!」

葉月は左肩が不自由なのも関わらず、両手で栗毛をかきむしった!

なにもかも! すべてを奪い続けているのはあの日あの時!

それを見て、ロイが慌てたように立ち上がったのだ!

 

 『リッキー!』

ロイが彼を呼ぶと待ちかまえていたのかリッキーが秘書室から飛び出してきた。

『大丈夫、ロイ……そんな事だろうと思って、秘書室の者には上手く言って休憩に出した』

『そうか……』

元は同級生の二人が仕事外の口調で言葉を交わしている間も

葉月は、栗毛をかきむしって……かきむしって……

息を切らして立ちつくしたまま茫然としていた。

 

 「レイ! レイ……俺の声聞こえる?」

リッキーが葉月の肩にそっと手を置いて葉月の顔を覗き込んでも……

葉月にはその声が聞こえない。

 

 『しまった……早すぎた!

ただ、葉月が……なんだか今までから抜け出そうと意志を見せたと思って

亮介おじさんにも、急激な進言は気を付けろと、言い含められていたのに……!』

ロイが何か慌てたように呟いている言葉も葉月には聞こえない。

今──自分が何を感じているのか……

今──どの感情を一番に外に出して良いのか全く解らない!

『ロイ、大丈夫だから……』

リッキーがロイにそう言いながら、もう一度葉月の顔を覗き込んだ。

 

 「レイ? レイは今のままで全然おかしくないんだよ?

二人の男の人を一緒に好きになったままでも全然大丈夫だ」

リッキーがそう言って葉月の手首を掴んで栗毛から除けようとしたのだ。

『大丈夫。今のままで……全然悪くはない』

リッキーのその呪文にかかったように葉月はリッキーに導かれるように

そっと……栗毛から手を降ろした。

 

「そう……レイ。少しずつで良いんだ。少しずつ感じて答えを出せば良いんだ。

それから……自分に一番正直じゃないとダメだ。

我慢はいけない……皐月に気兼ねすることはないんだよ? ね?

ロイだってそう思っているのだよ? ただ、ロイは葉月が知りたいと思っていることを

レイの為に教えただけで……今すぐ『正しい一つの道を選べ』とは言っていないよ?

今すぐ、答えは出さなくてもいい。

自然に出るまで、少しずつ心の中を整理して『一つの答え』を出せばいいのだから……

その道しるべとしてロイが今あること、これから考えるべき事を沢山教えすぎただけ……」

 

 だけど、葉月はリッキーの腕を右手だけ払いのけた!

『隼人さんが好き! だから、早く隼人さんに喜んでもらいたいの!』

でも──

『でも、今すぐ……今までの自分がなんなのか解らない!

すぐに純兄様に対してどうケジメを付けて良いのか解らない!』

彼を『忘れる』なんて、皆無だ。

彼は葉月が生まれたときから側にいた。

今までもずっと、葉月を見てきてくれた。

彼は甥っ子の父親。

切っても切れない縁なのに、繋げようと繋げようともがいても結ばれない関係。

だったら、綺麗さっぱり忘れて、じゃぁ? 隼人に全身全霊向けられるなら

とっくに……もっと前にそうできている。簡単に──。

隼人に全身全霊向けられないから……

今までの自分を見つめ直して、洗い出して、一つ一つ足かせを外そうと試みると

今までどっぷり浸かってきた『無感情』から逃れる事が

こんなに苦しいなんて……。

 

 今まで殺してきた数々の感情を無視してきた葉月には

この急激な『様々な感情の襲撃』に小さな心は大打撃を被っていた。

 

 父は言う。

 

 ありとあらゆる感情を見ずして大きくなってしまった子供のままの『リトルレイ』。

『愛しさ』 『悲しさ』 『虚しさ』 『怒り』 『憎しみ』……無感情に感情をバラバラにちぎり……。

普通の感情を浴びると、10歳に逆戻り……。

でも……リトルレイ?

一つ一つ、丁寧に感じれば良いんだよ。

一度に自分のモノにしなくて良いんだよ?

先ずは『嬉しい事』を覚えて

その次は『悲しい事』を……

だから、感じることに我慢しないで笑うこと泣くことに恐れないでくれ?

 

 その意味が時々分からないけど……

父がそう教えてくれた時は、素直に泣けて、笑える事が出来るときもある……。

でも──今はその父がいない!!

 

 この状態にならないためにロイが細心の注意を払って

今まで……父の代わりに色々と教えてくれたのだが

今回は急激すぎた。

あの憎しみの日々から今までが駆けめぐる。

隼人のために、隼人のために……自分を見つめ直したかったのに……

どうしても今すぐは抜け出せない! どの感情が勝っているのか全然解らない!

 

 だけど、その後すぐに浮かんだ感情……

 葉月を襲撃する数々の感情の中で僅かに勝ったもの……

それはやっぱり……『憎しみ』?

 

 『全部……あの日がいけないのよ!!』

 

 「全部……あの日がいけないのよ……」

葉月はそっと呟いてロイとリッキーを睨み付けた。

その顔がどんな顔だったかなど……葉月には解らないが……

二人の大人が息を止めたように硬直しているのが伝わった。

 

『レイ!』

『葉月!』

 

 自分がどのような行動をとっているか認識できなかったが

葉月はどうやら……ロイの連隊長室を飛び出していたようだった。

 

 

 「しまった……本当に葉月がここの所、隼人を通じてだいぶ様変わりしたと思って……

早く、何にも捕らわれない関係になって欲しいと思って……急ぎすぎた!」

冷徹なロイが、珍しく慌てている。

リッキーも多少は狼狽えたが、こんな時、『相棒』の自分が逆に冷静になる役目だ。

「ロイ! ロイは間違っていないし、レイのこれからを考えて言っただけじゃないか?

それから! いつかは、レイには教えて少しずつでも解らせないといけないこと。

その『一番最初』が『劇薬的効果』であるかも知れない覚悟はしていたんだろ!?」

「葉月が純一の事、男と認識していないままでは、

いつまでも『兄』という男ととして見て、隼人は『男』

それでは……今のままでは、いくら隼人でもいつかは離れていってしまうと思って……

葉月があんなに慕って、頼りにしている男だから……このままでいて欲しくて

ふたりの為にも認識して欲しかっただけだったのに……キッカケのつもりだったし

葉月もその第一歩を掴んで、今日ここに来たと思ったから……」

ロイは連隊長の大きな木造デスクに片手をついてうなだれたのだ。

 

 「ロイ……俺が行ってくる……!

それに……ロイ……レイがこういう『変化』を見せたのも……

やっぱり『澤村隼人』と言う男と付き合っている『成果』だと思った方が良い……

そうだろ!? それなら、俺達でなくても……彼がレイを見て何とかしてくれるかもしれないぞ!」

 

『ふたりを信じてあげろよ!』

 

 リッキーはそれだけ叫んですぐに葉月を追いかけるため、連隊長室を飛び出した!

 

『パンパン!!』

ロイは自分の頬を両手で叩いて気合いを入れ直してみる!

(……右京に知らせておくかな?)

 

 彼は少佐だが……

ロイより年上で純一と親友であるだけあって……

ロイが何となく、勝てない男の1人だった。

 

 だから……時々、彼を頼ってしまう。

なんと言っても、こちらは紛れもない『葉月の血の繋がった兄貴=従兄』なのだ。

 

夕日が入り込む連隊長室。

ロイは時計が『約束』の18時近いのを確認して、急ぐように席に座りダイヤルを回した。