12.上手な兄様

 

 にっこり……従兄が葉月に向かって大股で近づいてくる。

硬い面もちの隼人……

従兄との初対面を見守ろうと葉月も緊張気味。

 

 なのに──

「葉月……」

(わ!)

あんなに砕けていた従兄が目の前に来るなり、葉月を腕いっぱいに抱きしめたのだ!

従兄がさり気なく付けているフレグランスが葉月の鼻をくすぐる。

いつも、女性用でも付けているのじゃないか? と、疑いたくなるような

優しいニュアンスの香りが従兄の好みだった。

が──、そんな懐かしい香りにうっとりしている場合ではない!

「お、お兄ちゃま! なにやってるのよ!!」

隼人より少しばかり身長がある右京。達也ぐらいだろうか?

その彼が、葉月を腕いっぱい抱きしめて葉月は従兄の肩先で

頬を真っ赤にしてもがいたのだが……

「よく頑張った……。本当に……こんなに短くなってしまって……」

従兄の変に泣きそうな声。

きっと、親友の純一に任せたものの……やっぱり心配で仕方がなかったのだろう?

でも──!

「か、彼がビックリしているじゃない!!」

そう言っても右京は葉月の短くなった髪を指に通して、葉月のつむじに頬ずりまで……。

なんだか……神妙だった。

(……は、恥ずかしい)

そう──別に変な行動じゃないのだ。

従兄は大人としては厳しいが……

昔からそう……葉月と二人きりの時は断然甘い従兄なのだ。

それを大人になってもやられると、葉月としてはちょっと受け入れがたいので

それで生意気な口で、従兄に突っかかるのだ。

当然──従兄も面白がって言い返してくるのだが……。

父に素直に甘えられないときもこの生意気口の現象が出るが……それと同じ。

 

 当然──隼人も解ってはいたのだろうが?

こんなにあからさまに目の前で見せつけられては

『唖然』とするしかないのだろう??

冷静な彼の驚いた顔も見物だが……。

「お兄ちゃま! もう! 私、子供じゃないんだから!!」

葉月が右手一本で従兄の肩を押しのけると

従兄が途端にふてくされた顔。

それを見て……『クス』と隼人が笑いをこぼして、やっと余裕を見せたのだ。

 

 仕切直し、隼人が制服姿で胸を張った。

 

 「初めまして。彼女にお世話になっています。澤村隼人です……。

先日は……父が大変お世話になったようで……父も……」

いつも通り、礼儀正しい隼人が深々と腰を低く折り曲げて頭を下げると……

葉月の目の前で右京が怪訝そうに眉間に皺を寄せる。

「かったいなぁ……。俺、そういう固いの苦手なんだよな。

どっちかっていうと『軍人』って感覚、ないからなぁ。困るなぁ」

顎をさすり、右京は隼人の前に立ちはだかって首を傾げる。

隼人も拍子抜けしたのか、『あれ?』という表情で頭を上げたのだが……

「葉月の従兄、御園右京。宜しく」

従兄が……サングラスをさっと取り払って隼人に手を差し伸べた。

「……澤村です……」

所が隼人……右京と向き合うなり……すごく驚いた顔でそっと手を握り返しただけ──。

「あれ? 何か?」

右京がニッコリ、微笑むとまた……いや、隼人はシゲシゲと右京の顔を見つめて静止。

「……驚きました!」

「え? 何が??」

逆に右京が戸惑ってまた首を傾げる。

所が隼人、何を思ったのか?

葉月の肩を掴んでそっと右京の隣に並べたのだ。

(な、なになに??)

葉月も訳が解らなくて、右京の隣に押されるまま並ばされた。

すると隼人は二人並べて、急に輝く笑顔をこぼしたのだ。

「そっくり! いやーーすごい見応え! 従兄妹同士といっても兄妹同然!?」

そこに並んだ栗毛の従兄妹同士。

「あ、ああ。よく言われるんだよね。俺と葉月は……似ているって」

右京が何故か照れながら栗毛をかく物だから……葉月は変にため息。

「もう……」

「お兄さん……フロリダのお父さんの若い時にそっくりですねー」

隼人は感動したのか右京の顔ばかり眺めている。

従兄の方が、照れてばかりいて葉月は呆れてしまうほど。

「お父さんのお若いときの写真、任務中に見せていただいたことがあって……」

「あ、そうなんだ。親父より伯父さんに似ているとよく言われるけどね」

「本当にそっくり……」

隼人は本当に心から感動しているようで、葉月まで恥ずかしくなってくる。

「あ。運転、お願いしてもいいかな?」

あまり隼人がジロジロ見るのに耐えられなくなったのか

右京が車のキーを隼人に差し出した。

「え? 僕が運転してもいいのですか??」

「ああ。オチビ、お前は助手席な。横浜までの道はそっちが詳しいだろ?」

「……ですが、僕も数年ぶりでして新しい道が出来ていると……」

「それだったら、俺が教えるから。とにかく運転してくれる?

左ハンドルは慣れっこだろ? ナビも付いているから」

右京が途端に……素っ気ない顔になると隼人もそれに押されたのか大人しく頷いた。

(ごめんねー隼人さん)

前に進み出した右京の後ろで葉月は、控えめな彼に一言謝っておくと……。

「別にいいよ。ただ、良い車だから、遠慮しただけで……」

『すっごいそっくりジャン……驚いた!』

隼人は、とにもかくにもそれが一番の衝撃のようで

後部座席に乗り込んだ右京をまだ眺めていた。

「お邪魔します」

隼人が運転席に乗る。

「横浜まで送ってくれるって言ったのお兄ちゃまじゃない?」

葉月は後部座席に悠々と足を組んで座わっている、ふてぶてしい従兄に一言。

「電車に乗るとお前……目立つだろ? 軍服だし、嫌だろ?」

従兄が隼人と同じ事を言った。

「お兄ちゃまだって私服だけどかなり目立つわよ!」

「俺は目立っても全然平気。『見てくれ、俺!』って感じ」

「信じられない!」

葉月と右京の会話に隼人が『クスリ……』とこぼしながらシートベルトを締めた。

 

 ルーフがオープンになっている白い車を隼人が颯爽と発進させる。

公道にでて、車は快調に横浜方面へ向かう。

「慣れてるなー」

右京が感心顔で、隼人がギアを握る運転を覗き込む。

「いえ、道は日本の道なので、それなりに緊張しています。小笠原と違って車も多いですしね」

眼鏡をかけた彼の穏やかで落ち着いた受け答え。

葉月は思わず、見とれてしまった。

「…………」

葉月どころか……従兄までそんな彼の横顔を……

いや、見とれているというよりかは、観察している感じ。

葉月は変に『ドキドキ』

(だ、大丈夫。だって……今までだってお兄ちゃまは知ってるはずなのに何も文句言わなかったもの)

だけど、従兄は葉月と一緒で変に警戒心が強いところがある。

でも──

「安心だな♪」

従兄がそういって、後部座席にゆっくり身を沈めた。

(ん? 運転任せて安心って事? 他のこと??)

葉月がそう思い巡っていると……

「おっと……悪いけど、そこの駅で降ろしてくれ」

「ええ!?」

葉月が驚いたのは言うまでもなく、隼人も一瞬面食らった顔を葉月に送ってくる。

「お兄ちゃま! 横浜まで送ってくれるって言ったじゃない!!」

「だから──澤村君に任せていれば安心だから、俺を降ろしてくれって言っているの!

俺、さっきの電話で話した女の子と今からデート。電車で待ち合わせ場所まで行く」

シラっと呟いた従兄に葉月は瞬間沸騰!

「お兄ちゃま!!」

「……」

隼人が急に黙り込んだ。

「もう駅も目の前だ。ここでいい」

右京の冷たい声に……隼人が素直に停車した。

葉月は男同士に挟まれて困惑中。

対面どころか……アッという間に終わろうとしていた。

(えー。お兄ちゃま、気に入らなかったの〜)

隼人に落ち度はないと思うのだが──!

「……あの、車は……」

車のエンジンを落として隼人が右京にそっと尋ねかけると……

それを遮るように……

「ああ。俺の車で迎えに来てくれると思っている女でね。

ない方がそれなりに上手く行くんだな。変に本気にされると困るから」

右京がドアをバタリと閉めながら、ニヤリと隼人に笑いかけた。

「……ああ、なるほど。その感覚、解りますね」

隼人もなんだか余裕で笑い返したりして。

「じゃあな──」

「お兄ちゃま!」

葉月もシートベルトを外して、ドアを開けようとすると……。

右京が、後部座席の床から紙バッグを取りだしてサッと葉月の前にぶら下げた。

「なんだ。また、女の品もないような準備をしてくるだろうと思ったが。

あれだけのバッグを持ってきたって事はそれなりに準備をしてきたようだな。

でも──念のため、買っておいたぞ」

「え??」

そのバッグを葉月の膝に『ぽとん』と、落とすと右京はサングラスをサッとかける。

「靴も合格」

葉月が履いてきた、黒いストラップのヒールをニンマリ指さし……

スッと軽い身のこなしで人が行き交う駅のコンコースに向かっていってしまった。

「あ──。もう!!」

紙バッグを放り投げて、助手席を降りようとすると……。

「いいんだよ。葉月」

隼人にそっと、左腕を掴まれた。

痛みが少し走って……葉月は顔を歪めて振り返る。

「デートなんて嘘だよ」

「え??」

葉月は驚いて……助手席に腰を落とすと、隼人がまたエンジンをかける。

「この車……鎌倉まで返しに来い、葉月と来いって事なんだよ。やられたな」

隼人が白いハンドルを撫でながら、深いため息をついた。

(ええ!! そう言うことだったの??)

「まったく……あんなに砕けた振りして、結構やり手だね……。

俺が車はいつ返せばいいかと言う意味で聞いたら、

あんな返事ですり抜けるんだモンな……。

デートには行かなくちゃいけないけど、車があっては困る……。

そう言われたら、俺が預かっているしかないじゃないか??

お前が時間があったら顔見せる……ぐらいしか言わないから。

お兄さんはきっと……お前に絶対に帰って来て欲しいんだよ……」

(そういう、やり取りだったの??)

だけど──従兄のちゃらけたはぐらかしでそこまで真意を汲み取った隼人にも絶句!

「その紙袋、開けて見ろよ? きっと、洋服が入っているんだよ。

ブティックでお前の服選んでいて、遅れたんじゃないの??」

「!!」

隼人が黒髪をかきあげながら、また、ため息をついた。

葉月は紙袋を取って……そっと開けてみると。

「ほら……お前に似合いそうな色柄の洋服が入っているじゃないか?」

隼人はそれだけ言うと、ニッコリ微笑んでBMWを発進させた。

「ふーん、結構面白いお兄さんだね……」

隼人は、変な押しつけをされたというのに、なんだが妙に満足そうだった。

「──ゴメンね……変なお兄ちゃまで……」

「全然──あからさまに従妹と来いって突きつけられるより……良かったかも?

敵うわけないか……俺が。だって──葉月の大きいお兄ちゃんだもんな……

洋服までちゃんと揃えてくれて、それなりに横浜に行くこと心配してくれていたんだよ。

それから──車を貸すつもりだったんだね……電車だと人が多いし。

自分がいると邪魔と思ったのかな? 別に良かったのに──。

あのさりげなさ……いいねぇ……」

「……そぉ?」

なんだか良く解らないが。隼人は妙にご機嫌でBMWを走らせる。

晴れ渡った空──爽やかな風。

従兄の白いオープンカーを眼鏡をかけて制服姿で運転する彼の横顔を葉月は見つめた。

(隼人さんもカッコイイじゃない〜♪)

ここは基地でもなければ、職場でもない。

本当に二人を知る人がいないよその場所。

ジョイに言われたからではないが、

葉月も一応それらしく浮かれてもいいかな? と、開放感。

まぁ──従兄がせっかく貸してくれたのなら、存分に彼とドライブを堪能してやろうと

葉月はもうニッコリ……ご機嫌。

「お前、調子いいな。ホントそういうところ、末っ子っていうのかな?」

「え……」

見透かした隼人の微笑みに葉月は『ドッキリ』

「本当に可愛がられていたんだなぁ……羨ましいよ。

逆に俺は右京さんに共感するね」

「え? どう言うところが??」

「長男って事」

「……」

言われてみれば……なんだか似ているかな? と、思いたいが

そんな二人が似ているなんて今の葉月には全然、しっくり来なかった。

 

 

 白いBMWは快調に進み、横浜市内に入った。

「へぇ。校長の叔父さんって若くして結婚したのか……

どうりで……、弟である叔父さんの方が大きい息子がいるっておかしいと思った」

「そうなの。叔父様、『学生結婚』っていうの? 訓練校を18歳で卒業する頃に。

茶道を習いに行っていた先で、仲良くなった叔母様とアッという間に恋愛して結婚しちゃったの。

結婚してすぐに、右京兄様が生まれたから……。

叔父様が19歳の時の子供なのよ♪」

「えーー。茶道結婚??」

「そうそう! それの後に続くようにパパとママが結婚したの!

お祖母ちゃまがね? 愛し合ったら即結婚って恋には情熱的な人だったみたいだから……

パパと叔父様は年子で、次々に結婚して子供を持ったから……

だから、二家族で一家族みたいなの、ウチはぁ」

「なるほどねーー。道理で、従兄妹同士と言っても兄妹同然なんだ」

「そうなの!」

「ホント、お祖母さん、生きていたら良かったのに、会ってみたかったなぁ」

葉月は、近頃こうして家の事も隼人に平気で話せるようになっていた。

姉の事も、祖母のことも。

すると、隼人は最後に決まって……

『レイチェル祖母に会いたかった』というのだ。

祖母は情熱的な女性だった。

何をしても……皆が巻き込まれてゆくという魅力的な女性だった。

祖父の源介、一筋のようだったが結婚しているにも関わらず求愛する男性が後を絶たなかった……

と、大人達から聞かされている。

それに……祖母は『事業家』だった。

スペインで亡くなった『兄』の跡を継いだのだと聞かされているが

その祖母の『事業』は、祖母が亡くなった後は『他人に任せて譲った』とも聞いている。

御園としての『事業具合』は『オチビ』の葉月には全然解らない。

今はおそらく『父と叔父』が譲った人間といろいろやり取りをしているぐらいしか解らなかった。

(いずれは……兄様かシンちゃんにその役目が回るのかしら?)

いつも『御園の大人世界』は、葉月には蚊帳の外。

そんな話も余り聞かされないので、葉月はただ、『オチビ』として頑張っているだけ。

そんな所も『何も知らなくていい扱い』の末っ子なのだ。

そんな話を隼人と……いつになく気兼ねなく交わしていると

横浜の美しい近代的な港街の中心街から、閑静な住宅街へと隼人が車を進めていく。

入り組んだ住宅街を隼人が、なんなくBMWを運転させて

その内に、曲がっても曲がっても坂が続くようになり……

横浜の港街が見渡せるのではないか? と、思うような眺めの良い住宅地に入ってゆく。

(えーー。結構、高級住宅街じゃないの??)

並んでいる建物の風格、大きさ……妙に高級帯びてきた!

『澤村精機の社長宅』

横で運転している彼は、そこの長男御曹司?

彼が汗くさい軍人男の中で、妙に落ち着いていて品が良いのもそのせいなのだろうか??

(全然、考えた事なかった……)

フランスで康夫から聞かされたときは『チラ』ぐらいは頭にかすめたが?

その後は葉月から見ると『一人の男性』でしかなかったし……

(これからだって……一緒よ。関係ないもの)

そう思うのだが。

実際……、先日の任務で

あの工学教官『マクティアン大佐』や、小池から

『あの! 澤村精機の息子!』と、言われるまでは

『澤村精機』がどんな会社かなんて、知ろうともしなかったし……

『私の席にあるパソコン』ぐらいの意識しかなかった……。

(私って、私って……『無関心』すぎるのかしら!?)

目の前の隼人で充分だから、その他の事なんて……考えた事、ホントにない!

 

 「あと、もうちょっと……親父が丘の上の上に建てたモンだから……

ガキの時は家に帰るのに、自転車でも歩いてでも苦労した想い出がある!」

「そうなの……」

葉月は、昔を思い出してムキになった隼人の顔を見て少し……嬉しくなった。

彼のルーツに初めて触れたような気がしたから……。

「昔はもっと違うところに建っていたらしいけどね。会社の近く。

でも──親父がおふくろの身体のために

静かで見渡しが良いところ無理して買ったって聞いている。

昔は、開発中で土地は結構格安だったんだってさ。お買い得狙い大当たりって親父はよく言う。

ああいう経済的な計算は、人より長けているんだよな?」

「本当に、お父様、沙也加ママのこと愛していたのね」

葉月が微笑むと、隼人も……いつもは天の邪鬼なのに嬉しそうに微笑んだ。

葉月は少し『ドキリ』──そんな彼、見たことがなかったから。変にときめいた。

それに──隼人も葉月同様……。

家の事を徐々に話してくれるようになったのもここ最近。

ただし……『両親』に関することだけ。

『継母関係』は、やっぱり今でも話しにくそうだ。

そう──話したそうにしているのだが、話しにくそうなのだ。

だから──葉月はまた、知らぬ振りをする。

話したくないなら、話さなければいい。

そう……葉月だって一度の沢山、自分の事が明かせない事がある、それと同じ。

隼人だって、葉月が話したくても話しにくそうにすると

そっとしておいてくれるから……。

 

 隼人が、静かで美しい坂の住宅街をスピードを落として運転を続ける。

この界隈はビッシリ建てられている所ではなく……

どの家も、大きくて庭が広いので、点々と家が並ぶ住宅地。

行き交う車も少ないし、何処の家も高級そうな車と立派なガレージ。

そんな中……向こうから自転車の影が見えた。

下り坂を勢い良く下りてくる自転車。

隼人と葉月が乗っている、白いBMWとすれ違った──。

 

すれ違った自転車に乗っていた男の子が……

白いBMWが珍しいのかすれ違い様顔を向けた。

 

「あ──!」

男の子が叫ぶ。

「!!──え!?」

隼人もその男の子に反応!

隼人が、『キ!』といきなりブレーキを踏んだので、葉月は少し前につんのめり……

すれ違った自転車も少し通り過ぎて坂の途中……『キ!』と自転車を停めたのだ。

 

「和人!」

「兄ちゃん!! うっわ……なんだよ、その車!!」

 

その会話に葉月は……急に硬直!

(ええ!! あの子が?? 隼人さんの弟!?)

 

葉月のイメージは、『ちっちゃい黒髪少年隼人』だったのに──

(なに!? 私みたいな髪の色じゃない???)

思わず……目を擦りたくなった!

でも──!!

 

隼人は途端に、嬉しそうな笑顔をこぼして、シートベルトを外した。

男の子も……ニッコリ笑って、自転車をUターン!

運転席を降りた『お兄ちゃん』の所に駆け寄っていく!

 

「お前──でっかくなったなぁーー!

なんだよ! その生意気な髪の色!」

だけど、隼人はそんな弟に満面の微笑み。

そして、男の子も『ニンマリ』、

「だろ? 兄ちゃんがいない間に、同じぐらいになったかな〜??

あ。髪の色? こんなのイマドキ、当たり前ってヤツだろ?」

 

制服姿の黒髪の30男……。

同じ背丈、茶髪の生意気そうな少年。

 

その二人が葉月の目の前で微笑み合っている。

 

しかし──すれ違い様にお互いに反応するとは、やっぱり『兄弟』??

 

葉月は、あまりにも雰囲気が違う……年が離れた兄弟が並んでいて

暫く──茫然とするしかなかったのだ。