◇・◇ お許しください、大佐殿 ◇・◇

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 23. ミセス准将、横須賀へ

 

「まさか、この謹慎部屋に閉じこめられるだなんてねー。英太だけかと思ったわよ」
 船橋下層にある謹慎部屋へと、御園准将と心優は拘束される。入室と同時に、警備と護衛のための装備は全て回収されてしまう。
 鈴木少佐とクライントン少佐が謹慎されたのと同じ部屋。二段ベッドとトイレとシャワーがあるだけの部屋だった。
 ドアの前には警備隊員が二名、つねに警護についている。
 時間は午後の十二時を過ぎた。御園准将が上部についている細長いだけの僅かな隙間しかない窓を見上げる。
「空、晴れているわね。海上はどうなったのか」
「艦長業務が停止になったから、准将にはもうなんの報告もないのですか」
「……かもしれないわね」
 そこで准将が溜め息をつきながら、一段目のベッドへ腰を掛けた。
 なにも言わなくなる。それを心優もただ眺めているだけ。空母艦内でのすべての指揮権を剥奪されたのだから、いきなりなにも考えるなと言われても落ち着かないようだった。こんな葉月さんは初めて見ると心優は思った。それだけいつも何かを考え判断をしなければならない環境に日々置かれているのが通常の人だとわかる姿。
 そこでこの部屋に来て初めてノックが聞こえた。
「諸星です。昼食をお持ちしました」
 外鍵が開けられる音がする。ドアを開けたのは諸星少佐。開いたドアの隙間にはきちんと逃走されないため、警備隊員が挟まるように立った。それを見て心優は本来はこうあるべきだったんだなあと、鈴木少佐を部屋から出してしまいそうになったあの失態寸前を思い出してしまった。
 室内の机の上に二人分の食事が置かれる。それが思いの外豪華で御園准将が驚き、諸星少佐に言い放った。
「以後、私にはこのような気遣いはいらないと是枝大尉に伝えてちょうだい」
 苛立った様子で机をバンと叩いたので、諸星少佐も恐れおののいた顔に。
「是枝シェフが准将の拘束を知り、それでも是非にと……。昨夜から仕込んでいて本日の昼食にする予定のものだったそうです。御園大佐の許しを頂いていたものですから、お持ちしました」
「シェフは艦長専属。交代でくる艦長のために作るように伝えて」
 でもそこで御園准将が栗毛の中に顔を隠して、そっと囁いた。
「でも……、ありがとうと伝えて。貴方の食事が励みだった。最後においしくいただくと……伝えて」
 諸星少佐もその言葉を聞いただけで何かが込みあげてきた表情を見せる。普段はクールな面差しを整えている人なのに。
「かしこまりました。では……、すべてがこれが最後と言うことでお許しください」
 食事のトレイを置いたデスクに、後ろにいる警備隊員から差し出された箱などを受け取って、さらに御園准将に差し出した。
「お好きなチョコレートの箱です。女性二人でお喋りしながら楽しめと御園大佐から預かりました。そして、こちらも……」
 御園准将お気に入りのチョコレートの箱が置かれ、その箱の上にタブレットが置かれた。
「艦内LAN設定ができない状態にしているため、wifiでの通信など利用不可になっています。画像だけ閲覧できます。御園大佐の判断です。以後の情報はなにも伝えられないとのことです」
 御園准将がまた吼えるかと諸星少佐は構えていたが、今度、彼女はすんなりとそれを受け取った。
「わかったわ。ありがとう。貴方達もランチは取ったの? 他のクルーも食事はできているの?」
 午前中にあれだけの騒動があってクルーも大わらわの状態だろう。そんな中、拘束されたとはいえ、自分だけゆっくり食事をしても良いのか。御園准将がそれを案じているのが心優にはわかる。まだ心は艦長のまま。それは諸星少佐にも伝わった。
「大丈夫です。交代で食事はできています。自分も最後にいま取って参りました。貴女の警護を任されています。正面にいますから、なにかあれば遠慮なく申してください」
「わかったわ。でも、貴方も少し休息しなさい。今回はブリッジを完全に護ったわね」
「はい……」
 諸星少佐が何故か心優を見た。
「園田教官が大魔神とまで称されるほどに娘をぶん投げたあの厳しさがあったからこそ。いまあの時の教官が自分達を案じていたお気持ちがどれほどだったかを噛みしめています」
 父のおかげなんだと諸星少佐が心優に微笑む。
「本当ね……。ありがとう。護ってくれて」
「いいえ……。最後まで准将と航海を終えたかったです」
「どうなるかわらないけれど、小笠原で待っている。無事に航海を」
 准将が敬礼をすると、諸星少佐もキリッとした敬礼を返してくれる。
 ではこれで――と少佐も下がっていった。
「さあ。食事にしましょう。せっかくの是枝さんの気持ちだから」
「はい」
 お洒落なローストビーフ丼と、綺麗なサラダに、わたし達がいつもはしゃいで喜んだ是枝シェフのかわいいデザート。そしてミルクティーだった。
 二人で向かい合って食事をする。ささやかだけれど海の波の音も聞こえてきた。
「英太とフレディもこうして食べていたのかしらね」
「食べていましたよ」
 クライトン少佐がマーガリンもジャムも鈴木少佐に毎回あげてしまい、それを遠慮なく自分の分も合わせてべったりとパンにぬって食べるやりとりが日常だったと教えると、葉月さんが軽やかに笑った。
「そうなのよ。うちに泊まりに来ても英太って子供みたいな味覚で、ジャムをべったり塗るの。英太が来るとジャムが一気に消費されるから大瓶にしようなんて海人が言うほどよ」
「大瓶ですか。でも御園家だと元より大瓶じゃないと保たないような?」
「え、心優それってどういう意味」
「だって、葉月さんもとっても甘党……」
「そうなんだけれどね。そうよ、海人にも大量消費の一人として要注意人物に特定されているもの」
 やっぱり――と心優が笑うとまた彼女も笑ってくれた。
 その御園准将が心優を見て言った。
「話し相手がいるだけで、こんなに心持ちが違うのね。心優、ほんとうにありがとう。ついてきてくれて」
「大丈夫ですよ。私の戦闘能力を見てくれましたよね。護りますよ。そのために引き抜かれてきたんです。そしてそこで生きていくと決めているんです」
 気恥ずかしくなって心優は彼女から目線を逸らしてしまう。葉月さんも何も言えなくなったのか黙ってしまった。
 食事が終わって、二人はすぐに一緒にベッドに腰を掛け、タブレットの電源を入れた。艦内LANのwifi設定を排除されていて通信ができないようにされてはいたが、御園大佐があらかじめ用意してくれていたフォルダをタップすると幾つかの動画ファイルが保存されていた。
 その画像をタップして再生させると、海上が赤く染まる映像だった。大きな火柱が見えた後に黒い煙の塊がいくつも噴き出し、さらに何度か炎が上空に燃えあがる映像。空母の甲板がその爆発でちかちかと赤い閃光に覆われる様が映っている。管制ブリッジのカメラ映像らしい。
「王子達のフランカーが漁船を爆撃した時の映像でしょうか」
「そうみたいね」
 通路で戦闘対戦をしていた心優と准将はすぐ拘束されここに謹慎となったので、外の様子をひと目も見ることもできなかった。
 さらに他の映像も確認する。
「これは、英太のバレット機のカメラ映像ね。目の前のフランカーは王子の機体だわ」
 王子のsu-27の尾翼に、ロックオンする前の照準リングが当てられている。鈴木少佐が指示通りに狙いを定めながらも、ロックせずに追尾しているものだとわかった。
 雅臣とバレットの無線通信も録音されている。
『su27、su35、不審船へと接近中。7号機バレット、追尾中。このまま追います』
『爆撃後、王子フランカーがなにかに狙われていないかも要注意だ』
『イエッサー』
『爆撃ロックオン完了との通信。あと50秒、爆撃成功後、雷神全機も退避――。ただしsu27とsu35の監視は続行しろ』
 雅臣が淡々と指示している声。それを葉月さんはうんうんと頷きながら聞いてくれている。
 やがて鈴木少佐のガンカメラに映っているその向こうが赤く光ったのが見える。
『爆撃完了――との通信。雷神も退避せよ』
『沖縄方面のフランカーも爆撃完了。おなじく追尾中の雷神も、退避中』
『こちら6号スプリンター。監視していたsu27、su35、領空線から退去確認』
『こちら1号スコーピオン。対象のsu27とsu35の退去を確認、パトロール中』
 つぎつぎとその通信が聞こえてきた。
 もうひとつの映像も、1号機スコーピオンが沖縄方面まで監視したスホーイsu35が爆撃を成功させる映像だった。
 その映像には、スコーピオンが空母へ帰還するまでに偵察として撮影したものも。攻撃を受けたコーストガードの巡視船の映像だった。
「沈没していない」
 御園准将がほっとしたひと言を漏らした。心優もほっとする。煙をあげていて左舷が壊れているのが上空からも見えたが、海上に停泊している。
「ハーヴェイ少佐のはったりだったのかしらね」
「まあ、准将もドッグワンなんて架空の部隊ではったりを言っていましたからね」
「はったりも戦法ってことよ」
「百戦錬磨の先輩方の戦闘をみて良くわかりました」
 なんて、そこでまた笑い合ってしまう。
「それでも今回はコーストガードにとっては大惨事だわ。国際問題になるでしょうけれど、大陸国から出てきた海部隊であっても『彼等は我が国の部隊ではないテロ集団だから責任はない、だがこちらの国から出てきたため後始末はした』、『迷惑はかけたが、被害最小限、やることはやった』とか言い出しそうね」
 心優はそこで王子が『自分の父親は甘くない』と言いきっていたのを思い出す。
「あちらのお父様も戦略家ですね」
「そのようね。あちらの国内でなにか分裂か組織的衝突があったのでしょう。すっかりそれに巻き込まれてしまったけれど、こちらの日本国側から『侵犯だから規則通りに迎撃撃墜する』としたとしても、軍武装とは判断つかない大多数の船団を一掃するように攻撃できたとは限らない。いいえ、きっとできなかった、民間の船舶にカモフラージュしていたから。もし民間の船舶であったのなら……。そんな迷いを持つよう逆手にとってあのスタイルで攻めてきたのよ。そこをこちらの軍事事情を考慮してくれて、自分の国から出てきた不始末だからとあちらから一掃してくれたんだと思う」
「そうですね。わたしもそう思っていました」
 御園大佐が言葉で報告できない代わりにこっそりと忍ばせてくれたタブレット映像を見終えると、御園准将はベットに横になってしまった。
「そして、本国日本側の不始末もこれから原因究明ってところかしらね。まずこの私――」
 一段目のベットに寝転がって、上段ベッドを見上げている。
 そんな彼女に心優は問う。
「これで良かったのですか、本当に」
 彼女が穏やかに微笑む。
「うん。思い残すことはない……と言いたいけれど、サラマンダーのアグレッサー部隊は見たかったかな。でもそれも橘大佐か平井中佐に託すわ。彼等なら大丈夫」
 ううん。やっぱりそれは貴女に創って欲しい。心優は言えず、その言葉を呑み込んだ。
 それほどに彼女の微笑みがいままでになく穏やかだったから。
 悔いなく戦いを終える軍人の顔だと悟ってしまったからだった。

 

 ―◆・◆・◆・◆・◆―

 

 その夕方だった。謹慎部屋にいても甲板のざわめきはよく伝わってくる。
 大きなプロペラ音が聞こえて、なにかが着艦したのがわかった。
「来たかもしれないわね」
 ベッドでくつろいでいた准将が起きあがった。
 くつろいでいた心優も、乱れた黒髪や身なりを整える。
 プロペラ機ならば、前回航海の時、海東司令と御園大佐が横須賀司令部から搭乗してきた艦載輸送機だろう。
 その機体が着艦した感覚を得てから数十分後。ドアからノックの音。
「諸星です。横須賀司令部からのお迎えです」
 少佐が鍵を開ける音、ドアが開くと、そこに制服姿の男性が立っていた。心優の父親ぐらいの年齢、初対面の男性。
 だが御園准将は彼にふっと笑いかけた。
「春日部さん直々のお迎えですか。ならば、総司令がかなりご立腹ということかしら」
 春日部? 総司令のところから来たならば、この方があの春日部嬢のお父様?
 娘の居場所に困り果てて、小笠原の細川連隊長に泣きついてきたとかいう情けないパパの姿を想像せざる得なかったが、実物のお父様はまるで昔の日本軍人の写真にも出てきそうなかっりちした強面のおじ様だった。
「そのようなお話は横須賀で致しましょう。諸星少佐、御園准将を輸送機へ搭乗させてくれ」
「かしこまりました」
 そのお父様が心優が側にいるのに気がついた。
「彼女は?」
 諸星少佐が答える。
「御園准将付きの護衛官、園田中尉です」
 その時になって、ハッとし力が抜けた愛嬌ある表情を一瞬だけ見せた。あ、もしかして娘がいつも敵視していた女性隊員だと気がついたのかな――と心優は予測する。
「君が、園田中尉……」
「初めまして、園田です。艦長の護衛を願い出て一緒にいさせてもらっています。横須賀にも一緒についていくつもりです」
 春日部中佐が怖い顔面に固まり、しばらく唸った。
「よろしいでしょう。拘束されたとはいえ、准将殿です。女性でもあるため許可します。諸星君、園田中尉も頼む。お二人とも拘束紐はいらない」
 心優はほっとして、春日部中佐に『ありがとうございます』と頭を下げた。
 だが開けられたドアから通路に出て、どうして春日部中佐がちょっと困ったパパの顔になったのかわかった。
 春日部中佐の後ろに若い男性が二名、そして黒髪を長くしているままの春日部嬢が一緒だったからだ。
 御園准将も気がついた。
「あら、お嬢様もご一緒でしたか」
「そちらではだいぶお世話になってしまいました。今回は『社会勉強』で同行を許しました」
「物騒な社会勉強ね」
 御園准将が苦笑いをこぼした。
 だけれど、心優と目線があった春日部嬢は相変わらずツンとしている。それでも嫌味を連発することがないだけマシかと心優も素知らぬふり。
 それにここではお父様もお父様の若い部下も、小笠原の警備隊員もいるからあんな口は利かないだろう。
 女二人、なにも持たずに通路を警備員に囲まれ連れて行かれる。
 階段を上がってやっと出られた甲板の景色は夕焼け。甲板にはやはりプロペラの艦載輸送機が待機していた。そして、いつも以上にオイルの匂いが鼻につく。
 春日部中佐が水平線を眺めながら教えてくれる。
「武器を積んでいた大型船舶が三隻、一気に爆撃されたわけですから、暫くこの匂いは続くでしょう。映像を見ました。フランカーの凄まじい爆撃でしたね」
 御園准将は黙っていた。御園大佐がこっそりとその映像を見せてくれたのだから、それを知っているはずがないという顔を整えているのだと心優にはわかった。
 戦闘が終結してから、御園准将も心優もあの部屋に閉じこめられたきり、外のことはなにもわからなかった。
 だが出てきた甲板には、ブリッジ指令室のメンバーが揃っていた。御園大佐に、雅臣、ハワード少佐に、コナー少佐と福留お父さん。見送りに出てきたようだった。
「では、准将をお預かりします」
 春日部中佐の声に、心優はそこにいるのに遠く見える雅臣を見つめた。
 でも警備隊に囲まれ、心優は准将と共にそのまま輸送機へと連れて行かれる。もうそこにいるクルーとは一切の会話を許されないようだった。
 歩いて、それでもやっぱり何度か振り返ってしまう。
 臣さん、臣さん。ごめん、最後まで、艦で横須賀に帰還できなくて。
 でも待ってる。小笠原であなたの帰還を。夫の帰還を待っている。左手の時計『健一郎さん』、臣さんをお願い。
 雅臣の左腕が光ったように見えた。

 

 ―◆・◆・◆・◆・◆―

 

 夕暮れの甲板、プロペラの艦載輸送機に乗り込もうとした時、春日部嬢が隣に並んだ。
 彼女がやっといつものニヤッとした笑みを心優に見せた。
「薄汚れてべたべたになってるわね」
 でしょうね。あなたは綺麗に制服をきて、髪もさらっさらで、こんな現場でも髪をくくらないでなびかせているんだもの。なんでも揃っていて選び放題で、余裕で完璧に整えられる『安全という場所』で――。さすがに腹に据えかねるが無視をした。
「やっと空母に乗れた。ブリッジの艦長室すっごい広くて綺麗、御園大佐が招いてくれてそこで艦長のシェフがおいしい紅茶を煎れてくれたの。ぜんぜん空母って感じじゃなくて素敵。でもここってすごい匂いね。管制室にいる城戸大佐はレーダーとか眺めてかっこよかったのに。あなたは汚れた格好で、あんな部屋にとじこめられているだなんて、ひどいことでもしたの」
 その時だった。
「由利、話しかけない約束だっただろ!」
 先に搭乗していたお父様の春日部中佐が、後尾で乗り込んだ娘と心優を確かめに来て吼えた。
「園田中尉になにを話しかけた」
 お父様に叱られ、あのお嬢様がしゅんと縮こまった。
「いえ、なにも。お久しぶりのご挨拶を」
「嘘を言うんじゃない」
 鬼の目で娘を睨んでいる。その目こそ、中佐の威厳たるもの。どうしてそれで娘をしつけてこられなかったの。心優はそっと溜め息をついた。
「園田中尉は朝から、不審者と戦闘をし制圧をしている。しかもブリッジの指令セクションを不審者から守るためのロック誘導の実行をいちばん最初に促したうえで、ロックした外では不審者と対峙して護りきった」
 だから戦闘服が薄汚れているんだと父親が彼女を窘めた。
「え、艦長の護衛ってロックした内側にいるものじゃ……」
「一般的論を当たり前のものだとばかりに語るんじゃない。こういう現場ではその時の状況に合わせて動くものだ。おまえはそういったひとつの『型』でしか判断できずそれを貫こうとするから、同僚との疎通がとれないのだろう」
 さらに春日部嬢がうなだれた。それでもお父さんがさらに続けた。
「そうして髪の毛をひらひらさせて、鼻歌交じりでこの飛行機に乗って旅行気分、念願の空母にちょっと降りただけで、任務を体験した気になったか? ここでは汚れながら任務を確実に遂行した者が上だ。おまえはいまは一番下だ。その端に座りなさい」
 春日部中佐と御園准将が向かい合うように座ろうとしていたが、彼女は心優や司令部からついてきた青年達よりいちばん後部に座らされた。
 座席に座ると横須賀から来た制服の青年隊員達は、御園准将を手厚く扱ってくれる。
「准将。ベルトを装着します。失礼いたします」
 青年隊員が御園准将にシートベルトを付けてくれる。心優にも同じく。
「喉は渇いてはおりませんか。冷えたお水もありますので申しつけてください」
「ありがとう。結構よ」
「准将。お二人のお荷物を御園大佐から預かっております。こちらにまとめておきますね。ヴァイオリンについてですが、搬送状態が安心できないとのことで、御園大佐が自分が大事に管理して持って帰るとのことでした」
「ああ、良かった。そうして欲しいと思っていたの」
「暑くはありませんか? 冷えたおしぼりもあります」
 と、言った状態であれこれ気遣ってくれるので、拘束の強制送還だとしても、これは無碍に扱われることはないだろうと心優は安堵する。むしろ……、この輸送機に乗り込んでいる制服の彼等がとても准将を敬っているように見える。この様子と空気を確認して、心優は思う。やってはいけない決断だったかもしれないが、英断とも見てくれているのでは――と。ただし、それは中央司令部に戻らないとわからないからまだ油断できない。
 それにしても、先ほどのお父様の拳骨のような説教がすごく効いたようで、春日部嬢はすみっこに座ってうつむいている。先輩の男性隊員達はてきぱきと仕事をしているのに。なにも手伝おうとしない。そして彼等も上官の娘だろうがそこにいてもいないようにして動いている。
 春日部中佐は向かい席の先頭、こちらの先頭に座った御園准将と向かい合う形。心優は准将の隣、斜め向かいが中佐になる。その中佐が心優に話しかけてきた。
「申し訳ない。娘は口が悪いので、戦闘にて疲労されているだろう貴女達には話しかけないよう約束して連れてきましたのに」
「いいえ。大丈夫です」
 心優がそういうと、また春日部中佐がパパの顔になって困り果てている。春日部嬢が特に目の敵にして迷惑をかけていた心優には、どうも頭が上がらないといったふうだった。
「ですが。いまから現実というものを目の当たりにしてもらう」
 現実をお嬢様に、目の当たりに? 心優は首を傾げた。
「中佐、搭乗完了です」
「わかった。では、最後に彼を頼む」
「イエッサー。いま警備隊が護送してまいります」
 それほど広くはない機内のいちばん背後、そこに鉄鋼のゲージが組み立てられた形であった。
 御園准将も気がついた。
「ハーヴェイ少佐も一緒に連行するのですか」
「はい。いつまでも艦内に置いていけないこと、さらに早急の聴取を司令部は望んでいます。フロリダ本部からも催促があったため、同乗でご不快でしょうがお許しください」
「警備さえしっかりしてくれれば構わない。私も彼があの艦からすぐさま去ってくれた方が安心だから」
「では、連行します」
 鉄鋼のゲージの扉が開かれ、十分後。横須賀から来た黒い戦闘服の隊員が五名ほど、拘束衣でがっちりと固められているハーヴェイ少佐を歩かせずに担架にさらに縛り付け運んできた。
 その担架のまま、ゲージの中に運ばれ、ゲージは頑丈なロックがされた。
 だが目隠しをされていてもハーヴェイ少佐も何かを感じ取っているのか、拘束衣さらに担架に拘束されていても身体をくねらせ、猿ぐつわのまま『うおーうおー』と獣のように叫び続けている。
 輸送機の中の空気が一変した。心優の隣に座った制服姿の青年隊員が硬直しているのがわかる。涼しい顔をしているのはゲージを警備する五名の戦闘隊員、春日部中佐、御園准将、そして心優だった。
 特に落ち着きをなくしたのは春日部嬢。ハーヴェイ少佐が拘束されている位置にいちばん近いのは、後部座席に座るように言い渡された彼女だった。
 目の前に奇妙な姿で拘束され、獣のように叫ぶ男がばたんばたんと悪あがきをしている様子は、日常では滅多に見られるものではない。
「あの中佐……」
 彼女が甘えた声で父親を呼んだ。
「なんだ。恐ろしいのか。おまえが望んだ『前線任務』ではままあることだ。恐れていては空母には乗ることはできない」
 彼女は何も言わなかったが、父親にこんな恐ろしい場所は嫌だと暗に仄めかしている。
「その恐ろしい男を園田中尉が最後に空手の素手のみで制圧したそうだ。だから汚れている。その男は本国と連合軍の情報をテロ組織に流していた。その上、フランク大尉を刺し負傷させた。コーストガードに多大なる被害をもたらし、なおかつこの艦を炎に包もうとした犯人だ。園田中尉はそんな男と戦った隊員だ。彼女はその働きで、様々なものを護った。おまえが髪の毛をさらさらにして気分がいいのも、こうして前線で本国に襲いかかる脅威と立ち向かう隊員がいればこそ、日常の穏やかさが陸で保たれている。それを馬鹿にした者は、そこにいるがいい」
 これが、春日部中佐の『社会勉強』だったらしい。しかも心優の目の前で、かなり険しいお灸を据えてくれている。自分の部下達を目の前に、手厳しいお仕置きだと息を呑んだ。
 御園准将もふと笑う。
「厳しいお父様ね。あんな可愛らしいお嬢様に、このような荒んだ世界をわざわざ見せなくとも。私は娘には見せたくありませんけれども」
 今度は春日部中佐が年上の男として、御園准将に呆れた笑みを見せる。
「よくおっしゃいますね。あなたこそ、お父様を散々心配させながらも、この世界の中枢に危険も顧みず飛び込んできたではありませんか。元中将であるお父様の心中察します」
「あら、そうだったわ。自分が娘だと忘れていたわね」
 御園准将がおどけて笑った為か、春日部嬢以外の男性隊員全員がふっと頬をほころばせ、空気が少し和らいだ。
「園田中尉のお父様も同じ事を思っていたことでしょう。出航前、お父様の園田教官にかなり手酷く、険しく厳しく鍛えられたと聞いております。お嬢様だけではない。金原警備隊にもかなり厳しい訓練をされたと聞いています。大魔神になじられると影で悔し涙を流す男性隊員もいたそうですね。ですが、その厳しさがこの成果ではないでしょうか」
 そこで春日部中佐が項垂れ、こちらに頭を下げた。
「私はそのような意味で父親失格です。仕事にかまけすぎて、妻に任せすぎました。妻が娘は気が強くて手に負えないことがあると泣き言を言ってくることがありましたが、この時代、女性が生きていくには気が強いぐらいが良いと笑って流していました。その時に、娘の様子をよく確認するべきでした。それでも、娘が私を追っておなじ連合軍に入隊した時は嬉しかったものです。父娘で秘書室で働くことを夢見ていたのも確かです。ですが、私にとっても現実はこれです」
 まだうーうーと唸り続け、ばたばたと足掻くハーヴェイ少佐を側に、春日部嬢は真っ青になって震えている。
 彼女はこの空母に乗りたいと願っていたが、上手い具合に乗ったとしても、この現実に遭遇していただろう。その時に、そして今も、任務に行くことは輝かしいことでメリットがあるものだと思えるのだろうか。
「離艦準備整いました」
 コックピットからの声に、春日部中佐が『わかった』と発進に同意した。
「春日部中佐、御園大佐から通信が――」
「わかった、そちらへ行く」
 春日部中佐がコックピットへと入っていく。もどってくるなり、春日部中佐が少し楽しそうにして御園准将の目の前に座った。
「どうかされましたか、中佐」
「いえ、まあ、少し待ちましょう」
 少し待つ? 心優は御園准将と一緒に訝しむ。
 まだ閉められていない後部ドアのタラップ、そこに『お待たせしました!』という男性隊員の声。彼が低いタラップの階段を駆け上がって来た。
 彼を見て、心優と准将は驚き一緒に叫んだ。
「吉岡君!」
「光太!」
 光太が既に座席にいる女二人をみて怒った顔をしている。
「俺を置いていくんですか。目を覚ましてお二人がいないって酷いではないですか! 俺はミセス准将の護衛官で、園田中尉のバディですよ!」
 大きな荷物を肩に担いだ姿で、光太がはあはあと息を切らしていると、心優の隣でベルトを外す音。御園准将がベルトを外し、光太のところまで駆けていく。
「光太。大丈夫なの」
「えっと。まだちょっとふらつきます。けど、メディックの先生が『横須賀で一度検査してもらったほうがいい』と言ってくれて、俺も一緒についていけることになりました」
「そうじゃないでしょう!!」
 俺は大丈夫とけろっといつもの明るさを見せた光太に、御園准将が泣きそうな声で吼えた。光太もいきなり怒られて『うわ、なんすか』と唖然としている。
「もし、もし……あれが実弾だったら、あなた、生きていなかったのよ!」
 そうだった。麻酔銃だったから大事に至らなかったわけだけれど、光太はあの時、実弾であることも覚悟で捨て身になったはず。それは心優も同じだった。心優が捨て身で准将の前に立ちはだかった時、さらに光太が女二人を護ろうと前に立ちはだかったのだ。
「お母様に、お母様に……申し訳ないことをするところだった。お願いだから、二度と、あのような護衛はしないと約束して」
 あの御園准将が涙を流して泣いている。若い青年部下のために。そのせいか、やはりまた横須賀から来た男達も呆然としていた。
「わかりました。あれが今の俺には精一杯で……、もうあんなヘマな護衛は二度としないよう精進します。俺も心優さんと一緒に、どこまでもついていきますよ。准将。だから置いていかないでください」
 葉月さんが『うん』と頷くと、春日部中佐が心優の隣へ座れるよう光太の席を準備してくれた。
 では離艦です――。
 もう夕闇が迫っている西南の海。その海上を艦載輸送機がプロペラ音も激しく飛び立った。
それぞれ会話用の大きなヘッドギアをつける。機体上昇中する中、自分が飛行機に乗せられていると確信したのか檻の中のハーヴェイ少佐がまた暴れている。
 春日部嬢はその方向を見ないよう、ぎゅっと身体を硬くしてずっとうつむいているだけ。
 その様子を見つめながら、春日部中佐がヘッドギアのマイクから御園准将に呟く。
「しかし、よく釣り上げましたね。司令部はフロリダ本部のシークレットが内通していたと知った瞬間、青天の霹靂のようにざわつきましたよ」
 御園准将が少しだけ微笑み、眼差しを伏せる。
「そうあってほしくはなかったのに……と思っています」
「貴女の『目』にもいつも驚かされます」
 心優も大きなヘッドギアから聞こえるそんな会話を聞きながら、背中の窓から小さくなっていく空母艦を見下ろす。
 ガーネットとアメジスト色が溶けあう夕闇に、白波に囲まれる空母。そして目の前の窓にはもう星がひとつ輝いていた。

 

 ―◆・◆・◆・◆・◆―

 

 ひさしぶりの都市夜景、街の灯りが輸送機の窓から見えた。
『着陸態勢に入ります』
 高度を少しずつ落としているのがわかる。
 夜間になったが、西南海域からよく知っている横須賀基地へと戻ってきてしまった。
 横須賀司令部の中にある宿直部屋に待機することになった。
 光太と部屋を分けると春日部中佐は言ったが、御園准将が警備員を増やすのも大変だろうし娘と息子のような二人だから私の側にお願いしますと言ってくれ、ひとまず三人一緒の部屋になった。
 二段ベッドが二つある部屋。ひとつを女性陣が使い、ひとつを光太が男性陣地として使うことに決めた。
「准将、上にどうぞ。窓からの景色が上の方がよく見えると思います」
「そうね。オバサンの寝顔を見られたくないから上へ行くわ」
 『そんなこと思ってませんよ』と光太と一緒に言ってみたが、御園准将は上に行くとすぐに横になった。
 心優は気になって梯子を登って、横たわった葉月さんを確かめる。
「准将、気分が優れないのなら、我慢せずにお薬を飲まれたらどうですか」
「うん、大丈夫。ほんと、疲れたのよ。本土の基地の中だと思うと、急に気が抜けた」
 また発作が起きる前触れではないといいなと案じた。そんな心優の顔を見て、御園准将が微笑む。
「前のような、妙に胸を押しつぶされるような前触れもないの」
 歳が離れた親戚のお姉さんとか、若い叔母様のような優しい眼差し。
「本当ですか? わたし、ハーヴェイ少佐が葉月さんを見ていた目が嫌いです。あの卑劣な目。葉月さんはそういうものに敏感ですよね。だから心配です。ここにはもうミスターエドも来られないですよね」
「心優のお父さんに言われたの。園田少佐に――」
 彼女が天井を見上げていきなり呟いたことに、心優は驚く。
「父がなにを言ったのですか」
「最後に私に会いに来たでしょう。その時にね……」
 父が御園准将に伝えたことを教えてくれる。
「私にも『勇気を出して欲しい』と言われた。貴女の勇気が隊員達と娘を護ってくれるだろうから――と」
「え、え、父は准将にそんなことを!?」
 確かに父が先輩だが、階級的には決して口が出せる立場ではない。そして娘として父がそんなことをしていたと恥ずかしくなってくる。
「も、申し訳ありません。准将、父には私から……」
 御園准将が起きあがった。
「違うのよ、心優。園田少佐は失礼を承知で敢えて、私に指摘してくれたのよ。たぶん、お父様もなんとなく察していたのでしょう。娘が女性護衛官として引き抜かれたのには、御園准将の側に女性を置く必要に迫られたから。男はいくらでもいるのに敢えて女性を。つまり肉体的で精神的な何かがあって、そこを心優に娘にフォローしてもらおうとしているのだと……」
 そして御園准将が自分の目の前で手のひらを見つめた。
「姉のことを引き合いに出された時、怒りに震えた。そして子供の頃に男がナイフを振りかざして殺そうとしたことを思い出した。ハーヴェイは私がどんなことで弱いか知っていた」
 梯子に登っている心優の側に、光太も心配そうにして寄ってきた。
 心優もドキドキしている。その恐怖のシーンを思い出す時、語る時、葉月さんは震えたり呼吸困難になる。
 でも、彼女が見つめている手は震えていない。
「心優のお父さんは『艦長がその恐怖に立ち向かわないと、隊員がかわりに負傷する』と教えてくれたんだと思う。だから、私、自分から管制室の外に出た」
 准将の手が震えないのを見て、心優と光太は顔を見合わせてほっとする。
「だから、あの男と私、闘えた。私、闘えるんだって。この歳になって、この地位に就くとね。そうして厳しいところに触れてくれる人が少なくなるの。心優のお父さんは、私のそんなところに気が付いていた。きっと前回の不審者潜入の映像を見て、私の様子から心理を見抜いていたのね」
 心優ももうなにも言えなくなった。父は葉月さんの背中も押していた。今回、その心積もりで任務に就いた御園艦長は、卑劣な男にも真っ正面立ち向かうことができていたと知る。
 そして、彼女の手は震えていない。今回は乗り越えている。
「准将、あの時、来てくださってありがとうございました」
「助けてもらったのは私。大事な護衛の二人が無事で良かった。それだけよ……」
 そういうと横になって、心優と光太に背を向けて眠ってしまった。

 一時間ほどすると、遅い食事が運ばれてくる。三人一緒に簡単に用意されたものをベッドで食べた。
 そのあとすぐだった。
「御園准将、春日部中佐がお呼びです」
 夜も更けてきたその時間に、待機していた部屋から出された。護衛の二人もついてきても良いとされ、心優と光太も付いていく。
 やがて、中央司令部らしい会議室や幹部室が並ぶ通路にやってきた。会議室らしい部屋の前にお迎えの隊員が立った。
「こちらです」
 大会議室とある。密閉性がありそうな重厚な二枚扉を隊員が片方だけ開けてくれる。
「御園准将をお連れしました。護衛の園田中尉と吉岡海曹もご一緒です」
 大きな会議室。入っただけでピンと張り詰めた空気を感じた。
 席いっぱいに上官が揃っているわけではなかった。上座のメインデスクに、男性が三人座っているだけ。
 その目の前に向かい合うようにパイプ椅子が数脚。そこへ補佐の隊員に促された。
 正面に辿り着き、准将の後ろに控えていた心優も光太も共に、座っている男性を知って息を引く。
 国際連合軍、横須賀中央司令部の総司令 夏目中将がそこにいたからだった。隣は春日部中佐、もう一人は心優も知らない制服の中年男性だった。
「お疲れ様、御園准将」
 夏目総司令に声を掛けられ、あの葉月さんが背筋を伸ばしてピシッと敬礼をした。心優と光太も追って姿勢を正し敬礼をする。
「ただいま戻りました、総司令」
「まあ、そこに腰を掛けてくれ。後ろの護衛二人も、彼女の後ろの椅子に座るように」
 ロマンスグレーといいたくなる豊かな白髪を品良くまとめているそのおじ様が、夏目健作総司令。海軍司令部のトップだった。
 これはほんとうに葉月さんは大事を起こしたんだと、心優は恐ろしくて緊張してきた。簡単に英断とは判断されない雰囲気……。
 どうしよう。葉月さんが懲戒免職なんて不名誉な終わり方になってしまったら。どうしよう。そんなこと絶対に嫌だ。心優はそう思いながら、光太と一緒に椅子に座る。
 座って正面を見た途端だった。夏目中将がにっこりと笑いかけてきた。怖い、時々軍隊にはこういう笑顔を見せる人がいる。ほっとする笑顔ではない、腹の底がわからない笑顔。
「ほう、彼女が園田中尉か。なるほど、なるほど。私の上官をどうするつもりだとひどく警戒した目。いいね、いいね」
 心優はドキッとする。読みとられている!
「で、そちらがまだ護衛に付いたばかりの吉岡二等海曹か。具合はどうかな。麻酔銃で撃たれたんだって。しかも艦長の正面に立ちはだかって護ったそうだね」
「具合は大丈夫です。今回は結果的に艦長を護れましたが、正しい護衛ではなかったと反省しております」
 きちんとした軍人が座る時のただしいスタイルで、光太が堂々と答えたので心優は驚く。本当にこの子は本番ですごく力を発揮するんだと、先輩として羨ましくなる。今日は光太がすごく男らしい。
「もう一人呼んでいるのでね、あと少し待ってもらいたい」
 御園准将の隣にある椅子、そこへ葉月さんも目線を落としたのが後ろにいる心優にもわかった。
 心優もあと一人は誰だと訝しむ。なんだか胸騒ぎがする。
 ――『総司令、参りました』
 大会議室のドアが開き、後ろから誰かが近づいてくるのがわかる。紺の訓練着姿の男性が、葉月さんの隣の椅子に腰を掛けた。
 その男性を見て、心優は驚く。そこに座ったのは海東司令。
 さらに、春日部中佐が告げた。
「海東直己少将もただいま、職務停止にて拘束しています」
 御園准将が驚いて、隣の彼を見た。
 西南海域防衛強化航海を展開していた空母航空団司令(CAG)海東直己少将、そして、小笠原艦隊空母艦長の御園准将。共に拘束され、任務職務から外されていた。

 

 

 

 

Update/2017.10.12
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