4.召集会議

(何だったのかしら〜。達也ッたら…)

昔の恋人との久しぶりの会話の後…。葉月は一人いぶかしむ。

隼人がいたら、それなりに動揺していたかもと

今は彼がいないパソコンデスクを見つめた。

さて…午前中にたまった書類に目を通そうと、向かうと。

『Rururu』

珍しく自分席の電話が鳴った。今度の音は他部署からの内線音。

この席に直通にかけてくる内線は、特に珍しい。

(………。)

葉月はなんだか躊躇った。

自分宛に直接かかってくるのは、ほとんどが『上官』からなのだ。

ジョイがかけてくる内線とは違う発信音を

区切りの良いところまで聞いて、手を伸ばす。

「お疲れさまです。第四中隊、中佐室。御園です。」

『お嬢かい?ウィリアムだが。』

「あ。はい…。大佐、お疲れさまです。」

葉月の面倒を見ているチーム中隊の中隊長からの連絡。

気心知れているおじ様からなので、葉月はある意味ホッとする。

『空軍のミーティングが終わったら、会議があるから出てこられるね?』

「会議…ですか?先日『月例会議』は終わったばかりでは?」

『とにかく、出ておいで。私も行くから17時から高官棟の大会議室にね。』

「はい。承知いたしました。」

葉月は、いつもの冷たい平静声で返事をすると…

『お嬢?』

ウィリアムが受話器を耳から離そうとする葉月を呼び止めた。

「はい。何でしょう?」

『いや…。じゃぁ、17時に会議室でね?待っているよ』

いつもの穏和なおじ様の声を最後にウィリアムから内線を切ったようだ。

(???)

「もう…なぁに?みんなで…。」

葉月は達也もウィリアムも様子がおかしいので

受話器を見つめて、やっと元の位置に戻した。

「え?会議?なんの…??」

空軍ミーティングに出かける前に、隼人が帰ってきたので報告。

「さぁ?解らないけど。召集がかかったなら行かなくちゃ。」

そこで、隼人が何か察したように表情を固めたのだ。

「どうしたの?」

「……。ほら…この前の講義で『妙な事させられた』って言っただろ?」

「ああ。工学講義のこと?」

「そう。俺…葉月には『妙』だった…しか言わなかけど。

葉月、工学はそんなに詳しくないから内容までは言わなかったけどね。

実は…『システムをロックされた基地のシステム解放』って言うことやったんだ。」

隼人がそう言うと、葉月が何かひらめいたのか驚いた顔をする。

「それ!早く言ってよ!!」

「悪い!!いや…イヤな予感が当たって欲しくないと、つい。」

隼人が珍しく合掌をして、葉月に頭を下げるので

葉月もそれ以上は、叱りつけられなくなる。

その上…隼人のその気持ちは葉月も同じだった。

「葉月?もしかして…本当に。『基地が乗っ取られている』のかな?」

葉月は、嫌に表情を強ばらせて、黙り込んでしまった。

その顔が、冷たい令嬢中佐の顔になって

日差しが降りかかる、中佐室の大窓をジッと見つめていたのだ。

「そう。解ったわ。四中隊には関係ないと思うけど、行って来ます。」

いつもは、『妹・ウサギ』とからかう隼人だったが、

落ち着き払う『中佐嬢』の葉月を久しぶりに感じて

『行ってらっしゃい』と静かに葉月を見送った。

長い栗毛をなびかせて、出かける葉月の顔は

確かに…『中佐』だったのだ。

空軍ミーティング。

管制塔の中にある、小さな会議室で毎日の訓練反省会をする。

そして、次の日の訓練内容の打ち合わせ。

明日の天候確認の当番などを決めたりするのだ。

一番前の教壇には毎日キャプテンのデイブ=コリンズ中佐が立ち、

皆をまとめ、サブの葉月はその後ろでパイプ椅子に座ってサポート。

入り口近くには、監督の細川が睨みを利かして椅子にジッと座っている。

いつもの調子で、ミーティングが終わる。

終わる頃には、もう定時がやってくるのだ。

その後、時間が合う者達はカフェに行ってお茶をするのがチームの恒例。

「嬢ちゃんも行くだろ?」

デイブにいつも通りに、残業前の息抜きとして誘われたが葉月は首を振る。

「スミマセン。用事があるので。」

「なんの?」

中隊長になってしまったから、本日の幹部会議を知っているが…

どうやら、一本部員のデイブは知らない様子だった。

だから…以前なら何でも言えたのに葉月は躊躇った。

「ウィリアム大佐に呼ばれているから」

事実であったがそれしか言えなかった。

「そっか、大佐に呼ばれているなら仕方ないな♪」

チーム中隊長同士のいつもの打ち合わせと取ってくれたようで

葉月は、チームメイトを引き連れてデイブがサラッと離れていって安心した。

「嬢。」

デイブと離れた途端に、低い声が背中から聞こえて葉月はビクリとする。

「細川中将…。」

「お前も会議に呼ばれただろ。私も行くから早く来いよ。」

「あ。はい…将軍。」

昔なついていた『おじ様』だが、葉月は上官に対してのお辞儀をする。

しかし、頭を上げても細川はジッと葉月を見下ろしているのだ。

「?。あの?」

「葉月。フロリダに最近連絡しているのか?」

「はい。時々ですが…。側近が付いたことは…」

「『プライベート』の事も、おふくろさんにぐらいは報告しろ。

先日、登貴子さんから私に探りの連絡があったぞ。

テキトーに流しておいたが、オヤジはともかく登貴子さんには

マメに連絡してやれ。」

『あ。はい…。』

珍しく『葉月』と言われたので思わず素直に頷いてしまった。

父と細川は、どのようななれそめか知らないが

『悪友』という感じでいつも『どつきあい・張り合い』している。

だが、細川は母には異様に『紳士』であるし、

母・登貴子も妙に、細川を頼りにしているようだった。

(母様ったら…。おじ様にそんな探り入れていたのね)

葉月は、細川には『ロッカールーム事件』で

隼人との仲をあからさまに知られてしまったし…。

基地の中でも、『公認の仲』になりつつあるので

『プライベート』について、触れらてしまっていつにない動揺をしてしまった。

「それから、亮介から何か聞いているか?」

「え?……。父とは…側近の件以来、話しておりませんが?」

すると、細川はなにやら呆れたようなため息をついて黙り込んだのだ。

「あの?なにか?」

背の高い細川を覗くように見上げると…。

「葉月。たまにはオヤジに甘えてはどうだ?昔はそうだっただろう?

亮介だって、別にお前に対して厳しくしようだなんて思っていないのだから。」

細川のその言葉に、葉月は硬直した。

昔、父は…それは格好いい自慢の父だった。

今で言う、右京のような男ぶりで小さい葉月はいつもひっついて甘えていた。

この細川にも…。

すべてはあの事件が…葉月のその姿を奪った。

『パパは助けに来てくれなかった。』

子供だった葉月は、素直に父を責めた。

アメリカを本拠地にしていた父は仕事優先にして

娘達の『帰ってきて!』の要求を受け入れなかったことを悔いている。

その言葉を父に投げつけたとき…見たことない弱々しい顔をした。

海陸の『武道隊員』だった父…。『強い父』

初めて見てしまった、父の弱々しい顔。悲しい顔。苦悩の顔。

それを見てしまった10歳の葉月はそれからは父には

素直にモノが言えなくなった。彼がどんな顔をするか怖かったからだ。

頑なに閉じた心が、父への思慕すら閉ざしてしまった。

『葉月?どうした?訓練校で何かされたのか?』

おそるおそる尋ねる父に腹を立て

『あっちに行ってよ!一人でやる!!』

そんな反抗期もあった。父には強い父であって欲しかったからだ。

父が吸っていた煙草を、ワザと両親の目の前で吸った。

父も母も最初は怒りはしたが、何かに疲れたように何も言わなくなった。

葉月が吸うようになると、逆に父が煙草をやめてしまった。

父はそれから遠くから葉月を見守ることにしたようだ。

彼の口癖は『御園と言う中佐は知っている。娘は知らない』だった。

父との間には、今だって暖かい親子関係は存在している。

むしろ、昔よりかは距離は縮まった。

だけれども、『憎まれ口たたき合い』でしか会話が出来ない。

親子よりも『上官、部下』の関係が大きな比重を占めている。

そんな父娘を母が一番心配しているのだ。

姉が亡くなって、葉月が負傷して一番精神が病んだのは、母であった。

訓練校に入学することを葉月が決めたとき母は半狂乱したほどだ。

でも、葉月には葉月なりの通さねば、

生きていけない『意志』だから貫き通した。

でも…それは意地張り。だからか…先日の『側近報告』では…。

『父様。フランスであった男性が側近についてくれたの。』

『そうか。良かったな。京介からも聞いているぞ?

なんでも、澤村精機の息子さんらしいじゃないか?』

『そうらしいけど。彼はそんなこと一言も言わないから。』

『それで良いじゃないか。彼が普通に接しているなら

お前も素直に普通に接すればいい。『御園』なんて関係ない。

ロイとジョイからも聞いた。落ち着いた良い青年だって。

葉月。躊躇うことはない。仕事さえしっかりすれば…。

彼と幸せになればいいじゃないか…。

お前が選んだ男なら父さんは何も言わない。

その変わり。自分自身でしっかりやりなさい。』

父のいつにない、娘への心配様に葉月は戸惑ったのだ。

男性に対して、頑なな娘が自分で獲得した『相棒・澤村少佐』

それは、『海野達也』以来だった。

達也は隼人と違って、天真爛漫で愛想がいいので

葉月のお偉い両親にもアッという間に親しんでしまった。

娘しか持ったことのない両親は、

娘が信頼する男性としてそれは頼りにしていて

何かあればすぐに『達也君・達也君』と息子のように慕っていた。

今は、別れてしまった男としてフロリダで一緒にいて

どう日常接しているかは、両親からも言わない。葉月も聞かない。

でも達也の性格だと、おそらくあの『愛嬌』で上手く付き合っていると思っていた。

今度は、『澤村隼人』

まだ、両親に『恋人』としては紹介もしなければ口にもしていなかった。

隼人が『控えめ』な性格だから、何かのきっかけがあれば…と思ったのだ。

娘自ら、飛び込んだ男。

それだけで、父・亮介は何もかもお見通しのようだから

余計に『報告』などという改めた形は取らなかったのだ。

葉月が言わないなら、ジョイが…ジョイが言わないならロイが…

ロイが言わないなら…最後には細川が報告する。

言葉の表現が乏しくなった娘の周りには

『オモリ役』の親戚・付き合いある一家の男達がそうする。

しかし…この時の会話で父は少し違った。

『葉月。そろそろ…愛した男性には素直になったらどうだ?』

今まで…そんなことは一度とて父は口にしなかった。

娘を『大人の女性』として初めて口にした。

『どうしたの?父様…。』

『これ以上。お前の冷たい顔は見たくないからだよ。

昔のように可愛らしく笑ってくれないか?葉月…。』

遠野大佐が亡くなったとき、呆然失意の娘の手を引っ張って

葬儀に連れていってくれたのは、父だった。

火葬で取り乱したとき、葉月の気を確かに戻そうと

場に構わず、葉月を殴りつけたのも父だった。

そんな父と隼人が時々重なるのだ。

『パパ…』

思わずそんな言葉が口から出ていた。

すると、受話器の向こうで父が嬉しそうに笑った声が聞こえた。

『久しぶりに聞いたよ。嬉しいよ。昔に戻ったみたいだ。

葉月?泣きたいときは泣いて、笑いたいときは笑って。

我が儘いいたときは言えばいいじゃないか?

あんなに可愛かったお前だ。男は放ってはおかないよ。』

『なに?それ?変よ!今日の父様!まるで親ばかじゃない!』

『アハハ。ムキになるお前も可愛いって最近知ったよ。じゃじゃ馬』

『もう!相変わらずじゃないの!パパのバカ!』

結局最後に、いつもの憎まれ口を叩いて葉月は会話を終えた。

この時、葉月は初めて思った。

性格は隼人と父は似ているのじゃないかと。

葉月が求めていたのは何だったのか…。

ふと…考えてしまったのだ。

『葉月?』

そんな考え事をしていると細川の声でフッと元の時間に戻った。

「解っています。でも…父にはゴルフのことだけ考えさせたいので。」

細川がいつも言うようにニヤリと返すと、

細川もいつになく面白そうに笑ったのだ。

「まぁ。言いたいことはそれだけだ。会議の後…驚くなよ。」

『は?』

細川まで…なにやら含んだモノの言い方なので

葉月は益々イヤな予感がした。

細長い細川が颯爽と歩いてゆく後ろをついてゆくように…

葉月は首をひねりながら、会議室に急いだ。

ロイや、細川の中将室などが並ぶ、『高官棟』。

カフェテリアの下、4階にこの基地で一番大きい綺麗な会議室がある。

中高年のお偉い将軍達が、前面の席を

連隊長のロイを囲むように席を取り、細川はロイの横に席を取る。

ロイの横には側近のリッキーがいつもの如く姿勢正しく立っている。

少将などの将軍おじ様からこちら…後半は…

葉月達。中隊長が『6名』席を取り…後は…

葉月が見る辺り、専門的な権威を持つ教官のお偉いさんもそろっていた。

その中には、隼人の工学講師『老先生』もいたりするのだ。

(これは…本当に何かあったわね)

ロイの冷たい表情と、将軍連達の硬い表情だけで

葉月はもう…『任務だ』と直感した。

葉月は、勿論…面倒を見てくれているウィリアムの隣に座る。

彼はいつもの穏やかさで『お疲れさま』と優しく微笑むが

どうしたことか。なんだか、顔色が冴えないような気がした。

「ご苦労。急な召集で申し訳ないが、このメンバーで会議をする。」

ロイの冷たい声で、ざわついていたおじ様達もシン…と黙り込んだ。

「これだけそろえば、既に察してると思うが、

『任務』をフロリダ本部から言い渡された。」

任務など、いつも突然のこと。

ロイの言葉に誰一人『動揺』はしなかった。

本題は『これから』。任務の内容と着任部隊がどこであるかだ。

(まず。うちはないわね、私が中隊長になったばかりだもの。)

葉月が20代の小娘として『中隊長』にするかどうかももめたに違いない。

やっと、満場一致で『正式中隊長』になったところ。

そんな出来立て小娘部隊に着任が来るとは思えなかった。

そんな中、ロイがいつもの冷たい声で説明を始める。

「先週より…対岸異国の前線を張っていた、小基地。

『フランス航空部隊』の分隊・管制基地との連絡が途絶えているそうだ。

この基地は、小規模だが対岸リビアとの監視のために重要な位置にある。

フランス航空部隊からの報告によると、この基地からの管制が不能に

あるため、スクランブルなどの緊急事態に支障が生じているそうだ。

通信は一切不能、応答なし。

この管制が麻痺していると言うことは、フランス側の空の防戦が

一部欠落していると言うことだ。その分、あちらさんは、侵入がしやすくなる。

リビア側の説明を要求したが、あちらは何もしていないとの事。

その変わり、フランス管制基地の詳細が解るまで、

必要以上の接近は避けるとの説明はもらっている。

今の時点で対岸諸国の仕業とも決めがたい。

先ずは、その基地の状態を調べてから攻撃に出る。それが今の状態だ。」

それでも…まだ皆落ち着いて聞いていた。

良くある話だった。

しかし…

(フランスでそんなことが!?康夫何も言わなかったじゃない!)

葉月は水くさい!と苦虫をつぶしていた。

それぐらいの驚きしかない。

マルセイユの町中・海沿いにある基地とは別に、

海岸のずっと先、地中海の先端にリビアを見張るように

管制塔があるのは葉月も知っていた。

戦闘機感覚の距離で言えば『ひとっとび』だが

人間的距離でいくと何十キロも離れている位置にある。

つまり…かなり寂しい場所にあるから警戒態勢も半端じゃないはず。

『なのに?』と葉月は少しゾッとした。

葉月も一度はフランスで空を飛んだ。

マルセイユの本基地を離れてからは、

そこの管制塔と情報をやりとりすることになっている。

昔の話だが、リビア機がフランス機を打ち落とす…などという事件もあった。

それほど、緊張度が高い空域だけに、

今回の『基地通信不能』はやはり大事件だ。

日本で言えば、空域が重なっている日本海での緊張度に匹敵する重要度なのだ。

葉月もただのパイロットだった頃は

当直などにも良く出ていて、乗船していた空母艦から日本海まで飛ぶこともあった。

デイブについて、スクランブル指令で出動すると

スレスレの空域で他国機とすれ違ったこともある。

この空の攻防というものは、日頃の生活には目に見えないが

お互いにこうして戦闘機で牽制し合わないと、

いつだって平和な国民。市民が空撃されてもおかしくないのだ。

だから、空軍が存在するのだ。

葉月達が島から離れた際には、

横須賀、浜松、岩国、小松、三沢基地が協力してくれる。

今、日本で危ないのは『日本海』がそうであったりする。

今は本部の要として、内勤が多いため、

昔のように『当直』にかり出されることはあまりなくなった。

外勤族である班室にいる『コリンズメンバー達』が

他の中隊パイロットと当直当番を組んで出動している。

その管理と、訓練管理と指導を

デイブと葉月がこなして、隼人と五中隊の空官達が仕切っているのだ。

「連隊長。そうは言いますが、同じフランス国内。

フランス側からの対処は一度もないのですか?」

第一中隊のフォード大佐がまず、ロイに質問をした。

皆は静かに耳を傾ける。

「勿論、内密だが…フランス部隊からも密偵は放ったそうだが。」

『だが?』と、皆がロイの説明の先に身を乗り出す。

「『攻撃』されたそうだ。死傷者が出ている。」

そこで、皆はやっと驚きの声を上げる。

(隼人さんが言った通り。乗っ取られているのね!)

これで。『老先生』がいる訳、

隼人報告の『妙な講義』の意味が葉月には飲み込めた。

だから…小池も呼ばれたのだと。

「そこで連合軍にも協力要請が出たって事だ。

先ずは、フロリダから特殊部隊が出動、潜入する。

今から、作戦隊員構成のメンバー表を配るので…。」

『リッキー、配ってくれ。』

ロイの指示で、レジュメが幹部達の手に渡されてゆく。

その配布中に、ロイが席を立った。

皆がめくって…何故だか驚いたような顔をして葉月を見るのだ。

葉月の手にやっとレジュメが来て『?』とめくってみる。

それと同時にロイが声を放った。

「フロリダの総指揮は『御園中将』。現場指揮は『ブラウン少将』

島の総指揮官は五中隊の『ウィリアム大佐』副指揮は…」

葉月は父の名が出て一瞬固まり、レジュメに目を通したが、

父の名の下にウィリアム…その横に…

「副指揮は第四中隊『御園中佐』で行こうと思う。」

ロイの声が耳に入り、自分の目が同時に活字を映した。

まさしく…ローマ字で葉月の名が刻まれていたのだ!

ロイの発表に皆が騒然としたのは言うまでもない。

(嘘!)

呆然としている間はなかった。

自分の部隊が出動すると言うことは

中隊内の誰かがかり出されると言うことだ!

しかし、その前にものすごい名前を発見した。

フロリダの密偵特殊部隊の中に知っている名前があった。

『T・Unno』

(なんで!達也が!?ブラウン少将付きの第一側近でしょ!?)

それよりさらに…

島側の、空軍出動部隊が『コリンズチーム』

通信科から小池と…

葉月は次の名前を見て目がくらみそうになった。

葉月の側近で、空軍である『澤村隼人』の名前が通信科に並んでいるのだ。

任務内容は、フロリダの特殊部隊と共に

基地の中に潜り込んで『システムを回復させる』だった。

(何故!?隼人さんが!)

フランスの密偵隊は既に攻撃を受けて『死傷者』が出ている。

そんな何が起きているか解らない闇の中に、

隼人は特殊部隊と共に送られるのだ。

しかも!達也と一緒に!!

葉月は葉月で、副指揮官を任命されるし…。

(どうして!?)

葉月は、急な展開に暫く呆然としていた。